ハープを弾く女性

ハープは人を魅了する力を持っている楽器です。ポロンポロンと一音一音奏でられる事も一際大胆なグリッサンドもどちらも心が揺さぶられます。

ハープの起源はとても古く紀元前まで遡ることができます。しかし、オーケストラに取り入れられたのはたかだか300年、ハープの楽器自体が進歩を遂げるのは18から19世紀にかけての事です。現在使われているダブル・アクション・ペダルが発明されました。

楽器自体の発達によってそれまでのハープを使わなかった作曲家も次第に自作に取り入れ始めるようになっていきます。特にロマン派の時代、大曲には必ずと言っていいほどハープが導入されるようになってきました。

ハープを使った管弦楽作品の中で、ハープの魅力が伝わる効果的な使われ方をしている作品を紹介したいと思います。ハープのための作品を作曲している作曲家は多くいますが、ここではあくまでも誰でも知っているような有名な作曲家に絞リました。

ハープの響きは人を和ませてくれます。ハープの魅力はそんなところにもあるのですね。
ハープの魅力は数多くあるね。でも、ハープは一見優雅そうに見えるが演奏が大変な楽器でもあるんだよ。

モーツァルト『フルートとハープのための協奏曲』

ハープの作品といえば、誰しもが真っ先に思い浮かべると思われる有名な作品から入ることにしましょう。

モーツァルト『フルートとハープのための協奏曲』について

モーツァルトはなぜフルートとハープを組み合わせようと思ったのでしょうか。この2つの楽器の相性があまり良くない事は、他の作曲家が作曲をしていない事からも明らかです。

しかし、モーツァルトはあえてこの組み合わせで楽曲を作りました。しかも、モーツァルトはフルートという楽器があまり好きではなかったのです。

ではなぜこの曲をと思うでしょうが、それはお金のためでした。モーツァルトのパトロンの知人にド・ギーヌ公爵という人がいて、娘がハープをやっているからふたりで演奏できる作品を依頼されたのです。

だから、生活のためにモーツァルトはこの作品を作りました。自分から進んで作曲したわけではないのです。この話にも落ちがあって、どうやらモーツァルトは公爵と揉めて、報酬を貰えなかった可能性が高いようです。

無駄働きだったとは言え、モーツァルトがこの作品を作ってくれたおかげで、現在の我々が楽しめているわけで、そういう点では非常にラッキーな事でした。依頼がなければこの組み合わせでの協奏曲はなかったわけですから。

ハーピストにとっては数少ない有名な作品ですから、重要な作品となっています。特に第2楽章は有名であり、単独で演奏される機会もあるほどです。

モーツァルト『フルートとハープのための協奏曲』おすすめの1枚

まさに名曲は名演で聴くための1枚です。幾多の録音はありますが、1963年録音のこの演奏は未だに色褪せしていません。

ヘンデル『ハープ協奏曲』

ヘンデルは『ハープ協奏曲』を史上初めて作曲した作曲家となりました。当時のハープは現在の物よりも演奏の仕方が難しかったようです。

ヘンデル『ハープ協奏曲』について

ハープがソリストになる数少ない作品です。その点でハーピストにとっては貴重な作品と言えるでしょう。

この作品の第1楽章はとても有名なもので、CMにも使われていますから、耳にすれば誰もが「この曲知ってる」と思うはずです。天国的な美しさを持った作品と言えます。

ヘンデルがある作品の演奏会で、時間的に短いためにそれを埋めるために作られました。メインとして作られたものではありませんが、現在ではこの作品の方が有名になっています。

ヘンデル『ハープ協奏曲』おすすめの1枚

ユッタ・ツォフの名人芸に浸れる1枚です。1973年の録音ですが、古さを感じさせない音質に驚きます。レーグナー/シュターツカペレ・ドレスデンの伴奏も素晴らしいです。

ドビュッシー『神聖な舞曲と世俗的な舞曲』

ハープ独奏と弦楽合奏の組み合わせからなる作品です。ドビュッシーの管弦楽曲らしく、とても綺麗な作品となっています。

ドビュッシー『神聖な舞曲と世俗的な舞曲』について

プレイエル社が開発した半音階ハープ(クロマティック・ハープ)のために同社がドビュッシーに作曲を依頼したものです。ドビュッシーはこの依頼を承諾し、1904年にこの作品を完成させます。

クロマティック・ハープとは弦の数を増やして半音階の演奏を容易にしたものですが、結局は普及しませんでした。現在ではエラール社が開発したダブル・アクション・ペダル方式のハープにとって変わられています。

作曲したドビュッシーでさえクロマティック・ハープよりもダブル・アクション・ペダル方式のハープの方が優れていると思っていたようです。そう思っていて良くこの依頼を受けたのは、やはりお金のためでしょうか。

ドビュッシー『神聖な舞曲と世俗的な舞曲』おすすめの1枚

フランス物はフランスのオーケストラで、といった安易な発想ではありませんが、聴きこめば聴き込むほど引き込まれる演奏です。

ラヴェル『序奏とアレグロ』

ドビュッシーがクロマティック・ハープ普及のためプレイエル社の仕事を受けた事に対抗して、この作品はエラール社がダブル・アクション・ペダルのハープのためにラヴェルに作品を依頼したものです。

ラヴェル『序奏とアレグロ』について

正式名称は『序奏とアレグロ、ハープ、弦楽四重奏、フルートとクラリネットのために』といいます。とはいってもエラール社のために作曲したものですから、ハープ協奏曲のような作品です。

この作品を聴いているとラヴェルはやはり印象派なんだなと改めて思います。表現が曖昧になって申し訳ありませんが、ふわっとした作品です。

この作品はプレイエル社のハープでは演奏が不可能なように作られているのもラヴェルの凄さですね。ライバル社に「どうだ参ったか」と言わんばかりの名曲になっています。

ラヴェル『序奏とアレグロ』おすすめの1枚

アニー・シャランのハープ演奏のものを挙げます。録音が1965年といささか古くはなりましたが、若きシャランの演奏は素晴らしいです。

ピエルネ『ハープと管弦楽のための小協奏曲』

ガブリエル・ピエルネ(1863-1937)の代表作とも言える作品です。正直に申し上げると私は彼の作品はこれしか知りません。勉強不足で心苦しい限りです。

ピエルネ『ハープと管弦楽のための小協奏曲』について

ピエルネがこの作品を作った経緯などは分かりませんので、ここではピエルネの経歴を簡単に記述しておくことに留めます。

ピエルネはフランスの作曲家、指揮者です。1903年からコロンヌ管弦楽団の副指揮者、1910年から1934年まで常任指揮者でした。40歳から31年間に渡り同楽団に関わってきた事になります。

『ハープと管弦楽のための小協奏曲』は数少ないハープのための作品で、ハーピストにとっては重要なレパートリーのひとつです。

ピエルネ『ハープと管弦楽のための小協奏曲』おすすめの1枚

この作品もアニー・シャランの1枚を挙げておきます。シャランの演奏もそうですが、クリュイタンスとパリ音楽院管弦楽団も素晴らしいです。

今まではハープがメインとなる作品を取り上げてきましたが、ここからは通常の作品の中でハープが活躍している作品を見ていきます。
ハープが目立つ作品も意外と多い。ハープの音色がいかに重宝されているのかが分かるね。

チャイコフスキー『花のワルツ』

チャイコフスキーの三大バレエ音楽の『くるみ割り人形』の中の1曲です。綺麗な作品なので単独でもよく演奏されます。

チャイコフスキー『花のワルツ』について

冒頭からハープがポロンポロンと入ってきて、木管と会話を交わした後、見せ場のソロとなります。30秒ほどの短い時間ですが、この作品の演奏の出来を左右する重要な部分です。

ハープだけの演奏で聴衆の目が1点に集るところですから、ハーピストは緊張する場面でしょう。後は伴奏に回りますからハープの音を聞き分けるのは難しいかもしれません。

タイトルの通りにこのバレエ曲の中でも華やかな作品あり、最も知られています。

チャイコフスキー『くるみ割り人形』おすすめの1枚

バレエ好きな方以外なら組曲版で十分かと思います。こういったものはカラヤンが得意としていました。この演奏ではバレエは踊れないでしょうが、音楽としては極上です。

マーラー『交響曲第5番』から第4楽章「アダージェット」

マーラーの交響曲はどれもが大編成でハープを必ず使っています。第9番の冒頭などもハープが印象的ですが、ここでは最も有名な「アダージェット」を代表としましょう。

マーラー『交響曲第5番』「アダージェット」について

「アダージェット」はヴィスコンティ監督の映画『ヴェニスに死す』のテーマ曲として使われた事から一躍有名になりました。

冒頭からハープも含めた弦楽合奏の楽曲です。弦楽合奏は弱音で演奏されますから、ハープの音色が良く響き渡ります。ポロンポロンととても心地よい響きです。

グリッサンドは一切なく、普通に一音一音のメロディを奏でます。ハープの音が随所で聴こえてきてこの楽曲の美しさをより際立せ、この楽章が「愛の音楽」である事を印象付けてくれる楽器です。

「死や生」と言った重いテーマの作品の中で、この楽章だけは全く別物となっています。

巨匠のメンゲルベルクは、自身が使ったアダージェットの楽譜に「このアダージェットはマーラーがアルマに宛てた愛の証である」と書き込みました。この楽章は特別な意味を持っているのです。

マーラー『交響曲第5番』おすすめの1枚

カラヤンの都会的なマーラーも捨てがたいですが、ここではバーンスタイン/VPOのライヴ盤を挙げます。この演奏は好き嫌いが分かれると思いますが、バーンスタインのマーラーへの思い入れが半端ではありません。名盤です。

スメタナ連作交響詩『我が祖国』から第1曲「高い城」

スメタナの交響詩『我が祖国』の第1曲目もハープが効果的に使われています。『我が祖国』は「モルダウ」だけではありません。全曲をお聴きになることをお勧めします。

スメタナ連作交響詩『我が祖国』から第1曲「高い城」について

「高い城」とは実際に存在したプラハのヴィシェフラド城の事です。吟遊詩人が遠い昔の王国の栄枯衰退を歌うようにこの作品は作られています。吟遊詩人の象徴がハープという楽器なのです。

この作品の冒頭はハープの演奏から始まります。最初の1分間ほどは2台のハープだけでメロディが奏でられるのです。とても印象に残る導入部となっています。

その後は、所々で吟遊詩人が顔を出し、ハープの美しい響きが聴こえてくるのです。

スメタナ連作交響詩『我が祖国』おすすめの1枚

名盤が多い作品です。その中でクーベリック/BSO盤をおすすめします。最も整った『我が祖国』ではないでしょうか。捨てがたいのは同じクーベリックのチェコ・フィルとのライブ盤(1990年)。こちらも名盤です。

ベルリオーズ『幻想交響曲』から第2楽章

『幻想交響曲』は楽譜にハープは4台以上ある事が望ましいとの指定がある珍しい作品です。実際には2台で間に合わせるオーケストラが多いですが、他の楽器も多いため舞台上は楽器で溢れかえるような楽器編成になっています。

ベルリオーズ『幻想交響曲』について

『幻想交響曲』はベルリオーズが自分の管弦楽法を余すことなく取り入れた、革新的な交響曲です。新しい楽器を取り入れたり、奏法もそれまでにはなかった弾き方を考案しています。

ハープが活躍しているのは第2楽章「舞踏会」。冒頭からハープが印象的なメロディを奏でます。美しいワルツの楽章です。それ以外でも響きを厚くするために楽章を通して弾いていますので、時々顔をのぞかせます。

ハープの響きを埋もれないようにするために、ベルリオーズはハープ4台以上との指定をしたのでしょう。

ベルリオーズ『幻想交響曲』おすすめの1枚

『幻想交響曲』はカラヤンが得意とした作品でした。ミュンシュなどの名盤の決定版と言われるものもありますが、私にはカラヤン/BPOのものがこの作品のイメージにピッタリだと思います。ゆったりと堂々としていて流石です。

リムスキー=コルサコフ『シェヘラザード』

『シェヘラザード』(シェエラザードとも表記される場合がある)はアラビアンナイトを描いた作品です。ハープが効果的に使われています。

リムスキー=コルサコフ『シェヘラザード』について

『シェヘラザード』は千夜一夜物語(アラビアンナイト)の語り手、シェヘラザードの物語を題材にした音楽です。

シェヘラザードを表す主題はハープを伴奏とする独奏ヴァイオリンにより表現されています。このハープが上手く使われていて、妖艶なシェヘラザードという女性を表す絶妙な伴奏です。

一方の王様はオーケストラのユニゾンという力強さを持った形で表現されます。この事により、王様とシェヘラザードの会話の場面を表現しているのだとすぐに分かるのです。

この作品は4楽章制ですが、それぞれに表題がついていて、物語があります。しかし、シェヘラザードと王様の表現はどの楽章でも同じ形で表されています。

リムスキー=コルサコフのオーケストレーションの上手さも手伝い、実に見事な作品となっていて、一度耳にしたら忘れられない音楽となるでしょう。

リムスキー=コルサコフ『シェヘラザード』おすすめの1枚

コンドラシン、ゲルギエフなどを第1位とする方も多いことでしょうが、私の選択はカラヤンです。ヴァイオリン・ソロやベルリン・フィルの上手さ満載の演奏。実にオリエンタルな感じを漂わせています。

まとめ

「ハープの魅力が伝わるオーケストラ曲」を挙げてみました。ハープと言う楽器はどんな使われ方をされても本当に魅力的な楽器である事を改めて思っています。

楽器の演奏は大変なようですが、ハープが主役となる作品がもっと多くあれば、どんなに素敵だった事か。ハープが現在のような形に完成されたのが遅かったという事も関係しています。

ベートーヴェンの時代に現在のようなハープがあったなら、どんな作品を残したでしょうか。ぜひ聴いてみたいものです。

otomamireには以下の記事もあります。お時間があればどうぞ御覧ください。

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