ドヴォルザーク『新世界より』は『運命』『未完成』とともに3大交響曲と言われています。誰が名付けたのかはわかりませんが、昔から人気の高い作品でした。
日本では新年に演奏される事が多い作品です。『新世界より』というタイトルが新しい年に相応しい感じを与えるのでしょうか。
『新世界より』をみてみると面白い素材が一杯詰まった素敵な作品となっています。聴いていて飽きない、つまり聴くべきところが満載と言う作品です。『新世界より』を詳しく見ていきます。
サブタイトルについて
『新世界より』というサブタイトルが付いています。何を意味しているのでしょうか。
アメリカで作曲
答えを先に出してしまうと、ドヴォルザークがアメリカにいる時に、現地の民謡や黒人霊歌などを取り入れて作った曲だから『新世界より』なのです。
ヨーロッパから見て当時のアメリカはまだ「新世界」の時代でした。南北戦争の直前の時期です。アメリカの発達はまだまだこれからと言う時代で、ヨーロッパから見ればいわば下に見られていた時代でした。
アメリカに行った理由
ドヴォルザークがアメリカに来た理由は、ニューヨークで音楽を教えるためでした。破格の金額で招聘されたのです。しかし、一度チェコに帰ったりもしていて、合計すれば3年ぐらいしかアメリカにはいませんでした。
本当ならばもう少しアメリカで教えたかったらしいのですが、南北戦争が始まってしまったので帰らざるを得なくなったのです。
ドヴォルザークは鉄道オタクだった
ドヴォルザークは大の鉄道マニアでした。アメリカに行ったのも、アメリカで走っている鉄道見たさに行ったと言う人もいるくらいのオタクだったのです。
ヘビーな鉄っちゃん
鉄道の駅に行っては駅を観察し、駅員と仲良くなったり、駅の時刻表を暗記したり、新型の機関車が走る時には見学に行っては車体番号を確認したりと、現代でも立派に通じる鉄道オタクでした。
作曲に行き詰った時は散歩に出かけ、駅に行っては駅員と話したり、機関車を眺めるのが好きだったようです。音を聞くだけでどの機関車が走っているのかが分かるほどでした。
機関車の音が盛り込まれている
どうして鉄道の事を書き出したのかと不思議に思った事でしょう。これにはちゃんとした理由があるのです。大の鉄道マニアだったドヴォルザークは『新世界より』に鉄道の音を盛り込んでいると言う話です。
あるオーケストラの人がこんな事を書いていました。ここで蒸気機関車に石炭をくべているとか、上り坂で蒸気機関車は悪戦苦闘しているとか演奏していると分かってくると。
今までそんな聴き方をしたことがないので、私には良く分かりません。でも、聞く耳を持った人には機関車が走っている様子が分かるそうです。皆さんどうですか?鉄道マニアにはそんな風に聞こえる物なのでしょうか?
『新世界より』を作曲する動機
ドヴォルザークはどうしてこの曲を作曲するようのなったのでしょうか。しかも、故郷のチェコで無くアメリカと言う地で。
アメリカの民族音楽に触発
この作品はドヴォルザークがアメリカにいる時に作曲されました。少し話はそれますが、あの有名な『チェロ協奏曲』も『弦楽四重奏第12番』「アメリカ」もこの時期の作品です。ドヴォルザークにとって、如何に音楽的刺激を大きく受けたかが分かります。
一般的に言われている事は、アメリカの黒人の音楽が故郷ボヘミアの音楽に似ていることに刺激を受け、この曲を作曲したと言う事です。
故郷へ向けたメッセージ
『新世界より』と名付けた事に関係しますが、この曲は故郷ボヘミアに向けた「アメリカ便り」といったメッセージ性があると思います。
自分はこんな遠いところまで働きに来たけれど、意外や意外、黒人の音楽って我々ボヘミアの音楽と共通する物が多いんだよ!という風に伝えたかった音楽のようです。
『新世界より』の特徴
この曲はとても有名で1度聞いたら忘れられない音楽ですが、その理由は親しげなメロディが沢山出てくるところにあります。
親しみのあるメロディの宝庫
この交響曲の人気の秘密は、親しげなメロディが次々と表れて来るためです。次々と出て来るメロディに浸っていたら曲が終わっていた、そういった感じでしょうか。
全曲通じて聴くと45分程度の曲ですが、短く感じるぐらい心に染み入るメロディが豊富だということです。
聴衆を意識した楽曲
我々一般人から見ると、変な和音も入り込んでないし、リズムの取り方にしても調子の良いものばかりです。これぞ、誰もが好むという事を分かった上で作曲されているので、とても聴きごこちの良い音楽に仕上がっています。
こういう音楽を通俗音楽又は大衆音楽といいます。この『新世界より』は正にこの代表なのです。
第1楽章
最初の楽章から聴かせ所満載な曲です。簡単な主題なのですがその膨らませ方が見事な作りとなっています。
劇的な音楽
ひとり荒野にいるような不思議な広がりを感じるところから始まります。一通りのご挨拶があって何か始まりそうかなと思っているところで、ホルンが第1主題を「ターンタタタ、タータタタタ」と高らかに吹き鳴らします。
第2主題は木管楽器で「ターランタララタララララン、ターランタララタララララン」と演奏されます。言葉で書いてどれだけの人が理解してくれるか心配です。
この2つの主題を上手く展開させ、弦楽器から木管、金管そしてティンパニが大活躍します。美しいメロディが次から次へと登場し盛り上がりをみせ、とても心躍る楽章です。
盛り上がる音楽
美しいメロディが様々な楽器によって演奏され、最後はトランペットが高らかに鳴り、全体で大きな盛り上がりを作って第1楽章は劇的に終わります。
最初から最後まで軽快なリズム演奏され、飽きる事のない音楽です。これこそ万人に受ける音楽なのですね。この辺りが『新世界より』の人気の秘密となっています。
第2楽章
テンポがゆっくりとした緩徐楽章です。イングリッシュホルンの有名なメロディが奏でられるます。
ノスタルジー感満載
郷愁感に溢れた楽章です。静かに始まり、イングリッシュホルンが有名なメロディを吹きます。この部分だけ取り出して歌にしたのが「家路」です。私が小学校の時、下校の時間に流れるのがこのメロディでした。
このイングリッシュホルンのソロは人の心に迫ってくる美しいメロディです。第2楽章のイメージを作り出しているこのメロディは黒人霊歌の影響を受けているとも言われています。
非常な美しさ
中間部で少しだけ弦楽器で盛り上がりの部分は作られますが、この時の弦楽器の美しさも夢の世界のようです。その後またイングリッシュホルンのソロが戻ってきます。
最後には、非常に室内楽的な音楽になり、終結部はコントラバスの静かな音で終わりを迎えます。
第3楽章
この楽章はスケルツォですから、駆け足のように進んでいく民族的メロディの面白い楽章です。
先住民達からの着想
この楽章はアメリカ先住民の音楽的特徴を組み入れたものとドヴォルザークは書いています。面白いメロディとリズムの連続で、次に何が出てくるのだろうとわくわくしてくる楽章です。
第1楽章の主題も使われていて、民族的な香りのする、かつて聴いた事の無いようなメロディが軽快に登場し盛り上がりを作ってくれます。
最もアメリカ的な楽章
とても土俗的な音楽が次々と湧き上がってくるような感じの楽章となっています。まるでスラヴ舞曲のようです。
この楽章も最後に第1楽章の主題が登場してきて、管楽器で演奏された後、突然の静寂があり、最後の一締めのように「ジャン」とオーケストラの全奏で終わります。終わり方もユニークです。
第4楽章
いよいよ最終楽章です。この楽章もオーケストラの醍醐味を味わえるよう音楽になっています。
勇壮な音楽
冒頭、低弦が強くうなる序奏で一気に盛り上がります。その後、金管による有名な第1主題が堂々と姿を表します。正に壮大な音楽です。
続いて第1主題とは雰囲気をガラリと変えて、クラリネットが第2主題を優美に演奏します。各楽器が加わり音楽は一層華やかになりますが、やがて一度音楽は穏やかになり、展開部へと続きます。
展開部では第2楽章のメロディが再び登場します。各楽章の主要主題が登場し、終結部の勝利のファンファーレのような輝きは聴き応え十分です!そして最後は力強い和音から静かな余韻を残して全曲を閉じます。
シンバルの話
今では誰もが知っていると思いますが、第4楽章に1度だけシンバルが鳴らされます。それもP(ピアノ)でシンバルを少し擦るだけです。ジャーンと鳴らすのなら分かりますが、聴こえるかどうか分からない小さな音が本当に必要なのでしょうか。
前述したようにドヴォルザークは鉄道マニアでしたので、機関車のブレーキの擦れる音を再現しているなどという人もいますが本当のところは謎です。
私のお勧めの1枚
色々迷いましたが、結局カラヤン・ファンの妥当な1枚とします。
NO.1:カラヤン指揮ウィーン・フィル(1985年録音)
次点:ジュリーニ指揮シカゴ交響楽団(1977年録音)
まとめ
この曲はとにかく派手で、美しく、豪華で、素晴らしい楽曲となっています。しかし、今ひとつ価値が低く見られているところがあるのも事実です。ここは最高の通俗音楽と割り切って聴くべきかと思います。
あなたはこの楽曲を聴いて機関車の事を感じたでしょうか。私にはさっぱり分かりませんでした。これを書くに当たって聴き返したのはチェリビダッケとミュンヘン・フィルの映像。物凄く素晴らしい演奏でした。
機関車は置いといて、やっぱりこの曲には聴くに値する華があるんですね。良く分かりました。