ミサ曲を味わうための予備知識

ミサ曲はカトリックの礼拝に組み入れられている歌であり、宗教曲です。カトリック以外ではミサという呼び名はしませんが、元々、西洋音楽の歴史は教会音楽の歴史と共に歩んできました。時代を重ねて行く内に、式次第が固定化されてきて、現在のような形になったのです。

西洋音楽が教会から抜け出し、独り歩きを始めてからも、作曲家はミサ曲を作り続けてきました。多くの作曲家は神と共にあったという事です。ベートーヴェンのように信仰心の弱い人物から、バッハのように神のために生涯を全うした人物もいます。

ミサ曲にも優れた作品が数多く残っています。信仰のあるなしにかかわらず純粋に音楽だけを聴いてみると、心が洗われるような気持になるものです。そんなミサ曲を味わうための予備知識を紹介したいと思います。

ミサ曲というと敬遠する方が多くいますが、普通の音楽と変わりません。合唱と独唱が入るだけです。
信仰のあるなしも関係ないんだ。要は美しい作品かどうかなのだ。

宗教曲とは

クラシック音楽の起源は教会音楽、つまりは宗教音楽から発展してきました。宗教音楽と言っても様々なジャンルがあり、今回テーマとしているミサ曲もこの中の1分野です。

・聖歌
・讃美歌
・ミサ曲
・モテット
・カンタータ
・オラトリオ
・レクイエム

大まかな括りでいうと、ここに挙げたジャンルで大方の宗教曲を網羅していると思います。

もっと詳しく分類するならば、聖歌にもグレゴリア聖歌やスターバト・マーテルなど枝分かれしていきますが、今回はそこが主眼ではないので、上記のジャンルがある事ぐらいを覚えて頂ければ十分です。

ミサ曲

教会に行ってミサを経験なされている方は良くご存じかも知れませんが、ミサ曲は司教によって開始され、式次第が決まっています。司教の言葉の後に「キリエ」が歌われ、お祈りが終わると「グローリア」が歌われるなど、ミサ曲全体が一度に歌われるわけではありません。

実際の教会の典礼ではそういう式次第で進められますが、我々がコンサートや録音で聴くミサ曲はそれらをひとつにまとめた形にして聴いているのです。教会から独立した宗教音楽は、信仰に関係なく我々聴衆の前で演奏されるようになりました。

宗教音楽は形が決まっているものが多くあります。ミサ曲も使われる歌詞が決まっているのです。様々な作曲家がミサ曲を作曲してきましたが、歌詞はKyrieだけがギリシャ語で他はラテン語の定型文が使われています。

【ミサ曲の構成】

1.Kyrie(憐みの讃歌)
2.Gloria(栄光の讃歌)
3.Credo(信仰告白)
4.Sanctus(感謝の讃歌)
5.Benedictus(ほむべきかな)
6.Agnus Dei(平和の讃歌)

ミサ曲と言えば、どの作曲家もこの曲順で作品を作曲しています。例外はありません。

ミサ曲の歌詞

ミサ曲は6曲から形成されています。どのミサ曲も同じです。ミサ曲の名曲は数多くありますが、形式、歌詞はみな同じものなのです。()の数字は対訳とリンクしています。

1.Kyrie あわれみの讃歌

(1)Kyrie eleison,
(2)Christe eleison,
(3)Kyrie eleison.

(1)主よ、憐れみたまえ
(2)キリストよ、憐れみたまえ
(3)主よ、憐れみたまえ

2.Gloria 栄光の讃歌

(1)Gloria in excelsis deo.
(2)Et in terra pax hominibus bonae voluntatis
(3)Laudamus te, Benedicimus te.
(4)Adoramus te, Glorificamus te,
(5)Gratias agimus tibi propter magnam gloriam tuam.  
(6)Domine Deus,Rex caelestis, Deus Pater omnipotens.
(7)Domine Fili unigenite,Jesu Christe.
(8)Domine Deus,Agnus Dei,Filius Patris,
(9)Qui tollis peccata mundi,miserere nobis,
(10)Qui tollis peccata mundi,suscipe deprecationem nostram.          
(11)Qui sedes ad dexteram Patris,miserere nobis.  
(12)Quoniam tu solus sanctus. Tu solus Dominus.
(13)Tu solus Altissimus, Jesu Chiste.
(14)Cum Sancto Spiritu in Gloria Dei Patris. Amen. 

(1)天のいと高き所には神に栄光。
(2)地には善意の人に平和あれ。
(3)我ら主をほめ、主をたたえ、
(4)主をおがみ、主をあがめ、
(5)主の大いなる栄光のゆえに主に感謝したてまつる。
(6)神なる主、天の王、全能の父なる神よ。
(7)主なる御一人子、イエズス・キリストよ。
(8)神なる主、神の子羊、神の御子よ。
(9)世の罪を除きたもう主よ、我らをあわれみたまえ。
(10)世の罪を除きたもう主よ、我らの願いをききいれたまえ。
(11)父の右に座したもう主よ、我らをあわれみたまえ。
(12)主のみ、聖なり。主のみ、王なり。
(13)主のみ、いと高し、イエズス・キリストよ。
(14)聖霊とともに父なる神の栄光のうちにアーメン。

3.Credo 信仰告白

(1)Credo in unum Deum, Patrem omnipotentem,     
(2)factorem caeli et terae, visibilium omnium et invisibilium.
(3)Et in unum Dominum Jesum Christum, Filium Dei unigenitum.
(4)Et ex Patre natum ante omnia saecula. Deum de Deo, lumen de lumine,
   Deum verum de Deo vero.    
(5)Genitum, non factum, consubstantialem Patri:
(6)per quem omnia facta sunt.
(7)Qui propter nos homines, et propter nostram salutem descendit de caelis,
   Et incarnatus est de Spiritu Sancto ex Maria Virgine:          
   Et homo factus est.         
(8)Crucifixus etiam pro nobis : sus Pontio Pilato passus,
   et sepultus est.                      
(9)Et resurrexit tertia die, secundum Scripturas.  
(10)Et ascendit in caelum: sedet ad dexteram Patris.
(11)Et iterum venturus est cum gloria judicare   
   vivos et mortuos: cujus regni non erit finis 
(12)Et in Spiritum Sanctum, Dominum et vivificanten: 
(13)qui ex Patre Filioque procedit.         
(14)Qui cum Patre et Filio simul adoratur, et conglorificatur:   
   qui locutus est per Prophetas.
(15)Et unam sanctam catholicam et apostolicam ecclesiam.
(16)Confiteor unum baptisma in remissionem peccatorum.  
(17)Et exspecto resurrectionem mortuorum Et vitam venturi saeculi Amen.

(1)我は信ず、唯一の神、全能の父、天と地、見ゆる物
(2)見えざる物全ての造り主を。
(3)我は信ず、唯一の主、神の御ひとり子、イエズス・キリストを。
(4)主はよろず世のさきに、父より生まれ、神よりの神、光よりの光、まことの
   神よりのまことの神、
(5)造られずして生まれ、父と一体なり。
(6)全ては主によりて造られたり。
(7)主は我ら人類のため、また我らの救いのために天より下り、聖霊によりて処女マリアより
   御からだを受け、人となりたまえり。
(8)ポンテオ・ピラトのもとにて、我らのために十字架につけられ、
   苦しみを受け、葬られたまえり。
(9)聖書にありしごとく三日目によみがえり、
(10)天にのぼりて父の右に座したもう。
(11)主は栄光のうちに再び来たり、生ける人と死せる人とを裁きたもう。
   主の国は終わることなし。
(12)我は信ず、主なる聖霊、生命の与えぬしを、
(13)聖霊は父とともに出で、
(14)父と子とともに拝みあがめられ、また預言者によりて語りたまえり。
(15)我は一・聖・公・使徒継承の教会を信じ、
(16)罪のゆるしのためなる唯一の洗礼をみとめ、
(17)死者のよみがえりと、来世の命とを待ち望む。アーメン。

4.Sanctus 感謝の讃歌

(1)Sanctus, Sanctus, Sanctus Dominus. Deus Sabaoth
(2)Pleni sunt caeli et terra gloria tua.
(3)Hosanna in excelsis.

(1)聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな、万軍の主なる神。
(2)主の栄光は天地にみつ。
(3)天のいと高きところにホザンナ。

5.Benedictus

(1)Benedictus qui venit in nomine Domini
(2)Hosanna in excelsis.

(1)ほむべきかな、主の名によりて来る物。
(2)天のいと高きところにホザンナ。

6.Agnus Dei 平和の讃歌

(1)Agnus Dei, qui tollis peccata mundi:
(2)miserere nois.
(3)Agnus Dei, qui tollis peccata mondi:
(4)dona nobis pacem.

(1)神の子羊、世の罪を除きたもう主よ、
(2)我らをあわれみたまえ。
(3)神の子羊、世の罪を除きたもう主よ、
(4)我らに平安を与えたまえ。

どの作曲者のミサ曲でも全てがこの定型文を用いています。
作曲家によって曲順が違ったりなどはないのだよ。全てのミサ曲がこの形で作られているのだ。

ミサ曲を聴いてみよう

入門者にも入りやすい作品という事で、モーツァルトの『戴冠ミサ』を聴いてみましょう。これは実際にバチカンのサン・ピエトロ教会で行われたミサのライヴCDです。実際には礼拝の式次第に従って、このミサ曲が途切れ途切れに演奏されています。

モーツァルトらしい音楽です。ミサ曲という事を忘れてしまうようなメロディが続きます。特に最後の『Agnus Dei』は綺麗で見事な音楽です。ソプラノ・ソロのメロディは一度聴いたら忘れられないほど素晴らしいものとなっています。

ミサ曲も様々あり、クリスチャンでもない私でも敬虔な気持ちにさせてくれるものや、この『戴冠ミサ』のように一般の音楽とそう変わりないものなど、それぞれです。

ミサ曲の最高峰はバッハの『ロ短調ミサ』と言われますが、演奏時間に約2時間も要する大作です。ここに辿り着くまで頑張りましょう。ベートーヴェンの『ミサ・ソレムニス』も聴いておかねばならない曲のひとつです。

まとめ

宗教音楽に対して抵抗を覚える方も多くいますが、美しい音楽の宝庫でもあります。自分は宗教に関係がないからとか合唱曲が苦手だからと手を出さない人たちに伝えたいです。ミサ曲にはその問題を打ち破ってくれる名曲が多く存在します。

ミサ曲は今や教会を離れ、コンサートのための音楽になりました。演奏機会はそう頻繁にはありませんが、聴きに出かけてみましょう。心を揺さぶられる音楽がそこに待っています。

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