
マルタ・アルゲリッチは『鍵盤の女王』と呼ばれるアルゼンチン生まれの、クラシック音楽界の歴史の中でも有数の偉大なピアニストです。ピアニストとしてのテクニックはもちろんですが、美しい容姿も彼女の数ある魅力の一つです。
美人で自由奔放、何にも縛られず、我が道を貫いた魅力溢れるピアニストです。鍵盤の女王という異名の他にも、ショパンコンクールの絶対王者としてもその名を馳せています。伝説的日本人ピアニスト、故・中村紘子にも「全てにおいて彼女には適わない」と言わしめた天才だったのです。
今回は鍵盤の女王と呼ばれる天才ピアニストであるマルタ・アルゲリッチの、演奏スタイル・私生活・名盤を紹介していきたいと思います。クラシック音楽界でも類を見ない、魅力溢れるピアニストの全てをご覧になってください。
マルタ・アルゲリッチの演奏スタイル
マルタ・アルゲリッチの演奏スタイルは、女性らしからぬ、ダイナミックにして華麗なピアニズムです。作品に宿る情熱を、感興の趣くまま極めて奔放に表現しながらも、それを抜群の指さばきで見事に引き締める卓抜な手腕は、 ピアノ界随一と言えます。
抜群の運動神経が可能にするメロディー
音楽の流れに敏感に反応し、それが瞬時に指先に伝わる抜群の反射神経・運動神経は、彼女が持って生まれた最大の武器であり、それこそが、あのマルタ・アルゲリッチの「わが道を行く」演奏を可能にしているのだと思います。
自由奔放でジャジャ馬のような激しさがあり、ミスをしようが余計な音を弾こうが全く持ってお構いなし。うなるような音色で重戦車のごとく突き進む、なんとも大胆不敵で天衣無縫な演奏です。
エネルギッシュな力強いタッチ
マルタ・アルゲリッチの演奏は、ちょっとした男性ピアニストでは負けてしまうとほど力強いです。恐ろしく強いタッチは、男勝りでエネルギッシュ!直情型で動物的本能が大爆発する、豪炎のようなピアノなのです。
その分、音の深みに欠ける時があったり、キメの荒さも気になりますが、そこは楽曲全体の構成を崩さない絶妙のバランス感覚でうまくカバーしています。集中力と勢いで聞く者を情熱の嵐に巻き込んでゆく演奏は、人を惹きつける天性の魅力に溢れたものです。
類まれな記憶力は天才ピアニストの証
マルタ・アルゲリッチの記憶力に関しては、音楽だけに限定されたものではなく、人の話や、本の内容なども一度で正確に記憶してしまうそうです。もっとも、一般に優れた音楽家には、当然のごとく優れた記憶力が備わっていて、一流の証とも言えます。
「天才」などという言葉を乱用してはいけませんが、マルタ・アルゲリッチに関しては他の言葉で表現するのは難しいでしょう。ピアノの演奏技術、記憶力、表現力などは、優れた演奏者たちの中でも、さらに人並みはずれたものがあります。
10代で受けたブゾーニ・コンクールにおいては、予選通過が決まってからの僅かな時間で本選課題曲を身につけたとか!隣の部屋で練習しているのを聴いているだけでその曲を覚えてしまったとか、一度覚えたら絶対に忘れないとか、その天才ぶりを語る逸話は数知れません。
練習熱心な鍵盤の女王
日本のマルタ・アルゲリッチのマネージャーである佐藤正治氏は、彼女が常に自分をアマチュア音楽家であると考え、非常に高い向上心を持って練習していると語っています。コンサート前の緊張感の凄さとかキャンセルする理由がここにあるのですね。
自由奔放で何でも思い通りに過ごしていそうですが、練習に関しては毎日手を抜かずやっているそうです。「少しでも努力を怠ると聴衆に気づかれてしまうのよ」とマルタ・アルゲリッチ本人もおっしゃっていますので間違いないかと。
さすがは鍵盤の女王!超一流ピアニストと称される天才も、見えないところできっちりと練習しているのですね。日々行なっている鍛錬こそが彼女特有の荒々しくも魅力溢れる、華麗な演奏を生み出しているのでしょう!
マルタ・アルゲリッチの私生活
若い頃は部屋の中は汚れ放題、下着なんかもそのまま脱ぎっぱなしで、掃除や洗濯をする訳もなく、ようやく起き出してくるのが、午後2時頃。マルタ・アルゲリッチの大ファンである私も含め、多くのファンはそんな抜けた一面も彼女の魅力と捉えてしまうのだから不思議です。
マルタ・アルゲリッチは自分が協力したいと思った人や、可哀相だと思った人を、誰彼となく、家に呼んでは寄宿させるという生活を平気で送っていたそうです。その上ネコを20匹も飼っていたのだから家の中は大混乱だったと思います。
お金には全くの無頓着で、周りの友人たちがいなければマルタ・アルゲリッチは借金生活を送っていたかもしれません。周りにいる人たちがつい手を差し伸ばしてたくなってしまうのもマルタ・アルゲリッチの憎めないというか、女神の魅力なんでしょうね。
マルタ・アルゲリッチの恋愛遍歴
マルタ・アルゲリッチは恋愛にも奔放で、数々の恋愛と3度の結婚をしています。それらの結婚生活はあまり長続きすることはなく、2人目と3人目に関しては子供をもうけたという話以外は表に出て来ていません。アルゲリッチはとにかく孤独がとても嫌いだったようです。
恋愛体質とは裏腹に、彼女の魅力や持って生まれたエネルギーのようなものは世の男性には強すぎたのかもしれません。マルタ・アルゲリッチが付き合っていたフランス人ピアニストは、彼女の才能を前に自信を喪失してしまい、深刻なスランプに陥ったなって逸話もあります。
最初に結婚した指揮者シャルル・デュトワとは1974年に演奏会のため一緒に来日しましたが、演奏をめぐってデュトワと口論になると彼女は演奏会を即キャンセル!即帰国!即離婚!!デュトワと韓国人ヴァイオリニストとの不倫が原因だったなんて噂もありますが謎のままです。
マルタ・アルゲリッチはキャンセル魔
鍵盤の女王と称賛され、ピアニストとして才能や魅力に溢れたアルゲリッチでしたが、とても臆病な一面もありました。ステージをとても怖がり、コンサートをキャンセルする事も多かったようです。いつしか音楽関係者の間では、キャンセル魔といったレッテルが貼られてしまいます。
しかしこのようなキャンセル行為も、音楽にたいする厳しい姿勢の表れとも言われています。常に自分に最上級の演奏内容を課し、それが実現できないことを常に恐れていたようです。最上の音楽が出来ない以上、その日の演奏は意味がないと思っていたようです。
一方ファンはそのキャンセル癖もアルゲリッチの一部として受け入れていました。常にキャンセルの可能性があるからこそ、演奏を聴けた時の喜びはかけがえのないものでした。キャンセル癖は、彼女のカリスマ性を増大させる事はあっても、人気を減らす事にはならなかったようです。
マルタ・アルゲリッチが長年ウィーン・フィルと協演しなかった訳
マルタ・アルゲリッチ程の天才ピアニストが、ウィーン・フィルと仕事をするのは極当たり前の事にも関わらず、デビューから60年以上が経過した2017年11月が初協演だった事をご存知でしょうか。クラシックファンならこの事実は本当に驚きです。理由がまた彼女らしいものでした。
ウィーン・フィルがオーケストラ界では唯一、女性を団員として入れていなかったのが理由であると、マルタ・アルゲリッチ本人も終演後のインタビューで答えていました。ウィーン・フィルが女性の団員を忌避する以上、ソリストである自分も協演しないという事だったのです。
ソリストである以上ウィーン・フィルとの協演は一流の証です。しかしそんなものには目もくれず、信念を貫いたその姿勢は鍵盤の女王の名に恥じない、彼女なりの矜持だったのでしょう。自由奔放で優しいイメージの彼女ですが、このようなかっこいい一面もまた魅力です。
日本が大好きなマルタ・アルゲリッチ
【来場御礼】水戸室内管弦楽団第103回定期での、名手の活躍で魅せたハイドンやウェーベルン、28日に水戸の舞台に復帰した小澤征爾総監督の指揮、マルタ・アルゲリッチのピアノによるベートーヴェン写真を掲載します。アンコールは26日がアルゲリッチ独奏、28日がアルゲリッチ&バボラークのデュオ! pic.twitter.com/frWWYWDn1m
— 水戸芸術館 コンサートホールATM (@ConcertHall_ATM) 2019年5月30日
マルタ・アルゲリッチと、日本が世界に誇る一流指揮者の小澤征爾が協演したコンサートを上皇ご夫妻が聴きに行かれた事が話題になりました。わがままで知られるアルゲリッチですが、日本がとにかく大好きで、日本に関わる事となると、打って変わって従順になるそうです。
日本を「ミシマの国」と呼ぶアルゲリッチ
なぜかマルタ・アルゲリッチは日本を「ミシマの国」といいます。三島由紀夫の影響でも受けたのでしょうか。日本という国の神秘、日本の洗練された所作や作法をこよなく愛しています。彼女はどうやら日本に魅せらてしまったようです。
奔放なアルゲリッチですが、自身の性格とは正反対にあたる、日本人の性質を好み、知的で鋭敏な人間性であると非常に高く評価しています。几帳面な日本人に対して大変好感を持ち、何よりも日本人の穏やかな言い回しを好んでいるようです。
日本で音楽祭を主催!
1998年より自ら総裁となり別府アルゲリッチ音楽祭を立ち上げています。世界の著名な音楽家や地元の音楽家たちによる音楽祭ですが、発足以来毎年必ず行なわれていて、驚くべき事にキャンセルされた事はありません。加えて合間を見て別のコンサートにも参加するなどもしています。
長時間にわたる「マラソン・コンサート」も行い、マルタ・アルゲリッチは色々な人と共演するために頻繁にステージに登場しています。また地元の合唱団の伴奏なども行なっており、本来の彼女は、気さくで音楽好きであることが窺われます。
マルタ・アルゲリッチが本当に日本を大切に思ってくれている事は、日本人ファンとしてとても嬉しく思います。海外に行かなくても鍵盤の女王の演奏が毎年必ず聴けるなんて、全世界で日本だけの贅沢な特権なのではないでしょうか!
マルタ・アルゲリッチの名盤
彼女の録音は本当に名盤ばかりで、カスは存在しません!だからこそ名盤がありすぎて、どれを選択しようか迷いに迷いましたが、私なりに鍵盤の女王マルタ・アルゲリッチのおすすめ名盤を紹介していこうと思います。
マルタ・アルゲリッチのおすすめ名盤
- デビュー・リサイタル(ショパン・ブラームス・リスト・ラヴェル・プロコフィエフ)
- ショパン:ピアノ・ソナタ第3番、幻想ポロネーズ、英雄ポロネーズ、3つのマズルカ作品59
- ショパン:ピアノ協奏曲第1番/リスト:ピアノ協奏曲第1番(指揮:クラウディオ・アバド)
- チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番(指揮:キリル・コンドラシン)
- プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第3番/ラヴェル:ピアノ協奏曲(指揮:クラウディオ・アバド)
- J.S.バッハ:ピアノ作品集
- シューマン:子供の情景、クライスレリアーナ
- ショパン:24の前奏曲集
- リスト:ピアノ・ソナタロ短調、シューマン:ピアノ・ソナタ第2番
- ラヴェル: 夜のガスパール、ソナティナ、高雅で感傷的なワルツ
他にも挙げたいCDが一杯です。どれもこれも素敵な録音です。最初のデビュー・アルバムはショパンコンクールで優勝する前の録音です。もう既に完璧なピアニストになっています。ショパンコンクールで優勝するのも当たり前です!
バッハのCDも大変気に入っています。自由自在で、極めて音楽的なバッハ解釈を披露したことで、大きな話題になりました。彼女の唯一のバッハ録音は心に染みるバッハです。ぜひ、聴いて欲しい名盤です。
挙げればキリがないのでここまでにしておきますが、マルタ・アルゲリッチは本当に気に入った物しか録音していません。レコード会社ともそういう契約らしく、好きなものを録音したくなったら録音するといった、緩い契約になっているようです。
神録音がまとめて手に入る
マルタ・アルゲリッチ ドイツ・グラモフォン録音全集【限定盤】
※公開時点の価格です。価格が変更されている場合もありますので商品販売サイトでご確認ください。
最後にお得情報です。ドイツ・グラモフォンに録音した中で人気ある曲を集めたアルバムが発売されています。その名も『マルタ・アルゲリッチ/ザ・コレクション』。ソロから協奏曲などVOL.1からVOL.3まであります。
もっと凄いのは『マルタ・アルゲリッチ ドイツ・グラモフォン録音全集【限定盤】』ドイツ・グラモフォンに録音した全ての曲を網羅したCD48枚組みのアルバムです。CDショップなどで買うと高いですから、アマゾンなどで手に入れるのがベストです。
まとめ
マルタ・アルゲリッチのエピソードの数々を中心に見て来ましたが、結論はやっぱり「天才ピアニスト」だということです。その事実だけは今後も変わる事なく、クラシック音楽界の歴史に深く刻まれていくでしょう!
マルタ・アルゲリッチも78歳なのですね(2019年6月現在)。一時代を築いた鍵盤の女王様も後どれだけ聴けるかと考えると、感慨深いものもあります。いつまでも現役で活躍なさる事を期待してこの記事の締めにしたいと思います。