現在のチェリストの中で、最も天才だと思うのは「ヨーヨー・マ」だと思います。おそらく、伝説のパブロ・カザルフやムスティスラフ・ロストロポーヴィチと肩を並べる天才チェリストと言えるでしょう。21世紀の最も偉大なるチェリストになる事は間違いありません。
では、20世紀最高のチェリストは誰なのでしょうか。皆さんがすぐに思いつく、20世紀に活躍したチェリストはかなり限られてくるはずです。なぜなら、ヴァイオリニストなどと比べ、チェリストは圧倒的に数が少ないからです。
しかし、ヴァイオリニストと比べて少数とはいっても、20世紀を代表する偉大なチェリストは、指折り数えると手が足りなくなるほど存在しています。その中から、ランキング形式で「20世紀最高のチェリスト」を発表していこうと思います。
ランキングの判断条件
- 20世紀に活躍したチェリスト
- 既に故人であるチェリスト
- 素晴らしい録音を数々残しているチェリスト
- 巨匠たるカリスマ性を持っていたチェリスト
第10位 ハインリヒ・シフ
生誕・死没年:1951年11月18日~2016年12月23日
出身国:オーストリア
6歳でピアノ、10歳でチェロを始める。トビアス・キューネ、アンドレ・ナヴァラに師事し、1971年にウィーンとロンドンでデビュー。25歳からヨーロッパ、アメリカ、日本の主要コンサートホールや音楽祭で著名オーケストラと協演。ヴィヴァルディ、ハイドンから現代音楽まで幅広いレパートリーを持っていた。晩年は指揮者としても活躍した。
ディスク大賞を受賞したバッハ『無伴奏組曲』やショスタコーヴィチ『協奏曲』のほか、ドヴォルザーク『協奏曲』、シューマン『協奏曲』、ブラームス『二重協奏曲』、ベートーヴェンのチェロとピアノのための全作品などの録音は、圧倒的な評価を得ています。
第9位 ポール・トルトゥリエ
生誕・死没年:1914年3月21日~1990年12月18日
出身国:フランス
20世紀フランスを代表するチェリスト。パリ音楽院でチェロをジェラール・エッカンに師事、作曲と和声も学ぶ。カザルスの下でその後も研鑚を積む。1947年からソリストとして活躍を開始。指揮者としても活躍した。作曲家としても、多くの作品を残している。1957年からはパリ音楽院で教鞭を執り、多くの優秀な演奏家を世に出した。
バッハ『無伴奏チェロ組曲』、フォーレ『チェロソナタ集』、R・シュトラウス『ドン・キホーテ』などの録音は代表的な名演です。跳びぬけたテクニックと、骨太の音色が特徴的でした。教育者としても優秀で、ジャクリーヌ・デュ・プレなど世界的なチェリストを世に出しています。
第8位 ヤーノシュ・シュタルケル
生誕・死没年:1924年7月5日~2013年4月28日
出身国:ハンガリー
11歳で初リサイタルを開く。フランツ・リスト音楽院卒業と同時に、ブダペスト国立歌劇場管とブダペスト・フィルの首席奏者に就任するも、1948年に米国へ移住。シカゴ交響楽団を辞任した1958年からソリストとして活動。インディアナ大学教授でもあり、堤剛ら、多くの逸材を育てた。
1950年、コダーイ『無伴奏チェロソナタ』でセンセーションを巻き起こし、一躍その名を世界中に轟かせました。コダーイ、バルトークといった近代作品やバッハの演奏は特に評価が高いものがあります。どんな難曲も楽々と弾く優れたテクニックを持っていました。
第7位 ルートヴィヒ・ヘルシャー
生誕・死没年:1907年8月23日~1996年5月8日
出身国:ドイツ
6歳でチェロを始める。ケルン、ミュンヘン、ライプツィヒ、ベルリンでチェロを学び、フーゴ・ベッカー、ユリウス・クレンゲルといった名手たちに師事。1932年、エリー・ナイ三重奏団を結成。1936年、フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィルの演奏会にソリストとしてデビュー。戦後は教育者として活動をしながら、世界的な演奏活動を行った。
日本ではあまり知られていないチェリストです。録音はSP時代から数多く行っています。ドヴォルザーク『チェロ協奏曲』はオールド・ファンにとっては懐かしいかも。名盤です。ベートーヴェンとブラームスのチェロ・ソナタも優れています。魅力的な演奏をしてくれる稀有な演奏家です。
第6位 グレゴール・ピアティゴルスキー
生誕・死没年:1903年4月17日~1976年8月6日
出身国:ウクライナ
モスクワ音楽院で名手アルフレート・フォン・グレーンらに師事し、15歳でボリショイ劇場のチェリストに就任。1924年、フルトヴェングラーの要請でベルリン・フィルの首席チェリストとなり地位を確立。1928年以降はソリストとして活躍。ハイフェッツ、ルービンシュタインと「百万ドル・トリオ」と讃えられたトリオを結成。愛器はストラディヴァリウス。
日本ではコアなファン以外知られていないのが残念です。古い録音ですが、シューマン『チェロ協奏曲』は超名演です。サン=サーンス『協奏曲第1番』も素晴らしい!テクニックは言うに及ばず、彼が紡ぎだす音色は素晴らしいものがあります。20世紀の隠れた巨匠です。
第5位 ジャクリーヌ・デュ・プレ
生誕・死没年:1945年1月26日~1987年10月19日
出身国:イギリス
10歳からプリースに師事し本格的にチェロを学ぶ。61年にロンドンでデビュー。その後パリでトルトゥリエ、モスクワでロストロポーヴィチに短期間師事し、国際的な活躍を始める。67年にニューヨーク・デビュー。百年に1人の天才といわれたが、多発性硬化症という難病に侵され、徐々に体の自由が利かなくなり、42歳でで夭折した。
デュ・プレが活躍した12年の間に録音した全てが名演奏のレベルに達しています。中でも、エルガー『チェロ協奏曲』は名盤中の名盤です。夫だったバレンボイムと録音した、シューマン『チェロ協奏曲』、サン=サーンス『チェロ協奏曲第1番』も素晴らしい!感情豊かなチェリストでした。
第4位 ピエール・フルニエ
生誕・死没年:1906年6月24日~1986年1月8日
出身国:フランス
1923年にパリ音楽院でポール・バズレール、アンドレ・エッキングに師事。卒業の翌年、パリでコンサート・デビュー。1934年、ベルリン・フィルと協演。世界的な名声を得る。教育者としても名高い。その優美な音色と気品高い演奏から「チェロのプリンス」の異名をとったことでも知られている。
バッハ『無伴奏チェロ組曲』やドヴォルザーク『チェロ協奏曲』など、大規模で構成的な作品において不滅の名盤を残しています。豊かな情緒と粋なセンスを必要とする小品演奏においても極めて高く評価されていました。気品があり、格調高い表現をした音楽家でした。
第3位 エマーヌエル・フォイアーマン
生誕・死没年:1902年11月22日~1942年5月25日
出身国:オーストリア
1914年、11歳のときにワインガルトナー指揮のウィーン・フィルと協演、正式にデビュー。10代ながらギュルツェニヒ音楽院で教鞭をとり、ギュルツェニヒ管弦楽団の首席チェリストに就任。1929年、ベルリン高等音楽院教授。ナチス政権から逃れ、アメリカに移住。演奏活動と教育活動を行うも、手術の失敗により39歳で夭折した。
1942年に亡くなったチェリストなので、録音は全てSPからの復刻盤です。録音の古さは少しハンデがあります。それに録音の数も少ないのが残念です。ドヴォルザーク『チェロ協奏曲』などは名盤でしょうか。もっと良い状態で彼の演奏を聴いてみたかった20世紀前半を代表する天才です。
第2位 ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ
生誕・死没年:1927年3月27日~2007年4月27日
出身国:ソ連
4歳でピアノ、7歳でチェロを始める。モスクワ音楽院でセミヨン・コゾルポフに師事。作曲の師はドミートリイ・ショスタコーヴィチだった。1950年、プラハ国際チェロ・コンクール第1位。1974年アメリカ亡命。チェリストとして活躍する一方、指揮者としても活躍した。圧倒的な技巧と豊かな音量に裏付けられた、スケールの大きな表現性で広く知られた。
バッハ『無伴奏チェロ組曲』を始め、ドヴォルザーク『チェロ協奏曲』など名盤多数です。現代音楽までレパートリーが広く、録音数も膨大です。まさに巨匠と言える人物でした。指揮者としても数々の名盤を残しています。20世紀に生きた大天才チェリストでした。
第1位 パブロ・カザルス
生誕・死没年:1876年12月29日~1973年10月22日
出身国:スペイン
4歳でピアノを始め、9歳でオルガンを始める。11歳でチェロを弾き始めた。バルセロナ市立音楽院に入学し、チェロ、ピアノ、音楽理論、作曲などを学ぶ。1899年、パリでデビュー。1939年、スペイン内戦のため、フランスへ亡命。チェロの独自の奏法の追究を始め、確立させた。音楽的な完全性をめざすために必要だったと述べている。
20世紀最高のランキング第1位はカザルス以外考えられません。現在、どのチェリストも演奏する、バッハ『無伴奏チェロ組曲』を復活させたのは彼でした。この曲の録音は永遠の名演です。巨匠カザルスが、文字通り全身全霊を込めた、絶対的な説得力を持つ演奏です。
まとめ
「20世紀最高のチェリスト」を見てきました。パブロ・カザルスを第1位に位置付けましたが、衆目の一致する事でしょう。彼の存在なしにチェロ界の発展はありえませんでした。現在のチェリストで、彼の影響を受けていない方はいないと思います。
ここで取り上げた10人のチェリストの演奏は、クラシック・ファンならば一度は聴いておかねばならないものと考えています。録音の良い悪いはありますが、幸いにも、録音が残っていますので、是非、1度聴いてみる事をお勧めします。彼らの素晴らしい演奏を味わって頂きたいです。
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