小澤征爾

現在、現役で活躍している日本人指揮者は誰かなと漠然と考えていたら、頭の中にずらっとランキングが出来上がりました。指揮者は50歳を過ぎてからと言われますが、それにしても若手の台頭が無いのがとても心配です。

小澤征爾が病気のために第一線を離れた今、ベルリン・フィル、ウィーン・フィルに招待されるような才能溢れる若手指揮者が出てくると、日本の音楽界ももっと盛り上がるのですが…。

若手指揮者については後日書く事にして、現在の活躍が目覚ましい日本人指揮者を10人挙げました。現在のポジションと経歴などを参考にしてランキングを決めています。なお、文章中の年齢は2020年12月現在のものです。

 最近の日本人指揮者は世界でニュースになりませんね。
小澤征爾以外の指揮者は世界的に活躍していないからなのだ。低迷期と言えるかもしれないな。

判定基準

  • 経歴
  • 現在のポジション
  • 将来への「伸びしろ」
  • 指揮テクニック
  • 人気
  • 魅力

これらを総合的に判断して決めています。しかし、あえて項目別に得点化しない理由は、これらの項目が同列に並び立たない物だからです。それを得点化して、総合点で判断すると、例えばどの項目でも1位が取れない人がトップになったりしてしまいます。

ですから、これらの項目を参考としつつ、最後は私の判断で順位を決めています。

第10位:下野竜也

しもの たつや、50歳。2000年東京国際音楽コンクール<指揮>優勝と齋藤秀雄賞受賞、2001年ブザンソン国際指揮者コンクールの優勝者です。

ブザンソンに優勝してからの彼には期待してました。国内ではNHK交響楽団の定期公演、その後チェコ・フィルの定期公演に招待された時には、このまま世界に羽ばたいてくれるかなと思ったものです。

現在は広島交響楽団の音楽総監督のポストにあります。また、京都市立芸術大学音楽学部指揮専攻教授にも就任しました。

NHKの「らららクラシック」などのテレビ出演も多く、その語り口や解説の分かり易さには定評があります。

第9位:沼尻竜典

ぬまじり りゅうすけ、56歳。1990年ブザンソン国際指揮者コンクール優勝。その後、国内の幾つかのオーケストラのポストを経験し、2013年から2017年までドイツのリューベック歌劇場音楽総監督を務めました。

現在は、びわ湖ホール芸術監督、トウキョウ・ミタカ・フィルハーモニア音楽監督。びわ湖ホール芸術監督として毎年のようにオペラを上演してきました。

オペラ指揮者としてケルン、バイエルンなどへの客演も行っていますが、まだ世界的な名声を確立したとは言えません。56歳、これからが正念場です。

第8位:尾高忠明

おたか ただあき、73歳。良家のお坊ちゃま育ちのため、品があるのが特徴です。性格も穏やかな人物で、指揮ぶりにも表れています。もっと見た目が良かったならば(失礼)、なおの事注目されていたかもしれません。

NHK交響楽団との縁は深く、現在では正指揮者という肩書を持っています。1974から1991年まで東京フィルの常任指揮者、1987年から1995年、BBCウェールズ・ナショナル管弦楽団(旧BBCウェールズ交響楽団)の首席指揮者を務めるなど国内外で活躍してきました。

読売日本交響楽団、札幌交響楽団の常任指揮者も務め、現在は大阪フィルの音楽監督をしています。私などの年齢の人間はどうしても東京フィルの尾高さんというイメージが強いですね。

現在はもう73歳になりました。がんを克服なさり、音楽界に戻って来てくれたことは嬉しいものがあります。

第7位:広上淳一

ひろかみ じゅんいち、62歳。1984年、第1回キリル・コンドラシン国際青年指揮者コンクールで優勝。ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、バイエルン放送交響楽団などヨーロッパの主要オーケストラに客演してきました。

1990年以降、ノールショピング交響楽団、マーストリヒト・リンブルフ交響楽団、コロンバス交響楽団などのポストに就き、海外での活躍に期待しましたが、2008年から京都市交響楽団の常任指揮者を務め、現在に至ります。

若い頃は期待したひとりでしたが、快進撃を見る事が出来なかったのは残念です。しかし、京都市交響楽団は彼が常任に就いてから進歩を遂げていると評価されています。

NHKの「ベートーベン250プロジェクト」では稲垣吾郎相手にベートーヴェンの解説をしていました。ちょっとオイタが過ぎた点もありましたが、彼の人柄も伝わってきました。

第6位:小林研一郎

こばやし けんいちろう、80歳。愛称はコバケン。炎の指揮者として親しまれています。もう80歳の大ベテランになりました。当初は作曲家を志していましたが、現代音楽には嫌気がさし、指揮者への道を選択します。

東京芸大を2回も合格するのですから、余程の音楽的資質を持っていたのですね。1974年第1回ブダペスト国際指揮者コンクール優勝をステップとしてアムステルダム・フィル(現在のネーデルラント・フィル)首席指揮者に就任しました。

1987年から10年にわたりハンガリー国立交響楽団(現在ハンガリー国立フィル)の常任、音楽総監督を務めます。チェコ・フィルとの関係も良く、プラハの春のオープニングを飾った事もあります。

とても丁寧なリハーサルを行ない、本番では髪を振り乱して炎のコバケンぶりを発揮します。ハンガリー、チェコでは有名な指揮者ですが、もっと上位のメジャーにはお呼びがかかりませんでした。現在は群馬交響楽団のミュージック・アドバイザーです。

第5位:山田和樹

やまだ かずき、41歳。2009年ブザンソン国際指揮者コンクール優勝。2016/17シーズンからモンテカルロ・フィル芸術監督兼音楽監督。

スイス・ロマンド管弦楽団やバーミンガム市交響楽団の首席客演指揮者なども歴任。日本では、日本フィル指揮者、読売日本交響楽団首席客演指揮者、東京混声合唱団音楽監督兼理事長などを務めています。

日本での人気も高く、テレビなどへの出演も多くあります。彼には何とかもう少し高みを目指してほしいと思っていますし、その才能もあると信じています。

山田和樹ベルリン・フィルデビューとの報道がなされる事を期待したいです。

第4位:大野和士

おおの かずし、60歳。現在、新国立劇場オペラ部門芸術監督、東京都交響楽団音楽監督を務めています。1987年、アルトゥーロ・トスカニーニ国際指揮者コンクールで優勝。1988年から1996年、ザグレブ・フィルハーモニー管弦楽団の常任、後に音楽監督。

1996年から2002年にはカールスルーエ・バーデン州立歌劇場の音楽総監督、2002年から2008年にはベルギー王立歌劇場の音楽監督。2008年からは、フランス国立リヨン歌劇場において、首席指揮者として活躍。

ミラノ・スカラ座、メトロポリタン・オペラ、パリ・オペラ座、ベルリン・ドイツ・オペラ、バイエルン国立歌劇場などオペラ経験は豊富です。

ロンドン響、ボストン響、イスラエル・フィル、バーミンガム市響、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管などを客演しシンフォニー指揮者としても評価が高いものがあります。

彼こそベルリンやウィーンに呼ばれるものと思っていましたが、壁は厚いのですね。スカラ座やメトを指揮していても海外での評価は厳しいものがあります。

第3位:井上道義

いのうえ みちよし、73歳。1971年ミラノ・スカラ座主催グィド・カンテルリ指揮者コンクールに優勝。翌年チェリビダッケの弟子になり、師の影響を受けて所作まで真似するように心酔しました。

1977年から1982年までニュージーランド国立響の首席客演指揮者、1983年から1988年まで新日本フィルの音楽監督、1990年から1998年まで京都市交響楽団の音楽監督、2014年から2017年まで大阪フィル首席指揮者、2007年から2018年まではオーケストラ・アンサンブル金沢音楽監督を歴任。

現在はどのオーケストラにも縛られる事も無く、自分のやりたい音楽を自由に演奏しています。レパートリーは幅広く、特にマーラー、ショスタコーヴィチの演奏は格別の力を入れているようです。

昔から言うべきことははっきりと言ってきた人物で、その点では日本人として珍しい存在です。そのためにバッシングも受けてきた事でしょう。これはハーフという事も影響しているのかもしれません。

彼が長髪だった頃から彼の指揮を聴いてきました。勿論、音楽性の追求はしていますが、聴衆受けを考えながら指揮している指揮者である事も特徴です。聴衆を楽しませる技も心得ていて、実践しています。

30代の頃から独特のオーラを放っていて、この指揮者は大物になるかもと期待しながら聴いてきました。世界的に大活躍する指揮者にはなれませんでしたが、人にはない面白いものを沢山持った指揮者です。

第2位:佐渡裕

さど ゆたか、59歳。京都市立芸術大学音楽学部フルート科卒業という変わり種指揮者です。バーンスタインの最後の弟子であり、バーンスタインも彼の才能を絶賛していました。1989年のブザンソン国際指揮者コンクール優勝者です。

1993年から2010年、コンセール・ラムルー(ラムルー管弦楽団)首席指揮者を努め、その間にも、パリ管、バイエルン国立管、ロンドン響などを客演。

2011年には小澤征爾以来、日本2人目のベルリン・フィル定期公演の指揮者となりました。2015年から伝統あるウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団音楽監督を務めています。

日本では兵庫県立芸術文化センター芸術監督、シエナ・ウインド・オーケストラ首席指揮者でもあり、ウィーンを本拠地としている彼にとっては、多忙な日々を送っています。

2011年にベルリン・フィルの定期公演に登場し、日本では大きな話題になり、ライヴCDも発売されました。しかし、その後9年経ちますが、佐渡裕がベルリン・フィルを振るというニュースを目にしません。佐渡裕はチャンスを生かす事が出来なかったようですね。

ベルリン・フィルの佐渡への評価はNGだったと考えるのが妥当なようです。彼もそろそろ還暦を迎えます。トーンキュンストラーの仕事だけでなく、ヨーロッパでの実績をもっと上げて、何とか2度目の招待を勝ち取って貰いたいと願うばかりです。

第1位:小澤征爾

おざわ せいじ、85歳。彼はもうそんな年齢になってしまったのですね。私の大学生時代は小澤征爾の追っかけのようなものでしたから、コンサートのみならず、「オーケストラがやってきた」の収録などにも行っていました。小澤征爾もまだ40代半ばの元気旺盛な時代です。

考えてみれば、もうその頃から、ベルリン・フィルやウィーン・フィルの定期公演の常連だったわけで、小澤征爾の才能が如何に凄かったのかが良く分かります。それが今や病気と闘う日々を送っているのですから、とても残念に思います。

彼は若い頃から病気によるキャンセルが多い指揮者でした。指揮者の職業病である頸椎の病に幾度も悩まされても、多忙過ぎて、完治する前に仕事に戻ったりしていたので、余計に酷くなったのですね。

アメリカの名門、ボストン交響楽団に骨を埋めるかと思いきや、世界をあっと言わせた2002年のウィーン国立歌劇場・音楽総監督就任劇には、日本人もやっとここまで来たかと感慨深いものがありました。

この年のウィーン・フィルニュイヤーコンサートも話題になりました。ライヴCDもクラシックでは異例のミリオンヒットを記録!今後、日本のクラシックでこれだけ売れるCDは出てこないでしょう。

録音の分野でもドイツ・グラモフォンやフィリップスなどの世界的レーベルと契約した日本人最初の指揮者となりました。日本人が思っているより、小澤征爾は世界的に評価されていたのです。

辛口と言いながら、小澤征爾の事となると甘くなりがちです。少しは小澤の弱点だった点を挙げておきましょう。それはドイツ物が弱かった事です。

特に古典派、つまりはハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンの音楽の深みが足りませんでした。ブラームスやマーラーは得意としていましたが、クラシックの根本部分では世界的評価を得られなかったのです。

ベルリオーズなどのフランス物や近・現代物は高い評価を得ていますが、カラヤンのようなすべての分野において完璧な指揮者には手が届きませんでした。

小澤征爾はウィーン・フィルとベルリン・フィルから名誉団員という称号を得ています。この称号を得られる指揮者は滅多にいません。両オーケストラとの関係が良好に築かれていた証です。

特にウィーン・フィルはこの称号を与えているのは3人だけで、バーンスタイン、ムーティ、そして小澤だけです。因みにカラヤンは名誉指揮者。こちらはベームと2人だけの称号。

次々と様々な病魔に侵され、食道がんや腰の手術を乗り越えたりと、大変な状況ですが、頑張って乗り越えてほしいと願うばかりです。

小澤征爾だけが別世界の指揮者ですね。他の指揮者は国内のオーケストラを行ったり来たり。
君もそう思うだろう。日本の指揮界の将来がとても不安だよ。新星が出てきて欲しいと願っている。

まとめ

現在の日本人で押さえて置けばよいと思われる指揮者をランキングしてみました。最も若い山田和樹でも41歳です。20代、30代の新進気鋭の指揮者を挙げられない事を残念に思います。

現在のベルリン・フィルのシェフのペトレンコは48歳、2020年、ウィーンのニューイヤーコンサートを振ったネルソンスは42歳という年齢です。

このレベルにのし上がってくる日本人が今後出てくるかどうか、とても心配しています。国内オーケストラのポジションに満足する事なく、世界を股にかける指揮者の夢を捨てずに頑張っていただきたいです。

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