日本のハーピスト界の頂点に立つ吉野直子ですが、早いものでデビューしてから30年を超えたのですね。吉野直子の名を世界中に轟かせた、1985年の第9回イスラエル国際ハープ・コンクール。史上最年少の17歳で優勝したとのニュースには驚かされました。

デビュー30周年を記念して、2016年から5年計画で始めた録音プロジェクトを現在も実行中です。自主レーベルを作り、毎年1枚ずつCDをリリースしています。2016、2017、2018、2019年と続いて、2020年に最後のCDをリリースする予定です。

ハープ曲は曲数が少ないので、ハープ以外の曲を編曲して「ハープ・リサイタル」として発表しています。ハープという楽器の特徴を最大限に活かして、我々に音楽の素晴らしさを伝えています。その姿勢はデビュー以来変わっていません。吉野直子の素晴らしさを紹介したいと思います。

吉野直子・略歴

吉野直子(よしの なおこ)、1967年12月10日、ロンドン生まれ。父が銀行マンでロンドン赴任中に誕生。母はハーピスト。一度帰国するが、父の赴任のため、6歳でアメリカのロサンゼルスに渡る。6歳からハープを始め、スーザン・マクドナルドに母と共に師事。

9歳の時に一家は帰国。日本では母が先生となる。中学から大学は音楽校ではなく、一般の学校での教育を受ける。1981年、第1回ローマ国際ハープ・コンクール第2位入賞。1985年、第9回イスラエル国際ハープ・コンクールに最年少の17歳で優勝。同年、アリオン賞受賞。

優勝後は世界各地の有名オーケストラに招かれ、絶賛される。また、ザルツブルク音楽祭を始め、各地の音楽祭にも招かれている。1987年、村松賞受賞。1988年、芸術祭賞受賞。1989年、モービル音楽賞奨励賞。1991年、芸術選奨新人賞受賞。

吉野直子「ハープ・リサイタル」

2016年、デビュー30周年を記念して、独自レーベル、グラツィオーソを立ち上げ、「ハープ・リサイタル」シリーズを始めています。5年間かけて、毎年1枚ずつCDをリリースする予定です。もう、2019年まで4枚のCDがリリースされていて、どれも好評を得ています。

自分が残したいものを、良い形で聴いて貰うにはどうしたらいいかと考えた結果、自分でやってしまったほうが、大変ではあるけれどじっくり作れると考え、自主レーベルを設立しました。30周年という区切りの時期でもあり、40代後半になって、今やっておくべきと考えたそうです。

いろいろなことに興味を持って、オープンでいたい、という気持ちが大切で、どこに自分の軸を置きたいか、今の年代になって、はっきりしてきたと言います。「ハープ・リサイタル」シリーズは、今現在の吉野直子の集大成としたかったのでしょう。

ハープという楽器

吉野直子自身がハープについて語っています。

「ハープは一般的に、ポロンポロンと優雅に響いているイメージが強い楽器です。しかし、心地よさだけではなくて、凄くドラマチックだったり、力強かったりもする楽器です。ピアノやヴァイオリンのように、誰でも知っている曲はあまりありません。

モーツァルトの『フルートとハープのための協奏曲』などは、聴いたことがある方も多いのでは、と思います。フルートとの掛け合いも楽しいですし、素晴らしい曲です。ハープにはペダルが7本あって、ドレミファソラシの7つの音に対応しています。

1本のペダルが、フラット、ナチュラル、シャープと、3つのポジションに入るようになっていて、例えばファのペダルをシャープに入れると、ファの弦が全てシャープになるという仕組みです。ハープは優雅に見えますが、実は足の役割も大きい、けっこうハードな楽器なんです。」

吉野直子の素晴らしさ

吉野直子のハープ音楽は類い稀なテクニックと音楽性に溢れていて、まさにハープを弾くために生まれてきたような感じを受けます。彼女の奏でるハープの音色はとても澄んでいて、音楽の解釈も全ての人が分かるような的確で明快なものです。

幼少時はヴァイオリンとピアノも勉強したようですが、最終的に自分で選んだ楽器がハープだったそうです。母親がハープ奏者で、母親のお腹にいる時からハープの音色を聴いていたと本人が言っているように、彼女には最も日常的な楽器だったのだと思います。

吉野直子は自分の先生はスーザン・マクドナルドただ一人であると言っています。6歳から9歳までロサンゼルスで学んだあとは、母親にも教わりましたが、夏休みなどを利用して、ロサンゼルスまで出かけて行って、マクドナルドに教わっていたそうです。

それだけでコンクールで優勝してしまうのですから、天性の才能を持っていたのだと思います。勿論、人知れず血の滲む様な努力をしてきた事もあるでしょう。しかし、才能が無くてはここまでの名声は獲得できません。やはり、吉野直子はハープを弾くために生まれてきたのです。

吉野直子の最後の晩餐は

音楽とは関係ありませんが、面白い話を一つ。食に関しては結構貪欲な方らしく、食べ物に関するインタビューで、最後の晩餐には何を食べますかとの質問に彼女はこう答えています。

炊きたての新米にうなぎのたれをかけた「うなだれ丼」を食べたい。ロサンゼルスに住んでいた頃、ディズニーランドに家族で行った帰りに必ず寄ったのがうなぎ屋さん。うなぎも好きだけど、たれが染み込んだご飯がたまらなくおいしかった。あれを超える味には出合えないと思います。」

まとめ

吉野直子は、人間としてとても誠実な方だと思います。様々なインタビューでの受け答えから、それが良く伝わって来ます。彼女の音楽もまさにその通り。実にピュアな音楽を聴かせてくれます。この人だからこそ、この音楽性が生まれてくると思ってしまいます。

「ハープ・リサイタル」シリーズが終了したら、吉野直子はハーピストとしてまた一つ大きくなる事でしょう。そうして、ますます素晴らしい音楽を我々に聴かせてくれると思います。

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