ベートーヴェン交響曲第4番

『第4番』は優しさにあふれた作品として知られています。明るく暖かい印象も受けます。ベートーヴェンの交響曲の中では『英雄』、『運命』、『田園』、『第7番』そして『第9番』が有名で、『第4番』はその陰に隠れて少し目立たない存在でもあります。

シューマンはこの『第4番』を称して「2人の北欧神話の巨人(3番と5番)に挟まれた美しいギリシアの乙女」と言ったそうです。上手い表現をするものだと思いますが、単に「乙女」という名に留まらない楽曲です。ベートーヴェンらしい力強さと緊張感にも溢れています。

『第3番』の大冒険から見ると、『第4番』は伝統的な交響曲に戻りました。と言って、音楽自体が委縮した訳ではなく、「2人の巨人」と比較しても何の遜色もありません。この時期のベートーヴェンは創作意欲に満ち溢れていました。その中で書かれた『第4番』を解説していきます。

ベートーヴェン『交響曲第4番』概要

ベートーヴェンは『運命』の方を先に手掛けていましたが、それをひとまず置いておき、1806年に『第4番』を一気に書き上げています。ベートーヴェンに何の心境の変化があったのでしょうか。ベートーヴェンはこの時期どうも恋愛中だったようです。

恋愛による感情の高ぶりが、曲想的に暖かみがある『第4番』の方を先に取り上げた理由の大きな要素ではないかと言われています。楽曲から感じ取れる優しさだったり暖かみであったりする部分は、ベートーヴェンの恋愛が上手く行っていた事によるものなのでしょう。

『第4番』を書いていた時期は、ベートーヴェンにとって最も創作意欲が高く、後に「傑作の森」と後に呼ばれた、非常に充実していた時期でした。この時のベートーヴェンは同時に何曲も作曲していました。『ラズモフスキー四重奏曲集』、『ピアノ協奏曲第4番』、『ヴァイオリン協奏曲』などもこの時期の作品です。

ベートーヴェンの恋愛・その後

  • この時のベートーヴェンの恋愛相手はヨゼフィーネ・ブルンスヴィックという女性でした。しかし、結局は破局してしまいます。身分の違いが一番の理由です。貴族の令嬢が、身分の低い一介の作曲者と結婚できるはずもなく、当然の帰結でした。

ベートーヴェン『交響曲第4番』曲目解説

『交響曲第4番』は著名な作曲家が面白い例えを語っています。前文で書いたようにシューマンは「2人の北欧神話の巨人(3番と5番)に挟まれた美しいギリシアの乙女」と語っています。また、ベルリオーズは「全体的に性格は活発で明るく、この上ない優しさがある」と言っています。

『英雄』で古典的な枠組みを打ち破るような特別な交響曲を書いたベートーヴェンですが、この曲では再び古典的な均衡のある楽曲の世界に戻っています。『第4番』は目立たない存在ですが、名曲である事は確かです。『第4番』を楽章毎に説明していきます。

第1楽章

神秘的に始まる楽章です。これからどういう音楽が展開されるのだろうと思っていると、突然歯切れのよい音楽が出現します。快活に飛び跳ねるような音楽です。リズムとテンポの協演は後の『交響曲第7番』を想像させます。シューマンの言う「乙女」はちょっと「おてんば」です。

中間のクラリネットとファゴットの追いかけっこのような音楽もベートーヴェンらしさが出ていてて、やり方が天才的です。この楽章は全体的にほぼ第1主題がメインで扱われていて、快活、明確、テンポの良さの非常に明るい音楽になっています。

第2楽章

明るく伸びやかなメロディが心地よい楽章です。普通の緩徐楽章とは一線を画すような楽章です。「タッタ、タッタ」と演奏されるリズムもまた印象的でもあります。クラリネットが物寂しいメロディを鳴らしますが、ちょっと幻想的でもあります。

全体的に穏やかな表情の楽章です。最後は管楽器が美しい旋律で歌い上げたりしたあと、ティンパニが独奏で現れ、楽章を締めくくります。このあたりが非常に独創的です。出来るようで誰もがやらなかった事、さすがはベートーヴェンと納得させて終わりです。

第3楽章

楽譜にはスケルツォと書いていませんが完全にスケルツォとなっています。ユーモラスで快活なメロディーとリズムで満たされています。中間部は管楽器による牧歌的な雰囲気が印象的です。弦楽器と管楽器が対話をしているような感じで楽しい楽章です。

第4楽章

この楽章も最初から非常に快活、活発な音楽で始まります。弦楽器による「テケテケテケテケ」という早いリズムが特徴的な楽章です。この「テケテケテケテケ」は一貫して聴こえてきます。弦楽器のみならずファゴットでも使われたりしています。

基本的に最初から最後まで一貫して元気なまま続けられます。弦楽器と木管楽器が織りなす面白い掛け合いが続きます。第1主題の早い音楽がほとんどの部分を占めます。音楽は最後まで快活な気分で進んで行き、エンディングも気分が高揚したまま終了します。

『第4番』の歴史を変えた録音

ベートーヴェンの『交響曲第4番』を名曲として世の知らしめてくれた人物はカルロス・クライバーです。1984年にカール・ベーム追悼公演として演奏されたライヴ・レコードが急遽発売になり、クラシック界を興奮に包みました。私も当時興奮した1人でした。

当時地味な存在だった『第4番』を一夜にして変えてしまった演奏です。早いテンポでぐいぐいと推し進める推進力、ベートーヴェンでここまでしていいのと思わせる勢いは、他の指揮者にはありませんでした。この全曲を30分そこそこで演奏してしまう指揮者などいませんでした。

ベートーヴェンが怒りのあまり化けて出てくるのではないかと思うぐらい。こんな解釈もあったのかと愕然となった人たちは多かったはずです。この録音以降、『交響曲第4番』の再評価が高まったのは言うまでもありません。まだ、聴いていない方は急いで聴くべき1枚です。

まとめ

『交響曲第4番』を見てきましたが、ベートーヴェンの他の交響曲と比べても遜色ない出来栄えです。なぜ、こんなに演奏される機会が低いのか不思議です。やはり、あだ名を持っていない楽曲は不利なのでしょうか。『英雄』と『運命』に挟まれた交響曲という事もあるでしょう。

しかし、名曲には変わりがないのですから、この機会にこの『第4番』の良さを再認識して貰いたい思っています。やはりこの時期のベートーヴェンは勢いがあります。クライバーの名演のCDもありますし、ぜひもう一度聴き返される事を願っています。

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