
モーツァルトには数々の名曲が存在しますが、その中でも忘れてはならないものに『クラリネット五重奏曲』が挙げられます。オーケストラ作品ではない事もあり、積極的に聴く方が少ないのはとても残念です。
モーツァルトの傑作の中でも特に光り輝く存在になっていますから、ぜひとも、自分のお気に入りの作品として加えて欲しいと思います。「神のようなモーツァルト」という言葉以外にどう形容していいか分からない作品です。
この編成の『クラリネット五重奏曲』はそう多くはありませんが、モーツァルトの作品と比べるとどれもが色あせてしまうほどです。モーツァルトの傑作『クラリネット五重奏曲』に迫ってみたいと思います。


『クラリネット五重奏曲』とは
『クラリネット五重奏曲』とは普通はクラリネットと弦楽四重奏で演奏される楽曲です。まれにクラリネット5本で演奏するのもこの呼び名が使われますが、ほとんど聴く機会は無いでしょう。
クラリネットと弦楽四重奏の編成で楽曲を作曲したのがモーツァルトが最初です。この楽曲に刺激されて、ブラームスを始め、ウェーバーなど数人が作曲していますが、現在でも演奏されるのはモーツァルトとブラームスに限られるといっても良いでしょう。
編成自体がとても稀なため『クラリネット五重奏曲』を作曲した作曲家が少ないといわれていますが、この楽曲のモーツァルトのものを聴いたら、他に何をどう作れば良いのか考えてしまうという事もその一因であると思われます。
モーツァルト『クラリネット五重奏曲』
モーツァルトが「ウイーンの最初のクラリネット名演奏家」と称賛されたアントン・シュタードラーの為に書いた作品です。モーツァルト33歳の作品で傑作のひとつと言われます。
傑作はかく存在する
クラリネットの温かな響きと穏やかなメロディが溢れている音楽です。郷愁を感じさせられる懐かしい調べに満ちています。瞑想的な音楽と表現してもいい音楽なのです。
この楽曲を傑作といわずして何を傑作というのでしょうか。モーツァルトらしさが存分に感じられて、我々を違う世界へ連れて行ってくれます。
美しさやロマンティシズムを感じさせてくれる名曲です。まさに傑作とはこんな音楽を言うのですよと教えてくれています。モーツァルト面目躍如の楽曲に他なりません。
モーツァルトの神がかり的楽曲
『クラリネット五重奏曲』を作曲している頃のモーツァルトは収入が半減して、誰かれなく借金を繰り返していた時期であり、生活は困窮していました。
しかし、この音楽にはそんな日常の不安定な要素など全く感じさせる事なく、音楽美だけを追求して作曲されています。本当に神から音符を授けられたとしか思えません。
この『クラリネット五重奏曲』は、アインシュタインが「これこそはまさしく最も洗練された室内楽作品である」と高く評価しているように、モーツァルトの晩年における最高傑作のひとつとなっています。
吉田秀和の評論
音楽評論家の吉田秀和が、この楽曲の核心をついている評論をしているものがあります。少々長くなってしまいますが、引用しておきます。
何という生き生きとした動きと深い静けささとの不思議な結びつきが、ここには、あることだろう。動いているけれども静かであり、静穏のなかに無限の細やかな動きが展開されている。・・・」
※吉田秀和 『モーツァルトを求めて』 白水uブックスより
あの吉田秀和さえ「神のようなモーツァルト」と書いてしまうほどの名曲なのです。静穏のなかに無限の細やかな動きが展開されているーーまさにその通りの音楽となっています。


楽曲の解説
楽曲の概要を理解したところで、各楽章毎に見ていきましょう。どの楽章も置かれているところにきちんと置かれているというイメージがあります。この楽曲は4楽章であり、演奏時間は30分程度です。特に有名なのは第1楽章と第4楽章でしょうか。
第1楽章
この楽曲の顔ですから、親しみやすい、どんな人にでも受け入れやすい、柔和な音楽となっています。特に有名な楽章です。
アレグロとの指定はありますが、そんなに早い演奏と感じる事がないのは、モーツァルトのテクニック故でしょうか。それとも演奏する側の解釈の方が大きのでしょうか。
冒頭からして綺麗な音楽で、弦楽四重奏から始まり、その後にクラリネットがアルペジオで加わってきます。モーツァルトの上手さが表れているところです。
クラリネットと弦楽四重奏のメロディが入れ替わったり、まるで両者が対話しているかのように聞こえます。何でもないような音楽ですが、心に染みてくる音楽です。
第2楽章
とても美しい緩徐楽章となっています。クラリネットと弦楽四重奏がゆったりと絡み合い音楽です。漂っている雰囲気が感じられます。
第3楽章
優雅なメヌエット楽章です。最初のトリオ(メヌエットの中間部)は弦楽四重奏だけで奏でられ、2度目の時はクラリネットも加わります。この感じが違うトリオの対比が面白さを引き出しています。
第4楽章
この楽章も有名なものとなっています。軽快な主題が印象的な、変奏曲です。第4変奏まではとても軽快な変奏曲になっています。
しかし、第5変奏では印象が変わり、ゆっくりした優雅な感じに変化。そして、第6変奏は元の主題に戻り、パッと雰囲気が変わり、生き生きとした音楽で終了するのです。
試聴してみましょう
ザビーネ・マイヤー/アルミーダ四重奏団(2019)


まとめ
モーツァルトの室内楽曲では絶対に外せない作品です。クラリネットと弦楽四重奏の掛け合いに、つい引き込まれてしまう音楽になっています。
管弦楽のような迫力はありませんが、こんな優しい名曲もある事を知って欲しいです。そして、もっと室内楽に興味を持ってくれる人が増えてくれるとありがたいです。