
オペラは16世紀にイタリアで誕生しました。その歴史から、長くオペラはイタリア・オペラが正統派とされ、イタリア語で上演されるものとして発展していきます。18世紀に入りドイツでもオペラが盛んになって、初めてドイツ語によるオペラが誕生します。
ハイドンまでのオペラはイタリア語を基本として作られ、モーツァルトの後期からはドイツ語(母国語)によるオペラが徐々に増えてきます。ベートーヴェン唯一のオペラ『フィデリオ』もドイツ語です。ロマン派以降は母国語オペラが多くなりました。
しかし、今でも人気のある演目はイタリア人作曲家によるものが多いため、イタリア語上演のオペラが圧倒的な数を占めています。今回は、初心者でも安心して見られ、かつ、名作でもある人気オペラを10作品選び出し、紹介して行きます。
フィガロの結婚「Le nozze di Figaro」
原作:ボーマルシェ
台本:ロレンツォ・ダ・ポンテ
言語:イタリア語
作曲年:1786年
上演時間:全4幕約3時間
『フィガロの結婚』あらすじ
アルマヴィーヴァ伯爵に仕えるフィガロと、小間使いのスザンナは二人の結婚式の準備をしていました。伯爵はスザンナが大のお気に入りで、様々な手を使って彼女を誘惑しようと考えています。その策の中には「初夜権の復活」もあったのでした。
一方、伯爵夫人は夫の愛情が冷めていることを感じて悲しく思っていました。そこで、伯爵夫人とフィガロ、スザンナは伯爵を懲らしめようと一芝居打つ計画を立てます。ケルビーノやマルチェリーナなどのわき役たちが出てきてドタバタ劇が展開されます。
最後は、伯爵が罠にはまった事に気付き自分の非を認め伯爵夫人の許しを請います。伯爵夫人は伯爵を許し、フィガロとスザンナはめでたく結ばれる事となり、物語はめでたしめでたしの中でエンディングです。4人の幸せな歌で終了します。
『フィガロの結婚』見どころ・聴きどころ
- 序曲
- 男装した女性歌手が扮するケルビーノが魅力的
- フィガロ、スザンナ、伯爵、伯爵夫人、ケルビーノたちのアリア
『フィガロの結婚』おすすめ理由
全てのオペラの中でも人気オペラ第1位の作品です。たった1日の物語ですが4幕物で3時間近くの長い演目となっています。アリアの中にも有名なものが多くあり、歌好きには堪らない演目であるでしょう。オペラの演目では外せない作品です。
ドン・ジョバンニ「Il dissoluto punito, ossia il Don Giovanni」
原作:スペインの伝説ドン・ファン
台本:ロレンツォ・ダ・ポンテ
言語:イタリア語
作曲年:1787年
上演時間:全2幕約2時間50分
『ドン・ジョバンニ』あらすじ
ドン・ジョヴァンニは放蕩家で女性の敵でした。ある晩、ジョバンニはアンナという女性の家に潜り込みましたが、彼女の父親に見つかり、争った末に殺してしまいます。その後、ジョバンニは墓場でアンナの父親の幽霊に会い改心するように忠告されます。
しかし、ジョバンニは全く耳を貸さず、改心する気もありませんでした。すると不思議な事に地面が割れ、ジョバンニは地獄に落ちて行ってしまいます。「悪人の結末はこうなる」とジョバンニを恨んでいた全員が歌を歌い、演目は終了です。
『ドン・ジョバンニ』見どころ・聴きどころ
- ジョバンニのナンパ術
- ジョヴァンニの「シャンパンの歌」
- ジョバンニが地獄へ落ちる場面
『ドン・ジョバンニ』おすすめ理由
「オペラ中のオペラ」と評する音楽評論家は数多くいます。モーツァルトの中でも人気オペラです。モーツァルトは悲劇と喜劇を合わせた要素をこの作品に込めました。彼の他のオペラにはこのような手法を取ったものはありません。劇的な音楽もあり素晴らしい作品です。
魔笛「Die Zauberflöte」
原作:クリストフ・マルティン・ヴィーラントの童話劇集
台本:エマヌエル・シカネーダー
言語:ドイツ語
作曲年:1791年
上演時間:全2幕約2時間40分
『魔笛』あらすじ
王子タミーノは森の中に迷い込みます。「パミーナの肖像画」を見たタミーノは、彼女に一目惚れをしてしまいパミーナを救出する旅に出るのでした。タミーノは森で出会った鳥刺しパパゲーノを従えて、パミーナを救出します。
夜の女王を打ち倒し、最後にタミーノはパミーナと結ばれ、パパゲーノもパパゲーナと結ばれます。めでたしめでたしのエンディングです。
『魔笛』見どころ・聴きどころ
- 夜の女王のアリア
- タミーノとパミーナの2重奏
- フィナーレ
『魔笛』おすすめ理由
夜の女王のアリアやパパゲーノとパパゲーナの面白いやり取りやアリア、そして誰にも分かり易い内容であり、演目のあちこちに聴衆を楽しませる見せ場が存在します。モーツァルト最後のオペラとなった『魔笛』は魅力あふれる作品です。面白い人気オペラですよ。
椿姫「La traviata」
原作:アレクサンドル・デュマ・フィス
台本:フランチェスコ・マリア・ピアーヴェ
言語:イタリア語
作曲年:1853年
上演時間:全3幕約1時間50分
『椿姫』あらすじ
青年貴族アルフレードは、パリの社交界の華である高級娼婦のヴィオレッタを愛してしまいます。アルフレードの情熱はヴィオレッタの心を打ち、彼女は本物の愛を知るのでした。しかし、アルフレードの父は反対し2人は引き離されます。
2人は様々な試練を乗り越え最後に出会いますが、ヴィオレッタの命はもう長くはありませんでした。結核を患っていたのです。最後は、アルフレードの腕の中でヴィオレッタが息を引き取り終了します。
『椿姫』見どころ・聴きどころ
- 「乾杯の歌」
- ヴィオレッタ「È strano! è strano! in core」
- 終幕のヴィオレッタが息を引き取る場面
『椿姫』おすすめ理由
何といっても音楽が美しいです。ストーリーも簡潔で初心者にも受け入れやすいと思います。そして、メロドラマは人気オペラ共通のものです。この手の話が好きなのは万国共通ですね。演奏時間が長くない事もおすすめポイントとなります。
アイーダ「Aida」
原作:オギュスト・マリエット
台本:アントニオ・ギスランツォーニ
言語:イタリア語
作曲年:1871年
上演時間:全4幕約2時間40分
『アイーダ』あらすじ
エジプト軍の指揮官ラダメスは奴隷アイーダ(エチオピア王女)を愛してしまいます。その挙句、敵の策略にはまりラダメスは祖国を裏切ってしまうのです。祖国を裏切ったラダメスは囚われの身になり、墓に生き埋めにされる事となります。
それを知ったアイーダは自分も一緒に死ぬことを決意し、あらかじめ墓に侵入します。生き埋めにされる2人は天国での永遠の愛を誓い、命を落とすのでした。出会ってはならない2人の悲恋の物語です。
『アイーダ』見どころ・聴きどころ
- アイーダのアリア「勝ちて帰れ」
- 「凱旋行進曲」
- 第4幕ラストのアリア「O terra, addio」
『アイーダ』おすすめ理由
ヴェルディは悲恋の作品が多く、いずれも魅力的です。『アイーダ』も悲恋の物語で、愛し合ってはならない2人の悲劇を描いています。人気オペラの王道です。「勝ちて帰れ」や「凱旋行進曲」など有名な音楽もふんだんに登場し、聴衆を飽きさせません。視覚的にも感動します。
カルメン「Carmen」
原作:プロスペル・メリメ
台本:アンリ・メイヤック、リュドヴィク・アレヴィ
言語:フランス語
作曲年:1875年
上演時間:全4幕約2時間40分
『カルメン』あらすじ
真面目な衛兵のホセは、許嫁がいるにもかかわらず、自由に生きる女工のジプシー、カルメンに恋をしてしまいます。ホセとカルメンは結ばれますが、気の多いカルメンはすぐにホセに飽きてしまい、彼を捨ててしまうのでした。
失恋してしまったホセは嫉妬に狂い、ついにはカルメンを殺してしまうのです。カルメンが主人公の物語ですが、ホセが人生から転落していく様を描いた作品ともいえると思います。
『カルメン』見どころ・聴きどころ
- 序曲
- カルメンのアリア「ハバネラ」
- エスカミーリョのアリア「闘牛士の歌」
『カルメン』おすすめ理由
「序曲」や「ハバネラ」、「闘牛士の歌」は誰もが聴いた事のある楽曲でしょう。有名曲が散りばめられている事やカルメンの自由奔放な生き方、そしてその奔放さで身を滅ぼしていく人間のはかなさが見事に表現されています。これが人気オペラになったのも頷けます。
セビリアの理髪師「Il Barbiere di Siviglia」
原作:ボーマルシェ
台本:チェザーレ・ステルビーニ
言語:イタリア語
作曲年:1816年
上演時間:全2幕約2時間40分
『セビリアの理髪師』あらすじ
アルマヴィーヴァ伯爵は、バルトロ家のロジーナという女性に恋をしました。そして、身分を偽った姿で彼女に近づき、何とかこの恋を本物にしようと策略を練ります。一方、バルトロ(ロジーナの後見人)は「遺産目当て」でロジーナと結婚しようと考えていました。
アルマヴィーヴァ伯爵は理髪師フィガロの助けを借りて、無事ロジーナと結婚します。遺産を狙っていたバルトロもロジーナが遺産を譲る事に承諾したため結婚を認め、全員めでたしめでたしで幕が下ります。コミカルなラブストーリーです。
『セビリアの理髪師』見どころ・聴きどころ
- 序曲
- フィガロのアリア「私は町の何でも屋」
- ロジーナのアリア「今の歌声は」
『セビリアの理髪師』おすすめ理由
悲劇が多いオペラの中で少数派の分かり易い喜劇作品です。ストーリーが単純で入門者でもすんなりオペラに入っていけます。といって決して手抜きのオペラではなく、ロッシーニの才能溢れる音楽があるからこそ台本が生きています。人気オペラのお手本のような作品です。
ばらの騎士「Der Rosenkavalier」
原作:
台本:フーゴー・フォン・ホーフマンスタール
言語:ドイツ語
作曲年:1910年
上演時間:全3幕約3時間15分
『ばらの騎士』あらすじ
元帥夫人は夫が留守中に17歳の美少年の伯爵オクタヴィアンとつかの間の情事を楽しんでいます。翌朝、オックス男爵の使者がやってきて、元帥夫人に結納の銀のばらを届ける人の紹介を頼まれ、オクタヴィアンにその役目を引き受けさせます。
ばらを届けに行ったオクタヴィアンは、相手のゾフィーという娘と恋に落ちてしまいます。オクタヴィアンはオックス男爵に策略を仕掛け、何とかゾフィーとの婚約を破談にする事に成功。元帥夫人も身を引き、オクタヴィアンとゾフィーはめでたく結婚するという話です。
『ばらの騎士』見どころ・聴きどころ
- 元帥夫人のモノローグ
- オクタヴィアンとゾフィーが一目で恋に落ちる場面
- 第3幕最後の場面での三重唱
『ばらの騎士』おすすめ理由
喜劇的でもあり、人情性豊かな物語でもあります。20世紀オペラの最高傑作でしょう。音楽的には歌手も含めて、非常に難しい難曲となっています。R・シュトラウスの素晴らしさが溢れている作品です。舞台も豪華絢爛で人気オペラとなったのが良く分かります。
蝶々夫人「Madama Butterfly」
原作:デーヴィッド・ベラスコ
台本:ジュゼッペ・ジャコーザ、ルイージ・イッリカ
言語:イタリア語
作曲年:1904年
上演時間:全2幕約2時間30分
『蝶々夫人』あらすじ
舞台は日本の長崎。芸者の蝶々はアメリカ海軍兵のピンカートンと結婚します。2人は幸せな時間を過ごし、子宝にも恵まれました。しかし、その幸せは長く続く事はなかったのです。ピンカートンはアメリカに戻り、別の女性と結婚してしまいます。
愛する夫が母国に帰って知った蝶々は希望を失い、ピンカートンとの間にできた子供を残し、自らの命を絶ってしまうのでした。日本を舞台にした悲劇の物語です。
『蝶々夫人』見どころ・聴きどころ
- 蝶々とピンカートンの二重唱
- アリア「ある晴れた日に」
- 蝶々夫人の最後の場面
『蝶々夫人』おすすめ理由
日本を舞台にしたイタリアオペラの代表作です。外国人から見た日本の姿は多少違和感を感じますが、当時の時代背景では情報が限られていたためでしょう。「ある晴れた日に」は非常に有名なアリアです。プッチーニの抒情性を堪能できる作品となっています。
トリスタンとイゾルデ「Tristan und Isolde」
原作:ゴットフリート・フォン・シュトラスブルク
台本:リヒャルト・ワーグナー
言語:
作曲年:1859年
上演時間:全3幕約4時間
『トリスタンとイゾルデ』あらすじ
アイルランドの姫イゾルデは、マルケ王に嫁ぐために船でマルケ王の国コルンヴァールに向かっています。トリスタンも護送役としてその船に乗っていました。愛に苦しむトリスタンとイゾルデは死の薬を飲みますが、それは「愛の薬」だったのです。2人は激しく愛し合います。
イゾルデがマルケ王と結婚した後も2人は密会を重ねますが、その現場をマルケ王の部下メロートに見つかります。トリスタンはメロートと剣を交え、けがを負い瀕死の状態になって城に戻りました。トリスタンは死の縁をさまよいながらもイゾルデを待ちます。
待ちわびたイゾルデがやってきましたが、トリスタンはそのまま息を引き取ってしまいました。イゾルデもその後を追うように命を落とします。そこへマルケ王は2人を許そうと現れますが、時すでに遅し。マルケ王が2人の冥福を祈るところで終演となります。
『トリスタンとイゾルデ』見どころ・聴きどころ
- 第1幕への前奏曲
- トリスタンとイゾルデの愛の二重唱
- イゾルデの「愛の死」
『トリスタンとイゾルデ』おすすめ理由
オペラといえばワーグナーも入れない訳にはいきません。第1幕への前奏曲と愛の死は演奏会でも良く取り上げられており、より一般的と思いこの作品を選びました。ワーグナーの人気オペラでもあり、ここからワーグナーの扉を開けていって欲しいと思ったためです。
まとめ
人気オペラのおすすめを10作品挙げました。ワーグナーはちょっととっつき難いかもしれませんが、1度好きになったら堪らなくなるでしょう。他の作品も名作ばかりで甲乙つけがたいです。実際にオペラを見る前にDVDでしっかり予習すると楽しさが倍増します。