ベートーヴェンの交響曲案内【クラシック音楽を変えた9曲の交響曲】

ベートーヴェンの交響曲は9曲存在します。29歳で書いた『第1番』から53歳で書いた『第9番』までの9曲です。中でも『第3番』から始まる交響曲作家としてのベートーヴェンは、常に交響曲の中に「革新的」な進歩の足跡を残していきます。

その事がベートーヴェンの存在を飛躍的に発展させ、誰にも到達できない高みへと彼を導きました。交響曲の様式を完成させ、さらに次の時代へ続く橋までも掛けたのです。彼がいなかったならば、次に続くロマン派の音楽も変わっていたに違いありません。

ベートーヴェンの柱は交響曲、ピアノソナタ、そして弦楽四重奏とあり、それらの関係が大変密接で重なり合って重要な作品群を形成しています。まずもって考察されねばならないのが交響曲であることは疑いのない事実です。これら交響曲を簡単に案内していきましょう。

交響曲の出来栄え:最低★~最高★★★★★ ☆は0.5

交響曲第1番

『交響曲第1番』ハ長調作品21。1799年から1800年に作曲。ベートーヴェンの初期の代表作ですが、まだハイドンの交響曲の域から脱してはいません。ベートーヴェンらしさを感じさせるものを持ってはいますが、まだまだ、古典派初期の中にどっぷりと浸かっています。

交響曲の出来栄え:★★★

交響曲第2番

『交響曲第2番』ニ長調作品36。1801年から1802年に作曲。『交響曲第2番』は、ベートーヴェン自身が人生に苦悩した時期に作曲した作品ですが、絶望を乗り越え、希望を見つけたベートーヴェンを感じ取る事が出来ます。しかし、この曲も当時の古典派初期の域を超えてはいない作品です。

交響曲の出来栄え:★★★

第2番までの交響曲はべートーヴェンの革新性が発揮されていないという事ですね。
その通り。まだまだハイドン、モーツァルトの交響曲と同じ土俵の上に乗っていたのだよ。

交響曲第3番「英雄」

『交響曲第3番「英雄」』変ホ長調作品55。1803年作曲。「傑作の森」の幕を開ける作品。ベートーヴェンの才能が本格化した作品であり、音楽自体を変えた交響曲です。これ以降のベートーヴェンは空前の音楽的啓示を受けて、音楽のゼウスとして君臨します。

第1楽章の巨大な展開部と第2展開部に匹敵するコーダ。第2楽章には葬送行進曲、第3楽章にはメヌエットの代わりにスケルツォ、そして終楽章にはロンド風のフィナーレの代わりに変奏曲が配置されるという特別仕様の交響曲となりました。

交響曲の出来栄え:★★★★★

ついにベートーヴェンの革新性が発揮された交響曲が登場してきました。
交響曲の概念をガラッと変える作品が誕生したのだ。当時の聴衆には理解されない事もあったが音楽史上大変な出来事だったのだよ。

交響曲第4番

『交響曲第4番』変ロ長調作品60。1806年に作曲。『交響曲第4番』は9つの交響曲の中では、目立たない存在です。『交響曲第3番「英雄」』と『交響曲第5番「運命」』の間に挟まれているのが、より一層そう感じさせるのかもしれません。しかし、交響曲第4番も劣らぬ名曲です。

交響曲の出来栄え:★★★★

交響曲第5番「運命」

『交響曲第5番「運命」』ハ短調作品67。1807年から1808年に作曲。クラシック音楽の中で最も有名な楽曲と言えるでしょう。交響曲としての構造が究極的な完成度を持ちます。この交響曲を超える完成度を持つ交響曲は存在しないのではないかと考えるほどの出来栄えです。

第1楽章から第4楽章まで独特のアイデアに満たされ、交響曲としての最大なる実験を行った素晴らしい曲です。この頑強な作りは、現代の屈強な建築物にも例えられ、完成度はピカ一です。永遠にこの世の名曲として残る交響曲の一つでもあります。

交響曲の出来栄え:★★★★★

誰もが知っている「運命」の誕生ですね。
「運命」は交響曲のひとつの頂点なのだ。楽曲の構成力、完成度の高さにおいてこの作品を超えるものはないだろう。

交響曲第6番「田園」

『交響曲第6番「田園」』ヘ長調作品68。1808年に作曲。ベートーヴェン自身が名付けた唯一の交響曲です。この時期は『運命』、『ピアノ協奏曲第5番「皇帝」』などベートーヴェンの核となる作品が作られた、創作活動が1番活発な時期でした。

ベートーヴェンはこの交響曲で5楽章という実験を行っています。また、楽章を切れ目なく連続演奏するという事も『運命』と同様の実験を行っています。あだ名と言い、この交響曲はベートーヴェンにとっては少し異質な音楽です。穏やかな音楽ですが、難しい音楽です。

交響曲の出来栄え:★★★★☆

交響曲第7番

『交響曲第7番』イ長調作品92。1811年から1812年に作曲。ワーグナーが「舞踏の権化」と呼んだ事は有名です。この交響曲も最初から最後まで、リズムの音楽に徹した作品です。ベートーヴェンらしい素晴らしい音楽に仕上がっています。

ごくごく普通の4楽章の交響曲に戻しましたが、『運命』が「運命動機」を追いかけまわしたように、ひたすらリズムの音楽に徹したところが人気を呼んだ秘密だと思います。ひと昔前の音楽テレビドラマのテーマにも使われ、一層人気となりました。

交響曲の出来栄え:★★★★☆

交響曲第8番

『交響曲第8番』ヘ長調作品93。1812年に作曲。ベートーヴェンの交響曲の中では、8番は目立たない存在です。しかし、交響曲の伝統を維持しつつ、ベートーヴェンらしさは健在の作品です。ですが、ベートーヴェン的なキレやタメ、強靭さなどに掛けるイメージがあります。

交響曲の出来栄え:★★★☆

交響曲第9番「合唱付き」

『交響曲第9番「合唱付き」』ニ短調作品125。1824年に作曲。ベートーヴェン最後の交響曲。第4楽章に声楽を入れた画期的な交響曲です。この交響曲は単なる交響曲と違って、人類の宝でもあります。ベートーヴェンの理想を交響曲に詰め込んだ特別な音楽になっています。

19世紀初期の交響曲で約75分という異例の長さ。第1楽章から第4楽章までベートーヴェンの工夫の数々。第4楽章の構成の見事さ。何処を取っても、ベートーヴェンの熱い血潮が沸き立ちます。この交響曲については、出来栄え云々といった事よりも音楽の人類遺産です。

交響曲の出来栄え:★★★★★

最後に「第9」です。この作品は日本では年末の風物詩となりました。
年末に多くの「第9」が演奏されるのは日本だけ。海外では特別な場合にしか演奏されないのだ。管弦楽と合唱を融合した初めての交響曲なのだよ。

まとめ

ベートーヴェンの9曲の交響曲は人類の宝であり、楽しみです。よくぞ、このような素晴らしい名曲を作ってくれました。ベートーヴェンには感謝の言葉しかありません。特に『第3番』以降の交響曲はクラシック音楽界の発展に大きく貢献した交響曲たちです。

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