
都市伝説、誰が言い始めたかもわからない曖昧な噂話でありながら、真実味のある内容は人の心に確かな恐怖や疑念を芽生えさせるリアリティーのある怪談話のような物です。偶然なのか必然なのか、様々な事実と憶測によって生まれる都市伝説は日本でも広く知られています。
長い歴史を持つクラシック音楽界にも都市伝説は数多く存在します。「書くと必ず死ぬ、呪われた曲」や「悪魔によって生み出された曲」など、にわかには信じられないような都市伝説が語られる事も多いです。その他にも精神を患ってしまった音楽家の話は膨大にあります。
今回はクラシック音楽界に存在する都市伝説や、実際に起こったとされる恐怖のエピソードなどを紹介していきます。長い歴史の中で脈々と語り継がれる都市伝説は果たして真実なのか、それともただの偶然の産物なのか。ぜひクラシック界に存在する恐怖の一端を垣間見てください。
*紹介するエピソードは様々な事実や憶測によって構成されたものです。
交響曲第九番を作曲すると死ぬ
第九が呪われているというエピソードはクラシック音楽界でも非常に広く知られた有名な都市伝説です。日本人でも一度は聴いた事のあるベートヴェンの第九。ベートーヴェンは第九を最後にこの世を去ります。そしてここからクラシック界に死の連鎖が生まれるのです。
歴史的作曲家が相次いで死亡
ベートーヴェンの無念が生み出した呪いなのか、才能ある作曲家が9番目の交響曲を最後に死を遂げます。この都市伝説は決して数百年も前の話ではなく、20世紀にまで引き継がれる事となります。最初の犠牲者はベートーヴェンとも親交のあったシューベルト。9番を作曲した2年後に死んでしまいます。
そしてその後もドヴォルザークやブルックナーといった名だたる作曲家が第九を最後に死を遂げています。そんな都市伝説に震え上がり、妄信したのがマーラーでした。彼は死の恐怖から、第九を書きあげるも曲名を「大地の歌」と名付け、見事死の連鎖を回避するのです。
終わらない呪い
奇策を用いて「死の連鎖」に打ち勝ったマーラー。彼はたしかに死神の手を振りほどいたかに見えました。しかし、ベートーヴェンの呪いは終わっていませんでした。好奇心なのか、それとも呪いがそうさせたのか、マーラーは交響曲第九番を作ってしまったのです。
一度死神の手をすり抜けたマーラーでしたが、その他の作曲家同様に、彼もまた第九を最後にこの世を去ることになるのです。誰よりも呪いを信じた男が、恐怖を抱くのに十分な信憑性を帯びさせる結果となってしまいました。そして呪いは20世紀に入っても。。。
呪いは続いているのかもしれない
イギリスを代表する作曲家ヴォーン・ウィリアムズもまた第九の呪いによって命を落とした一人とされています。20世紀に入ってもなお、100年以上の時を超えて死の連鎖は続いてしまったのです。彼の死後、第九の呪いによって死んだ作曲家はいません。
偶然による迷信も21世紀には風化したように思えます。しかし、果たして呪いは本当に終わりを迎えたのでしょうか。ベートーヴェンが嫉妬するほどの才能を持つ作曲家が現代に表れていないだけで「死の連鎖」が再び動き出す日が来ないとも言い切れないのかもしれません。
クラシック界に実在したサイコパス
幻想交響曲を作曲し、一躍クラシック界の一発屋としてその名を轟かす事となったフランスの作曲家ベルリオーズは殺人衝動を抱えていたと言われています。幻想交響曲で注目を集めた作曲家は「最愛の女性の殺人計画」を立てていたのです。
殺人衝動が芽生える
幼少期より感受性が高く、ロマンチストだった事で知られるベルリオーズは、一人の大女優に恋をします。彼女からしてみれば見ず知らずの男からの突然の求愛に困惑し、まったく相手にしませんでした。しかし、ベルリオーズの歪んだ愛情は狂気を帯びていきます。
届かぬ女性への愛は憎しみへと変わり、狂気に満ち溢れます。そうして生まれたのが傑作として知られる「幻想交響曲」なのです。この曲の中で彼は想いを寄せる恋人を殺害し、自身は首を切られ死ぬという狂気に満ちたストーリーを構成します。
23歳にして彼のサイコパスな一面、そして殺人衝動が目に見える形で芽生えるのです。
新たな恋。生まれた憎悪。
「幻想交響曲」の作曲中、ベルリオーズはピアニストの女性と恋に落ちます。二人の関係は親密なものとなり、結婚の約束を結びます。ローマ賞で大賞を受賞し、恋人との関係も良好であったベルリオーズの殺人衝動は影に身をひそめ、幸せな人生を送ると思われました。
しかし恋人の母親から受け取った一通の手紙が再び彼の狂気を呼び覚ましてしまいます。その内容は娘との結婚を拒否するものであり、娘には婚約者がいるというものでした。眠っていた殺人衝動が彼を侵食し、幻想交響曲になぞるかのように最愛の女性を含む3人の殺害計画を立てます。
狂気が動き出す
女性に変装し、油断した3人をピストルで撃ち殺し、自らも服毒自殺を図るという殺害計画でした。準備を整え、3人がいるパリへと向かう途中、ベルリオーズは波の音を聞いてふと我に返り、殺害計画を断念する事になります。一説には変装用の衣装を紛失したからとも言われています。
まるで悪魔に憑りつかれていたかのような彼の行動。そして些細な理由で計画を断念する異常性はまさにサイコパスと呼ぶにふさわしいと言えます。もし波の音を聞いていなかったら、もし変装用の衣装を紛失していなかったら、彼の計画は実行されていたのでしょうか。
もしベルリオーズが殺害計画を実行していたら傑作は生まれず、狂気に満ちた殺人鬼が誕生していたのかもしれません。
マインドコントロールされた作曲家
独裁者として知られるナチスのヒトラーは「究極の兵器」としてマインドコントロールなどの精神操作を長年研究していたと言われています。対象を意のままに操ったり、人間が持つ秘められた能力を呼び覚まし、超常の力を持たせる事ができるなど効力は様々です。
催眠が生んだ傑作
クラシック音楽界の都市伝説の一つに、マインドコントロールによってその才能を開花させたのではないかと噂されている、世界的な作曲家がいることをご存じでしょうか。ロシアの偉大な作曲家であるラフマニノフこそ催眠で才能を開花させられた人物だと言われています。
ラフマニノフが作曲した交響曲第1番は聴衆から極めて強烈な酷評を受けました。そのせいでラマニノフは精神を病んでしまい、ニコライ・ダール博士の催眠療法を受ける事になります。どのような治療が行われていたのか、正確な記述や情報は一切わかっていませんが、その後間違いなく傑作が誕生したのです。
ピアノ協奏曲第2番誕生
ピアノ協奏曲第2番を作曲する前にラマニノフが間違いなくニコライ・ダール博士の元を訪れていたという事実だけは揺るぎません。ラマニノフは、博士によってマインドコントロールが施され、歴史に残す傑作を生み出す能力を開花させられたと信じられています。
ドイツやロシアといえばマインドコントロールの軍事利用を進めていたと言われる国家でもありました。人々を魅了するような音楽を生み出す能力を開花させ、音楽で世界を洗脳するような研究の被験者としてラマニノフは一種のモルモットにされていたと考えても良いのかもしれません。
音楽界に巣食う悪魔の存在
音楽と悪魔の関係性は都市伝説として音楽の歴史の中で幾度となく登場しています。過去から現在に至るまで、多くの有名な音楽家・ミュージシャンが悪魔との契約を示唆する発言をしており、果たしてそれが妄言なのか、真実なのか誰にもわかっていません。
悪魔のトリトル
ストラディバリウスの最初のオーナーとして知られるバイオリニスト、ジュゼッペ・タルティーニは悪魔と契約した音楽家としてクラシック界にその名を残しています。ジュゼッペ・タルティーニの代表曲として知られる「悪魔のトリトル」は悪魔と契約をし、授けられた曲であると自ら明言しています。
タルティーニは夢の中で、悪魔に魂を差し出す代わりに人々を魅了する曲を与えてほしいと懇願しました。すると悪魔は魅惑的なメロディーを奏で、それに感動したタルティーニは目を覚ましたあと夢で聞いた曲を楽譜に起こします。それこそが「悪魔のトリトル」なのです。
史上最高のバイオリニスト
史上最高のバイオリニストと呼び声高いニコロ・パガニーニも悪魔と関係があった一人です。パガニーニの場合は、自身ではなく母親が息子のために悪魔と契約されていたとされています。そしてそれを決定付けるようにコンサートではパガニーニの後ろに悪魔の姿を見たという聴衆が後を絶ちませんでした。
パガニーニ自身も悪魔と契約を否定する事はなく、肯定的な発言をしていた事でも有名です。パフォーマンスのように感じる部分もありますが、彼の埋葬の際にはキリスト教会も拒否したという記述が残っているほど、彼が悪魔付きであると周りから信じられていました。
悪魔のギタリスト
ローリングストーン誌が発表した“史上最も偉大なギタリスト100人”の5位にランクされた事でも知られるアメリカを代表するギタリスト、ブルースマン、ロバート・ジョンソンも悪魔と契約していた音楽家の一人として有名です。彼の都市伝説も鳥肌物である。
ジョンソンのギターテクニックは仲間内でも有名なほど、ド下手で、彼にギタリストとしての才能は皆無だったと言われていました。しかし18歳の頃、ふらっと数週間姿を消すと、超絶的なテクニックを持って帰ってきたのだそうです。
悪魔に魂を売り渡す事を条件にギターの才能を開花させられたジョンソンは、悪魔や地獄をほのめかす曲を多く作曲し、27歳という若さでこの世を去ることになったのです。元々才能に恵まれなかった青年は、魂の他にも多くの寿命を売り渡すことで才能を手にしたのかも知れません。
まとめ
クラシック音楽の長き歴史の中には様々な都市伝説が存在します。その中でも有名なものを紹介させていただきましたがいかがだったでしょうか。
クラシック音楽はヒーリングミュージックとして知られる事も多いですが、実は陰湿で狂気が混じった楽曲も多いのです。元々は教会音楽の流れを汲んでいるのでスピリチュアルな要素も多いのはうなずけます。クラシックファンとして、時にはこんな裏話も面白いと思います。