イギリスではクラシック音楽が非常に盛んで、その底支えをしているのが優秀な音楽大学です。中でもイギリス王立音楽大学は歴史と権威ある大学とされており、今まで有名な演奏家・音楽家を生み出して来ました。
イギリス王立音楽大学は「王立」を冠する由緒ある音楽大学であり、大学の立地も文化の中心地に建てられています。イギリスのみならず各国からこの音楽大学の実力が高く評価されています。
世界有数の音楽大学であるイギリス王立音楽大学の歴史や教育内容などを調べ、細かく分析してなぜこの音楽大学が高い評価をされているかを探っていきたいと思います。
イギリス王立音楽大学
英国の歴史的な音楽大学であるイギリス王立音楽大学の設立から現在に至るまでの経緯を見ていこうと思います。歴史を知る事で、世界音大ランキングで3位を獲得しているイギリス王立音楽大学の高い評価の理由が見えてきます。
イギリス王立音楽大学の概略
イギリス王立音楽大学(The Royal College of Music, 略称:RCM)は、ロンドンにある名門音楽学校です。学部レベルから博士レベルまでのクラシック音楽教育を行っています。代々、プリンス・オブ・ウェールズが総裁を務める決まりで、現在はチャールズ皇太子が務めています。
この音楽大学は純粋に音楽だけを勉強する大学です。国立音楽養成学校の後継校として、当時の英国皇太子により1882年に設立され、ジョージ・グローブを理事長に迎え1883年に開校しました。1894年にロンドンのケンジントン地区の現所在地に移転しました。
1894年に開放された赤いレンガ造りの建物は建築家アーサー・ブロムフィールドによって設計されました。隣にインペリアル・カレッジ・ロンドン、反対側にロイヤル・アルバート・ホールがあります。大学内には広大な楽器の博物館があり、一般にも公開されています。
イギリス王立音楽大学の学部・学科情報
イギリス王立音楽大学の学部は作曲、指揮、金管楽器、木管楽器など9つの学部に分かれています。そして木管楽器、金管楽器、弦楽器、ピアノ、ピアノ伴奏、コレペティション、ギター、ハープ、オルガン、チェンバロ、リュート、リコーダー、マリンバ、打楽器、声楽、指揮、作曲、パフォーマンス・サイエンスと多様な音楽学科があります。
それぞれの学科では以下のコースが選択できるようになっています。
- 学士コース
- 大学院(修士、博士)コース
- ディプロマコース
イギリス王立音楽大学の基本情報
このセクションではイギリス王立音楽大学の学生数や学費等の入学のための基本情報を記載しています。イギリスの名門中の名門音楽大学は入学するのも非常に大変です。
学生数
約800人(音楽大学としては普通の規模)
比較対象として東京藝術大学音楽学部は約1000人です。
男女比
男48%、女52%
比較対象として東京藝術大学音楽学部は男性35%、女性65%です。
学生の出身国
50カ国以上、イギリス52%、EU19%、その他28%
留学生
約60ヶ国から約25%
比較対象として東京藝術大学音楽学部は約20%です。
学費
イギリス本国9,250ポンド(約130万円)/年
第3国23,600ポンド(約330万円)/年
自国優先ですからこれも致し方ないでしょう。ヨーロッパの大学は第3国との差をつける大学が多くあります。
入学試験
DVD審査、ライブ審査、それと英語の国際レベルが必要になります。証明書の提出が必要となります。実技が何といっても優先なのは当然でしょうが、語学力についても重視しています。言葉が通じないのでは講義どころではありませんから。
入学難易度
最も高い(最高レベル)
合格率
未発表
教員・学生割合
8.9人/1人
ジュリアードは4人/1人と超1流校よりは落ちます。因みに東京藝術大学は12人/1人なので十分トップレベルと言えます。
キャンパス
ロンドン、サウスケンジントン、学内に大規模の楽器博物館を持っています。文化の中心地であり、近隣にはロイヤル・アルバート・ホールや王立美術館、ケンジントン宮殿などがあります。
イギリス王立音楽大学の教師たち
音楽大学の価値はどれだけ良い教師を集めるかにかかっています。もちろん、イギリス王立音楽大学も優れた教師たちによってその高いレベルが維持されています。下記の名前を見ていただければ、如何に優秀な教師たちが揃っているかが良く分かります。
指揮科
- ウラジミール・アシュケナージ
- ロジャー・ノーリントン卿
- バーナード・ハイティンク
- マーティン・ブラビンズ
- ラファエル・パヤレ
- トマス・ツェートマイアー
- ウラジミール・ユロフスキ
- etc…
ピアノ科
- アンドラス・シフ卿
- キャスリン・ストット
- ラン・ラン
- アンジェラ・ヒューイット
- ドミトリ・バシキロフ
- エマニュエル・アックス
- マレー・ペライア
- 内田光子
- etc…
数多くの優秀な教師たち
指揮科とピアノ科だけでもこの面々です。ビッグネームばかりですが、この方々以外にも有名な素晴らしい教師はもっと揃っています。各科の教師たちを挙げていたら、この記事は先生の名前ばかりになってしまうでしょう。
他の専攻科でも有名なソリストやロンドンの5大オーケストラのメンバーが教えに来ています。やっぱり音楽大学は先生のレベルの高さが生命線です。先生によってその音楽大学のレベルが推し計れます。
イギリス王立音楽大学の出身者
音楽大学として超有名、超名門の音大ですから、その出身者たちは第一線で活躍している(いた)人たちばかりです。教師の質が高いという事は当然イギリス王立音楽大学の出身者たちも超一流の音楽家たちです。
作曲家
- レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ
- グスターヴ・ホルスト
- ジョージ・バターワース
- コンスタント・ランバート
- マイケル・ティペット
- アンドリュー・ロイド・ウェッバー
- ベンジャミン・ブリテン
- etc…
指揮者
- レオポルド・ストコフスキー
- ネヴィル・マリナー
- アンドルー・デイヴィス
- コリン・デイヴィス
- ロジャー・ノリントン
- etc…
その他
- ピーター・ピアーズ(声楽)
- ジョーン・サザーランド(声楽)
- ジェームズ・ゴールウェイ(フルート)
- トーマス・アレン(声楽)
- ジョン・リル(ピアノ)
- ダリル・ウェイ(ヴァイオリン)
- etc…
クラシック界を象徴するメンバーたちです。作曲者から指揮者、声楽家まであらゆる音楽の分野で名を成した方々ばかりです。ここに載せた方々はほんの一握りに過ぎません。その他にも大勢の世界的な音楽家を生み出しています。イギリス王立音楽大学の優秀さを物語っています。
イギリス王立音楽大学の未来
現在のイギリス王立音楽大学は才能豊かな学生を集める事に色々苦心しています。イギリス王立音楽大学でも安閑としていては、各種大学ランキングで上位を維持する事は難しくなってきています。将来像をどう描いているのかを見ていくことにしましょう。
将来のための投資
イギリス王立音楽大学は2016年に新しい学生寮を作りました。個室は全て防音設備がしっかりしており、インターネット関係の設備などの設備も充実した物です。これらは、EU諸国だけでなく、日本や韓国、中国といった海外留学生を集めようとしているためであり、将来でも生き残れる作戦をしっかりと立てています。
教師陣の充実
世界トップレベルの音大として今後もその地位を確保していくには教師陣の充実は最低条件です。と同時に音大として最も大切な要素ともいえます。この音楽大学は才能溢れた出身者が多くいるため、教育者として戻ってくる音楽家も多くいます。
そしてロンドンには5つのビッグオーケストラが存在しているため、この中からレベルの高い演奏家を教師としても雇い入れているのです。これを出来るのが、世界有数の名門大学であるイギリス王立音楽大学なのです。
付属施設
学生たちが演奏が出来るホールも複数あり、器楽奏者や声楽家たちにとっては設備条件の良い大学となっています。図書館も充実しており、付属の楽器博物館にも一般の博物館以上の展示物があり、学生たちのモチベーションの向上にも繋がっていると思います。
博物館には楽器だけではなく、ベートーヴェンの自筆譜もあるそうですから素晴らしいです。これらのお陰で才能ある音楽家の卵たちを容易に集める事ができるでしょうから、全ての環境がこの音楽大学を良い方向に向かわせてくれる事でしょう。
世界音楽大学ランキング第3位
2019年のQS「世界音楽大学ランキング」で第3位を獲得しました。世界ランキングでも常に上位にいる、大変優秀な音楽大学です。世界的に如何に評価されているかの指針のひとつに挙げられます。第1位はあの天下のジュリアード音楽院です。
このランキングは権威のあるもので、そこでの第3位認定ですから、大変な名誉です。例年上位にいる音楽大学ですから、この事によってまた来年度もより才能のある学生が各国から集まってくることでしょう。
まとめ
イギリス王立音楽大学は規模はそう大きくはありませんが、大変質の高い音楽大学であり、今後も世界に天才を送り出してくれることでしょう。「Royal」と冠し、総裁が皇太子となれば、資金は潤沢にあるのでしょうから、音楽教育も順調に進むのでしょう。
音楽という芸術(学問)をどう捉えるかが日本との大きな違いです。芸術には支援が必要と思っている国とそうでない国の差が、大学教育にも影響しているとしか思えません。日本の音楽大学卒で大成した人が出てこないのもそういったことが関係しているのでしょう。