世界三大ピアノメーカーのひとつに数えられるBosendorfer(ベーゼンドルファー)は、1828年にイグナーツ・ベーゼンドルファーがオーストリアのウィーンに創業したのが始まりです。1980年までは世界三大コンクールである「ショパン国際ピアノコンクール」の公式ピアノのひとつでもありました。
現在でも「ウィーン・ベートーヴェン国際ピアノコンクール」においては、使用ピアノはベーゼンドルファーだけと決まっている歴史と伝統を持つピアノメーカーです。
世界三大ピアノ
- Bosendorfer(ベーゼンドルファー)
- Steinway & Sons(スタインウェイ・アンド・サンズ)
- Bechstein(ベヒシュタイン)
ベーゼンドルファーの歴史
1796年、家具職人の家庭に生まれたベーゼンドルファーは19歳の時にオルガン職人であったジョセフ・ブロードマンに弟子入りし、その腕を磨くことになります。1828年の創業から僅か2年でベーゼンドルファー制作のピアノは注目を集める事になります。
フランツ・リストの超絶技巧と強靭なタッチを要する演奏に、多くのピアノが耐えられない中、ベーゼンドルファーのピアノを使った演奏会が大成功を収めたのです。リストの激しい演奏に耐える堅牢な作りと美しい音色を持つピアノは、瞬く間に欧州全土に知れ渡る事になりました。
1939年にはオーストリア皇帝から「宮廷及び会議所ご用達のピアノ製造者」のという名誉ある称号を授けられました。こうして確固たる地位を獲得したベーゼンドルファーは同じく世界三大ピアノのひとつであるスタインウェイ&サンズと長い年月その人気を二分してきました。
ベーゼンドルファーの音色
スタインウェイの煌びやかでクリアな音色に対し、ベーゼンドルファーの音色は「ウィンナートーン」と呼ばれ、多彩で暖かみのある事が特徴です。そんな美しい音を生み出す秘訣は、職人による丁寧な仕事と、ピアノの為に使用する高品質な木材にあります。
丁寧な仕事を象徴するように、ベーゼンドルファーの全ての弦は、一本一本が独立して張られています。このようなひと手間が調律に安定性をもたらし、より純粋な響きへと導くのです。そして、たとえ中音域の演奏中に、弦が一本切れてしまっても、2本が残るため、音の損失は最小限に抑えられ、演奏を続けることができます。
世界三大ピアノメーカーを始め、多くのピアノメーカーにとって使用する木材の品質はより高品質なピアノを作り出すために欠かせません。ベーゼンドルファーも当然木材にこだわりを持っています。ピアノの85%以上が響板でも使用される中央アルプスで育った、楽器に最適な高品質のスプルースのみを使用して作られています。
ピアノ職人の非常に高度な技術と、最長で6年間にも及ぶ歳月をかけて天然乾燥された高品質のスプルースで生み出された最高品質のピアノは、バックハウスが愛し、オスカー・ピーターソンを魅了するだけの魅力がたっぷりと詰まっているのです。
ベーゼンドルファーの価格
モデルによって違いはありますが、価格帯でみるとスタインウェイやベヒシュタインと同じく1,000万から3,000万円ほどになっています。年間で250台しか生産されない事からもわかるように、非常に品質にこだわった高価なピアノメーカーと言えます。
280VC:約23,300,000円
225:約17,100,000円
214VC:約15,200,000円
200:約13,500,000円
185:約12,700,000円
170:約11,000,000円
155:約9,800,000円
ベーゼンドルファー愛用者
スタインウェイのクリアで洗練された音ではなく、ベーゼンドルファーの持つ個性的で豊かな音色に魅せられたピアニストは現在でも多く存在します。
・オスカー・ピーターソン
・アンドラーシュ・シフ
・パウル・バドゥラ=スコダ
・イェルク・デームス
・フリードリヒ・グルダ
・ギャリック・オールソン
・ヴァレンティーナ・リシッツァ
ベーゼンドルファー経営悪化
商業ベースとは無縁の丁寧で質実剛健な作りのピアノは、非常に台数が少なく、創業から200年近くが経過した現在でも僅か5万台ほどしか世に出回っていません。この生産数はライバル会社であるスタインウェイの10分の1ほどで、世界ピアノシェアナンバー1であるヤマハと比較すると100分の1という数字なのです。
昔に比べ圧倒的に技術が高まった昨今においても、年間250台ペースでしか生産されていないという希少性の高いピアノでもあります。そんな職人気質な運営を行っていた為に経営状況は年々悪化の一途を辿りました。そうして200年近く続いた世界三大ピアノの一角「ベーゼンドルファー」は2007年、とうとうヤマハの子会社となりました。
世界三大ピアノと称されるピアノメーカーが日本のヤマハの子会社になった事は音楽界に激震を走らせました。そして誰もがベーゼンドルファーの高品質なピアノは地に落ちるのではと危惧しました。しかしヤマハはベーゼンドルファーの文化を守ることを約束しました。
ベーゼンドルファーの現在
ヤマハの傘下に入った事でベーゼンドルファーに大きな変化があったかと言えばそうではなかったようです。高品質なピアノ大量生産するヤマハですが、ベーゼンドルファーにそういった変化を強いる事はありませんでした。丁寧なピアノ作りは相変わらずです。
ベーゼンドルファーの技術面に一切の口出しをしないという約束はしっかりと守られており、数百年に及ぶベーゼンドルファーの文化的価値は守られています。ふたつの世界的ピアノメーカーのコラボには常に期待の気持ちを持ってしまいますが、あくまでもベーゼンドルファーの伝統を尊重する措置は変わらないようです。
ヤマハの傘下に入った事で、結果として現在のベーゼンドルファーは黒字化に成功しています。売り上げ自体に大きな変化はないものの、品質や伝統を汚す事なく、財務基盤が安定した事で収益が大幅に改善されたようです。品質・伝統を守り、今後も「世界三大ピアノ」と呼ばれる続ける事でしょう。