レスピーギといえば『ローマの噴水』『ローマの松』『ローマの祭り』のローマ三部作が有名な作曲家です。いずれも交響詩ですが、単に現在のローマの風景を描写した訳ではなく、かつてのローマ帝国まで遡って歴史を見ているような作品となっています。
イタリア人のレスピーギだからこそ作曲できたものと言えそうです。3作共にオーケストレーションの見事さが光ります。リムスキー=コルサコフに作曲を学んだ事により、こうも華々しい音楽が書けたのでした。
ダイナミクスが広いのが特徴で、弱音から会場中に響き渡る最強音までを含んでいます。最強音はホールが壊れてしまいそうです。このような、レスピーギのローマ三部作を1曲ずつ紹介して行きます。
(注)楽曲の構成で、曲名の次の「」で囲まれた文章はレスピーギが楽譜に書き入れたものです。
ローマ三部作について
「ローマ三部作」と言われていますが、レスピーギはこれらの交響詩を連作にしよう思って作曲したわけではありません。ローマの音楽大学の教授となって、ローマに移住してから訪れた名所にインスピレーションを得て、その都度作曲したものです。
「ローマ」の名所や催し物に接するようになり、ローマ帝国から延々と続く、伝統や歴史に強く惹かれていったものだと想像されます。それらを各々作曲したら、三部作ができあがったという事でしょう。
ですから、連作としてみる事はなく、むしろ、別の交響詩として扱うのが正しい鑑賞方法かと思います。
『ローマの噴水』
『ローマの噴水』では、それぞれ実在する4つの噴水を、夜明け、朝、昼、黄昏の時間に当てはめて作られています。
『ローマの噴水』概要
『ローマの噴水』は1916年に作曲されました。三部作の第1曲目となる作品です。
ローマには噴水が多くあり、その数は二千とも言われます。ローマの噴水は、大掛かりなものは少なく、水を高々と噴き上げているようなものは殆どありません。噴水は見た目を楽しませるものだけではなく実用的な使い方もされていたためです。
レスピーギは、ローマの噴水の中から4ヶ所を選び、夜明けから夕暮れまでの音楽を作曲しました。情景そのものを描写した音楽もあれば、インスピレーションを得たものを音楽にしているものもあります。
三部作の中で最も小さい編制である事から、他の2作品が派手過ぎる事もあり、地味な印象を感じます。この4つの情景は途中途切れることなく、続けて演奏されます。
『ローマの噴水』構成
第1曲「夜明けのジュリア谷の噴水」
「チルコ・マッシモ(競技場)の上に威嚇するように空がかかっている。しかし今日は民衆の休日、「アヴェ・ネローネ(ネロ皇帝万歳)」だ。鉄の扉が開かれ、聖歌の歌唱と野獣の咆哮が大気に漂う。群集は激昂している。乱れずに、殉教者たちの歌が広がり、制し、そして騒ぎの中に消えてゆく。」
第2曲「朝のトリトンの噴水」
「巡礼者達が祈りながら、街道沿いにゆっくりやってくる。ついに、モンテ・マリオの頂上から渇望する目と切望する魂にとって永遠の都、「ローマ、ローマ」が現れる。歓喜の讃歌が突然起こり、教会はそれに答えて鐘を鳴り響かせる。」
第3曲「昼のトレヴィの噴水」
「カステリ・ロマーニでの十月祭は、葡萄で覆われ、狩りの響き、鐘の音、愛の歌にあふれている。その内に柔らかい夕日の中にロマンティックなセレナードが起ってくる。」
第4曲「黄昏のメディチ荘の噴水」
「ナヴォナ広場での主顕祭の前夜。特徴あるトランペットのリズムが狂乱の喧騒を支配している。増加してくる騒音の上に、次から次へと田舎風の動機、サルタレロのカデンツァ、小屋の手回しオルガンの節、物売りの呼び声、酩酊した人達の耳障りな歌声や「ローマ人だ、通りを行こう!」と親しみのある感情で表現している活気のある歌などが流れている。」
『ローマの松』
ローマ三部作の2曲目にあたります。現在の残る松を通して、ローマ帝国時代の栄光を思い浮かべながら作られています。特に4曲目は兵隊が凱旋する様子を描いており、この曲の白眉となっています。
『ローマの松』概要
1923年から24年にかけて作曲されました。ローマ3部作の中で、この曲ほど、コンサートホールで実演を聞く醍醐味を味わえる曲はありません。
松という自然を通して古代ローマへ眼を向け、ローマ帝国の往時の姿を描こうとした作品です。
師のリムスキー=コルサコフを彷彿とさせる豪華絢爛、多彩なオーケストラの響きに感動します。前作同様、全体は4つの部分に分かれていますが、切れ目無しに演奏されます。
バンダと呼ばれる金管楽器が会場の二手に分かれ、ファンファーレを演奏するさまは、非常に効果的です。3作の中でも最も壮大な楽曲となっています。
『ローマの松』構成
第1曲「ボルゲーゼ庭園の松」
「ボルゲーゼ荘の松の木立の間で子供たちが遊んでいる。彼らは輪になって踊り、兵隊遊びをして行進したり戦争している。夕暮れの燕のように自分たちの叫び声に昂闘し、群をなして行ったり来たりしている。突然、情景は変わり、第二部に曲は入る。」
第2曲「カタコンベの傍らの松」
「カタコンバの入り口に立っている松の木かげで、その深い奥底から悲嘆の聖歌がひびいてくる。そして、それは、荘厳な賛歌のように大気にただよい、しだいに神秘的に消えてゆく。」
第3曲「ジャニコロの丘の松」
「そよ風が大気をゆする。ジャニコロの松が満月のあかるい光に遠くくっきりと立っている。夜鶯が啼いている。」
第4曲「アッピア街道の松」
「アッピア街道の霧深い夜あけ。不思議な風景を見まもっている離れた松。果てしない足音の静かな休みないリズム。詩人は、過去の栄光の幻想的な姿を浮べる。トランペ
ットがひびき、新しく昇る太陽の響きの中で、執政官の軍隊がサクラ街道を前進し、カピトレ丘へ勝ち誇って登ってゆく。」
『ローマの祭り』
ローマ三部作の最後の作品です。1928年に作曲されました。
交響詩『ローマの祭り』は「祭」をテーマにした4つの曲より構成されています。祭りと言っても勿論日本のようなものとは異なり、キリスト教に基づく宗教的な催事を意味するものです。
この『ローマの祭り』の4つの曲はローマ時代に始まり、近代に到るまでの祭を年代順に配置していますが、それはローマにおけるキリスト教の歴史を表現しているものでもあります。
また4つの曲は切れ目なく演奏されます。独立した4つの曲から成るというよりも、ひとつの物語を見る様な構成となっています。
最後に『ローマの祭』の大きな特徴のひとつとして、その編成の大きさを上げることができます。
基本的には3管編成ですが、それに加え10人を要する打楽器群、オルガン、ピアノ連弾、マンドリン、舞台外のトランペットが必要となるため、演奏される頻度が低い作品となっているのです。
『ローマの祭り』構成
第1曲「チルチェンセス」
「チルコ・マッシモに不穏な空気が漂う。だが今日は市民の休日だ。『ネロ皇帝、万歳!』鉄の扉が開かれ、聖歌の歌声と野獣の唸り声が聞こえる。群衆は興奮している。殉職者たちの歌が一つに高まり、やがて騒ぎの中にかき消される。」
第2曲「五十年祭」
「巡礼者たちが祈りながら街道をゆっくりとやってくる。モンテマリオの頂上方待ち焦がれた聖地がついに姿を現す。『ローマだ!ローマだ!』一斉に歓喜の歌が沸き上り、それに応えて教会の鐘が鳴り響く。」
第3曲「十月祭」
「カステテッリ・ロマーニの十月祭はブドウの季節。狩りの合図、鐘の音、愛の歌に続き、穏やかな夕暮れのロマンティックなセレナーデが聴こえてくる。」
第4曲「主顕祭」
「主顕節前夜のナヴォーナ広場。お祭り騒ぎの中、ラッパの独特なリズムが絶え間なく聴こえる。賑やかな音と共に、時には素朴なモティーフ、時にはサルタレッロの旋律、屋台の手回しオルガンの旋律と売り子の声、酔っぱらいの耳障りな歌、さらには人情味豊かで陽気なストルネッロ『われらローマっ子のお通りだ!』も聞こえてくる。」
まとめ
レスピーギの「ローマ三部作」は音響効果を考えて作曲されています。オーケストレーションに自信があったレスピーギだからこそできた作品です。
コンサートで取り上げられるのは『ローマの松』が最も多くなっています。最後の盛り上がりが圧倒的ですから、聴衆の人気が高いためもあるのでしょう。
時には「ローマ三部作」を聴いて、ローマに思いをはせるのも良い事だと思います。フラスカーティワインを飲みながらというのもいいですね。