
ベートーヴェンは生涯に32曲のピアノソナタを作曲しています。ピアノソナタはベートーヴェンにとっては生涯にわたり作曲し続けたものであり、ピアノの名手だったベートーヴェンにとって無くてはならない最も身近な楽曲であった事は確かな事です。
しかし、そのソナタ群はかなり難しい楽曲が多く、ベートーヴェン弾きにとっては、ハードルが高いものとなっています。名曲が多く存在しますが、我々、聴衆としては、ピアニストたちがこれらのソナタをどう弾きこなすかを楽しみに聴いています。
32曲のピアノソナタの中で、難易度順にランキング形式でTOP10を挙げていこうと思います。私が、数十年かけて聴いてきたピアノソナタの名曲たちを、様々な観点から見渡して、難易度が難しいピアノソナタを選び出しました。ランキングは難しいですが、納得して頂けるものと思います。


難易度の設定
ランキングに挙げるピアノソナタには難易度を掲載しました。その意味は易から難の順に「C」、「B」、「A」で表しました。元々、ピアノ上級者向けの難曲を挙げているので、「C」レベル以下のものは出てきません。
難易度「B」:ピアノ科の音大生は弾きこなせないといけない上級者レベル
難易度「C」:ピアノ科の音大を目指す高校生が弾きこなせるレベル
第10位 ピアノソナタ第16番
難易度:「C」
速いテンポで両腕を使いこなさねばならず、弾きこなすにはそれなりの練習が必要なソナタです。第3楽章のテンポ設定も難しいです。しかし、このソナタレベルはベートーヴェンの中ではめちゃくちゃ難しいわけではありません。才能ある高校生なら弾きこなせます。
第9位 ピアノソナタ第14番「月光」
難易度:「B」
第1楽章はソナタを弾けるようになった方ならば練習すれば簡単に弾けるでしょう。しかし、第2楽章と第3楽章は大変なテクニックが必要となっています。特に第3楽章は速い上に転調が多く、音大生でもかなりの練習をしなければ弾きこなせません。
第8位 ピアノソナタ第30番
難易度:「B」
第1楽章4分、第2楽章2分30秒、第3楽章14分と第3楽章に重点が置かれている作品です。第3楽章は変奏曲で第6変奏まであり、この6つの変奏曲が難曲となっています。テンポが変わったり、雰囲気を変えないといけなかったり、両手を交差する動作などもあり、テクニックが必要です。
第7位 ピアノソナタ第31番
難易度:「B」
フーガについてきっちり練習をした事のないピアニストには弾く事が出来ない難曲です。後期ソナタを弾くためには、それなりの積み重ねが無いと弾けません。やはりこのソナタの肝は第3楽章のフーガ。易しそうで難しい作り方になっています。
第6位 ピアノソナタ第28番
難易度:「B」
簡単そうに聴こえますが、難しいソナタです。特に第3楽章のフーガは古典的な形式を敢えて取っていないため、演奏する側からするとその困難さは非常に大きくなっています。また、難しさを大きくしている事は、音域の広がりです。演奏者にとってやる事が多く、難易度を上げています。
第5位 ピアノソナタ第26番
難易度:「B」
15分そこそこの短いソナタですが、中でも最も短い5分ほどの第3楽章が最も難しくなっています。テクニックが無いと弾けない部分も多く存在し、また音形も小さい掌の人には大変な事もあります。テンポに注意する事も大事な点でもあり、「B」ランクでも厄介な部類です。
第4位 ピアノソナタ第32番
難易度:「A-」
第2楽章が長大で、難しくなっています。第5変奏まであり、各々が変化をもたらす音楽のため、演奏技術が無いと弾きこなせません。また、16分の9拍子、16分の6拍子、32分の12拍子と拍子の変化も大変ですし、32分音符のトレモロやトリルが演奏者を苦しめます。
第3位 ピアノソナタ第23番「熱情」
難易度:「A」
ここから先は死ぬほど難しいソナタが続きます。第1楽章から難しいパッセージが続き、特に第3楽章の難易度は冬季に日本アルプスを登山するような超難関。高速で難しい部分をこなせばならず、聴いている聴衆も息をのむ楽章です。最後まで息切れせずに高速で乗り切れるかが重要です。
第2位 ピアノソナタ第21番「ワルトシュタイン」
難易度:「A」
冒頭から主題の連打が始まります。難曲の開始に相応しい始まりです。主題を右手で弾いているのか、左手なのかもわからない程の難しさです。白鍵と黒鍵のバランスが難しく、大変弾きにくい作品です。また、第3楽章にはオクターヴグリッサンドが出てきます。
オクターブグリッサンドは手の大きい人にしか弾けないでしょう。本当に特別な人だけができる手法です。最後の最後でテクニックが全てばれてしまう恐ろしい曲です。悪魔のように立ちはだかる音符の数々、大曲には悪魔が憑りついているようです。
第1位 ピアノソナタ第29番「ハンマークラヴィーア」
難易度:「A+」
ベートーヴェンピアノソナタの中で最も難関な楽曲。演奏時間も40分を超える壮大な楽曲であり、プロのソリストと言えども、かなりの練習時間を掛けないと弾きこなす事は至難の業です。終楽章にはベートーヴェンが積み上げてきた様々なテクニックが目白押しです。
このソナタが容易い楽曲だという人がいたら、その人はこの楽曲の本質を見ていないピアニストではないでしょうか。速いテンポに乗って、あらゆるフーガの技法が駆使され、演奏者はその音列たちに挑みます。ベートーヴェンのピアノソナタの中のエベレストというべき存在です。
ランキングを振り返って
第1位 ピアノソナタ第29番「ハンマークラヴィーア」
第2位 ピアノソナタ第21番「ワルトシュタイン」
第3位 ピアノソナタ第23番「熱情」
第4位 ピアノソナタ第32番
第5位 ピアノソナタ第26番「告別」
第6位 ピアノソナタ第28番
第7位 ピアノソナタ第31番
第8位 ピアノソナタ第30番
第9位 ピアノソナタ第14番「月光」
第10位 ピアノソナタ第16番
難易度レベル「A+」
第1位 ピアノソナタ第29番「ハンマークラヴィーア」
ランキングTOP10の内、難易度レベルは5種類に分類しました。「ハンマークラヴィーア」を頂点として、「A」レベルが2つ、「A-」レベルが1つ、「B」レベルが5つ、「C」レベルが1つとなりました。
ベートーヴェンのピアノソナタは難曲ばかりではありませんが、かといって、誰にでも弾きこなせるかはまた別の話です。
ベートーヴェンの息遣いが聴こえてこなければ、良い演奏とは言えませんから、テクニックがあるからと言って弾ける事にはなりません。やはりベートーヴェンは難しいのです。
まとめ
ベートーヴェンのピアノソナタの中で特に難曲と思われる10曲をランキング化しました。第1位の「ハンマークラヴィーア」は本当に別格です。ベートーヴェンのピアノソナタの中で最も光り輝いています。でも、じっくりと予習しないと聴けない楽曲でもあります。
こうしてみてくるとベートーヴェンは32曲のピアノソナタを作曲していますが、どの楽曲も独創的で、やはり天才作曲家なのだと思い知らされます。中でもピアノ作品は彼の日常的な友人であったため、生涯を通してじっくりと温めた作品が多く存在しています。