
ピアノの原型がこの世に誕生してから300年余り、時代を超え超絶技巧が必要とされるピアノ曲も多く生み出されてきました。指がちぎれるのではないかと錯覚するほど難しいピアノ曲が世の中にはたくさんあります。
日々弛まぬ鍛錬を積み、その技術を常に磨き続けてきた一流のピアニストにしか弾く事ができない世界一難しいピアノ曲とは一体どのようなものなのでしょう。今回は難しいピアノ曲にみられる共通点や世界一難しいとされる楽曲の数々をランキング形式で紹介していこうと思います。
各作品のyoutube動画も載せてありますので、ランキングを楽しみつつ、超絶技巧の見事な演奏もお聴きください。
難しいピアノ曲の共通点
演奏が難しいピアノ曲には共通点があります。難しいピアノ曲の定義とも言い換える事が出来ます。下記の5項目全ての要素が入っているので、演奏が困難になり、難しいピアノ曲になるわけです。プロでも演奏を敬遠するピアノ曲とはテクニック、プラス、表現力を出さねばなりません。
- 音符の数が多い
- 指使いが難しい
- 音飛びが多い
- テンポが速いまたは一定でない
- 表現力が問われる
これらの観点に立って、演奏が非常に難しいピアノ曲を挙げていきます。
世界一難しいピアノ曲ランキングTOP10
数多くあるピアノ曲の中でも特に難しいとされているピアノ曲をランキングにしました。ランキング内の超絶難しいピアノ曲を1曲でも完璧に弾けるという方はプロレベルの演奏技術を持つピアニストと言っても過言ありません。
勿論、プロの方は弾けて当然ですが、弾きこなすまでの準備は並大抵の事ではないでしょう。そこまで準備をしてもミスを起こすほどの難関な作品が並んでいます。
第10位 リゲティ:ピアノのための練習曲集第2巻より第13番「悪魔の階段」
人間の指の機械的な動きを極限まで追求した、難しいピアノ曲に入れざるを得ない程のピアノ練習曲集です。その中で最も有名なのが第13曲の「悪魔の階段」です。旋律というものもない小品ですが、凄みを感じさせるピアノ曲です。
「悪魔の階段」という曲名からして複雑さを暗示しており、また13曲目という事からも、不吉な予感を感じさせます。始めは、音の数も少なく、音量も小さいですが、うねりを繰り返し、少しずつ、音の数を増やし、そして、音量も増し、頂点では、ffffffff(8個)となります。
第9位 ラヴェル:夜のガスパール
ラヴェルはバラキレフ作:東洋的幻想曲『イスラメイ』の難易度を超える作品を生み出すべく、作曲されたのが現在でも超絶難しいとされる夜のガスパールです。ベルトランの詩集から三つの詩が選択され、第1曲「オンディーヌ」、第2曲「絞首台」、第3曲「スカルボ」を作曲しました。
第1曲、第2曲目まではゆっくりめの作りですが、第3曲「スカルボ」はとても早い音楽で、より複雑な指使いが要求されてきます。並のピアニストはテクニックに一杯一杯になってしまいますが、ラヴェルはさらに表現力を追い求める音楽に作り上げたところがこの曲の難曲たる所以です。
第8位 ストラヴィンスキー:ペトルーシュカからの3楽章
アルトゥール・ルビンシュタインから「過去のどの曲よりも難しいもの」という条件でストラヴィンスキーに作曲依頼があったピアノ曲です。全音音階を用いた独特な旋律、復調性、シャープで生命感あふれるリズム、衝撃的な不協和音、めまぐるしく変化する曲想など超難曲です。
ピアノ曲は普通2段の楽譜ですが、この曲は3段譜がほとんどで、時には4段で書かれている箇所もあります。どんな指使いで弾くかがピア二ストに問いかけられている作品です。これは演奏不可能ではと思われる部分もあり、超ヴィルトゥオーゾピアニストでなければ弾きこなせません。
第7位 ショパン:12の練習曲作品10-4番
練習曲というだけあって手強いピアノ曲のオンパレードです。「別れの曲」として有名な曲も含まれており、難しいだけでなく作品としても非常に魅力的です。とりわけ第4曲目はその難しさから、様々なコンクールで課題曲にも指定されるほど、テクニックがないと弾きこなせません。
早い曲で、嵐のような曲想、派手な技巧と疾走感が魅力の曲です。指使いや腕の運びなど、演奏者のテクニックの充実さを見るには格好の曲です。緊張感とテンポを維持する事が大変難しく、その上表現力まで問われる作品ですから、コンクールの課題曲になるのも当然です。
第6位 スクリャービン:ソナタ第5番
単一楽章の10分ほどの小品ですが、冒頭からして演奏者がどう入るか難しい曲です。調性はありますが、合って無きようなもので、この無調性のピアノ曲をどう音楽的に聴かせるかが難しい曲です。また、単一楽章ですが、きわめて様々な要素が多い楽曲で、その扱いも難しいです。
特にコーダに入ってからのスピード感あふれる音楽は、どの演奏者でもミスタッチが多くなってしまうところです。音楽が複雑な上に、早く弾かねばならないプレッシャーがかかり、超難関曲になってしまいます。完璧主義者で知られたリヒテルの録音でもミスタッチがある程です。
第5位 プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第2番
センセーショナルなこの協奏曲は、初演からして賛否両論に分かれ、騒動が起こった事でも知られています。当時としては、あまりにも斬新過ぎる楽曲でした。どこにも心が休まる事はなく、オーケストラは伴奏に徹している協奏曲です。珍しい4楽章制。
左右オクターブが続く2楽章や、なんといっても終楽章の早さが異常です。その上テクニックが求められるのですから、これは至難の業と言えます。嵐のように吹き荒れたと思ったら、急に平静に成ったり、そして最後はまた爆発します。早い上に音が飛ぶため、非常に難しい楽曲です。
第4位 ショパン:12の練習曲作品25-6番
ショパンは革新的な運指法を生み出しており、この作品も、三度の重音による半音階で同じ指を滑らせて演奏する奏法や、指の飛び越しや交差など、至る所でその特徴がみられます。エチュードはピアノ演奏が上手くなるための楽曲なので難しいのは当然と言えます。
様々な要素を取り入れる事によって、レガートの練習や、指使いだけではなく、手首や肘、左右の手の素早い交差などの練習になると考えられます。しかし、このピアノ曲はそう容易く弾けるものではありません。ショパンの練習曲は音楽性も高くピアニストにとっての到達点でもあります。
第3位 リスト:超絶技巧練習曲第4番「マゼッパ」
超絶技巧練習曲ですから、曲名からして難しそうだとわかりますね。ヴィクトル・ユーゴーの叙事詩『マゼッパ』に感銘を受けて作曲したのでこの曲名が付いています。このピアノ曲を聴いてすぐにわかるのは、情報量が多いという事です。つまり、楽譜の音符の数が多い事が分かります。
リストの『パガニーニによる超絶技巧練習曲』は作曲当時から、演奏不可能といわれ、難度を落としたものが現在我々が耳にしている第3稿のものです。リストの練習曲はどれも難しいですが、「マゼッパ」はその中でも一際、難しいピアノ曲になっています。
第2位 リスト:超絶技巧練習曲第5番「鬼火」
リストが続きます。よくもまあ、こんな難しいピアノ曲ばかり作ったものだと感心します。リスト自身「ピアノの魔術師」と言われていましたから、自分では簡単に弾いていたのでしょうね。恐ろしい!楽譜を見ると素人目にも32分音譜が半音ずつ繋がっていて、これはこれはと思います。
難曲揃いの「超絶技巧練習曲」でも圧倒的な難易度を誇るのが「鬼火」です。ゆらゆらと揺れる幻影のような曲想です。事実、本当に難しいピアノ作品は、「鬼火」のように速さ、重音、繊細さの3点を要求されているものがほとんどです。リストの才能恐るべし!
第1位 リスト:パガニーニによる超絶技巧練習曲第3番「ラ・カンパネラ」(初版、1838年)
難易度の高いピアノ曲として有名な楽曲ですが「鬼火」や「マゼッパ」の方が難しいぞという方もおられるでしょう。確かにリストの練習曲はどれもが難しいです。
「ラ・カンパネラ」は改訂版(1851年)にあたる『パガニーニによる大練習曲第3番』の「ラ・カンパネラ」が一般的ですが、その13年前に書かれた初版の方がより難しい楽曲といえます。故・ホロヴィッツは演奏不可能だという意味の言葉を残しているほどです。
1838年の初版があまりにも難しかったために改訂にあたり少し難易度レベルを下げたとも伝えられていますが、それでも1851年の改訂版も十分に難曲です。聴き比べてみるのも面白いと思います。
リスト「ラ・カンパネラ」についての補足
第1位の説明でも触れましたが、リストの「ラ・カンパネラ」には1838年の初版(『パガニーニによる超絶技巧練習曲第3番』S. 140)と1851年の改訂版(『パガニーニによる大練習曲第3番』S. 141)があります。
そもそも『パガニーニによる超絶技巧練習曲』はパガニーニの『24の奇想曲』やヴァイオリン協奏曲の中から6曲を抜き出してピアノ用に編曲したものです。リストはパガニーニの演奏を聴いてよほどの感動を受けたと思われます。
初版『パガニーニによる超絶技巧練習曲』は演奏が困難ともいえるほど難度の高い楽曲になっており、これを少し平易に修正した改訂版『パガニーニによる大練習曲』が必要となったようです。リスト本人にとっては不本意だったに違いありません。
現在「ラ・カンパネラ」といえば改訂版を意味します。初版を演奏する場合、『パガニーニによる超絶技巧練習曲第3番』に(初版)または(1838年)と付けて明確に分かるようにするのが一般的です。
まとめ
今回調べてみて、難しいピアノ曲が結構多いことに驚きました。これらの難しいピアノ曲を弾きこなすべく日々練習しているのかと思うと、ピアニストの大変さが良く分かります。
天才作曲家が練習用のため、また、演奏会用の楽曲として書き上げたピアノ曲は、ピアニストにとって、時には悪魔のごとく立ちはだかる壁でもあったのですね。これらのピアノ曲を何事も無いように弾きこなすピアニストに敬意を表します。
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