挙手する男女

今日はショパンの『軍隊ポロネーズ』を聴きたい気分などと思う時がありますが、さて、ポロネーズについて説明してと言われたら、あなたはすんなりと説明できるでしょうか。

こんな感じの音楽という事は分かっていても、いざ、人に説明できるだけの知識を持っている方は意外と少ないと思います。

ポロネーズやマズルカは音楽の種類が違っている訳ですが、その違いを理解して音楽に対峙した方がより一層深く味わえると思うのです。

そこで普段何気なく見聞きしている音楽の曲名に登場する用語を簡単に解説してみようと思います。全てのものを解説するわけにはいきませんので、よく使われる用語に限定しました。

言葉としては知っているけど、よく分かっていない人のほうが多いのではないでしょうか?
ソナタやメヌエットなどと作曲家は普通に使っているけれど、その意味合いの違いを理解して聴くともっと深く音楽を味わえるかもしれない。

ソナタ

日本語では奏鳴曲といいます。「ソナタ」の歴史は古くバロック期では現在使われているような意味合いではありませんでした。

それを変えたのが古典派の時代です。「ソナタ形式」で書かれた作品を「ソナタ」と呼ぶようになりました。

「ソナタ」の基本形

  • 第1楽章:「ソナタ形式」で作られた音楽
  • 第2楽章:緩徐楽章
  • 第3楽章:舞曲のリズムで作られる事が多い
  • 第4楽章:「ソナタ形式」や「ロンド形式」で作られている

この基本形のように第1楽章が「ソナタ形式」で作られた音楽が「ソナタ」なのです。

では、「ソナタ形式」とはどんなものでしょうか。

「ソナタ形式」の基本形

  • 提示部:主題の提示
  • 展開部:提示した主題を変化させ展開する
  • 再現部:提示部が再現される
  • 結尾部:コーダともいう

起承転結のようになっているところが音楽の形式美を生み出すのです。

非常に広い意味で交響曲も協奏曲もソナタといえますが、一般的に器楽曲に対してのみ「ソナタ」は使われます。

ピアノ・ソナタ、ヴァイオリン・ソナタ、チェロ・ソナタなどです。ピアノ・ソナタ以外はピアノの伴奏が付く事が多くありますが、楽器単独の場合には無伴奏という言葉が頭に付きます。

少し説明が長いですね。もう少し簡単に説明してほしいな。
単純すぎるものは却って説明が難しいのだよ。「ソナタ形式」を分からないと「ソナタ」も理解できないからね。

パルティータ

バロック期に使われた音楽形式です。

17世紀には「変奏曲」を意味していましたが、17世紀末にはドイツで「組曲」の意味として使われるようになりました。

例えば、バッハ『無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ』というふうに使われています。

カノン

カノンとは、同じ旋律を重ねて演奏する事です。輪唱といえば分かりやすいでしょうか。

フーガも似たようなものですが、2つの違いは旋律を変えてもいいかどうか、その厳格さにあります。カノンは同じ旋律のまま、フーガは旋律を少し変化させても良いものです。

並行カノン、逆行カノン、反行カノン、無限カノン、謎カノンとカノンにも種類がありますが、そこまで詳しく覚えなくてもいいかと思います。

セレナード

セレナードはフランス語、ドイツ語ではセレナーデといいます。日本語では夜曲、小夜曲と訳されていますが、それはその語源に由来するためです。

元々、「セレナード」は男性が女性を口説く音楽でした。夜に男性が好きな女性の家に行き、窓の外から音楽を奏でながら女性を口説いたのです。

それが発展して、夜に演奏される音楽全般を「セレナード」と呼ぶようになりました。ですから、日本語でも夜曲なのです。

メヌエット

元はフランス発祥の宮廷舞曲の事で、ルイ14世の時代に発展、流行しました。その後、踊りそのものを指す言葉から、音楽を指す言葉に変化します。

基本は4分の3拍子で、穏やかなゆっくりとした音楽。これは元々の舞曲が小さな踊りだった事によるものと思われます。当時は着飾った上に大きなかつらを付けていたため最小限の動きにせざるを得なかったという事情もあるようです。

「メヌエット」が器楽に使われたのはバロック期のオペラが最初で、時代と共に組曲に含まれていき、古典派ではソナタ形式の楽曲に登場するようになりました。

交響曲の第3楽章に多く使われましたが、ベートーヴェンが「メヌエット」の代わりに「スケルツォ」を用いたため、次第に「メヌエット」の出番が無くなってきたのです。

ピアノを習っていた人ならば、バッハの『メヌエット』を学習した方も多いのではないでしょうか。
あの作品はバッハではなく、実はクリスティアン・ペツォールトの作品と証明されたんだ。300年以上も経って違ったと言われてもね…。

ディヴェルティメント

18世紀半ばから後半にかけて流行した組曲の事を指します。貴族の食卓・娯楽・社交などの場で演奏されるため、明るく軽妙で楽しい曲想です。

楽器編成は特別に決まっているわけではなく、室内楽から、小規模のオーケストラまで様々の形態で作曲されています。

実質的には古典派のモーツァルトまでの音楽でその後は急速に姿を消しました。

簡単に言えば、室内で演奏されるのが「ディヴェルティメント」、屋外で演奏されるのが「セレナーデ」と覚えると良いでしょう。

フーガ

「カノン」の項目でも記述しましたが、「フーガ」と「カノン」は似ています。その厳格さが違っているのです。

「カノン」は完全なる「模倣・反復」をしていくものであり、「フーガ」はカノンと違って、複数の声部があり、主題が順次各声部に出現していくものをいいます。

それは単純な模倣ではなくて、転調しながら追いかけたり、主題以外は自由な旋律が可能であるという事です。

ひと目で分かるようにするとこんな感じでしょうか。

  • 「カノン」の場合:
  •    ねこはかわいい
              ねこはかわいい
                     ねこはかわいい

  • 「フーガ」の場合:
  •    ねこはかわいい
          こねこもかわいい
          ねーこーはーかーわーいーい

お分かりいただけたでしょうか。

ポロネーズ

「ポロネーズ」の語源はフランス語で、「ポーランド風の」という意味があります。「マズルカ」と共にポーランドを代表する舞曲です。

元々、ポーランドの民族舞踊の事で、宮廷の儀式などで発展しました。基本形は3/4拍子で、力強い、祝祭的な感じのリズムが特徴です。

マズルカ

ポーランドを代表する舞曲のひとつ。「ポロネーズ」は宮廷から発展しましたが、「マズルカ」は農民から生まれ発展しました。このふたつは対称的な舞曲です。

ポーランドの国家も音楽は「マズルカ」ですから、国民に根付いた舞曲であるといえるでしょう。

「マズルカ」は大きく分けると3種類の性格の違う踊りがあります。

  • マズル:速い踊り
  • クヤヴィヤク:抒情的でゆっくりとしたテンポの踊り
  • オベレク:非常に急速な踊り

ショパンの「マズルカ」はこの3つの舞曲を上手く取り込み1曲の中で組み合わせて纏め、芸術性をより高めました。

「ポロネーズ」「マズルカ」といえばやはりショパンが想起されます。
「ポロネーゼ」は16曲、「マズルカ」は50曲以上作曲したからね。ポーランド人だからこそ名曲を沢山残せたのだよ。

プレリュード

プレリュードは英語ですが、ドイツではフォアシュピールと呼んでいますので、両方覚えておいた方がベターです。日本語では前奏曲といいますが、日本語訳の方が一般的になっていると思います。

日本語訳の前奏曲からもイメージできると思いますが、他のより規模の大きい楽曲の前に演奏される楽曲の事です。

バッハの『前奏曲とフーガ』やワーグナーのオペラの前奏曲を思い描いて貰うと理解しやすいでしょう。

しかし、ロマン派の時代には即興的な自由な作風の独立した楽曲、特にピアノ独奏曲にもこの名が付けられるようになりました。ショパンの『24の前奏曲』などがこれにあたります。

エチュード

「エチュード」はフランス語、日本語に訳せば「練習曲」です。意味は単純で演奏技巧の習得のために作られた音楽をいいます。ハノンはその典型的なものです。

しかし、単純な練習曲だけではなく、「演奏会用練習曲」もあります。「エチュード」の中で、演奏会の鑑賞にも耐え得る芸術的な練習曲を指すものです。

ショパンの『エチュード』作品10、作品25などを思い出して頂ければ良く理解できると思います。

ショパンの『エチュード』は「練習曲」にしては大変難しいです。
もうあれは「練習曲」を超えているよ。作品としても十分な芸術性を備えているしね。

スケルツォ

「スケルツォ」はイタリア語で「冗談」を意味します。日本語では「諧謔曲(かいぎゃくきょく)」と訳されるのもそのためです。

当初はふざけたような音楽を「スケルツォ」と言っていましたが、古典派ではその意味合いは薄まり、軽快な曲の意味になっていきます。

ハイドンやベートーヴェンが「メヌエット」の代わりに「スケルツォ」を好んで使ったため、それ以降のソナタや交響曲では「スケルツォ」を使う事が一般化しました。

ワルツ

「ワルツ」は3拍子の舞曲の事です。テンポは比較的速めであり、男女ふたりがペアを組み、フロアを円を描くように踊るため、日本語では「円舞曲」と訳されます。

「ワルツ」という舞曲の起源には複数の説があり、あえてここでは説明しませんが、ハプスブルク帝国の宮廷文化に取り入れられ、上流階級の舞踏として発展しました。

世界的に広まった理由は、1814年にウィーン会議が開かれた事によります。会議がなかなか進展しないため、ギスギスした雰囲気を和ませようと毎晩のように舞踏会が開かれました。

ここで有名になったのがウィンナ・ワルツです。ウィンナ・ワルツはその後ヨーゼフ・ランナーやヨハン・シュトラウス1世、その子のヨハン・シュトラウス2世というワルツ界の大作曲家たちが出現し、ウィンナ・ワルツは隆盛を極めます。

彼らによる音楽は舞踏会だけに留まらず、独立して観賞用音楽としても人気を博し、それは現在まで続いているのです。

一方で、舞踏とは離れて純粋音楽として作曲された「ワルツ」もあります。ショパンの『華麗なる大円舞曲』などの一連のワルツやチャイコフスキーの『交響曲第5番』第3楽章など数多くの作品が有名です。

ショパンはウィンナ・ワルツを「ウィーンの聴衆の堕落した趣味の証明」と批判していました。
ウィンナ・ワルツは現在でも特に聴くべき価値のない音楽と評価をしない評論家もいる事を知っておいても良いかもね。

ノクターン

「ノクターン」は静かな曲想の作品というイメージがある通り、語源のラテン語で「夜の」という意味からきています。日本語では「夜想曲」。夜の気分を抒情的に表現した音楽をいいます。

実は「ノクターン」を最初に作曲した人物はアイルランド生まれでイギリスで育ったジョン・フィールドという作曲家でした。

イギリス発祥の音楽の種類はクラシックではとても珍しいものです。彼の作った音楽がヨーロッパで人気になり、その後の作曲家たちに影響を与えました。

ショパンの「ノクターン」やリストの『愛の夢』などが代表的なもので、表情力に優れ、穏やかな雰囲気に包まれた優しい音楽になっています。

ボレロ

「ボレロ」はスペイン起源の民族舞踊の一種です。ギターの伴奏でカスタネットを鳴らしながら踊るもので、一定のリズムを保っているところが特徴的といえます。

1780年頃に当時の有名な舞踊家セバスティアーノ・カレッソが創作したという説もありますが、はっきりとは分かっていません。

「ボレロ」といえば誰しもラヴェルの作品が頭に浮かぶと思いますが、スネアドラムが最初から最後まで同じリズムを刻んでいるのが分かると思います。変わるのは音量だけです。

ファンタジア

「ファンタジア」または「ファンタジー」とは、形式にとらわれず自由に楽想を展開させて作曲された作品をいいます。日本語では「幻想曲」。訳語を使って、「幻想曲」と呼ばれる方が圧倒的に多くあります。

既成のメロディを基に主題を作り発展や変奏などをさせるものや全く自由に心に浮かんだ発想を音楽にするもののふたつのパターンに分類可能です。

ロマンス

「ロマンス」(仏、英)または「ロマンツェ」(独)、「ロマンツァ」(伊)とも呼ばれることがあります。

「ロマンス」は器楽曲のジャンルのひとつであって、叙情的な内容の音楽を指す言葉です。

「ロマンス」といえば多くの人がベートーヴェンの『ロマンス』第2番を連想します。「ロマンス」にピッタリの作品です。
甘美なメロディに心踊るね。実は第2番となっているけどこっちの方が第1番より早く作曲しているんだ。

ラプソディ

日本語に訳すと「狂詩曲」といいます。一定の形式を持たずに、極めて自由で奔放な器楽曲の事です。民族的な音楽を素材に取ったものが多くあります。

リストの『ハンガリー狂詩曲』が最も有名でしょうか。

ヴァリエーション

日本語では「変奏曲」と訳されます。主題の素材を様々な奏法で変化を持たせながら進行していく音楽の事です。

自作ではないメロディを主題とする場合が多く、作曲家の好みにより様々な「変奏曲」が作られています。

例えば、ブラームスの『ハイドンの主題による変奏曲』はハイドンの作品の主題を使って8つの変奏曲から成り立っているものです。通称は『ハイドンヴァリエーション』といいます。

ここからは宗教音楽についての用語です。
一口に宗教音楽と言っても色々と違いがある。こちらは数が少ないからすぐに覚えて貰えると思う。

カンタータ

「カンタータ」とは、単声または多声のための器楽伴奏付の声楽作品の事です。歌詞の内容によって、「教会カンタータ」と「世俗カンタータ」に分類できます。

「教会カンタータ」は聖書や賛美歌から歌詞を引用したもので、バッハによって完成されました。

「世俗カンタータ」は教会以外の町の行事や王侯貴族の祝い事など一般世俗的な事のために作られています。

ミサ曲

「ミサ曲」とはカトリック教会で行うミサ(感謝の祭儀)に使われる声楽曲の事をいいます。

通常の「ミサ曲」は『キリエ』、『グローリア』、『クレド』、『サンクトゥス』、『アニュス・デイ』の5曲で構成されるものです。

これら5曲の歌詞は典礼文といい、どんな作曲家が作曲しても必ず同じ典礼文を使わねばなりません。

レクイエム

「レクイエム」は安息を意味するラテン語で、日本訳では「死者のためのミサ曲」と訳されますが、通常は「レクイエム」と原文で呼びます。

広い意味で言えば「レクイエム」はミサの一種です。死者を追悼するミサのために書かれたものであり、ミサというカトリックの重要な典礼の一形態になります。

通常に行われるミサと死者の安息を願うミサで歌われる典礼文には違いがあり、ミサ曲の『グローリア』、『クレド』などは歌われませんし、「レクイエム」独特の典礼文もあるのです。

また、作曲家によっても使う典礼文が違うなど、ミサ曲よりも少し柔軟性があります。

「レクイエム」と呼ばれるのは、冒頭の入祭唱がレクイエムという言葉から始まるためです。

スターバト・マーテル

「スターバト・マーテル」はカトリック教会の聖歌の一種です。日本語訳では「悲しみの聖母」といいます。聖母マリアが自身の子キリストの磔の刑を見た悲しみ、苦しみを描いた音楽です。

極めて心を打つ歌詞によって成り立っており、聖母マリアの悲しみが伝わってきます。

タイトルは1行目の歌詞が「Stabat mater dolorosa」(悲しみの聖母は立ちぬ)から始まるため、こう呼ばれるようになりました。

オラトリオ

宗教的な題材を取り上げ、独唱歌手と合唱、管弦楽によって演奏される音楽をいいます。中でも合唱の比重が高くなっているのも特徴です。

語り手がいてそのレシタティーボにより物語は進行されます。舞台装置や演技などは伴いません。

ヘンデルの『メサイヤ』やハイドンの『天地創造』などが有名です。

まとめ

曲種の有名なものを取り上げてきましたが、数多くあってなかなか覚えるのも難しいかとは思います。しかし、どんな音楽なのかを知っておく事も聴く際の助けになりますから、ひとつひとつ覚えていく事が大切です。

ここに挙げたものはほんの一部ですから、まずこれらをマスターした上で積み重ねていくといいかもしれません。

友人にいつ尋ねられても即答できるようになれば一目置かれる事間違いないですよ。

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