ハープと言う楽器は音色が綺麗で、弾いている姿も上品で素敵な楽器ですね。あのポロロロロ~ンと言う響き、たまらないです。その音の優雅さは知っていますが、楽器の名前以外はほとんど知られていないでしょう。ピアノなどと違って馴染みのない楽器です。
音域は6ターブ半もあり、ほとんどの演奏が1音1音演奏するのではなく、グリッサンドで演奏されます。ハープを弾く人の事をハーピストと言いますが、最初は両手の指先の皮がめくれるそうです。優雅な音を追求する裏には苦労が伴うのですね。
音色は綺麗な楽器ですが、結構大きな楽器であり、重量もあります。ハーピストは意外と大変な仕事なのです。ハープにも種類があり、用途も違ってきます。知っているようで知らなかったハープという楽器について、歴史から演奏の仕方までを見ていきます。
ハープの起源
ハープの起源は、狩人の弓ではないかと考えられています。弦をつま弾くと音が出ますから、そこから楽器へと発展して行ったと考えられています。最も古いハープの記録は、紀元前4000年のエジプトにまで遡ります。これは、現在のような形状ではなく、竪琴の形です。
『旧約聖書』にもハープの記述がありますし、ギリシャ神話でも竪琴として出てきます。ギリシャ神話は悲劇の物語ですが、最終的に竪琴は芸術の女神によって星座として残されます。これが現在でも残っている琴座になっているわけです。
ハープの歴史
ハープとは大変古い楽器であることは分かりましたが、どのように発展してきたかを辿ってみましょう。ハープはやがて音量を増やすために響鳴胴(きょうめいどう)が付き、音程を安定させるために前柱が付き、と楽器として音を響かせるような形で発展していきました。
ヨーロッパでは10世紀ころからアイルランドやウェールズに現われ、吟遊詩人によってヨーロッパ大陸に広まっていきました。これらが現在のアイリッシュ・ハープ、ケルティック・ハープの起源となります。主に朗読や歌の伴奏に使われました。
13世紀のアイルランドではとくに重んじられて、国の紋章にまで描かれています。アイリッシュ・ハープというネーミング自体が、アイルランドで盛んになったという事を如実に物語っています。現在でもギネスビールにはハープが描かれています。
ハープの発展
16世紀頃までのハープは全音階の物で、半音を出せませんでした。ピアノに例えると白鍵だけの音しか出せなかったのです。半音を出すために様々な改良が続き、ダブルハープやトリプルハープという半音の弦を持つハープが考え出されますが、弾きこなす事が出来ず発展しませんでした。
弦の数が多くなり過ぎて(トリプルで何と300本)実用に適さなかったのです。やがて、1720年にペダルが7つ付いた、シングル・アクション・ハープの原形が完成します。マリー・アントワネットの時代で、彼女はこのタイプのハープで、演奏を楽しんだといわれています。
しかし、シングル・アクション・ハープは半音上げる事を容易にしましたが、半音下げる事は出来ませんでした。そこで、フランスのセバスチャン・エラールは1811年、現在のペダル・ハープの原形となるダブル・アクション・ハープを発表しました。
シングル・アクションから発展させて、もう一度ペダルを踏み入れる事で、全音上げる事を可能にしました。その意味で、ダブル・アクションという呼び名が付きました。これにより、どの調性にも対応できるハープが完成したのです。これが現在でも一般的に使われているハープなのです。
ハープの種類
ハープにも様々な種類があります。世界的な広がりを持ち、それぞれの国で発展しました。民族楽器と言われるハープまで入れると、その数200種類以上と言われています。現在のオーケストラで使われているものはダブル・アクション・ペダル・ハープと言います。
アイルランドで発展したアイリッシュ・ハープも有名です。海外ではケルティック・ハープと呼ばれることの方が多いそうです。フォークハープという呼び方もあります。
中南米のハープ全般をアルパと呼びます。アルパを代表するハープとしてパラグアイハープが最も有名です。
クラシックコンサートで使われるハープ
現代のクラシック音楽のコンサートで使われるハープは、ダブル・アクション・ペダル・ハープです。グランド・ハープとも呼ばれます。高さはだいたい180cm程度、重さは50kg位のものが多く、持ち運ぶとなると大変です。ハープ専用の運送会社が存在するぐらいです。
ハープの弦
弦は高音から中音部はナイロン製の弦が使われ、低音部は強度が求められるため、金属弦が張られています。また、弦には透明の弦の他、赤と紺色の弦があります。これは、赤は「ド」、紺色は「ファ」であるという目印となっています。
弦は47本あり、ペダルを踏まない状態で変ハ長調の全音階に調律されています。「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ」の各音に対して1つずつペダルを割り当て、それらのペダルを音階に合わせて設定することで全ての調のスケール(音階)を演奏できる仕組みになっています。
右足用のペダルが4本、左足用が3本で計7本もあるのはそのためです。ペダルは3段になっていて、上からフラット、ナチュラル、シャープの順番になっています。エラールが開発したハープをより発展させたハープが現在使われているダブル・アクション・ペダル・ハープなのです。
ハープの調弦
ハープは47本もの弦があるため、演奏後弦を緩める事はありません。楽器の寿命のためには、緩めた方がいいのでしょうが、弦の本数が多いためそこまではしません。ハーピストは演奏前に本人が弦1本1本をチューニングします。大変な作業です。
弦の糸巻きは全て楽器の左側についているため、長年使っていると、楽器自体が弦の張力で、左側に反ってしまうのだそうです。それが楽器の寿命の判断に使われるとの事です。47本もの弦ですから、それはもう、凄い張力なのでしょうね。
ハープの演奏方法
演奏法は、楽器を抱え込むようにして、小指を除く両手、計8本の指の腹で弦をはじいて、音を出します。実際に弾いている演奏家はペダルを踏み変えたり、高い音を鳴らす時は思い切り腕を伸ばさねばなりませんし、なかなか大変な楽器です。
主に47本の弦、6オクターブ半という音域をもっていて、7本のペダルを足で操作することにより、各オクターブのそれぞれの弦を同時に半音上げたり、全音上げたりできるようになっています。この仕組みにより、様々な調を演奏することができます。
しかし、どんなに熟練してもペダルの操作を全くの瞬時に行うことは不可能であるため、オーケストラなどでは2人で演奏することによって、ペダル操作の不完全さを補うことがあります。オーケストラの演奏に行くと、ハープが2台になっているのはそのためです。
ハープ演奏
腕だけではなく、両足でペダルを踏みかえ、腕を長く伸ばしたり、また縮めたりと、全身運動をしているような楽器です。長いドレスを着て演奏しているため、良く分かりませんが、ハープは演奏するには、なかなか大変な楽器である事が良く分かります。
ハープ最大の魅力
ハープは単音でポロン、ポロンと奏でられるのも素敵ですが、何といってもこの楽器の魅力はグリッサンドで演奏される時の華々しさにあります。ハープで一番有名な奏法です。左右の手でハープの弦を滑らせるように弾くと、ポロロロローンと爽やかな風のような美しい音が作られます。
同じ楽器でも弾く者によって音色や音量が変わり、演奏家の個性が際立ちやすいのが特徴です。さまざまな和音によるグリッサンドの美しい響きは、ほかの楽器にはない魅力であり、オーケストラでも唯一無二のかけがえのない存在になっています。
ハーピストは一匹狼が多い
オーケストラの中で、圧倒的存在感を示しているハープですが、実はオーケストラでハーピストを雇っている団体は多くありません。ほとんどのオーケストラが、演奏曲目に合わせて、エキストラを雇っています。この理由は、ハープを使っている楽曲が限られているからです。
ですから、ハーピストたちは今日はこのオーケストラ、明日はあのオーケストラという具合に、様々なオーケストラを渡り歩いているのです。その他にも、現在はデパートやショッピング・モールなどで小さなコンサートを開く機会も多く、忙しく各地を転々としています。
世界的なソロ・ハーピストは別として、大方の日本のプロはこのような活動を日々行っています。響きが人気のある楽器ですので、我々が考えている以上に、ハーピストは忙しいのです。コンサートホールでなくとも、意外と様々な所で活動なさっています。
ハープの移動
ハープはあんなに大きく、重い楽器です。当然、本人では持ち運びできません。運送屋さんに頼むのですが、なんと、ハープ専用の運送部門を持つ運送屋さんがあるのです。これだけ各地で演奏会やらリサイタルがあり、かつ、楽器という繊細な荷物ですので、専門職が生まれたわけです。
ハープ専用の運送屋さんはハーピストたちととても信頼が厚く、中には、鍵を預けて、自宅までお願いねといった事もあるそうです。ハープだけでも40キロ以上ありますが、運送用に専用ケースがあります。それを入れると、5キロ以上は重くなりますから、運ぶのも大変になります。
とにかく、楽器に衝撃を与えないように慎重に運ぶ事と時間指定がある場合、その時間にきちんと届けるのが最大の使命となります。ハープは形が複雑なので、段ボールのように上手く何台も積めない事が難点です。それを、上手く運ぶのがハープ専用の運送屋さんなのです。
ハープ・メーカーと価格
ハープ・メーカーは世界で10社以上存在していますが、ハープ演奏家でもない限り覚える必要もないと思います。メーカーの内、3大メーカーと呼ばれるところがありますので、それだけでも十分かと思いますので、簡単に紹介します。
①Lyon&Healy harps(ライオン&ヒーリー)(アメリカ)
アメリカ、シカゴにあるハープ専用メーカーです。かつては、他の楽器も作成していた総合楽器メーカーでしたが、現在ではハープ専門メーカーに特化しました。このメーカーのハープは倍音たっぷりで柔らかく暖かく華やか。そしてやっぱり弾きやすいと言われています。
このメーカーの「Style23Gold」というモデルが世界で一番使われているハープだそうです。お値段は日本円で約600万円になります。数年前にウィーン・フィルが4台まとめて発注し、話題となりました。オーケストラのスタンダードになっているハープです。
②Salvi harps(サルヴィ)(イタリア)
1955年、ニューヨーク・フィルのハーピストであったヴィクトール・サルヴィがハープを設計した事が会社の始まり。現在では、全てをイタリアに移し、イタリアのハープ・メーカーとして、世界に確固たる地位を築きました。
コンサート用ハープの中で「VICTORIA」シリーズが最も高額で、1700万円から2200万円します。1台1台熟練された職人が作っているのでこれだけ高価になってしまうようです。「IRIS GOLD」は800万円ですので、この辺が台数も多く出ていると思われます。
③青山ハープ(日本)
福井県吉田郡永平寺町に本社を置く、日本国内では唯一のハープ専門メーカーです。最初は他の楽器も製造していた総合楽器メーカーとして誕生しました。日本のメーカーもハープ3大メーカーに選ばれている事がちょっと嬉しいです。プロ仕様のものは全て受注生産です。
「APOLLON」の47S(WN)Exがプロへの売れ筋のようで、価格は517万円です。青山ハープの特徴は、メカニックに信頼がおけて丈夫、音の立ち上がりがはっきりしていてよく通る、コストパフォーマンスがよい、などがあげられます。現状、日本では青山の楽器が一番安く買えます。
まとめ
簡単にハープの歴史や種類などを見てきました。コンサートで女性たちが優雅そうに弾いていますが、実は扱いが大変な楽器だったのですね。普段はグランド・ハープしか聴く機会がありませんが、他のハープの音色も聴いてみたいところです。
実に歴史のある楽器という事も分かりました。弦を鳴らすだけですから、最初はとても簡単な構造の楽器だったのでしょう。文明の歴史と共に発展してきた楽器ともいえます。ハープがオーケストラに入ると、響きがより豊かになって素晴らしくなります。