オーケストラの楽員達は指揮者が良い演奏をすれば、それに応えて反応します。オーケストラ独特の称賛の仕方があるのです。
基本的にはオーケストラの楽員は楽器を持っていますので、一般の拍手はなかなか出来ません。そこで、彼らは自分の受け持つ楽器に合わせた方法で指揮者を称賛します。
オーケストラ活動をやってきた人にとっては当然知っている事でしょうが、一般の聴衆にとっては、知らない方もいるでしょうから、オーケストラの指揮者への称賛の仕方について少し纏めておこうと思います。
オーケストラからの指揮者への称賛
演奏が終わると、客席の拍手に応じて、指揮者がステージとステージ袖を何回か行き来をします。これはカーテンコールと呼ばれるものです。
オーケストラの最大の賛辞とは
カーテンコールの2回目に、いくら指揮者が促してもオーケストラが立たない場合がある事をご存じですか。立たない代わりにその場で足踏みをしてドンドンと床を鳴らします。
これは演奏が余りにも素晴らしかったのでその事に敬意を表して、指揮者を称えているのです。この拍手(?)がオーケストラ側からの最大限の称賛になります。
時には地響きのように客席に聞こえてくる時があります。これを聞くと「ああ、今日はいいコンサートだったんだ」と聴衆でも分かるのです。
その後で指揮者は楽員を立たせ、会場内はブラボーの嵐に包まれます。音楽家にとって一番嬉しい瞬間でしょう。
弦楽器の人は弓で譜面台を叩いたりもしています。これらは何をしているかというと、彼らは指揮者に対して拍手を送っているのです。弦楽器奏者の儀式のようなものです。管楽器の人は通常の拍手をしています。
通常の演奏の場合
前述のような大絶賛の演奏まで行かない場合は、オーケストラは指揮者の合図によって立ち上がり、客席からの労いの拍手を受けます。
弦楽器の人は弓で譜面台を叩き、管楽器の人は拍手をして指揮者に対しての賛辞を示すだけです。これは、礼儀の一つと言えるでしょう。
通常のコンサートではこの形がほとんどです。前章のような名演と呼ばれる演奏はそう簡単に生まれるものではありません。
カーテンコールも3、4回で終了となり、オーケストラも一礼して楽屋に引き上げます。
オーケストラ側に不満がある演奏の場合
指揮者も演奏が上手く行かない時もあります。その時はオーケストラ側の責任でない限り、本当にそっけない態度をとるのです。
先に述べた、床を足で踏み鳴らす行為や弓で楽譜立てを叩く行為を行いません。称賛できないのですからオーケストラは何も行わないのです。
もっと酷い時は、指揮者がコンサートマスターに握手を求めても、それを拒否します。ここまでオーケストラ側が拒否する事はほとんどありません。
私も少なく数えても300回以上はコンサートに通っていますが、この光景は1度しか見たことがありません。
この時は指揮者ではなくソリストでしたが、ソリストがコンサートマスターに握手を求めに右手を差し出しましたが、コンサートマスターはこれを拒否しました。
その音楽家の名誉にもかかわってきますから、その人は誰だったかは秘密にしておきましょう。それだけオーケストラは厳しい姿勢でコンサートに臨んでいるのです。
基本、演奏が気に入らなくてもオーケストラは最後まで相手してくれます。プロですから、最低限の仕事はします。でも拍手も何もなしです。
しかし、こういうコンサートは本当に稀です。そこまで嫌われた音楽家は2度とそのオーケストラには呼ばれなくなります。
アンコールについて
演奏が上手くいった場合、カーテンコールを4度、5度と繰り返し受けますが、基本的に定期公演にはアンコールはありません。
定期公演はオーケストラにとっての公式戦ですから、演奏プログラムだけでの本格的な勝負の場なのです。
しかし、稀に行われる事もあるのです。私は新日本フィルの定期公演で、2回だけ経験しています。これは例外中の例外です。
アンコールがあるのは名曲コンサートや外国オーケストラの来日公演の一部に限られます。
ベルリン・フィルはアンコールはやりません。ウィーン・フィルはアンコール・ピースを用意しています。これも各オーケストラの考えにより異なっているのです。
指揮者でなく、ソリストの場合、演奏が上手くいった場合にアンコールをしてくれる事があります。アンコール曲が決まっているソリストもいますし、毎回違う人など様々です。
アンコールを聴けた時はなんだか得をした気分になるものです。クライバーがバイエルン国立管弦楽団と来日した時は3曲もアンコールをしてくれて驚きました。だから、マメにコンサートに行っていないとそんなチャンスに巡り合えないのです。
まとめ
聴衆にとってもその日の演奏のバロメーターにもなります。床ドンが少なければ大していい演奏じゃないと思えばいいし、盛大に聞こえれば素晴らしい演奏だったということです。
演奏後のオーケストラの態度に注意して貰うと、自分の聴き方の良し悪しも判断できます。
オーケストラは本当にシビアです。どんな指揮者であれ、名前で判断はしません。どんな「音楽」を聴かせてくれるかで判断しているのです。
そう考えると、オーケストラというのは指揮者にとっては怖い存在なのです。