ストラディバリウス

皆さまもストラディバリウスという言葉を一度は聞いた事があるでしょう。世界一高い楽器、または世界一高いバイオリンという印象をお持ちだと思います。

お値段が高い事は重々ご理解いただけていると思いますが、ストラディバリウスがなぜそれ程の価値があるのかをご存知でしょうか。

今回はそんな世界一高い楽器ストラディバリウスについて詳しく説明していきたいと思います!研究チームがその音色の秘密を解明しようとするなど、クラシック界に君臨する神器の全てをぜひご覧ください。

ストラディバリウスとは

ストラディバリ
アントニオ・ストラディバリ(Antonio Stradivari)は弦楽器製造をニコロ・アマティに師事し、1630年に息子二人と共に三人で弦楽器工房を開きます。18世紀の法令では弦楽器にはラテン語でその製作者のラベルを貼らねばならない決まりがありました。

アントニオの作った楽器にはAntonius Stradivarius Cremonencis(クレモナのアントニオ・ストラディバリ作)のラベルが貼られていた為、その楽器の事をストラディバリウスと呼ぶようになりました。アントニオたちが作った弦楽器は全部で1200挺ほどです。

現存しているのはその半分ほどで、約700挺です。その振り分けは下記の通り。

  • 【バイオリン】約600挺
  • 【ヴィオラ】8挺
  • 【チェロ】63挺
  • 【マンドリン】2挺

数も非常に少なく、大変希少なストラディバリウスの40挺ほどが日本にあります。
特に1698年から1725年に製作されたものは優秀なものが多く、中でも1715年頃のものは最高の評価を受けているものです。

バイオリンの価格帯のランク分け

ストラディバリウスの価値を知る為にも様々なバイオリンのレベル別の金額を見て行きましょう。価格も本当にピンキリですが、一般的には下記のようなランク分けができます。年代物の高価なバイオリンは作られた年代や状態、鑑定書が着けば高くなっていきます。

レベル1『入門者向け』(30万円以下)
レベル2『新作』(30~100万円)
レベル3『新作の良品』(100~300万円)
レベル4『音大生用』(300~500万円)
レベル5『プロ仕様』(500~1200万円)
レベル6『プロ仕様』レベル5より古いもの(1200~4000万円)
レベル7『超・一流』(4000~8000万円)
レベル8『超越者』8000万円~

(ストラディバリウスなど歴史的な文化遺産)

プロはレベル5以上を使っていますが、さすがにレベル8クラスになると世界でも極僅かのソリスト達しか使えなくなります。お金だけの問題ではなく、そのレベルのバイオリンを弾きこなす実力が必要となるためです。

弦楽器は本当に高額ですが、最近では音大生も平気で1000万ぐらいのバイオリンを持っています。日本も本当に豊かになったものです。

ストラディバリウスが高額な理由【歴史的観点】

ストラディバリウス
バイオリンの形状が今のように定まったのが17世紀初頭です。後に弦楽器製作者の巨匠と呼ばれるアマティ、ストラディバリ、グァダニーニ、グァルネリらが活躍した時代にようやくその形が決まり、我々の知るバイオリンの歴史がスタートしました。

音楽家たちの数も増えた事で弦楽器工房の多くは量を重視し、とにかくより多くのバイオリンを作ることに専念するようになります。しかしストラディバリは量よりも質に特化した弦楽器製作を貫き続けました。その違いが現在の値段の違いとして現れているのです。

バイオリンの表板はスプルースという木で作られています。昔は良質のスプルースが沢山ありましたが、現在では大変少なくなっているそうです。当然良質のスプルースで作られた弦楽器自体も少なくなり貴重になりました。

木材自体もよく乾燥された状態となり、ストラディバリウスは最高の楽器となったのです。(❇︎スプルースは切られてから330年目ぐらいが最高の強度になるそうです。)

ストラディバリウスが高額な理由【音色】

ストラディバリウス
高額な理由を一言で言ってしまえば「音の響き」が良いからというのが一番間違いないかと思います。他のバイオリンに比べ、音色が抜群に良いから需要に対し、数の少ないストラディバリウスは供給が全く間に合っておらず、超高額になってしまっているのです。

元NHK交響楽団のコンサートマスター徳永二男氏がストラディバリウスをこう語っています。

演奏家にとっていろいろな感情を表現するために必要なことは音色なのです。音楽家ならば常に楽器にそういうものを求めているのです。そしてその要求に答えてくれる深さと幅を持っているのがストラディバリウスなのです。

音楽家は演奏していることで自分を表現しています。自分の存在を賭けているわけで、そのことに対しては貪欲で際限がないものです。良いヴァイオリニストになればなるほど要求が深くなる。だからストラディバリウスが必要になるわけです。そのことが一番大事なことでしょうね。

彼の言う通り、より深く要求を突き詰めていくと良い楽器が必要となってきます。一流のソリストになればなるほど、値段の高いストラディバリウスに行き着いてしまうのでしょう。

欲しいけれども現存する、演奏に耐え得るストラディバリウスは数が限られています。となれば資本主義の原理で価格が跳ね上がっていくのも当然です。投資目的で売買する人達も多くいますので、ますます値段がつり上がっていきます。

世界一高いストラディバリウス

ストラディバリウス
バイオリンで現在世界最高値を誇っているのが2011年に取引された1721年製「レディ・ブラント」の約1600万ドル(当時のレートで約12億7千万円)です。

皆さんこのバイオリンがストラディバリウスの最高値と思っていて、色々なところで世界一高い楽器と紹介されています。しかし本当は違い、バイオリンよりもビオラ、チェロのほうが高額です。どうしても残存する数が少ないためそうなってしまいます。

ロストロポーヴィチ(1927~2007)が使っていた1711年製のチェロ「デュポール」は、「レディ・ブラント」の倍近い金額の20億円と言われています。そして本当の世界一高額なストラディバリウスは1719年製ヴィオラの「マクドナルド」45億円です。

2014年に入札式競売にかけられ、最低落札額45億円という楽器の史上最高価格でオークションにかけられました。しかし買い手がつかなかったそうなので、現在でも45億円持っていれば誰でも即購入が可能なようです。

ストラディバリウスの音色を科学的に分析

stradivarius
ストラディバリウスを弾いた音楽家たちはもちろん、聴衆である我々も含め、誰しもがその音色・響きに魅了されています。その響きの違いは使っているニスが理由と言う人もいれば、木材の厚さやそれに特別な処理が行われているからと考えている人など様々なのです。

現代科学が究明できない魅力

世界一高い楽器、ストラディバリウスの秘密を解き明かそうと、昔から様々な調査がなされてきました。しかし「明確にこれこれこういう理由があって、だからストラディバリウスはこんなに良い音色が出るのだ」という結論は未だ何も証明されていません。

本当に人間を魅了してしまう音を生み出す世界最高の楽器ストラディバリウス。科学的に解明が不可能だからこそ、この楽器には特別な力があるのだと思います。人智を超えた先に存在する神の楽器と言い換えてもなんら遜色ないのではないでしょうか。

千住真理子のストラディバリウス購入物語

ストラディバリウス
有名なバイオリニストの千住真理子はストラディバリウスを買わないかと持ちかけられた時に、値段が高くて買うつもりはなかったそうです。しかし、いざ現物を見て、それを弾いたとたんにその音に惚れて、これは絶対に手に入れないといけないものだと考えを改めました。

『運命的にこの楽器に出会えて、自分の音楽はまたゼロからの出発点に立った。これからが本当の音楽人生となるかもしれない』とも語っています。『千住家にストラディバリウスが来た日』(新潮社)という本が出ていますので興味があるかたはぜひ読んでみてください。

今まで使っていたバイオリンと違い、この楽器のために、音の出し方、音楽の作り方、全てを作り変える必要があったとも語っています。楽器が人を選ぶ、数億もする楽器を操るにはそれなりの腕が必要となるのです。

ストラディバリウス【日本人所有者】

古い歴史を持つストラディバリウスだけに所有者も時代によって変わっています。可能な限り調べて日本人が持つものを記載しましたが、所有者の変更や「これだけじゃなくて他にも持っている人いるのに!」などあるかもしれませんがご了承ください。

バイオリン

諏訪内 晶子
Akiko Suwanai

製作年:1717年
愛称: ドルフィン
所有者:日本音楽財団から貸与

五嶋 龍
Ryu Goto

製作年:1715年
愛称: エクス・ピエール・ローデ
所有者:NPO法人イエル・エンジェルから貸与

川井 郁子
川井 郁子
Ikuko Kawai

製作年:1715年
愛称: フランチェスコ・ルジェーリ
所有者:大阪芸術大学から貸与

高嶋 ちさ子
高嶋 ちさ子
Chisako Takashima

製作年:1736年
愛称: ルーシー
所有者:自己所有

千住 真理子
千住 真理子
Mariko Senju

製作年:1716年
愛称: デュランディ
所有者:自己所有

庄司 紗矢香
庄司 紗矢香
Sayaka Shoji

製作年:1715年
愛称: レカミエ
所有者:日本音楽財団から貸与

中澤 きみ子
中澤 きみ子
Kimiko Nakazawa

製作年:1717年
愛称: ダヴィンチ
所有者:自己所有

渡辺 玲子
渡辺 玲子
Reiko Watanabe

製作年:1709年
愛称: エンゲルマン
所有者:日本音楽財団から貸与

樫本 大進
樫本 大進
Daishin Kashimoto

製作年:1722年
愛称: ジュピター
所有者:日本音楽財団から貸与
(※現在の使用楽器は、1674年製アンドレア・グァルネリに変わりました)

辻 久子
辻 久子
Hisako Tsuji

製作年:1703年
愛称: ディクソン・ポインター
所有者:自己所有
(※2021年7月13日にお亡くなりになりました。ご冥福をお祈り致します)

海野
海野 義雄
Yoshio Unno

製作年:1698年
愛称: トゥーロー
所有者:自己所有

篠崎 功子
篠崎 功子
Isako Shinozaki

製作年:1684年
愛称: ウェブス
所有者:自己所有

竹澤 恭子
竹澤 恭子
Kyoko Takezawa

製作年:1710年
愛称: カンボ・セリーチェ
所有者:日本音楽財団から貸与

神尾 真由子
神尾 真由子
Mayuko Kamio

製作年:1727年
愛称: ???
所有者:サントリー音楽財団から貸与

浦川 宜也
浦川 宜也
Takaya Urakawa

製作年:1713年
愛称: レディ・レディ
所有者:???

徳永 二男
徳永 二男
Tsugio Tokunaga

製作年:1720年
愛称: ロチェスター
所有者:自己所有

矢部 達也
矢部 達也
Tatsuya Yabe

製作年:1685年
愛称: ???
所有者:???

チェロ

石坂 団十郎
石坂 団十郎
Danjuro Ishizaka

製作年:1696年
愛称: ロード・アイレスフォード
所有者:日本音楽財団から貸与

岩崎 洸
岩崎 洸
Ko Iwasaki

製作年:1727年
愛称: ???フォード
所有者:自己所有

ストラディバリウスの愛称

ストラディバリウスには高嶋ちさ子の持つ「ルーシー」を始め、様々な愛称がつけられています。それはストラディバリウスのような歴史的名器にのみ与えられる称号です。三大名器と呼ばれる値段の付かない最高ランクのストラディバリウスにも当然愛称がついています。

歴史に名を残す名器ストラディバリウスの愛称やその名前の由来を知りたいといいう方はぜひ合わせて以下の記事もお読みください。

まとめ

ストラディバリウスばかりが高額な弦楽器を作っているわけではありません。彼と同時代の製作者の中ではアマティ、グァルネリ、グァダニーニは有名な巨匠です。その価格もストラディバリウスと同じぐらい高額なものもあります。

弦楽器製作者は現代でも数多く世界中に存在します。ある音楽家は現代の名工によって作られたものしか弾かない人もいるのです。

演奏会に出かけてぜひご自身の耳で!五感で!!バイオリンの違いによる多彩な音色に酔いしれましょう。それがストラディバリウスならより幸せな気持ちになれるかもしれません!!

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