おすすめの序曲10選

現在では、人気のある序曲はコンサートの開始曲として演奏される事が多く、序曲だけで独立したショートピースとして扱われています。その日のコンサートの掴みにあたるもので、短い曲ながらとても大切な役割を持っています。

モーツァルトの『フィガロの結婚』世界中で最も多く演奏されている序曲といえるでしょう。コンサートの1曲目として相応しい楽曲であり、場の雰囲気を高めてくれます。

その中から特に有名な序曲の名曲を紹介します。今回は前奏曲は対象とせずに、あくまで序曲に限定します。R・ワーグナーなどはとても有名な前奏曲を作曲していますが、それは次の機会にしましょう。

序曲とは

序曲は、オペラや劇付随音楽、古典組曲などの最初に演奏される音楽の事です。例えば、オペラの序曲ならば、その全体像にふさわしい内容を含んでおり、これから繰り広げられる物語の雰囲気を伝えてくれます。

オペラや劇付随音楽、古典組曲の序曲とは少し意味合いが違います。オペラや劇付随音楽の序曲は劇全体の性格や粗筋を暗示するように作曲されますが、古典組曲の序曲はバロックのみで使用されるものです。第1曲目を独特の音楽形式にしたものを指します。

オペラだけに留まりますが、ロマン派以降は序曲ではなく前奏曲として発展します。序曲よりもオペラのストーリーと一体になったものに変化していきました。

10選の基準

  1. 人気のある序曲である
  2. 楽曲としてこれから展開されるストーリーを上手く表現できている
  3. 独立した音楽としても優れている

これらの基準を満たす序曲を厳選して、10曲選択しました。どの序曲もコンサートの最初の音楽として使用される頻度が非常に高いものとなっています。

モーツァルト『フィガロの結婚序曲』


マリス・ヤンソンス/VPO(2006)

序曲として最も有名で、音楽的完成度の高い、名曲中の名曲です。楽しく軽快で、このオペラが喜劇的な要素がある事を暗示しています。これから楽しいオペラが始まるという期待感を大きく持たせてくれる作品です。

時間にして5分ほどの短い曲ですが、モーツァルトの天才さがギューッと詰まっている作品です。この作品を今まで何度聴いたかは数えきれません。しかし、毎回思い浮かぶのはまた楽しい音楽が聴けるというワクワク感。まさに神の子モーツァルトにしか書けない音楽なのです。

ベートーヴェン『エグモント序曲』


テンシュテット/ロンドン・フィル

ゲーテの「エグモント」戯曲のための劇付随音楽の序曲です。現在ではこの戯曲自体が忘れ去られ、上演される事は無くなりました。序曲だけが残ったわけです。冒頭の重々しい和音からしてこの作品が悲劇的な要素を持っている事が分かります。

如何にもドイツ古典派の重厚な響きを持つドラマティックな内容で、人間の苦悩しか感じられません。楽しそうな様子が一切なく、曲全体が暗い表情をしています。重々しい作品ですが、べートーヴェンの数少ない序曲の中では最も出来栄えが優れているといえます。

ベートーヴェン『フィデリオ序曲』


バーンスタイン/ウィーン国立歌劇場

ベートーヴェン唯一のオペラ『フィデリオ』の序曲です。この作品も完成度の高い名曲です。これから何か特別な出来事が起こる事を予感させてくれます。冒険活劇が始まるような期待が体の中から湧き上がってくる音楽になっています。

『フィデリオ』のためにベートーヴェンは4曲もの序曲を作曲しましたが、最後にこの楽曲に落ち着きました。なかなか、彼のオペラが聴衆に受け入れて貰えず、改訂に次ぐ改訂を行ったためです。最後はタイトルまで変えてようやく人気オペラとして受け入れられたのです。

ロッシーニ『セビリアの理髪師序曲』


アンドレス・オロスコ=エストラーダ/ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団(2012)

どこか楽し気な雰囲気を醸し出す名曲です。このオペラが喜劇的な内容である事が良く分かります。軽妙なノリのリズムで、親しみやすく美しい旋律が魅力です。楽曲の後半にかけて盛り上がりを見せます。イタリアの音楽はかくあるべしといった楽曲です。

ロッシーニは手抜きをして、このオペラの序曲を書いていません。でも、あるじゃない?と思いますよね。実は自分のオペラ『パルミーラのアウレリアーノ』の序曲を使いまわししているのです。ロッシーニは『セビリアの理髪師』序曲を作曲していません。

ロッシーニ『ウィリアム・テル序曲』


吉田裕史/ボローニャ歌劇場フィル、有名部分から

ロッシーニが引退作に選んだオペラは『ウィリアム・テル』でした。37歳で引退とは、それまでに余程儲けたのですね。人気オペラを書きまくっていましたからね。それはそれとして、ロッシーニが最後に選んだのはスイスの英雄ウィリアム・テルでした。

4幕物の壮大なオペラです。序曲も4部からなり、静かなチェロから始まり、嵐、牧歌的な風景、そして最後に有名なファンファーレから始まる誰でも知っている行進曲風の音楽になります。動画でいうと8分31秒あたりからです。このオペラの劇的さを表現した勇ましい部分です。

ウェーバー『魔弾の射手序曲』


カラヤン/BPO(1975)

『魔弾の射手』こそドイツオペラの神髄と言われる作品です。この序曲もまた全曲の聴きどころが凝縮された名曲として知られています。牧歌的な角笛で始まりますが、途中から森の中の悪魔の気配が漂ったり、またテーマは素敵な旋律であって一度聴いたら忘れられない作品です。

魔物との闘いの物語と恋の物語が合体したストーリー性もあって、最後は大団円で終わるところが良く表現されています。まるで序曲の手本となるような楽曲となっています。そして、歴史的な名曲です。

ブラームス『大学祝典序曲』


ニュージーランド交響楽団

ある年代以上の人にとっては、受験勉強を思い出す楽曲です。文化放送で放送していた「大学受験講座」のテーマソングであったためです。曲名の通り大学に関係した作品で、ブラームスがある大学からから名誉博士号を授与された返礼に作曲されました。

楽曲にはふんだんに当時の学生歌を取り入れていて、祝典序曲として厳かというよりはちょっと茶目っ気を出してみましたと言う内容になっています。ブラームスがこの楽曲の作曲に乗り気でなかった事が見え見えのものです。しかし、序曲として面白く聴けて人気があります。

リヒャルト・ワーグナー『さまよえるオランダ人序曲』


ヤーノシュ・コヴァーチ/ハンガリー国立管弦楽団

リヒャルト・ワーグナーがまだ楽劇を作曲する前の作品です。『さまよえるオランダ人』の上演時間は2時間10分ほどですが、彼の最も短いオペラとなっています。1幕物のオペラですから休憩がなく聴く方も大変です。

序曲ですが、冒頭からホルンによって演奏される不気味な感じで始まります。荒々しい海の様子とその後の静寂さ、そして呪われていている船が呪いから解放されるまでの物語の様子がよく表現されています。でも、決してハッピーエンドでない事も伝わってくる名曲です。

リヒャルト・ワーグナー『タンホイザー序曲』


ショルティ/CSO

ドイツオペラらしい重厚な楽曲です。冒頭から不安なイメージが付きまといます。この物語が悲劇である事が否が応にもよく伝わってくる楽曲です。分厚い管弦楽がその深刻さをより一層際立たせています。

メロディはとても華麗で美しいものですが、どこにも救いが感じられません。弦楽器がメロディの裏で、「タラタラタラ」と拍を刻むのがとても印象深いものです。こんな音楽はワーグナーにしか書けません。序曲の名曲ナンバー1を争うような楽曲です。

ヴェルディ『運命の力序曲』


カラヤン/BPO

冒頭の管楽器による3回の和音の繰り返しが2度続き、この物語の深刻さを表現します。過酷な運命を象徴するファンファーレです。その後の弦楽器での「タラララン、タラララン、タラララーララン」という響きも悲しみに溢れています。

悲劇性に満ちた内容のオペラですが、序曲はその暗さだけに拘り過ぎる事もありません。終盤はリズミカルな響きの豊かなスケールの大きな音楽となり、堂々たるエンディングとなって締めくくられます。この序曲も名作中の名作です。

まとめ

名曲の序曲10曲を紹介してきました。現在の私が選んだ10選はこうなりました。いずれも甲乙つけがたい魅力的な序曲です。我々を魅了する超名作の10曲です。『大学祝典序曲』だけは少し毛色の違った作品ですが、10曲の中でオペラの序曲が8曲を占めました。

コンサートの最初の曲は飾りのような位置にあるものと思っている方も多いかと思いますが、メインの楽曲だけにとらわれず、序曲も確りと味わって欲しいものです。

otomamireには以下の記事もあります。宜しかったらどうぞご覧ください。

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