ピアノの弦の数を答えられますか?

グランドピアノの弦の数が何本あるかご存知でしょうか。ピアノの鍵盤が88鍵だから88本!と答える人も多いと思いますが、ピアノの構造はそんなに単純ではありません。音大生なら講義等で習った事があるかもしれませんが、一般的には知ろうともしない情報だと思います。

しかしピアノの美しい音色がどのように生み出されているのか知るのはクラシック好きとして覚えておいて損はないでしょう!あの豊穣な響きを得るためにピアノは様々な工夫がなされています。弦一つでもクイズが出来るぐらいですからピアノは秘密のベールに包まれた玉手箱のようです。

さて、今回はクイズの答えを初めに見ながら、グランドピアノの基礎知識を紹介していこうと思います。グランドピアノの弦の多さの理由、ボディの作り、反響板などの必要性を一つ一つ解き明かしていきます。どうぞ、最後までお付き合い下さい。

グランドピアノの総弦数【答え合わせ】

グランドピアノ 響板
出典:YAMAHA

グランドピアノは、基本的に1鍵に付き3本の弦が張られています。かといって単純に88鍵X3本で264本でもありません。グランドピアノの実際の総弦数は230本程度です。程度というのは、価格帯によっても違った作りになっているからです。

低音は単弦で巻き線になっています。中音から高音は3本の単線が張られています。ですから単純に88鍵X3本で264本ではないのです。弾いて貰うとよくわかりますが、ピアノの低音と中音以上の響きが違うのは弦の種類が違うためなのです。

鍵盤を一つ弾くとダンパーという装置が動きハンマーが弦を叩きます。この時に叩かれるのが3本の弦です。強く弾くと大きい音が出て、やさしく弾くとソフトな音が鳴ります。ピアノの豊かな響きはこの3本の弦を鳴らすために生まれています。

弦の数が多い理由

グランドピアノ 弦
1鍵に3本の理由は、音を豊かにすると同時に、3本の弦の微妙な差から生まれる響きの違いがより深い響きをもたらすからです。3本とも同じ音程に合わせたとしても、人の耳には聞き分けられない程のほんの少しのずれが生じます。これが却って豊かな響きの源になるのです。

弦にはもうひとつ響きを豊かにさせる工夫がありました。高音域では前方弦、後方弦という共鳴部分を設けていて、これが有効弦の振動に共鳴して振動することで、音の魅力が増します。グランドピアノの響きの良さとなって表れてきます。

また弦の多さは倍音を出すのにも効果的です。弾いていない弦も共鳴して響きが増して聞こえるようになります。例えばド、ミ、ソの三和音を弾くとかすかにオクターブ上のドが聞こえてきます。弾いていない音が聞こえてくるのですから良く出来ています。

美しい曲線は音の為!?

グランドピアノ 曲線美
グランドピアノは長い弦から短い弦へと美しい曲線の形で弦が張られています。それを収めるボディも曲線を描いていて、見るものを美の世界に誘ってくれます。それ以前は長方形の箱型をしており、それに足が4本ついていました。今でいうところの大型の電子ピアノのようなものでした。

薄い板を張り合わせた一枚の合板を、一気にあの曲線に仕上げてしまいます。曲線の部材自体をリムと呼びます。ピアノの大きさによって枚数が異なりますが、薄い板15枚〜18枚を貼り合わせ、外側と内側のリムを一気に成型します。

蒸気を使用せず、熱だけをかけて2時間で成型後、6〜8ヶ月の間、接着剤を乾燥させます。蒸気を使用しないため、一度リムの形が決まると、半永久的に変化しない、安定性と耐久性を兼ね備えたリムが出来上がります。こうして素晴らしい曲線美が出来上がるわけです。

この曲線は音のためではなくあくまでも見た目の美しさに拘った結果です。音響のために曲線にしたわけではなく、弦の構成上、そういった形態にしなくてはならず、チェンバロのように角ばっているよりは曲線美を持たせたほうが良いという判断です。

豊かな響きを生み出す響板

グランドピアノ 響板

スタインウェイの例を取りますが、使われている響板材は、「アラスカ産シトカスプルース」です。スタインウェイは、アウターリムとインナーリムを、同時に「一体成型」で作り、そこに厳選された響板を、ピッタリと隙間無く貼り込みます。

スタインウェイは「リム」と「響板」が一体となって音を生み出しています。弦振動が響板とリムに一瞬のうちに伝わり、スタインウェイサウンドが生まれるのです。他のメーカーはこのやり方とは違った方法をとっていますが、響板自体は必要なものなのでどのメーカーも付けられています。

本当にピアノはよく考えられて作られています。どうしたらピアノ全体が響くのか、その響きを良くするにはどうしたらいいか、この形と響板を考えた人は天才技術者だったのでしょう。スタインウェイのシェアが高いのはこういうところで他社と差を付けているためです。

音響をまろやかにする反響板

ピアノ 屋根
美しい音色を客席に響かせるために非常に大切な役割を持つ反響板は、グランドピアノの屋根とも呼ばれます。ピアノの弦の響きが反響板に反射する事により、音響がまろやかになったりもするそうです。ホールにある反響板の小型のものと思って頂けばいいかと思います。

では、なぜ反響板は木でつくられているのでしょう?金属のほうが響きが良いのでは?そう思うのですが、その答えは、低い音も高い音も同じように増幅してしまう金属と違って、木は低い音だけを増幅し、高い音は逆にカットする性質があるからです。

つまり反響板は響かせるための板であると同時に、ある意味では響かせないための板でもあるのです。スプルースをはじめとするエゾマツの仲間が反響板材として珍重されています。高い倍音をより効果的に吸収して、まろやかに感じられる高さの音のみを豊かに響かせる特性があるためです。

音の個性を引き出すペダル

ピアノ ペダル
グランドピアノには3本のペダルが付いています。では、何のためにペダルが必要なのでしょうか?そう言われてみると、ピアノのコンサートに行くと、良くピアニストがペダルを踏んだり離したりしているなって思った方も多くいるのではないでしょうか。

ピアノに向かって一番右側は「ダンパーペダル」といい、このペダルを踏むと、弦の押さえが離れて音が鳴りっぱなしになります。真ん中は「ソステヌートペダル」といい、このペダルを踏んだときに押していた鍵盤の音だけが長く引き伸ばせる特殊な機能を持っています。

左側は「シフトペダル」といって、このペダルを踏むとハンマー全体がわずかに右へシフトし、3本の弦を叩いていたハンマーが2本の弦だけを叩く様になります。いわゆる弱音器です。本当にピアノは何から何まで考えつくされた楽器といえます。

驚異的なピアニストたち

ピアニスト
グランドピアノの凄いところは鍵盤が一秒間に15回程度の反応に耐えられることです。アップライトピアノではせいぜい8回が限度と言われています。何が凄いってそこまで要求するピアニストの凄さです。超絶技巧などを弾く時には物凄い速さですから、それに反応するピアノも凄いです。

ピアニストは鍵盤を弾くだけでなく、足でペダルも操りながらより良い音楽を作り上げているのです。鍵盤を弾きながら足を動かすってなかなか大変です。ピアノコンサートに行く機会のある人は、手だけではなく足のほうも注意して見てください。結構ペダルを操作しています。

ピアニストは本当に凄いことをやりながら演奏しているのです。幼い頃からつちかった練習の賜物なのでしょう。一度覚えたからと言ってそこで終わりではなく、日々練習の繰り返しです。ピアニストに限らず、全ての音楽家たちは本当に大変なのですね。

時間とお金の掛かる調律

ピアノ 調律

弦の数が200本を越えるのですから、調律の大変さも容易に想像できます。1本1本チューナーで確認しながらやっているのですから大変なのも当然です。良いピアノになればなるほど、頻繁にしなくてはなりません。狂った音で弾いていると筺体自体にも良くない結果をもたらすそうです。

現在では、「調律師」という専門家に頼むのが普通です。基本ピッチ(A=440Hz)を合わせ、それに合わせて全ての弦を調律していきます。全ての弦を合わせると230本ですから、その手間を考えると時間が掛かるのも当然です。どんなに早くても2時間半は掛かるようです。

調律が終わったら鍵盤のタッチ具合を調整して、ピアノの音色・音質を整えて終了になります。具体的に言うと、ハンマーで叩く弦の部分の調整や弦を押さえているフェルト部分、ハンマーのフェルトの硬さを整えたりします。この事を整調・整音と言います。料金は最低でも1万5千円程です。

まとめ

ピアノを聴くときには構造なんて意識して聴きません。けれども、少しでも知っているとピアノの味わい方も変化があるのではないでしょうか。ピアノの音のダイナミクスの広さや音響的なことも考えて聴くようになると思います。

ピアノコンサートを注意してみていると、反響板の角度とか、ペダルの踏み方などもピアニストによって違ってきます。この違いが何をもたらすかを分かってくると、コンサートの楽しみも増えると思います。

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