面白い事にクラシック作曲家と言えばみんな個性的な人物ばかりです。ですから百年以上経った今でも彼らの逸話が語り継がれてきたわけです。なかでも酒にまつわる話は数多く、作曲家が如何に酒好きが多かったかを物語っています。そして酒癖の悪かった人物も結構いるのです。
英語のスラングで「Mozart and Liszt」または「Brahms and Liszt」というと「酔っ払い」を意味します。モーツァルト、ブラームス、リストが酔っ払いだった事から来たものだと思われます。音楽史に名を残す偉大な作曲家の中で一番の大酒のみは誰だったのでしょうか。
残っている資料が少ないところで判定するのですから順位の違いこそ出るかもしれませんが、酒好き作曲家を集めて勝手にランキングしてみました。周りに迷惑を掛けた人物もいましたし、いくら飲んでもそんな事は何にもなかった人物もいます。
第10位 ベートーヴェン
マイペースな酒好き
「駱駝」という飲み屋が行きつけの店でした。日常的によく飲んでいたのは赤ワイン。時にはハンガリー産の白ワインを飲む時もあったと言われています。主に新聞を読むついでにワインを嗜んでいたようです。来客の時にはビールも口にしたようですが、深酒をする方ではなかったようです。
ベートーヴェンが酒好きだった逸話が残っています。1827年、死の床にあった彼の所に、とある出版社からライン産のワインが届けられました。それを見たベートーヴェンは「残念、残念だ、遅すぎた」と言ったと伝えられています。ワインをこよなく愛していた事が分かります。
第9位 モーツァルト
みんなとワイワイ騒ぐ酒好き
モーツァルトはビール党でした。行きつけのビアホール「銀の蛇」でビールを飲むことが好きだったようです。体調の良く無い時でもその店に立ち寄っていたと言いますから、よほど好きだったのでしょう。前文に書いたように「Mozart and Liszt」という言葉が作られるぐらいですからね。
映画『アマデウス』の中で描かれたモーツァルトのように、実際でも仲間とワイワイやりながら飲み騒いでいたようです。そんな中で生まれた音楽がここでは書けないようなタイトルの楽曲だったのでしょう。下品な事をみんなで言い合いながら飲んでいる光景が目に浮かぶようです。
第8位 シューベルト
仲間と飲むのが好きな酒好き
教師を辞めてからのシューベルトは朝6時半から昼過ぎまで作曲をして、その後は必ず居酒屋へ出かけていたようです。このパターンが日課になっていました。シューベルトもビール党だったようです。シューベルトの音楽の良き理解者たちと気の置けない話をするのが楽しみでした。
シューベルティアーデと呼ばれる集まりで、彼の仲間たちはシューベルトの新作を聴き、ワインを片手に文学や芸術を語り合ったりしていました。友人たちのグループの中に何時間も留まっていることがシューベルトにとっては最大の喜びであったと親友が語っています。
第7位 シベリウス
生活費まで飲食につぎ込むほどの酒好き
シベリウスと言えば今でこそフィンランドの英雄ですが、彼の私生活はとても品行方正とはいかず家族を悲しませる事も多かったようです。恐らくシベリウスはアルコールが入ると我を忘れる様なタイプだったのでしょう。シャンパンにどれだけの金額を投じたか分からない程です。
彼は浴びるように酒を飲んでいました。それと煙草。これによって彼は喉にガンができ手術をします。しかし、その後も生活費は自分の飲食のために使い果たす日々が続きました。最後の作品を書き終えた後30年も作曲しなかったのは、アルコール中毒の影響かも知れません。
第6位 バッハ
あくまでも真面目な酒飲み
バッハはかなりの酒好きでした。彼はワイン党です。その事は給料以外にワインも現物支給品として貰っていた事からも分かります。しかし、どの資料にもバッハが酒の席での失敗した事など載ってはいません。吞兵衛でしたが誰にも迷惑を掛けずに飲んでいたと思われます。
バッハが酒好きだという資料は数々残っていて、バッハが旅行の際に残した領収書にも、かなりの量のワイン代が記されています。酒は飲んでも飲まれるなの諺を実践した作曲家でした。彼の作品同様、自分に対しても厳しい人物だったのですね。バッハらしいです。
第5位 ブラームス
タチの悪い酒好き
ブラームスはウィスキー党です。売れない時代は酒場やダンスホールでピアノ演奏のバイトをしていましたから、そこで酒を覚えたのでしょう。酔うと他人に迷惑を掛ける様な事を平気でしていたようです。友人もなく孤独な人物であったため、酒で憂さを晴らしていたのでしょう。
グラスからテーブルにこぼれたウィスキーを勿体ないと言って舐めたなどの話は日常茶飯事だったようです。今の時代でも酔った人でそんな振る舞いをする方がいますよね。酒好きの人って洋の東西問わず同じなんですね。独身中年の悲哀が感じられて、ブラームスっぽいです。
第4位 ブルックナー
浴びるようにビールを飲んでいた酒好き
ブルックナーはビール党でした。彼も行きつけのビアホールがあり、ジョッキで注文するのですが、大抵は10杯を超えたそうです。ジョッキの大きさが文献には載っていませんが、ほどほどの大きさでしょうから、かなりの酒好きだった事は間違いありません。
彼が慕っていたR・ワーグナーに招かれた時、彼は不覚にも飲み過ぎてしまい、朝まで寝てしまいました。あろうことか、自作の演奏に対してのアドバイスを聞きに行ったはずなのにその内容まで忘れてしまいます。しょうがないので彼はワーグナーに手紙でその内容を確認したそうです。
第3位 リスト
飲んでも乱れない酒好き
前文で紹介した「Mozart and Liszt」、「Brahms and Liszt」という英語の表現ですが、どちらもリストが入っているところを見るとかなりの酒好きだった事が予想されます。その酒量が半端ありません。リストは1日1瓶のコニャックまたは2本のワインを飲んでいたようです。
酔っ払いを意味する「Mozart and Liszt」、「Brahms and Liszt」という表現が出来た事も頷けます。しかし、リストが酔って無作法をした事など文献で紹介されていませんので、酒量は多かったけれど楽しく酔っていただけと推測できます。酒飲みはこうありたいものです。
第2位 グルック
酒で命まで落とした酒好き
グルックはブランデー党でした。飲み過ぎでアルコール中毒にまでなっていたようです。酒の影響かどうか判断はつきかねますが、彼は軽い脳卒中で倒れ、療養生活に入りました。医者からは当分禁酒を命じられました。しかし、彼はどうしても飲みたくなって家の中を探し回ります。
その甲斐あってついにブランデーを見つけたのです。喜び勇んで口にしましたが、飲んだ途端倒れてそのまま帰らぬ人となってしまいました。我慢できない程の中毒になっていたのですね。大好きなブランデーを口にして亡くなったのですから、本人にすれば満足だったのかも・・・。
第1位 ムソルグスキー
幼い頃からの酒飲み
ムソルグスキーはロシア人であるため恐らくウォッカをメインに飲んでいたと思われます。近衛士官学校時代(13~17歳)から飲み始めたと言いますから、相当なものです。一度倒れましたが助かり、医者から禁酒宣言が出されました。本人も療養に専念していました。
彼の肖像画が残っていますが、完全にアブナイ状態と分かる物です。療養中、ムソルグスキーの誕生日に友人がプレゼントとしてブランデーを差し入れました。喜んだ彼はさっそくブランデーを口にします。案の定容態が急変し、残念にも誕生日の朝に彼は亡くなってしまいました。
まとめ
ムソルグスキーとグルックはアルコールのために悲惨な最後を遂げました。創作活動を行う作曲家という職業はかなりのストレスを伴うでしょうから、酒に走る人は多いようです。楽しい酒ならいいですけど命を縮めるまでになってしまうと大変です。何事もほどほどがいいという事ですね。