ピアニスト界ではロシア出身の世界的ピアニストが最も多く存在します。三大コンクールのピアノ部門の優勝者もロシア出身者が断トツです。そこで、今後期待できる若手ロシア人ピアニストのランキングを作成してみました。若手という事で40歳以下のピアニストのみ対象とします。

今後期待できるピアニストと断っていますが、音楽の良し悪しを決めるのは年齢ではありませんから、若くても、もう既に世界の第一線で大活躍している人物も出ています。リヒテルやギレリスなどの偉大なるピアニストに匹敵する人物になりえるか、興味があるところです。

ランキングの条件は三大コンクール優勝者及び入賞者、またはそれに準じるコンクールの優勝者で、40歳以下の人です。ランキングと言いつつ、今後の活躍に期待する意味も含めて、年齢の若い順に順位を付けました。現時点の実力差ではない事を始めに断っておきます。

【注】若手ピアニストと言えば、皆さんは10代、20代を想像すると思いますが、クラシック音楽界では30代もまだ若手扱いされる世界です。よって、このランキングも40歳以下としています。疑問符を持たれる方もおられるでしょうが、ご了承願います。

第10位 セルゲイ・カスプロフ

セルゲイ・カスプロフ
名前:Sergei Kasprov
誕生日:1979年
年齢:40歳
出身大学:モスクワ音楽院
出身地:モスクワ

ロシア・ピアニズムの真の継承者

2005年、ニコライ・ルービンシュタイン国際ピアノコンクール第1位受賞。2005年、ホロヴィッツ記念国際ピアノコンクール特別賞。2006年、スクリャービン国際ピアノコンクール第1位。同年マリア・ユーディナ国際ピアノコンクール最高位など著名なコンクールにて好成績を残しました。

鬼才、アファナシエフは彼について著書にこう書いています。「彼ほど才能のあるピアニストはそうそう街を歩いてはいないものだ。私はこれほどの才能をもったピアニストを他には知らない。この素晴らしく個性的なピアニストの演奏を虚心に堪能することにしようではありませんか」

第9位 アレクサンダー・コブリン

アレクサンダー・コブリン
名前:Aleksandr Kobrin
誕生日:1980年3月20日
年齢:39歳
出身大学:モスクワ音楽院
出身地:モスクワ

「現代のヴァン・クライバーン」と称されたピアニスト

1999年、ブゾーニ国際ピアノコンクール優勝。2000年、ショパン国際ピアノコンクール第3位。2003年、浜松国際ピアノコンクール第2位(1位なし)。2005年、ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール優勝。様々なコンクールでの華麗な成績を収めています。

世界の著名なオーケストラとの協演も多数。ブゾーニ国際ピアノコンクールの審査員に35歳で抜擢されたなど、その才能には定評があります。教育にも力を注いでおり、現在はイーストマン音楽学校にてピアノ科の教授として教鞭をとっています。

第8位 アンナ・バレリエフナ・ヴィニツカヤ

アンナ・バレリエフナ・ヴィニツカヤ
名前:Anna Valeryevna Vinnitskaya
誕生日:1983年8月4日
年齢:36歳
出身大学:ハンブルク音楽演劇大学
出身地:ノヴォロシースク

しなやかな音楽性を持つピアニスト

2005年、ブゾーニ国際ピアノコンクール第4位。2007年、エリザベート王妃国際音楽コンクール・ピアノ部門で圧倒的な評価を得て優勝。2008年、シュレースヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭でバーンスタイン賞を受賞。しなやかな音楽性と変幻自在の表現力で聴衆を魅了するピアニストです。

現在はドイツを拠点にヨーロッパ全土で数多くリサイタルを行う他、アジア各国、アメリカ、南米など世界各地で公演を行っています。また、教育者としても、母校のハンブルク音楽演劇大学で教鞭をとっています。2007年から何度も来日し、高い評価を受けました。

第7位 ユリアンナ・アヴデーエワ

ユリアンナ・アヴデーエワ
名前:Yulianna Avdeeva
誕生日:1985年7月3日
年齢:34歳
出身大学:チューリヒ音楽大学
出身地:モスクワ

ショパンコンクール45年ぶりの女性優勝者

2006年、ジュネーヴ国際音楽コンクール第2位(最高位)。2010年、第16回ショパン国際ピアノコンクール第1位。合わせて、最優秀ソナタ演奏賞も受賞。コンクール史上、マルタ・アルゲリッチ以来45年ぶりの女性ピアニストの優勝者として一躍脚光を浴びました。

世界各地で行っているリサイタルでは、ショパン作品とともにバッハやハイドン、モーツァルト、プロコフィエフ、ラヴェル、リストなどの作品も披露。ショパンに留まらないこだわりのプログラミングと鮮麗なピア二ズムを通して、独自の音楽世界を提示しています。

第6位 デニス・コジュヒン

デニス・コジュヒン
名前:Denis Kozhukhin
誕生日:1986年7月2日
年齢:33歳
出身大学:ソフィア王妃高等音楽院
出身地:ニージニー・ノヴゴロド

「鬼才」と称されるピアニスト

2003年、ヴェルビエ音楽祭でアカデミーの生徒として参加し、翌年に同音楽祭でデビュー。2006年、リーズ国際ピアノコンクール第3位。2010年、エリザベート王妃国際音楽コンクール・ピアノ部門優勝。圧倒的なテクニックを武器に幅広いレパートリーをこなすピアニストです。

コジュヒンの評価は「強靭なテクニックと豊かな表現力」「鬼才」「天才」などという言葉が並び、ピアノ界での期待の高さが伝わって来ます。著名な指揮者、オーケストラとの協演も多く、録音の評価も絶賛されています。2011年以来、何度も来日して、才能溢れる音楽を披露しています。

第5位 アレクサンダー・ルビャンツェフ

アレクサンダー・ルビャンツェフ
名前:Alexander Lubyantsev
誕生日:1986年12月27日
年齢:32歳
出身大学:サンクトペテルブルク音楽院
出身地:サンクトペテルブルク

「リヒテルの再来」と称されるピアニスト

2007年、第13回チャイコフスキー国際コンクール3位入賞。2011年、第14回チャイコフスキー国際コンクールでは優勝候補と期待されたものの、惜しくも決勝進出を逃しました。結果に不満を抱いた聴衆は審査の公正さに疑念をぶつけ、ルビャンツェフの名を連呼する騒動にまで発展。

これを受けてコンクールの結果とは別に、ロシアの音楽批評家たちにより公正な評価投票が行われ、見事第1位に輝き「批評家賞」が贈られました。彼の卓越したテクニックと素晴らしい音楽性により「リヒテルの再来」と言われています。今後も楽しみなピアニストです。

第4位 ドミトリー・マスレエフ

ドミトリー・マスレエフ
名前:Dmitry Masleev
誕生日:1988年5月4日
年齢:31歳
出身大学:モスクワ音楽院
出身地:ウランウデ

新たなロシアの逸材

2015年、第15回チャイコフスキー国際音楽コンクール優勝。この年のコンクールは実力ある若手ピアニストが数多く出場し、稀に見る激戦でした。輝かしい未来を予感させる才能が多く現れ、多くの入賞者が個性を生かし、コンクール後の活躍が目立っています。

しかし、優勝者のマスレエフは、特別な才能の持ち主のようです。彼の磨き抜かれたバランスのとれたテクニックは類い稀で、かつ、音に説得力があります。隅々まで神経を張り巡らした繊細で情感豊かな表現と、ピアノを豊かに鳴らす技術は見事です。

第3位 ルーカス・ゲニューシャス

ルーカス・ゲニューシャス
名前:Lukas Geniušas
誕生日:1990年7月1日
年齢:29歳
出身大学:モスクワ音楽院
出身地:モスクワ

才能に恵まれたピアニスト

2010年、ショパン国際ピアノコンクール第2位。2015年、第15回チャイコフスキー国際コンクール第2位。主要なコンクールで次々に輝かしい成績を収めました。彼の音楽的好奇心は尽きることがなく、そのレパートリーは、バロック時代から現代まで実に幅広いものがあります。

早くからその才能を認められ、15歳でロシア連邦から奨学金を授与されました。その2年後にも「才能に恵まれた21世紀の若者」賞を受賞します。ゲニューシャスは、ロシアン・ピアニズムが受け継ぐ揺るぎない芯の存在を感じさせるピアニストです。

第2位 ダニール・トリフォノフ

ダニール・トリフォノフ
名前:Daniil Olegovich Trifonov
誕生日:1991年3月5日
年齢:28歳
出身大学:グネーシン音楽大学
出身地:ニジニ・ノヴゴロド

巨匠の風格を漂わせる若きピアニスト

2010年、第16回ショパン国際ピアノコンクール第3位入賞。2011年、ルービンシュタイン国際ピアノコンクール第1位。同年、第14回チャイコフスキー国際コンクール第1位かつ、全部門のグランプリに輝いた才能豊かなピアニスト。ピアノ芸術の極限を究める真のヴィルトゥオーソ!

ダニール・トリフォノフはすでに世界各国でリサイタルや主要オーケストラとの演奏を経験し、世界的な財団や音楽祭からは多くの賞を授与されています。彼はこのような活動の傍ら、作曲活動においてもその手腕を発揮しており、ピアノ、オーケストラ、室内楽の作曲も行っています。

第1位 ニコライ・ホジャイノフ

ニコライ・ホジャイノフ
名前:Nikolay Khozyainov
誕生日:1992年7月17日
年齢:27歳
出身大学:モスクワ音楽院
出身地:ブラゴヴェシェンスク

ロシアの新世代ピアニスト

2010年、第16回ショパン国際ピアノ・コンクール、ファイナリスト。優勝の最有力候補として本選に進出、誰もが彼の優勝を疑いませんでしたが、本選の協奏曲の演奏中にステージ上の照明が消えてしまうアクシデントが起こり、残念ながら優勝は果たせませんでした。

照明が落ちても、ホジャイノフもオーケストラも演奏を続けたそうです。照明が直っても今度は明るくなり過ぎ、元に戻るまで少し時間が掛かりました。集中している最中のトラブルで、演奏への影響が合った事は確実でしょう。あってはならない事で残念です。

2012年、ダブリン国際ピアノ・コンクール優勝。同年シドニー国際ピアノコンクール第2位。彼の才能に誰もが注目し、今後の活動が最も注目される逸材です。第11回ショパン国際ピアノ・コンクール優勝者スタニスラフ・ブーニンからも将来が楽しみなピアニストと絶賛されています。

ランキング結果

第1位:ニコライ・ホジャイノフ(27歳)
第2位:ダニール・トリフォノフ(28歳)
第3位:ルーカス・ゲニューシャス(29歳)
第4位:ドミトリー・マスレエフ(31歳)
第5位:アレクサンダー・ルビャンツェフ(32歳)
第6位:デニス・コジュヒン(33歳)
第7位:ユリアンナ・アヴデーエワ(34歳)
第8位:アンナ・バレリエフナ・ヴィニツカヤ(36歳)
第9位:アレクサンダー・コブリン(39歳)
第10位:セルゲイ・カスプロフ(40歳)

まとめ

今後活躍するであろう若手ロシア人ピアニストを10人選びました。どのピアニストもロシアが誇る才能溢れる人物たちです。こうしてみてみると、ロシア人のピアニストの層が厚いのが分かります。ピアニストの才能を伸ばす特別なメソッドが存在するに違いありません。

モスクワ音楽院を中心とした音楽の教育システムが「神童」たちを「天才」に育てるようになっているのでしょう。おそらく、今後もロシア勢の活躍は続いて行く事でしょう。

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