ピアノ調律師不足

ピアノの調律師は音楽大学や専門学校で学び、国家試験を受けて晴れて調律師になる事が出来ます。ピアノメーカーの専門学校もあります。こうして毎年数百人の調律師たちが誕生しています。

なのになぜピアノ調律師がいなくなる可能性にピアノ界は危機感を持っているのでしょうか。一般家庭に良くあるアップライトピアノの調律師でさえ危機感があると言います。最も心配なのはコンクールやコンサートホールのピアノを調律する腕のよい調律師の件なのです。

今回はなにゆえにピアノ調律師の不足の危機を迎えてしまったのかについて考えてみようと思います。未来はピアノ演奏が聴けない事態が起こってしまう事さえありうるのです。

家庭からピアノが消えている

ひと昔前までは家庭にピアノがある事はひとつのステータスシンボルでした。しかし、現在では騒音の問題が大きくとらえられ家庭から普通のピアノは減少していくようになってしまったのです。現在の主流は電子ピアノになり替わりました。

電子ピアノの性能も良くなった事が変化のひとつの要因です。今の電子ピアノはタッチも本物のピアノのようになっていますし、強く弾けば強い音を、弱く弾けば弱音になるなど本物に近づいています。ペダルも本物のような形式のものも出てきました。

最初からプロを目指す人でない限り、また楽譜を読めて情操教育になればいいと思っている家庭には電子ピアノで充分なのです。何よりもヘッドホンで練習すれば騒音が出ない事という利点が大きいようです。ですから家庭に調律師を呼ぶ事も無くなってきているのです。

調律師も2通り

調律師は一般家庭のピアノを調律する「ピアノ調律師」とコンサートやコンクールで使用するピアノを調律する「コンサート調律師」の2通りあります。学校を出たほとんどが「ピアノ調律師」になりますから、「コンサート調律師」はますます数がいなくなってしまいます。

家庭での需要が減少しているので、当然、「ピアノ調律師」も供給が減ってきます。「ピアノ調律師」から上を目指し「コンサート調律師」になりたいと思う人も落ち込んできます。ピアノ調律師の不足問題は現在負のスパイラルに陥っているのです。

調律師の高齢化

ピアノ界で危惧している大きな要因は調律師の高齢化です。家庭にピアノがある家でも以前のように近場の調律師さんに頼む事が減ったのではないでしょうか。ピアノ自体を良く知っていて、いつも通りお願いするような調律師さんの数も減少しているのです。

年齢の事も、依頼の減少の事もあり、店をたたむ人が多く出始めました。家庭の需要が無くなってきたのですから、商売として上手くやっていけなくなったのです。

若手が将来の危機を感じて、調律師を目指す人も減ってきたと言われています。上手い具合に新旧交代が出来ぬ間に問題が発生してしまったのが一番の要因です。ベテランの調律師になるのは件数をこなす事ですが、今ではなかなか難しくなりました。

危機感を持っているのはコンサートホール

コンサートホールでは毎日のように演奏会が開かれピアノも使用されています。1台2千万円もするコンサートホールのピアノは、調律師の中でも優れた腕を持っていないと触らせてもらえません。落語でいえば真打にならないと一人前ではありませんが、それと同じ事です。

腕も耳も良い調律師は引っ張りだこで、今日はこのホール、明日はどこそこという具合に、多忙を極めます。弟子を育てるには時間が無いのです。コンサートは減るどころか少しずつ増えているのですから、名の知れた調律師は高給取りです。

しかし、そこまでのキャリアを磨くのには時間が掛かります。演奏者の信頼を勝ち取らねばなりません。演奏者から次回も依頼したいと思わせる調律師の数は限られているのです。その彼らが一定の年齢になってきて、ピアノ界に危機感が生まれています。

彼らの年齢は50代、60代が主流なのです。これから先10年、20年と経てば彼らは引退を迎えます。その時に「コンサート調律師」は不足してしまうのではないかという危機感です。

一説によると現在のコンサート調律師は100人にも満たないといいます。圧倒的に数が少なくなっていて、かつ、高齢化に瀕しているのです。

若者よ「コンサート調律師」を目指せ

最初から熱き思いを持って「ピアノ調律師」ではなく「コンサート調律師」を目指す人たちが多くなれば、危機もなくなるでしょう。より高度なテクニックや耳を要求され、一人前になるまで困難が続くと思います。それを乗り切って、「コンサート調律師」が増える事を望みます。

有名なピアニストとも話す事も出来ます。上手くいけばお抱えの調律師になれる可能性だってあるのです。調律師を目指している人の中で我こそはと思う人はどうかそちらを目指して欲しいと思います。人材が不足しつつある今だからこそ、狭き門ではなくなっているはずです。

まとめ

ピアノ調律師の不足は将来的なピアノ演奏にもしわ寄せが起きてくることになります。何とか今からこの危機を乗り越える策を講じていかないとピアノ界は大変な事になるでしょう。誰でもなれる職業ではないためにより深刻です。

現在、調律師を養成している学校でも同様の認識はあるはずです。どうか知恵を絞ってこの危機を乗り越えられるといいですね。ピアノを通じて音楽を愛する若者に挑戦してほしいものです。

関連記事