
クラシック音楽の中にはこんな珍しい楽器を使った作品もあるのかと驚かされる事があります。そういった作品を聴く度に作曲家の創造力とは凄いものだと関心せずにはいられません。その音色を使う必然性が作曲家の頭の中に生まれるのでしょう。
今回は珍しい楽器を使用している音楽を紹介していきます。れっきとした楽器からこんな物は楽器と呼べない物まで登場しますので、楽しみながら読んで頂けたら幸いです。生涯こんな楽曲は聴く事がないだろうなと思える音楽ばかりです。


チャイコフスキー『金平糖の踊り』
「チェレスタ」という楽器が使用されている楽曲です。動画を見て貰うと分かりますが、ピアノに挟まれた中央の白いアップライトピアノのような楽器が「チェレスタ」となります。「チャチャチャンチャ」と可愛いらしい、効果的な音を出す楽器です。
「チェレスタ」は鍵盤楽器の仲間でその構造上柔らかな音色を醸し出します。良い音色なので使用されている楽曲が多いかといえばそうでもありません。作曲家にとっては我々が思うほど魅力を感じていないためなのでしょう。
モーツァルト『グラスハーモニカのためのアダージョ』
「グラスハーモニカ」とは元々楽器ではないただのワイングラスに水を張った物です。水で濡らした指でワイングラスの縁を擦って音を出します。動画で見て貰うとその音色の良さも分かって頂けるでしょう。ただし、ワイングラスを調律するまでが大変そうですね。
この楽曲自体演奏される事は大変珍しいですが、「グラスハーモニカ」の代わりにピアノで演奏される事もあります。短い楽曲なのでリサイタルのアンコールなどに使われる事もありそうです。逆に言えば、短い楽曲なので準備自体が割に合わないため演奏機会が低いのです。

メシアン『トゥランガリーラ交響曲』
1928年に発明された電子楽器「オンド・マルトノ」という物を使用しています。楽器本体とスピーカー2台からなる楽器です。動画では指揮者の右側にある(ピアノの対面)楽器が「オンド・マルトノ」とスピーカーになります。
楽曲の途中でヒューンという音が聴こえますが、これが「オンド・マルトノ」の響きです。電子楽器なので音色は様々に変える事が出来ます。珍しい楽器ですのでメシアン以外でこの楽器を使用している人はほんの数人しかいません。
ラヴェル『ピアノ協奏曲』
「ムチ」を使用している楽曲です。動画を見て貰えば分かりますが、冒頭の1拍目にバシッという音が聴こえます。これが「ムチ」の音です。オーケストラではインディ・ジョーンズが使うような「ムチ」や競馬で使うような「ムチ」を使う訳ではなく、その音だけを再現します。
30㎝ほどの2枚の細長い木板を閉じることによって「ムチ」のような鋭い音を出します。動画でいうと、左側のドアの一番近いところの奏者が、冒頭の1拍目に「ムチ」を開いて合わせる様子が映っていますね。一瞬の音ですが非常に効果のある音です。
マーラー『交響曲第6番』
「ハンマー」が使われている楽曲です。ホームセンターで売ってるような金槌でも木槌でもなく、楽器屋さんで売っている正式な楽器です。金属製も木製もあり、より響くように木箱を叩きます。NHK交響楽団では5年に1度ぐらいしか使わないそうです。
動画では第1のハンマーが12分21秒、第2のハンマーが16分53秒に叩かれます。打楽器奏者が肉体労働だという事が良く分かる映像です。マーラーはティンパニーやバスドラムより衝撃的な音を鳴らしたかったのでしょうが、わずか2回しか使わない楽器が本当に必要だったのでしょうか。
タン・ドゥン『ウォーターパーカッション協奏曲』
「水」を楽器の一部として使用した楽曲です。ボウルに張った水の響きの効果を狙った作品となっています。現代音楽家の考える事は非常に突飛で付いて行けませんね。タン・ドゥンは水を使った作品を数曲作っています。
彼の作風は楽器ではないものを楽器のように使う事だそうです。「水」以外にも、様々な実験的な事をやっています。現代音楽では、クラシック音楽は再現芸術ではなくなり、偶然性の音楽に舵をきってしまったようです。
タン・ドゥン『ペーパー協奏曲』
『ペーパー協奏曲』という通り、「紙」を楽器として使用した楽曲です。動画で見ると、神主がお払いの時に使うような紙の束を振り回したり、筒状の段ボールを手で叩いたり、丸い紙やのぼりのように細長い紙をバチで叩いたりしています。
この楽曲も、タン・ドゥンの作品です。作風通り楽器ではないものを楽器のように使っています。視覚的な効果もあって面白い作品です。ただ、演奏会で取り上げられる頻度はかなり低いので、生で聴くのは激レアですね。
アンダーソン『タイプライター』
「タイプライター」を独奏楽器に使った協奏曲です。CMでも使われた事がありますので、割と知られた楽曲かと思います。タイプを打つ音と改行の指示音のチン(ほとんどはベルで代用)という音、そしてレバーの操作音が織りなすコメディ溢れる作品です。
2分程度の大変短い楽曲ですが、とても印象的で、1度聴くと忘れられなくなります。この楽曲はオーケストラだけではなく、吹奏楽にも編曲されて、良く演奏されています。良くぞ「タイプライター」を楽器として使ってくれましたという思いが溢れる楽曲です。

チャイコフスキー『1812年』序曲
何と兵器の「大砲」を使用する楽曲です。作曲者のチャイコフスキーは楽譜上に大砲の指示をしています!しかし、流石に演奏会場で「大砲」を使う訳にはいきませんので、通常はバスドラムで代用されます。初演の時に「大砲」を使ったかどうかは不明です。
動画は自衛隊の観閲式の演奏です。毎回『1812年』が演奏され、実際に「大砲」(空砲です)が使われます。動画の8分10秒に1回目の発射が行われ、2回目は10分13秒、そして曲の最後に一斉発射で締めくくられます。その場にいたら凄い迫力を味わえる事でしょう。


シュトックハウゼン『ヘリコプター四重奏』
誰もが考えもしない「ヘリコプター」が楽器として使用されている楽曲です。この曲の演奏にはヘリコプター4機、ヴァイオリン2名、ヴィオラ1名、チェリスト1名を必要とします。ヘリコプター4機に1人ずつ奏者が乗り込み、ヘリコプターの中で演奏をする作品です!
聴衆はコンサートホールで「ヘリコプター」の中の映像と音を楽しむそうです。「ヘリコプター」自体も編制として組み込まれているので、楽器として扱われています。現代作曲家の考える発想は我々の想像を超えています。


まとめ
「珍しい楽器を使用している音楽」を見てきましたが、楽器以外を楽器として使用するのはやはり現代作曲家が圧倒的に多くなります。彼らの求める音楽とは一般常識では測れない物があるようです。それで音楽が人の心を癒すなら成功といえますが、どうでしょうか。