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クリスマス

毎年12月に入るとベートーヴェンの『第9』のコンサートが日本各地で行われます。日本の全てのオーケストラが、『第9』一色になります。各地にアマチュア合唱団が結成され、演奏会に向けて練習している姿は、既に日本の冬の風物詩ともなっている状況です。

忘年会後のおじさんたちが「フロイデ・シェーネル・ゲッテルフンケン」などと鼻歌で歌っている光景を何度も目にした事があります。このおじさんは『第9』を歌ったことがあるんだな、と思いつつすれ違いますが、なんでこんなに『第9』ファンが増えたのでしょうか。

なぜ日本人はこの楽曲が好きなのでしょうか?そして、なぜ12月に演奏されるでしょうか?東京都内で12月に『第9』が演奏される回数は80回ほどと言われています。もの凄い数ですね。東京都のオーケストラは9団体ありますからこの数も納得です。今回は、この疑問を解いていきましょう。

『第9』が師走に始まった理由

ピアノ協奏曲
戦後貧しかった時代、オーケストラの人たちも苦しんでいました。そこで日本交響楽団(今のNHK交響楽団)が一計を案じて、『第9』なら客を呼べるからという理由で年末の『第9』が始まりました。これが目論見通りに大成功を納め、現在でも12月は『第9』の月になっています。

餅代稼ぎ

戦後、日本交響楽団の人たちは給料もなかなか貰えなくて、困っていました。そこで事務局が『第9』なら実入りがいいからと数回『第9』の演奏会をして、いわゆる餅代を稼いだといわれています。この事でオーケストラの団員は給料が貰え、安心して年を越せたのです。

これに味を占めた日本交響楽団は毎年年末に『第9』を演奏するようになり、今でもその伝統が続いているというわけなのです。その当時は東京には、まだ、日本交響楽団しかなく、一つのオーケストラが独占状態だったわけで、当然客の入りも良く、売り上げは結構上がったのでしょう。

今のような大流行は後の時代

年末に『第9』が始まったわけですが、今のように隆盛を極めるまでは行きませんでした。年末の『第9』の流行は高度成長期が終わり、経済が安定成長に入ってからの事でした。経済的に生活が安定し、海外の有名なオーケストラが毎年やってくる時代になってからの頃からです。

その頃には、日本交響楽団がNHK交響楽団と名前を改め、また、他のオーケストラが設立されていきました。東京では、東京交響楽団、読売日本交響楽団、東京都交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団などのオーケストラが次々と誕生しています。高度成長がなせる業でした。

年末『第9』の大流行

『第9』は楽器など出来ない人々も、合唱という形で参加出来る曲です。それに相まって、新興のオーケストラは自前の合唱団を作り、演奏会を開くことによってチケットを捌いてもらえるというメリットもありました。オーケストラ側と一般の人のウィンウィンの関係が成り立ったのです。

年末に『第9』が演奏される理由

  1. 何と言っても名曲
  2. 年末に相応しい曲
  3. 祭礼の曲
  4. アマチュアコーラスの参加

何と言っても名曲

まずはこれが1番でしょう。名曲じゃないと客が呼べませんからね。それに日本人はベートーヴェン好きときています。耳が悪くなって難聴の中で書いた楽曲となれば、尚更日本人の判官贔屓に火が付いたわけです。そして、自分も演奏に参加できる道が開かれたのです。

名曲自体が年末の『第9』に繋がるわけではありませんが、この楽曲の素晴らしさが無くては誰にも見向きもされないでしょう。聴いていても感動する音楽です。自分が参加して歌えれば、さらに感動する事間違いありません。1度参加された方のリピート率はかなり高いものがあります。

年末に相応しい曲

新しい年を迎えるために「歓喜」と歌い上げるこの『第9』は年末にちょうど会っていたともいえます。世知辛い世の中を一瞬忘れて、気ぜわしい年の瀬に『第9』を聴く事は、新年の扉を明けてくれるのに適した音楽でした。そんなイメージにちょうど合っていたのです。

「諸人よ、ひざまずいたか
世界よ、創造主を予感するか
星空の彼方に神を求めよ
星々の上に、神は必ず住みたもう」

こんな歌詞も出てきます。私はキリスト教徒ではありませんが、神を称えるこの曲は、新しい世界を予感させてくれるようです。年末には欠かせない曲なんですね。この雰囲気がなお一層気持ちを高まらせてくれます。12月という普段と違った雰囲気がある時期にマッチしたわけです。

祭礼の曲

祭礼で神様を祭るように、『第9』は厳かな曲だからです。神聖なといったほうが分かりやすいでしょうか。この『第9』にはそういった面があります。事実、ヨーロッパでは祝祭の日などに『第9』が演奏されます。日本では新年を迎えるのにちょうど合う曲だったのです。

お神輿を担ぐような楽曲ではありませんが、この神聖さ、荘厳さが大事なのです。日本は古くから正月には歳神様を迎えるという風習がありました。『第9』の神聖さが、このイメージと一致したために、この楽曲が12月に多く聴かれるようになったのだと思います。

アマチュアコーラスの参加

昨今の年末『第9』フィーバーはこれ抜きにして語れません。聴くより自分もステージで歌いたいという人が増加したためです。オーケストラもこの動きに乗りました。オーケストラは契約料金を貰って演奏するだけ。1回分の稼ぎが舞い込みのです。

チケットは合唱団に1人何枚とかの割り当てが会って、そっちで売りさばいてくれます。また、自治体が主催のときもありますが、これもオーケストラは料金を貰うだけで、チケットを事務所で売りさばく必要もありません。オーケストラにとっては正にドル箱のような存在です。

合唱が参加するのはわずか15、6分ぐらいの曲ですから、練習も短く済みます。それで、あの感動が得られるのですから、合唱も何度も出てみたいという方が増えます。正のスパイラルになって、年末の『第9』は肥大化して行ったのです。一般の方の合唱団への参加が最大の原動力です。

まとめ

ベートーヴェンが作曲してくれた『第9』ですが、極東の日本で毎年こんなにも演奏されている事を知ったなら、どんな言葉が返ってくるでしょうか。曲をもっと大事にしてくれといわれてしまいそうです。そんなに毎日演奏される楽曲ではないのだと叱られる事でしょう。

ですが、今の『第9』人気も、この『第9』に込められている平和への願いに適っているといってくれるかもしれません。合唱に参加される方は、意味を分かって歌って欲しいと願ってやみません。日本語訳を良く読んで、理解しながら歌えば、もっと感動が深まるはずです。

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