バイオリンと美しい蝶

20世紀に活躍したヴァイオリニストは意外と多く、名手たちが腕を競っています。我々はその演奏を録音でしか耳に出来ませんが、個性あふれる巨匠の時代であったといえそうです。

超絶技巧に恵まれ、世界を席巻した彼らの多くは、録音にも力を注ぎました。そのお陰で現在の我々は彼らの演奏に接する事が出来るのです。

もしも、パガニーニが20世紀まで生きていれば、誰もが異存を挟む余地などなく第1位だったでしょう。しかし、20世紀にも多くの名巨匠たちが存在しました。その中で誰が20世紀最高のヴァイオリニストだったのかを選んでいきたいと思います。

ランキングの判断基準

  1. 20世紀に活躍し、故人である事
  2. 音楽史に刻まれるような録音を残している事
  3. カリスマ性があった事
  4. 超絶技巧の持ち主であった事
  5. 強い個性を持っていた事
20世紀に活躍したカリスマ・ヴァイオリニストのランキングですね。
20世紀に活躍した著名なヴァイオリニストはかなり多いので、ランキングは難しそうだ。

第10位 レオニード・コーガン

レオニード・コーガン

名前:Leonid Borisovich Kogan
生誕・死没年:1924年11月24日~1982年11月17日
出身国:ウクライナ
略歴

「魔神と契約した天才」と称される程の早熟の天才。1943年から1951年にかけてモスクワ音楽院で研鑽を積み、1951年にエリザベート王妃国際コンクールで優勝。親日家であり8回も訪日している。

コーガンは意志の強い、骨太の音色を持った、超ヴィルトオーソのヴァイオリニストです。旧ソ連には名だたるヴァイオリニストが多く、コーガンはその陰に隠れる様なイメージがあります。

彼を10位としたのは人気の面で他の奏者ほど高くなかったからです。それに華がなかった事も大きい要素でした。そうはいっても私はTOP10に入れました。それに相応しいヴァイオリニストだと思っています。

第9位 ヘンリク・シェリング

ヘンリク・シェリング

名前:Henryk Szeryng
生誕・死没年:1918年9月22日~1988年3月3日
出身国:ポーランド
略歴

5歳よりピアノ、7歳よりヴァイオリンを始める。パリ音楽院では、ジャック・ティボーに師事、首席で卒業。デビュー後に第2次大戦が起こり、ポーランド亡命政府に協力。メキシコで音大の教授になるも、ルービンシュタインの説得もあり、36歳で再デビュー。その後は演奏家としての生涯を過ごした。

戦争によって一度演奏から遠ざかるという不幸がありました。彼は作曲家の原曲を忠実に再現する事を実践していたヴァイオリニストです。とはいっても没個性的ではなく、自信にあふれた演奏家でした。

録音も数多く残しています。中でもバッハの『無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ』は絶品!。彼をこの位置に置いたのは上位の奏者より個性が強くないためです。

第8位 アイザック・スターン

アイザック・スターン

名前:Isaac Stern
生誕・死没年:1920年7月21日~2001年9月22日
出身国:ウクライナ
略歴

1歳でサンフランシスコに移住。8歳でサンフランシスコ音楽院入学。1936年16歳でデビュー。アメリカを代表するヴァイオリニストになる。1943年にカーネギー・ホールでのリサイタルで高い評価を受けた。ユダヤ人であったためドイツでの演奏会は行わなかった。

アイザック・スターンは21世紀まで生きた人でした。その人柄はとても温厚で、数多くの友人を持つ気さくな方でもあったのです。小澤征爾や森繁久彌との親交もありました。

幼少期から音楽の才能を発揮し、アメリカのヴァイオリニストとして活躍します。彼の特徴は明るい音色と華やかなテクニック、そして堂々とした音楽といったところでしょうか。しかし、上には上がいるもので、第8位です。

第7位 アルテュール・グリュミオー

アルテュール・グリュミオー

名前:Arthur Grumiaux
生誕・死没年:1921年3月21日~1986年10月16日
出身国:ベルギー
略歴

4歳でヴァイオリンを始め、6歳でシャルルロワ音楽院に入り、11歳でヴァイオリニスト及びピアニストの国家試験に合格。後にブリュッセル王立音楽院でも学ぶ。戦争のためデビューは戦後になったが、「ティボーの再来」といわれた。

彼はピアニスト、クララ・ハスキルとのコンビで一世を風靡したヴァイオリニストです。この豪華な組み合わせを生で聴きたかったと思う人は数多い事でしょう。

彼の特徴は心から音楽に浸りきって、ごく自然に流れる音楽を奏でたところです。気品があり、艶やかな響きの持ち主でもありました。この辺りからのランキングはあってないようなものです。順位を付けるのが憚られます。

ここまで挙げた4人も巨匠と呼ばれたヴァイオリニストでした。
そうなのだ。凄い巨匠たちばかりでランキングも難しいところだ!

第6位 ユーディ・メニューイン

ユーディ・メニューイン

名前:Yehudi Menuhin
生誕・死没年:1916年4月22日~1999年3月12日
出身国:アメリカ
略歴

4歳からヴァイオリンをまなぶ。神童として、子供の頃からその天才ぶりを発揮し、12歳の時ベルリン・フィルと共演し、一躍世界的に有名になる。日本にもたびたび来日し、親日家であった。1985年にイギリスに帰化。

メニューインに関してはどう記述してよいか分かりません。神童と呼ばれた時代の彼は物凄い演奏をしています。録音は古いものが多いですが、高い演奏能力は伝わってきます。

しかし、ある時期から彼は変わってしまいます。天才ゆえにヴァイオリンの基礎練習を怠っていたためでした。それが残念で仕方がありません。あれだけの才能の持ち主だったのですから、もっと偉大になれたはずなのに…。

第5位 ナタン・ミルシテイン

ナタン・ミルシテイン

名前:Nathan Milstein
生誕・死没年:1903年12月31日~1992年12月21日
出身国:ウクライナ
略歴

11歳でペテルブルク音楽院に入学。1923年にデビュー。1925年、国外に演奏旅行に出たが、スターリンの独裁が始まり、故国に帰る事ができなくなる。1929年、アメリカ・デビュー。その後アメリカに帰化。20世紀最高のヴァイオリニストのひとりと称される。

旧ソ連時代はホロヴィッツと親友になり度々共演していました。魅力的な音楽が繰り広げられた事でしょう。彼はリサイタルには必ずバッハとパガニーニの無伴奏曲をプログラムに入れていたそうです。生涯付き合わねばならない作曲家という認識があったのでした。

日々の鍛錬を怠ることなく、どんな状況の時でも弾けるように心がけていたといわれます。超絶技巧の持ち主であり、優美な演奏から「ヴァイオリンの貴公子」とも称されました。澄み切った音色を持つ素敵なヴァイオリニストです。

第4位 ヨゼフ・シゲティ

ヨゼフ・シゲティ

名前:Joseph Szigeti
生誕・死没年:1892年9月5日~1973年2月19日
出身国:ハンガリー
略歴

ブダペスト音楽院でフバイとヨアヒムに学び、13歳でデビュー。1907年からはイギリスを拠点としたが、1940年、アメリカに移住し、市民権を得る。晩年はスイスに居を構え、後進の育成に努めた。

海野義雄、久保陽子、潮田益子、前橋汀子の師としても知られています。彼の評価も難しいです。超絶技巧の持ち主とはいえず、音程が安定しなかったり、ヴァイオリンが軋むような弾き方をしているためです。

あえて華やかな演奏を求めずに、音楽の精神性を表現する事を大切にしたという感じです。味わえば味わうほど、旨味が出てくる演奏といえば理解して貰えるでしょうか。好き嫌いが分かれるヴァイオリニストです。

ここからベスト3の発表となります。一体誰が選ばれているのか気になります。
今まで挙げてきた人たちもそれぞれ大家として活躍してきたが、ベスト3は更に高みに達した人となっている。

第3位 フリッツ・クライスラー

フリッツ・クライスラー

名前:Fritz Kreisler
生誕・死没年:1875年2月2日~1962年1月29日
出身国:オーストリア
略歴

3歳からヴァイオリンを始め、7歳でウィーン高等音楽院入学、首席で卒業。その後、パリ高等音楽院に入学。12歳にして首席で卒業。第1次大戦では従軍したが、第2次大戦前に、アメリカに移住。その後ヨーロッパに渡る事はなかった。作曲家としても名をはせる。

クライスラーというと私はヴァイオリニストとしてではなく、作曲家という認識が強い人物です。『愛の喜び』や『美しいロスマリン』の曲が真っ先に頭に浮かんでしまいます。

録音技術が確立された時代まで活躍してくれたおかげで、現在でも彼の演奏を聴く事が出来る事を感謝せずにはいられません。1910~30年の録音ですが、彼の表情豊かなフレージングと独特のビブラートに感動します。

第2位 ダヴィド・オイストラフ

ダヴィド・オイストラフ

名前:David Fiodorovich Oistrakh
生誕・死没年:1908年9月30日~1974年10月24日
出身国:ロシア帝国(ウクライナ)
略歴

5歳からヴァイオリンを始める。1926年オデッサ音楽院を卒業。1933年にモスクワでデビュー。37年イザイ国際コンクールで優勝。50年代に入り、国外での演奏により、世界的な評価を得る。20世紀を代表するヴァイオリニストのひとり。

オイストラフの魅力は何といっても音が分厚くて温かいところでしょうか。彼こそ20世紀最高のヴァイオリニストとして推す人はかなりいると思います。この辺りになると本当に好き嫌いの問題になってきますね。

オイストラフ、ロストロポーヴィチ、リヒテルがカラヤン指揮ベルリン・フィルと録音したベートーヴェン『三重協奏曲』は超豪華ですね。よくぞこのメンバーで録音されました。奇跡としか言えません。

第1位 ヤッシャ・ハイフェッツ

ヤッシャ・ハイフェッツ

名前:Jascha Heifetz
生誕・死没年:1901年2月2日~1987年12月10日
出身国:ロシア帝国(リトアニア)
略歴

3歳でヴァイオリンを始め、5歳で地元の音楽院に入り、7歳でデビュー。神童と呼ばれる。1910年にサンクトペテルブルク音楽院に入学し、12歳でニキシュ指揮のベルリン・フィルと共演。1917年にアメリカデビューし、1925年には市民権を獲得。72年に演奏活動から引退。「ヴァイオリニストの王」と称された。

第1位はハイフェッツです。神懸かり的な演奏をしたヴァイオリニストであり、その超絶技巧は見事というしかありません。表現力にも優れています。全く非の打ち所がないと思われるヴァイオリニストです。よって私は彼を第1位としました。

彼はレパートリーが広いヴァイオリニストでもありました。小品なども様々な物を録音しています。ライナーとのチャイコフスキーの協奏曲、ミュンシュとのベートーヴェンの協奏曲、そして、メンデルゾーンの協奏曲はどれも素晴らしいです。

クライスラーはハイフェッツを評して「私の究極の到達点をスタートラインにして、無限に記録を伸ばした天才」と語っています。まさに「ヴァイオリンの王」として相応しい人でした。

ハイフェッツの第1位は納得です。この人の録音はどれもが素晴らしい!
ベスト3の3人を比べると、私はハイフェッツ派だね。完璧な演奏をしている。よって第1位としたのだ。

まとめ

20世紀最高のヴァイオリニストを選んでみました。私が選んだのはここに挙げた10人であり、NO.1はハイフェッツとしています。3位までの3人は選ぶ人によって誰が1位となってもおかしくありません。

本当に全く差のない順位であり、3人の個性が選択する人と合うかどうかだけです。ハイフェッツとオイストラフ、クライスラーは高みを極めました。いや、ここに挙げた10人が皆そういえます。

録音状態の良くないものもありますが、ひととき、現在の演奏から離れて、過去の巨匠たちの演奏に接するのも良い機会かと思います。

otomamireには以下の記事もあります。お時間がありましたら御覧ください。

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