モーツァルトの青年期

モーツァルトの音楽、例えばピアノ曲の難易度はベートーヴェンやリストなどと比べれば難易度はそう高くありません。子供の頃ピアノを習った方も『トルコ行進曲』など演奏した事でしょう。全音ピアノピースでは難易度Bです。

だからこそ子供でも弾けていたのですが、プロとして演奏する場合、これが全く難しくなってしまうのがモーツァルトの不思議なところです。

リサイタルとして観客に聴かせるとするとモーツァルトは簡単だから難しくなってしまうのです。矛盾した事を書いているようですが、本物のモーツァルトの音楽は意外とプロ泣かせの作品が多く存在します。

なぜモーツァルトは難しいのか

プロ・ピアニストの本音

プロのピアニストは口を合わせたかのように誰でもモーツァルトは一番弾きにくく難しいと言います。ピアノソナタの難易度でいえばモーツァルトはそう高くないのに何を持って難しいというのでしょうか。

例えば『トルコ行進曲』は子供のピアノ教室でも教えるぐらいの簡単な楽曲で、発表会でも良く演奏されます。それには子供だからという理由があるのです。子供はモーツァルトを何も考えずに無心に弾くのでより良く聴こえるのだそうです。

大人になりモーツァルトの解釈云々が頭に入ってくると、モーツァルトの楽曲は途端に難しくなると言います。一言でいえばモーツァルトはシンプルだからこそごまかしが効かなく、本人の力量がすぐわかってしまうのです。

プロはリサイタルでオール・モーツァルト・プログラムなんて本当はやりたくないのが本音のよう。年齢を重ねて、ある程度の悟りを開いた方でないと本当のモーツァルトは弾けないのですね。

動画の説明

動画はフジ子・ヘミングの演奏ですが、テンポは速すぎるし、ミスタッチは多いけれども、心が伝わって来ます。このレベルまで達観した人でないとモーツァルトは演奏出来ない事がしみじみ分かります。本物のモーツァルトを聴かせてくれるのは、後は日本人では内田光子ぐらいでしょうか。

モーツァルトは子供の音楽

ピアニストのバルバラ・ヘッセ=ブコフスカは自身の生徒たちに「モーツァルトの音楽は子供が弾くものだ」と教えていたようです。彼女の本心はどこにあったのかこれだけでは分かりませんが、言いえて妙な言葉ですね。

子供の無邪気に弾くモーツァルトの演奏は何と魅力的な事か。それに比べて・・・と話は続くのですが、結論を言ってしまえば、モーツァルトを演奏するにはそれ相応の勉強を積まないと弾けない音楽という事です。

子供の頃の無邪気さを失ったら演奏出来ない音楽でもあるという意味も含めているのだと思います。「まる覚え」と「無思考」で楽しく演奏していた子供時代。モーツァルトは考えれば考える程おかしくなっていきます。

指揮者の意見

指揮者のアンドレ・プレヴィンの言葉です。

モーツァルトは指揮しようがピアノを弾こうが、とにかく演奏家にとって非常に難しい作曲家です。確かに楽譜は簡潔。音符も決して多くない。でも、そのひとつひとつの音のなかにさまざまな意味が込められています。ですから、テクニック的には簡単かもしれないけれど、ひとつのフレーズだけを見ても何百通りもの解釈があるから難しいんです。

あなたが世界中の指揮者に聞いたら、みんなモーツァルトが一番難しいと答えるんじゃないですか。そして、もっとも好きな作曲家としてもモーツァルトの名を挙げる人が多いでしょうね。

モーツァルトもひとつひとつの音符を見ると、それは単なる音でしかありえない。しかし、ずっとそれを見つめていると、その背後にあるものが見えてくるのです。モーツァルトが本当にいいたかったことは何だったのか。そうなることによって解釈が広がっていきます。

それから、モーツァルトは自分が悲しい気持ちのときに指揮すると、その気持ちが反映されるし、また気分が高揚しているときは、それがそのままはね返ってくるというおもしろさがあります。

モーツァルトの音楽が良く分かっている指揮者らしい言葉です。

改めてモーツァルトの難しさについて

動画はマグダレーナ・バチェフスカの演奏です。全音ピアノピースでは難易度Dという中級クラスの楽曲ですが、プロのピアニストの手に掛かればこんなにも深い音楽になるのです。

指揮者プレヴィンの言葉にもあるように、モーツァルトは楽譜は簡潔、音符も多くない、しかし演奏家にとって非常に難しい事を分かって貰えたかと思います。モーツァルトは簡単な曲ばかりを作曲していると言っているわけではありません。

計算された尽くした究極の音楽で、一部の隙も無い音楽だと言っているのです。だから難しいのです。音と音の間の取り方、フレーズの解釈など、神が遣わした音楽に演奏者がどう向き合うのかが問われているのです。

まとめ

演奏家が良く言う「モーツァルトは難しい」という言葉は結構深い言葉だったのですね。演奏家にこれだけのプレッシャーを掛けるとはモーツァルトも罪作りです。ピアノ初心者からでも演奏出来て、尚且つ、プロの演奏会にも乗る音楽って、考えると凄いですね。

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