アメリカのオーケストラランキング

現代のクラシック界はアメリカのオーケストラを抜きに語る事は出来なくなっています。BIG5と呼ばれる老舗のオーケストラを始め、エリート11と呼ばれる新興オーケストラがヨーロッパのオーケストラとしのぎを削っています。

ヨーロッパのオーケストラと違って、アメリカのオーケストラの評価基準の最大の要素は年間の予算規模です。予算規模の大きい順にBIG5などを決定してきました。予算規模の多いオーケストラほど実力も上でした。そういった意味で現在でも予算規模によって格付けしています。

しかし、最近は都市の重工業の衰退や産業構造の変化などに伴い、アメリカのオーケストラにも深い影を落としています。予算規模の縮小、給料の削減など様々な要因で、現在のオーケストラの様相が変わってきています。今の年間予算ランキングがどう変わったのかを調べてみました。

アメリカのオーケストラについて

アメリカのオーケストラの格付けは予算規模でランキングされます。これは各国とは全く違う観点で評価しているアメリカならではのものです。勿論、実力が伴わないと意味がないものですが、意外とその評価の仕方でも実力と見合っている事が面白いです。

アメリカには日本のように公的資金は入りません。基本的に企業・個人の寄付がメインとなります。アメリカには大富豪がとても多く、自分の好みのオーケストラに数億円単位で寄付する方が数多いそうです。伝説の話では100億円ポンと寄付した実業家もいたそうです。

一般の数千円から富豪らの数億円の寄付に頼っているアメリカのオーケストラですが、一番大きな予算を持つオーケストラは130億円規模になります。何と日本の一位のオーケストラの4倍以上の規模です。音楽監督、楽団員、ソリストたちのギャラが違ってくるのは当たり前です。

(注)各オーケストラの予算の年度が違っていますが、ここはえいやっと2020年1月6日現在の為替相場で一律計算します。1ドル=108円。多少ずれますが全体への影響はないものと考えます。

博士、アメリカのオーケストラの格付けは独特なんですね!!
そう、アメリカのオーケストラは予算規模で格付けされるのじゃ!!

第10位 ワシントン・ナショナル交響楽団

予算規模:3,600万ドル(2015)(約38億8千8百万円)

ワシントンD.C.を本拠地とするオーケストラ。歴代指揮者はアンタル・ドラティ、ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ、レナード・スラットキン 、イヴァン・フィッシャー、クリストフ・エッシェンバッハなどが担当してきたアメリカの首都にあるオーケストラです。

予算規模が約39億円ですから、アメリカのオーケストラとしては中規模クラスと言えます。エリート11なのでもっと予算が大きいものと思っていましたが、アメリカと言えども、オーケストラはなかなか運営が大変な団体なのですね。名門オーケストラと言えどもこの規模です。

第9位 アトランタ交響楽団

予算規模:3,800万ドル(2014)(約41億4百万円)

ジョージア州アトランタを拠点とするオーケストラ。1945年に設立されたまだ歴史が浅いオーケストラです。合唱指揮者としても名高いロバート・ショウらによってエリート11に選ばれるようになりました。日本でいえば地方オーケストラの代表のような存在です。

このオーケストラがTOP10にランクインしてくるとは意外でした。約41億円とは立派な予算規模です。この位あれば一流の指揮者、ソリストを呼べる筈です。これは2014年のデータですから、現在はもっと規模が拡大していると思われます。

第8位 シンシナティ交響楽団

予算規模:4,700万ドル(2015)(約50億7千6百万円)

1893年にオハイオ州南西部のシンシナティに設立された、アメリカでも伝統あるオーケストラです。1907年に経済的事情により解散されましたが、2年後に復活しました。ヘスス・ロペス=コボス、パーヴォ・ヤルヴィらによって鍛えられ、現在の地位を確立しました。

ここからは予算規模が大きくなり、約50億円です。50億円を超えると運営はかなり楽になるでしょう。音楽監督、オーケストラ楽員、ソリストに支払うギャラも大きくなります。良い環境で音楽だけに専念できる状況が作られています。このオーケストラはもっと伸びてくるでしょう。

第7位 フィラデルフィア管弦楽団

予算規模:5,000万ドル(2014)(約54億円)

ペンシルベニア州フィラデルフィアを本拠地とするオーケストラ。アメリカBIG5の一つ。レオポルド・ストコフスキー、ユージン・オーマンディ、リッカルド・ムーティなどに鍛錬され、現在のフィラデルフィアサウンドを作り上げました。

一時経営不振となり、世界で初めて民事再生法の更生手続きを経て復活したオーケストラとなりました。フィラデルフィアに強力なサポーターとなる大企業がなく、ほとんど個人による寄付で成り立っています。このまま、順位を下げる事無く、何とかレベルを保ってほしいものです。

アメリカBIG5オーケストラのフィラデルフィアが第7位ですか?
BIG5のフィラデルフィアがこのランキングとはわしも驚きじゃ!!

第6位 クリーブランド管弦楽団

予算規模:5,300万ドル(2014)(約57億2千4百万円)

オハイオ州クリーヴランドを本拠地とするオーケストラ。ジョージ・セルが鍛えに鍛えて今のクリーヴランド管弦楽団を世界的オーケストラに育て上げました。その後もロリン・マゼール、クリストフ・フォン・ドホナーニ、フランツ・ウェルザー=メストらが伝統を守ってきました。

予算は57億円越えで潤沢な資金力を持っていますが、アメリカBIG5として栄華を誇っていた時よりも下回っています。BIG5というネーミングが薄れてきた証拠でもあるでしょう。しかし、オーケストラのポテンシャルは以前と変わってはいません。

BIG5のクリーヴランドまでが第5位にも入れませんでした!!
BIG5の意味合いも薄れて来たんじゃの。時代の変化じゃ!!

第5位 シカゴ交響楽団

予算規模:7,400万ドル(2019)(約79億9千2百万円)

イリノイ州シカゴを本拠地とするオーケストラ。シカゴ交響楽団こそが世界最高のオーケストラと評する人も多くいます。フリッツ・ライナーに鍛えられ、ゲオルグ・ショルティが黄金時代を作り上げました。現在のリッカルド・ムーティも人気を高めている要因です。

第5位で約80億円とまた格段に規模が大きくなりました。これがBIG5の実力でしょう。このレベルになると録音収入がぐんと大きくなって収入の大きな柱となっている筈です。実力的にはアメリカ・ナンバーワンの声が高いオーケストラの面目躍如たるものがあります。

第4位 ニューヨーク・フィルハーモニック

予算規模:7,500万ドル(2016)(約81億円)

ニューヨークを本拠としているオーケストラ。BIG5の一つ。1842年設立とアメリカでは歴史のあるオーケストラです。かつてはグスタフ・マーラーが音楽監督を務めた事もあります。レナード・バーンスタインが黄金時代を作り、現在でもアメリカ屈指のオーケストラです。

予算規模でも80億円を超え、アメリカのオーケストラの確固たる地位を守っています。ニューヨークという地域を生かし、企業・個人からの寄付に加え、録音収入・テレビ放映料など収入源を多く持っています。BIG5の名に恥じぬ予算規模です。

第3位 サンフランシスコ交響楽団

予算規模:7,600万ドル(2018)(約82億8百万円)

カリフォルニア州サンフランシスコを拠点とするオーケストラ。かつては小澤征爾が6年間音楽監督をしていました。歴代の音楽監督のヘルベルト・ブロムシュテット、マイケル・ティルソン=トーマスがアメリカ第3位まで押し上げた原動力となりました。

予算規模でニューヨーク・フィルと肩を並べるようになったとは驚きです。BIG5の内、4つのオーケストラを抜き去り、堂々の第3位です。このオーケストラも録音収入・テレビの放映料が大きく伸びたために躍進しました。実力が付けばグッドスパイラルに入るのですね。

第3位は西海岸のサンフランシスコ交響楽団です!!
サンフランシスコ交響楽団は見事な躍進じゃな!!

第2位 ボストン交響楽団

予算規模:8,400万ドル(2013)(約90億7千2百万円)

BIG5のトリはボストン交響楽団。1位じゃないですよ、博士!!
第1位は気になるが、ボストン交響楽団の予算規模は毎年安定しておる!!

マサチューセッツ州ボストンを本拠とするオーケストラ。29年間にわたり小澤征爾が音楽監督を務めた事で日本人にもなじみ深いオーケストラです。設立は1881年と伝統のあるオーケストラでもあります。ジェームズ・レヴァイン、アンドリス・ネルソンスが後を引き継いでいます。

予算規模は90億円越えです。このデータは2013年のものですから、現在は100億円位になっていても不思議はありません。安定した財政の上に運営されているアメリカの優等生オーケストラです。企業寄付の規模の違いと録音収入が大きいためでしょう。

第1位 ロサンゼルス・フィルハーモニック

予算規模:1億2,000万ドル(2017)(約129億6千万円)

カリフォルニア州ロサンゼルスを本拠地とするのオーケストラ。2003年からウォルト・ディズニー・コンサートホールを拠点にし、それにより更に充実した音楽作りに邁進しています。エリート11の中でも昔から著名なオーケストラでした。

それにしても約130億円とは凄い!これは2017年のデータですから、現在はもっと凄い事になっているかも。企業からの安定した寄付によるおかげでしょう。BIG5を押しのけての第1位。しかも、大差での第1位ですから、今後のロサンゼルス・フィルには注目です。

ぶっちぎりの第1位はロサンゼルス・フィルでした!!
わしも驚きじゃ!!第2位を大きく引き離しての堂々の第1位!!

予算規模で見るアメリカオーケストラランキング結果

第1位:ロサンゼルス・フィルハーモニック(1億2,000万ドル)
第2位:ボストン交響楽団(8,400万ドル)
第3位:サンフランシスコ交響楽団(7,600万ドル)
第4位:ニューヨーク・フィルハーモニック(7,500万ドル)
第5位:シカゴ交響楽団(7,400万ドル)
第6位:クリーブランド管弦楽団(5,300万ドル)
第7位:フィラデルフィア管弦楽団(5,000万ドル)
第8位:シンシナティ交響楽団(4,700万ドル)
第9位:アトランタ交響楽団(3,800万ドル)
第10位:ワシントン・ナショナル交響楽団(3,600万ドル)

BIG5がもっと上位を占めると思っていました!!
エリート11の躍進ぶりは見事じゃ!!

まとめ

アメリカのオーケストラの予算規模を見てきましたが、第1位のロサンゼルス・フィルには驚きました。断トツの予算規模でした。しかし、第10位までのオーケストラはBIG5とエリート11と呼ばれているオーケストラであって、やはりその位置付けは正しいものでした。

アメリカのオーケストラは企業の寄付により成り立っている団体です。今後の経済次第でこの順位も変化していくものと思われます。顕著だったのはフィラデルフィア管弦楽団で、企業が離れてしまうとじり貧になってしまう姿が見られました。オーケストラの運営は難しいものです。

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