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エリザベートコンクール

エリザベートコンクールはクラシック界での世界三大コンクールの一つです。このコンクールは様々な変遷を見ましたが、現在はピアノ、ヴァイオリン、チェロ、声楽の4部門が行われるようになりました。中でもヴァイオリンとピアノ部門が特に評価の高いコンクールになっています。

4部門が一緒に行われるわけではなく、近年では毎年1部門のみの審査が行われる仕組みとなっています。作曲部門も行われていましたが2013年で終了し、入れ替わるように2017年からは新しくチェロ部門が追加されました。

このコンクールの審査方法はファイナルまで勝ち残ると、他のコンクールには見られない独特の審査方法が行われています。どのような審査方法なのか、どうしてそういった審査方法にしているのかなど、歴史や成り立ちを踏まえて詳細に見ていきたいと思います。

エリザベートコンクールの概要【世界三大コンクール】

 エリザベートコンクール bozar

正式名称は「エリザベート王妃国際音楽コンクール」ですが、クラシックファンの間では通称「エリザベートコンクール」と略して呼ばれる事が多いです。1951年ベルギーの元王妃エリザベートの名を冠して創設されました。前身はベルギーのバイオリニスト、イザイの名を冠したイザイ国際コンクールでした。

毎年ベルギーのブリュッセルにある、通称BOZARというコンサートホールで開催されています。画像でもわかるように、さすがヨーロッパと言った神々しいホールです。日本のサントリーホールなども頑張っていますが、こればっかりは文化や歴史の差としか言いようがありません。

エリザベートコンクールの成り立ち

Eugène Ysaÿe
1929年にエリザベート王妃音楽基金が設立しました。そして1937年に基金の代表であったベルギーのバイオリニスト、ウージェーヌ・イザイが「ウージェーヌ・イザイ・コンクール」という名のヴァイオリンコンクールを開催したのがエリザベートコンクールの始まりだとされています。

その後、第2次世界大戦のため「ウージェーヌ・イザイ・コンクール」は2年の間中止される事になるわけですが、1951年に「エリザベート王妃国際音楽コンクール」として再開を果たします。我々クラシックファンが愛する世界三大コンクールの一つの原型はこうして生まれました。

エリザベートコンクールはベルギーの首都ブリュッセルで毎年開催され、バイオリン・チェロ・ピアノ・声楽の順に各部門のコンクールが一年ごとに開催されています。”今年のバイオリンは最高だったね!来年のチェロも本当に楽しみだ!”というように珍しい開催方法なのも魅力です。

エリザベートコンクールの流れ

エリザベートコンクール

  1. 事前審査
  2. 1次審査
  3. 2次審査
  4. ファイナル

参加人数の増加により、事前審査が行なわれるようになりました。2015年大会(ヴァイオリン部門)の応募者は170名でした。年々審査部門も変わりますが、どの部門でも約200人程度が事前審査に参加するようです。

エリザベートコンクール【事前審査】

コンクール 予備審査
基本的に応募者全員が受けなければならない事前審査です。必要書類審査とDVDでの審査を行います。DVD演奏は課題曲の中から自由に選ぶ事ができます。三大コンクールの一つであるため人気は高く応募者数は増える傾向にあるため、ここである程度の数までふるいにかけられます。

約200人の応募者の中から、ここで約80名にまで選考されます。事前審査にさえ通るのが難しいエリーザベトコンクールです。誰でも自由に応募できるわけではありませんのでこの約80人は厳選された80人ともいえます。

事前審査を通ると初めてエリザベートコンクールの本大会に出場できる資格を得ます。まずは第1のハードルを越えたことになるわけです。しかし、これから待っているのは超難関な壁です。これを乗り越えられる者だけが、超一流としての栄冠を掴む事ができるのです。

エリザベートコンクール【第1次審査】

エリザベートコンクール
ここからは事前審査で選考された才能ある優秀な演奏家たちの、本当の勝負が始まります。今までに培ってきた音楽家としてのテクニック、解釈、楽譜に忠実でありながら、個性を発揮した音楽をアピールしていかねばなりません。

本選からは、審査員もビッグネームばかりの音楽家たちに代わり、約15人の審査員全員で審査に当たります。ファイナルだけに限らず、第1次審査もエリザベートコンクールならではの審査です。全て採点制であり、自分の弟子に対しては採点ができません。

コンテスタントは課題曲3曲を指定され、審査員にどの作曲家の何楽章を弾いてくださいと指示されます。どの部分が指定されるのか分らないため、コンテスタントは3曲とも最後まできっちり仕上げていかないといけません。この第1次審査で24名までになります。

エリザベートコンクール【第2次審査】

エリザベートコンクール
まず、第1次審査と同様の審査を繰り返します。この事によって、いかに音楽の対応力があるのかを審査します。第1次とは全く別の3曲を指定されて、しかも、第2次審査までの短期間でどこまで仕上げられるかを試されるわけです。

次に、オーケストラとの協奏曲の演奏を行います。曲目は抽選で決定され、オーケストラとの練習時間はみな同じ条件という公平性の中審査されます。与えられた課題曲を短い時間でどれだけ吟味し、自分の音楽にしたか、オーケストラとの合わせ方は正確かなどを審査されます。

2次審査は譜読みの正確さ、仕上げの速さ、自分の個性がそこに活かせたかなどが重要です。また、オーケストラとも合わせるために楽曲全体を理解しているか、ソロ部分は独自性を出していたかなどを審査されます。こちらも採点制であり、ここで12名までになります。

エリザベートコンクール【ファイナル】

エリザベートコンクール
ここからがこのエリザベートコンクールの凄いところで、他のコンクールとは一線を画す、独特の審査方法が取られます。全部門共通で、毎年12名のファイナル進出者は1週間大学に隔離されるのです。まるでNASAが行う宇宙飛行士の最終審査のような厳しい審査方法です!

  • 12名はエリザベート音楽大学のキャンパス内の施設に1週間隔離
  • この間はオーケストラとのリハーサル以外は外部との接触が禁止
  • 到着するとこのコンサートの為に依嘱された新曲の楽譜が渡される
  • 新曲の譜読みを行い、解釈し、1週間の間に自分の音楽にする
  • もちろんその間にもオーケストラとの協奏曲の練習も行なう
  • 電話やパソコンの持込は禁止であるが、共演者との接触は可能

いきなりこのコンクールのための新曲が渡され、1週間で仕上げてファイナルの審査に演奏しなさいという事です。また、この曲のほかに協奏曲も1曲演奏せねばなりませんから、本当に1週間音楽にのめり込む生活になります。かなりハードな要求を突きつけられるのです。

このやり方はこのコンクールの質の高さを維持するため最も重要なものとなっています。初見能力と短時間での曲の仕上げ方の才能が分かりますし、協奏曲に対する理解度も把握できます。そのコンテスタントがどのレベルに達しているかが理解でき、将来性も見えてきます。

エリザベートコンクール賞金

コンクール 賞金

第1位:25,000ユーロ(約330万円)
第2位:20,000ユーロ(約260万円)
第3位:17,000ユーロ(約220万円)
第4位:12,500ユーロ(約160万円)
第5位:10,000ユーロ(約130万円)
第6位: 8,000ユーロ(約100万円)

世界でも最高峰のコンクールですが、賞金的には一般的なコンクールとさして違いはありません。しかし、三大コンクールに関しては賞金など二の次!名誉こそがもっとも大切なのです!!何位になるかによって、音楽家としてのその後のキャリアに非常に大きな影響を及ぼします。

エリザベートコンクール【審査員】

エリザベートコンクール
近年エリザベートコンクールから才能ある演奏家が生まれないため、審査が甘くなったのではと指摘される声が多くあります。では2015年ヴァイオリン部門の審査員をご覧になってください。これだけのクラシック界の超一流演奏家が揃っているのだから甘い事なんてないかと思います。

絢爛豪華な審査員たち

  • アリエ・ヴァン・リズベス(審査員長)
  • ピエール・アモイヤル
  • パトリス・フォンタナローザ
  • ダニエル・ホープ
  • ナイユアン・フー
  • ドン=スク・カン
  • ナムユン・キム
  • ミハエラ・マルティン
  • 五嶋みどり
  • ナタリア・プリシェペンコ
  • マルコ・リッツィ
  • 諏訪内晶子
  • ギルバート・ヴァルガ(指揮者)
まさに三大コンクールに相応しい、歴史に名を残すメンバーが揃っています。バイオリン部門だけでなく、その他の年も世界的レベルの音楽家が招待されています。このコンクールを世界的な音楽の祭典にしているのも、華麗なる経歴を持つ審査員達の力が大きいからと言えます。

エリザベートコンクール入賞者

エリザベートコンクール
エリザベートコンクールのメインとなるピアノ部門とヴァイオリン部門において、優秀な成績を納めた入賞者を記載していきたいと思います。コンクールの特性上、一位が選出されなかった年もあります。惜しくも入賞できなかった現在活躍する演奏者も取り上げていますのでご覧ください。

ピアノ部門

1938年
第1位 エミール・ギレリス
第2位 ミハイル・ヴァイマン
第3位 Elise CSERFALVI
第7位 アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ

1952年
第1位 レオン・フライシャー
第2位 カール・エンゲル(スイス)
第3位 マリア・ティーポ
第10位 フィリップ・アントルモン

1956年
第1位 ウラディーミル・アシュケナージ
第2位 ジョン・ブラウニング
第3位 アンジェイ・チャイコフスキ
第5位 ラザール・ベルマン

1968年
第1位 エカテリーナ・ノヴィツカヤ
第2位 ヴァレリー・カミチョフ
第3位 Jeffrey SIEGEL
第10位 内田光子

1972年
第1位 ワレリー・アファナシエフ
第2位 Jeffrey SWANN
第3位 Joseph ALFIDI
第6位 神谷郁代
第7位 エマニュエル・アックス
第9位 シプリアン・カツァリス

1975年
第1位 ミハイル・フェールマン
第2位 スタニスラフ・イゴリンスキー
第3位 ユーリ・エゴロフ
第9位 花房晴美

1978年
第1位 アブデル・ラーマン・エル=バシャ
第2位 Gregory ALLEN
第3位 ブリジット・エンゲラー

1987年
第1位 アンドレイ・ニコルスキー
第2位 若林顕
第3位 Rolf PLAGGE
第5位 仲道郁代

2003年
第1位 セヴェリン・フォン・エッカードシュタイン
第2位 沈文裕(Wen-Yu SHEN)
第3位 なし
第5位 松本和将

2007年
第1位 アンナ・ヴィニツカヤ
第2位 プラメナ・マンゴーヴァ
第3位 Francesco PIEMONTESI
第4位 イリヤ・ラシュコフスキー

2013年
第1位 ボリス・ギルトブルグ
第2位 レミ・ジェニエ
第3位 マテウズ・ボロヴィアック

ヴァイオリン部門

1937年
第1位 ダヴィット・オイストラフ
第2位 リカルド・オドノポソフ
第3位 Elisabeth GUILELS
第7位 ローラ・ボベスコ

1951年
第1位 レオニード・コーガン
第2位 ミハイル・ヴァイマン
第3位 Elise CSERFALVI

1959年
第1位 ハイメ・ラレード
第2位 Albert MARKOV
第3位 ジョゼフ・シルヴァースタイン

1963年
第1位 アレクセイ・ミフリン
第2位 セミョーン・スニトコフスキー
第3位 Arnold STEINHARDT
第6位 潮田益子

1967年
第1位 フィリップ・ヒルシュホルン
第2位 ストイカ・ミラノヴァ
第3位 ギドン・クレーメル
第6位 ジャン=ジャック・カントロフ

1976年
第1位 ミハイル・ベズヴェルフニー
第2位 イリーナ・メドベージェワ
第3位 カン・ドンスク
第5位 石川静

1980年
第1位 堀米ゆず子
第2位 Peter ZAZOFSKY
第3位 清水高師

1989年
第1位 ヴァディム・レーピン
第2位 諏訪内晶子
第3位 エフゲニー・ブシュコフ

1993年
第1位 戸田弥生
第2位 Liviu PRUNARU
第3位 曾耿元(Keng-Yuen TSENG)

本当に入賞者の顔ぶれは錚々たるものです。その他の部門も同じように世界的に有名な名前が並びます。ただ最近の入賞者の活躍がやや停滞気味で、審査基準が甘くなったのではなどの批判があることも確かです。

まとめ

この音楽コンクールは特にファイナルの審査が独特で、コンクールの中でも異才を放っています。コンテスタントの才能を見極めるひとつのやり方です。この音楽コンクールのハイグレードを維持するための仕組みともいえるでしょう。

全て審査員の採点制であることもその審査に疑義をもたれなくするためです。若き音楽家が数多く集まってくるこのコンクールから世界を魅了するソリストが誕生してくる事を切に願っています。

【世界三大コンクール】

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