イギリスで出版されている音楽専門雑誌『BBCミュージックマガジン』という月刊誌があります。主にクラシック音楽を中心に据えた雑誌です。2019年12月号で「音楽史上最も偉大な作曲家」のランキングが発表されました。とても異色な内容になっていますので紹介したいと思います。

当然、バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンなどの名前がまず頭に浮かぶと思います。では、TOP10を選ぶ場合、その他にどの作曲家を入れるでしょうか。難しいですね。前記の3人の他で音楽史上に残るような作曲家は皆さんそれぞれ違ってくるのではないでしょうか。

『BBCミュージックマガジン』のランキングは、174人の主要な作曲家にアンケートを行った結果を纏めたものだそうです。現代作曲家が選んだものですので、我々一般のクラシックファンの考えとは一味違ったものになっています。どんなランキングなのか楽しみながら読み進めて下さい。

『BBCミュージックマガジン』について

『BBCミュージックマガジン』は1992年6月に創刊された音楽専門の月刊誌です。当初はイギリスの放送会社BBCの子会社であるBBCワールドワイド社が発行していましたが、2012年から現在の出版社イミディエート・メディア・カンパニー社が引き継いでいます。

あくまでもクラシック音楽がメインですが、ジャズなども取り上げています。毎月付録としてBBCが録音したCDが付いており、これが人気の秘密のようです。毎月の特集は各国で話題となるほど、クラシック界では知られた雑誌です。発行部数は38000部程度です。

第10位:クラウディオ・モンテヴェルディ

誕生・死没日:1567年5月15日~1643年11月29日
国籍:イタリア

第10位にいきなりモンテヴェルディが登場です。大方の人は「えっ、この作曲家?」と思う事でしょう。日本で同様のアンケートを行ったら決してTOP10には入らない作曲家です。この作曲家の有名な楽曲と言えば教会音楽『聖母マリアの夕べの祈り』と歌劇『オルフェオ』です。

モンテヴェルディは16世紀から17世紀にかけてのイタリアの作曲家です。ルネサンス音楽からバロック音楽への転換点に立つ音楽家として知られています。初期バロック音楽は、モンテヴェルディによって切り開かれ、その方向を決定づけられたと言っても決して過言ではありません。

音楽史上、バロック音楽の入り口を切り開いた作曲家として評価されたためのTOP10入りと想像できます。しかし、まさか、モンテヴェルディがこういったランキングに入ったのは今までどのアンケートでも見た事がありません。TOP10入りが妥当かどうかは様々な意見があると思います。

第9位:ラヴェル

誕生・死没日:1875年3月7日~1937年12月28日
国籍:フランス

「音楽史上最も偉大な作曲家」のTOP10にラヴェルが相応しいかどうかも意見が分かれるはずです。ラヴェルは音の魔術師とも呼ばれて作曲家としてはオーケストレーションの天才でしたが、音楽史上の偉大な作曲家の1人と言えるのかどうか、とても微妙です。

ラヴェルの芸術性は素晴らしいものがあったのは間違いありませんが、このランキングに入れるべき作曲家ではないと思う人も数多くいる事でしょう。「どうして、ラヴェルなの」と私も思います。一般クラシックファンの意見と彼を選んだ現代作曲家の間には非常な乖離があります。

第8位:リヒャルト・ワーグナー

誕生・死没日:1813年5月22日~1883年2月13日
国籍:ドイツ

「楽劇」を完成させた作曲家としてTOP10入りは当然と思います。ロマン派オペラの頂点を極めた作曲家であり、「ライトモティーフ」という機能的メロディなど独自の音楽理論を追求し、それまでのオペラとは異なる形式の「楽劇」を生み出しました。歴史に名を刻むべき作曲家です。

そして、楽劇を上演できる理想的な歌劇場として、ついには、バイロイト祝祭歌劇場という劇場まで作りました。ワーグナーの影響を受けた作曲家は多く、マーラーやシェーンベルクなどがいます。台本までも自分で執筆し、音楽的才能だけでなく、文学的才能も優れていました。

第7位:グスタフ・マーラー

誕生・死没日:1860年7月7日~1911年5月18日
国籍:オーストリア

マーラーは交響曲及び歌曲の作曲家として有名です。彼の10曲の交響曲と歌曲集は密接な関係性を持ち、歌曲の中で生み出された旋律を交響曲の中にも度々使用しています。彼の作品はどれもが完成度が高く、19世紀から20世紀への架け橋の役割を果たした作曲家です。

現在では彼の交響曲は頻繁に演奏され、演奏会場は必ず満員になるほどの人気です。指揮者のゲオルグ・ショルティは、「現代の聴衆をこれほど惹きつけるのは、その音楽に不安、愛、苦悩、恐れ、混沌といった現代社会の特徴が現れているからだろう」とその理由を分析していました。

第6位:ジェルジュ・リゲティ

誕生・死没日:1923年5月28日~2006年6月12日
国籍:ハンガリー

著名な現代作曲家の1人ですが、第6位にランクされるほど歴史的な作曲家かといわれると疑問が残ります。トーン・クラスターという奏法を用いたり、実験的な手法を実践した作曲家です。トーン・クラスターとは、半音差か全音差で音符を敷き詰める技法を指す言葉です。

例を挙げると、ピアノの演奏の場合、左腕全体を使っていくつかの鍵盤を同時に弾く事です。現代音楽で良く使われる奏法だそうですが、正直な話、私にはそれが音楽史上価値があるのかどうかよくわかりません。このランキングが異色だという事だけは良く分かります。

第5位:クロード・ドビュッシー

誕生・死没日:1862年8月22日~1918年3月25日
国籍:フランス

ドビュッシーを音楽界における「印象派」の代表とみなす事は誰もが納得するところでしょう。フランスで最も偉大な作曲家でもあります。内面的な観念や情緒を暗示する「象徴主義」の芸術家でした。第5位が妥当かどうかは別として、このランキングには相応しい作曲家だと思います。

後世への影響を大きく与えた作曲家でもあります。バルトーク、ストラヴィンスキー、ラヴェル、プーランク、ミヨー、ガーシュウィン、ブーレーズ、メシアンなど名前を挙げればきりがありません。20世紀の新しい扉を開いた作曲家といっても過言ではないでしょう。

第4位:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト

誕生・死没日:1756年1月27日~1791年12月5日
国籍:オーストリア

ウィーン古典派を代表する作曲家の1人です。音楽史上、彼こそ最も偉大な作曲家とする人は多い事でしょう。幼少時から天才ぶりを発揮し、35年の生涯で626曲もの作品を作曲。音楽を一部の貴族だけの楽しみから、一般市民のものへと変革したパイオニアでもありました。

交響曲、協奏曲、オペラ、宗教音楽などあらゆるジャンルにおいて傑作を生みだしています。モーツァルトの楽曲には良く「天国的な」という形容詞が付きますが、そうとしか言いようがないのです。まさに、天才とはこんな人物を指す言葉なのでしょう。

第3位:ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン

誕生・死没日:1770年12月16日ごろ~1827年3月26日
国籍:ドイツ

音楽史上極めて重要な作曲家の1人であり、その作品は古典派音楽の集大成かつロマン派音楽の先駆けとされ、後世の音楽家たちに多大な影響を与えました。一作一作が芸術作品として意味を持つ創作であった事は、音楽の歴史において重要な分岐点であり革命的とも言える出来事でした。

「音楽史上最も偉大な作曲家」は個人的にはベートーヴェンが第1位だと思っています。クラシック音楽を変革し、進化させた作曲家は彼をおいて他にいないと思っているからです。ベートーヴェンこそがクラシック音楽史上、エベレストのような頂点に立っていると考えています。

第2位:イーゴリ・ストラヴィンスキー

誕生・死没日:1882年6月17日~1971年4月6日
国籍:ロシア

驚く事に第2位がストラヴィンスキーです。20世紀の代表的な作曲家ですが、ベートーヴェンより上位とは思えません。このランキングのショッキングな所です。この点も賛成派、反対派、様々な意見がある事でしょう。そんな論議を起こさせたいように作られているランキングです。

ストラヴィンスキーの作風は変化し続けました。原始主義、新古典主義、そしてセリー(12音技法)主義。その中で、最も評価されているのが、原始主義時代のバレエ音楽3部作です。3部作の中でも『春の祭典』は20世紀の最高傑作ともいわれています。

第1位:ヨハン・ゼバスティアン・バッハ

誕生・死没日:1685年3月31日~1750年7月28日
国籍:ドイツ

バッハはバロック音楽の最後尾に位置する作曲家としてそれまでの音楽を集大成したと評価されています。現代では、西洋音楽の基礎を構築した作曲家であり音楽の源流であるとも捉えられています。作品分野おいても教会音楽と世俗音楽、その両面において名作を残しています。

音楽史のなかで確固たる評価をずっと与えられ続けている作曲家は少なくありませんが、バッハは別格です。しかも歴代の作曲家、演奏家、音楽学者ばかりでなく、物理学者、数学者や神学者などさらに一般の音楽愛好家たちもこぞってバッハを愛し、賛美をやめることがありません。

ランキングを振り返って

第1位:ヨハン・ゼバスティアン・バッハ
第2位:イーゴリ・ストラヴィンスキー
第3位:ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
第4位:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
第5位:クロード・ドビュッシー
第6位:ジェルジュ・リゲティ
第7位:グスタフ・マーラー
第8位:リヒャルト・ワーグナー
第9位:モーリス・ラヴェル
第10位:クラウディオ・モンテヴェルディ

独特のランキングとなっています。おそらく、万人が納得するような内容ではありません。非常に偏りのあるランキングになっていると思います。現代作曲家が評価したランキングであるという前提を知らないと、とても納得できないランキングになってしまうでしょう。

この雑誌の意図ももしかしたら、そういった論議を期待したのではないかと想像する事も出来ますね。ストラヴィンスキー、ドビュッシー、リゲティ、ラヴェル、モンテヴェルディとランキングの半分の作曲家がなぜここにランキングされたのか考えるきっかけになる事でしょう。

まとめ

『BBCミュージックマガジン』が発表した「音楽史上最も偉大な作曲家ランキング」を見てきました。このタイトルのランキングだったら、大方の人はもう少し、違ったイメージを持っている事でしょう。しかし、このランキングには驚いた人が多かったと思います。

調査の対象者によってこんなにも違ってくるのかと改めて思いました。それを意識して見ていかないと、ランキングの意図を勘違いして理解してしまいます。それを学んだ事も大きいものでした。しかし、人の評価は様々です。こういったランキングも面白く見る事も大切だと感じました。

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