世界一の音楽大学といえば真っ先に思い浮かぶのが「ジュリアード音楽院」です。ジュリアードの卒業生達はとにかくビッグネームばかりで、クラシック界の重鎮から若手まであらゆる層で活躍している超豪華な面々です。
素晴らしいのは卒業生だけではありません。世界一の音楽大学と評されるのは世界トップレベルの教師人たちを抱えているからでもあります。カリキュラムやメソッドがしっかりしていて、全てにおいて完璧な音楽大学といえるでしょう。
「ジュリアード音楽院」には毎年世界中から優秀な若者たちが腕を磨きにやってきます。「ジュリアード音楽院」の何が素晴らしくて世界中から才能溢れる人材が集まってくるのか、この音楽院の知名度が落ちない理由などを探求してみましょう。
ジュリアード音楽院
1905年創立のジュリアード音楽院(The Juilliard School)は、アメリカのニューヨークに本部を置く、世界屈指の音楽大学です。1969年に「The Juilliard School of Music」から「The Juilliard School」に名称が変更されています。舞台芸術も盛んになったからでしょう。
日本での名称は「ジュリアード音楽院」または単に「ジュリアード」と呼称される事が多いです。
世界で最も優秀な音楽大学の1つとされています。在校生の約6割が音楽部門に所属。演劇・舞踊部門が追加された現在でも、やはりジュリアード音楽院の中心部門は音楽部門であり続けています。特にクラシックに関しては後を追う音楽大学が無いほどです。
ジュリアード音楽院の歴史
1905年、フランク・ダムロッシュと友人のジェームズ・ローブはヨーロッパから著名な音楽家を集めた音楽芸術研究所を創立します。
1920年に大学の名前にもなっているアメリカの資産家、オーガスタス・ジュリアードの遺産は病院や美術館など、多くの慈善事業に配分されました。その中でもジュリアードの遺産の約半分になる500万ドルは音楽教育に使用される事になります。
この遺産を基に設立されたのがジュリアード音楽財団です。才能ある音楽家の卵たちがその能力を存分に伸ばせるようにとの思いからでした。
そして1926年には音楽芸術研究所とジュリアード音楽財団が合併し、現在のジュリアード音楽院が誕生したのです。
その後は舞踊部門や演劇部門が開設され、1969年のキャンパス移転と共に、名称をジュリアード学校(The Juilliard School)と変更しました。
ジュリアードのカリキュラム
ジュリアード音楽院では数段階に分かれたレベルの授業、包括的な必須カリキュラムなど様々なコースが用意されています。
技術的に優れた能力を持つ学生を対象に、教師との1対1の授業などきめ細やかな授業を行う事によって「真」のアーティストとして開花させる事を目的とした教育が実践されているのです。
音楽理論や歴史、「音楽の耳」のトレーニングや、その他の幅広い学科を学ぶ事により、総合的な音楽知識を得ることができます。
また、日本やアジア、ヨーロッパなど世界各国からの留学生が多い事も特徴の一つです。受け入れ態勢も万全なシステムをとっており、入学から卒業まで安心して学ぶ事ができるのもジュリアード音楽院の魅力になっています。
人種の坩堝である多文化社会・ニューヨークの自由な息吹の元、個性的な音楽家を次々と産み出している同学校は、音楽を志すものにとって必要な豊かな感性を育むことができる、まさに理想の「学びの場」と言えるでしょう。
ジュリアード音楽院の学部・学科
音楽・舞踊・演劇の3つの部門から成り立っています。歴史的にも音楽部門が一番の強みではありますが、世界的にも有名なイギリスの大学評価機関QSによって発表された音大ランキングで総合一位に選ばれています。
音楽部門
音楽部門はジュリアード音楽院の学生の6割が学んでいる最大の部門であり、この学校の看板部門となっています。取得できる学位は学士、修士、準修士、アーティストディプロマ、そして博士です。
学科は金管楽器、木管楽器、弦楽器、声楽・オペラ、ピアノ伴奏、作曲、ギター、ハープ、古楽、ジャズ、指揮、オルガン、パーカッション、ピアノに分かれています。ピアノ伴奏科・古楽科・指揮科は大学院プログラムのみです。
舞踊部門
舞踊部門はウィリアム・シューマンにより、1951年に設立されました。学士またはディプロマの学位を取得できます。舞踊と日本語で言っていますが、バレエとダンスの学科です。由緒正しい音楽院ですが、ストリートダンサーみたいな学生も多くいます。
演劇部門
演劇部門は俳優のジョン・ヒュースマンとミッチェル・サン・デニスによって1968年に設立されました。学士、ディプロマ、修士の学位を取得できます。演劇部門は1番新しい部門ですが、ハリウッドで活躍している俳優も多くいます。俳優も大卒の時代というの全世界共通のようです。
ジュリアード音楽院の基本情報
このセクションではジュリアード音楽院の学生数や学費等、入学の為に必要な基本情報を記載しています。超一流校だけあって入学するのが大変な音楽院です。日々の練習もハードな上に天才たちの中で淘汰されないよう勉強を続けなければいけないので卒業するのも難しくなっています。
学生数
大学院生も含め約850人
*東京藝術大学音楽学部は約1,000人
音楽院としてはごく普通の規模と思われます。音楽院として独自のカリキュラムを遂行する為にはこれぐらいの人数が限界なのでしょう。これ以上増やしたら一流教師と1対1の授業などできなくなってしまいます。
男女比
男性54%、女性46%
*東京藝術大学音楽学部は男性35%、女性65%。
日本では女性比率の方が高いですが、ジュリアードではむしろ男性の方が若干多くなっています。年によっての違いがあると思いますので、ほぼ同じ程度と見て差し支えないでしょう。
留学生割合
約24%
*東京藝術大学音楽学部は約20%
留学生の割合はジュリアードも日本の藝大もほぼ同じという結果でした。世界一の音楽大学ですから半分ぐらいが留学生かと思っていましたがそんな事はないようです。クラシックの本場、ヨーロッパからも毎年多くの留学生が学びに来ています。
学費・寮費
学費:約42,000ドル/年
寮・食費:約16,000ドル/年
合計58,000ドル(約600万円)/年
*国立(くにたち)音楽大学は約200万円/年、私立の一例
やはり世界屈指の音楽院ですから、かなり高めの設定です!国立音大の3倍、医学部レベルの費用が毎年かかります。素晴らしい教師・講師陣を多く抱える超一流音楽大学ならではの金額と言えるでしょう。
入学難易度
合格率が約6%、最も難しい(最高ランク)入学難易度です。学生たちはジュリアード入学の為に文字通り血のにじむような努力をしてテストに臨みます。若者が青春の全てを捧げて努力をしてでも入学する価値があるのです。
学生/教員数の比
4人/1人
*東京藝術大学は12人/1人
ここまで学生と教師の比率が近い大学が他に存在するのでしょうか、とにかく本当に優秀な数字です!ほとんどマンツーマンで教わる事ができる最高の環境と言えます。個人レッスン料と考えれば学費も安いのではと考えてしまう程、ジュリアードのシステムは凄いです。
学生の人種構成
白人系:37%、アジア系:13%、黒人系:6%、ヒスパニック系:8%、混合系(ヒスパニック以外):5%、その他:8%、留学生:24%(四捨五入のため合計は100とならない)。留学生で多い国は韓国、カナダ、中国など。
卒業率
卒業率 95%
この数字は果たして多いのか少ないのか。ジュリアードレベルの一流大学に入学できたのに5%の人間が卒業しないって非常に勿体無いのではと感じてしまいます。
しかし、この5%は学費が払えなくなってしまったなどのどうしようもない理由や、在学中からプロ活動をしている学生も少なく無いので、卒業を待たずに音楽家としての道を歩み始めた一部の天才という事もあるようです。
キャンパス
ニューヨーク市マンハッタンのリンカーンセンター。近隣にはメトロポリタンオペラハウスやエブリーフィッシャーホールがあり、日本で言うところの銀座や青山といった超リッチな場所です。
ジュリアード音楽院の教師たち
ジュリアード音楽院の凄さはその教師陣の質の高さにあります。音楽学部の場合、その教師に基本1対1で音楽を叩き込まれるのです。次々と世界に羽ばたく俊英たちを世に送り出している名物教師たちを紹介したいと思います。
ドロシー・ディレイ(ヴァイオリン)
まず挙げないといけないのはこの人でしょう。ヴァイオリンの教師だったドロシー・ディレイ。惜しくも2002年に亡くなりましたが、ジュリアード音楽院で教え始めてからの彼女の活躍はその教え子たちを見れば明らかです。
彼女の弟子たちの多くがチャイコフスキー・コンクールを始め様々なコンクールでの優勝を果たしています。才能を伸ばす教育メソッドがしっかりしていた名物教師でした。そのために彼女が教えていた時代のジュリアード音楽院はヴァイオリンのジュリアードと呼ばれるほどでした。
生徒がうまく弾けない時、なぜうまくいかないのか、どうすればうまくいくのだろうか、そういうことを生徒に質問するレッスンだったといいます。自分自身で解決策を見つけさせる名人でもあったようです。
つまり、生徒が取り組んでいる曲を仕上げるのではなく、生徒が一人前の音楽家として仕上がるのを手助けする、そんな教師でした。ひとりひとり性格が違いますから、その人に合わせた対応をしていたといいます。まさに教師の鑑のような人物でした。
弟子たち
- イツァーク・パールマン
- シュロモ・ミンツ
- チョーリャン・リン
- ナージャ・サレルノ=ソネンバーグ
- アン・アキコ・マイヤース
- 竹澤恭子
- ギル・シャハム
- 五嶋みどり
- 川久保賜紀
- 諏訪内晶子
- サラ・チャン
- 神尾真由子etc…
これだけでも凄いメンバーだと思いますが、そのほかにも多くの世界的なヴァイオリニストを育て上げました。彼女のレッスンを受けたいヴァイオリニストが世界中にいて、弟子にしてくれとの依頼が毎日のようにあったといわれています。
ロジーナ・レヴィーン(ピアノ)
彼女も伝説のピアニストです。ジュリアードの教師になって育て上げたピアニストは数多く、優秀なプロをクラシック界に送り込み続けました。日本が世界に誇る、ピアニスト「中村紘子」を育てたのもこの人です。
弟子たち
- ヴァン・クライバーン
- ジョン・ブラウニング
- ジェフリー・シーゲル
- ジェームズ・レヴァイン
- ジョン・ウィリアムズ
- 中村紘子etc…
中村紘子は自身の著書の中で「基礎から全てを否定され、ショックの余りピアノを半年ほど弾くのが嫌だった」旨のことを書いています。でも、彼女の指導のお陰でショパン・コンクール史上最年少入賞を果たしたのですから素晴らしい事です。
これも教育メソッドがしっかりしていて、短期間の内にそれを身に付けさせた(もちろん中村紘子の才能があってこそ)のですから、教え方がどれだけ上手かったのかの証となるでしょう。
ジュリアードの教師たち【現在】
ジュリアードは現在でも素晴らしい教師陣が揃っています。その中の何人かの名前を挙げておきましょう。
- イツァーク・パールマン
- 木村まり
- 田中直子
- キャロル・ウィンセンス
- チョーリャン・リン
ジュリアード音楽院の出身者
世界で今も活躍するメンバーや伝説を残してこの世を去った一流音楽家ばかりです。とにかく数が多いので、ヴァイオリニストとピアノについては上記で書いた弟子たちで割愛させて貰い、その他の分野での出身者を紹介します。
ジュリアード音楽院出身の音楽家
- 一柳慧(作曲)
- アラン・ギルバート(指揮)
- レナード・スラットキン(指揮)
- デニス・ラッセル・デイヴィス(指揮)
- ルネ・フレミング(声楽)
- ローナ・ヘイウッド(声楽)
- ツトム・ヤマシタ(打楽器)
- ジェームズ・レヴァイン(指揮)
- ヒューバート・ロウズ(フルート)etc…
全ての音楽家の名前を挙げていくと本当にキリがない程ジュリアードの卒業生には優秀な音楽家が揃っています。
ジュリアード音楽院の未来
現在でもジュリアード音楽院は素晴らしい名門学校ですが、今後のより一層の発展の考えも持っています。それは海外に進出する事と講師陣の充実です。
ジュリアード音楽院・天津進出
2019年秋に「天津ジュリアード音楽院」が開校します!ジュリアード音楽院初の海外分校です。クラシック音楽業界も、アジアそれも中国は金のなる木だと思っているのですね。北京でも上海でもなく、なぜ天津なのかは分りませんが、間違いなく2019年中国進出です。
「天津ジュリアード音楽院」は天津濱海新区(Binhai)の于家堡(Yujiabao)自由貿易区内に設立されます。開校後は、若い音楽家やパフォーマンスアーティスト、舞踊家などが集まる国際芸術の中心となる事でしょう。中国では唯一アメリカの修士号を取得できる芸術学院となります。
ジュリアード音楽院院長のジョセフ・W・ポリシ氏は、「天津ジュリアード音楽院は、オーケストラや室内楽の演奏、ピアノ芸術指導修士課程、プレカレッジ課程、楽器訓練課程、成人教育など、さまざまなコースを通してより多くの若者が、専門的な芸術や教育に触れ、ジュリアードのありのままの教育を中国で体験してもらいたい」と述べています。
ジュリアード音楽院をそのまま天津に持ってくるわけですから、凄い構想です。今後、「天津ジュリアード音楽院」から世界的な音楽家が誕生してくるのでしょう。中国は経済だけでなく芸術分野も世界的レベルになるわけですね。日本はますます水をあけられそうです。
講師陣の充実
現在、世界的に活躍している音楽家がジュリアード音楽院に招かれて次々に教師となっています。ですから、これからもその音楽教育水準は変わりなく高いものであり続けるでしょう。
それがジュリアード音楽院の強みであり魅力です。今後もジュリアード音楽院は世界の1位の座を維持し続ける事は間違いありません。
世界音楽大学ランキング第1位
上記でも記載していますが、2019年のQS「世界音楽大学ランキング」で第1位を獲得しました。これでこのランキングが始まって以来ずっと第1位が続いています。いかにこの音楽院が素晴らしいものかを世界的評価機関が証明してくれているのです。
このランキングは権威のあるもので、そこでの第1位認定ですから、大変な名誉です。ジュリアード側はさもありなんと思っているでしょうが、世界一にあぐらをかく事なく今まで以上のパフォーマンスを学生たちに示してくれる事でしょう。
まとめ
とにかくジュリアード音楽院に集う人材は才能豊かな人間ばかりです。世界一の音楽院の名誉は当分続くと思われます。
そして今後も大きなコンクールの優勝者にはジュリアード音楽院出身者が多くなっていく事でしょう。
ジュリアード音楽院の事を調べれば調べるほどそのレベルの高さに呆れてしまうほどです。日本の音楽大学が太刀打ちできるようになるには、後どれぐらいの年月が必要なのでしょうか。