忙しいオーケストラ

世界各国にオーケストラは存在していますが、その中で「世界一の公演数を誇るオーケストラ」はどのオーケストラだと思いますか?ベルリン・フィルかウィーン・フィルと思っている方は多いと思います。しかし、両オーケストラはTOP10入りしていますが第1位ではありませんでした。

この結果の出所は、イギリスのクラシック専門サイト『Bachtrack』が発表した、公演数を元にした年度ランキングです。2019年に一番忙しかったオーケストラ=公演数が多かったオーケストラは、ベルリン・フィルでもなく、ウィーン・フィルでもなく、なんと別のオーケストラでした。

アメリカでは、大都市でもオーケストラが1つしかない事が多く、その分、演奏会の数を増やしていますから忙しいのは当然です。しかし、第1位はアメリカでもありませんでした。「超多忙を極めるオーケストラ」はどこか予想しながら読み進めて頂くと面白みも増す事でしょう。

『Bachtrack』の統計結果

『Bachtrack』の統計は、2019年に世界各地で行われたコンサートやリサイタル、オペラなどの公演数合計35,000件を対象としています。それをオーケストラ毎にカウントして、このようなランキングを作成しています。公演数の実数ですので、信頼度は高いものと言えるでしょう。

アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、日本など、各国別に、どの分野の音楽が(例えばバロック等)どの程度演奏されているかなどのデータ分析も行われています。

第10位 フィラデルフィア管弦楽団

所在地:アメリカ、フィラデルフィア
創立:1900年
音楽監督:ヤニック・ネゼ=セガン

アメリカBIG5の1つです。アメリカでは大都市でもプロのオーケストラは1つしか存在しません。ですから、多くのクラシック・ファンに音楽を聴かせるために、演奏会の回数を多くしています。アメリカのオーケストラ、特にBIG5レベルのオーケストラは忙しいのが当たり前です。

第10位 フィルハーモニア管弦楽団

所在地:イギリス、ロンドン
創立:1945年
音楽監督:エサ=ペッカ・サロネン

ロンドン5大オーケストラの1つです。ロンドンは東京と同じように、プロのオーケストラがひしめいている都市です。五大オケといえど、他のオーケストラを蹴落としてでも、仕事を増やさないと運営して行けません。それで、演奏会を多くして収入を増やしています。

第8位 ウィーン交響楽団

所在地:オーストリア、ウィーン
創立:1900年
音楽監督:フィリップ・ジョルダン

ウィーンでは国立歌劇場、ウィーン・フィルと並び立つ存在で、音楽の都のオーケストラとして無くてはならないオーケストラです。1シーズンにつき150以上のコンサートやオペラ公演をこなす忙しいオーケストラです。

第8位 サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団

所在地:イタリア、ローマ
創立:1908年
音楽監督:アントニオ・パッパーノ

1908年に創設されて以来14,000回に及ぶコンサートを行っているそうです。単純に計算して年間120回以上ですので、現在の演奏回数はもっと多いと思います。超多忙なオーケストラにランクインされているのも当然です。

第6位 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

所在地:オーストリア、ウィーン
創立:1842年
音楽監督:なし

ウィーン国立歌劇場の1年の公演数が200以上です。ウィーン・フィルはそれをこなしながら、年間百数十回以上の演奏会を開いているのですから忙しいのは当然です。果たして、ウィーン・フィルの楽員たちは休みと言う物があるのでしょうか。

第6位 ニューヨーク・フィルハーモニック

所在地:アメリカ、ニューヨーク
創立:1842年
音楽監督:ヤープ・ヴァン・ズヴェーデン

アメリカBIG5の1つです。ニューヨークは890万人が住む大都市なのにも拘わらず、プロのオーケストラはニューヨーク・フィル1つです。需要が多いため、現在、年間約180回の公演を行っています。その間に多くの録音を行い、テレビ出演もしているのですから、大変な忙しさだと思います。

第5位 シカゴ交響楽団

所在地:アメリカ、シカゴ
創立:1891年
音楽監督:リッカルド・ムーティ

アメリカBIG5の1つです。シカゴの人口は270万人ですから、ニューヨークに比べれば中都市クラスです。そこにシカゴ交響楽団1つですから、演奏回数が多くなるのは分かりますが、ニューヨーク・フィルをを上回った理由は音楽祭を開催している事に関係しているのかもしれません。

第4位 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

所在地:イギリス、ロンドン
創立:1964年
音楽監督:空位、2021年からヴァシリー・ペトレンコ

ロンドン5大オーケストラの1つ。イギリス国内で幅広く演奏旅行に取り組み、「イギリスの国民的オーケストラ」と呼ばれています。ロイヤルの冠を戴く通り「女王陛下のオーケストラ」でもあります。ロンドンのみならず、イギリス各地への演奏旅行中の公演数が多いのでしょう。

第3位 ボストン交響楽団

所在地:アメリカ、ボストン
創立:1881年
音楽監督:アンドリス・ネルソンス

アメリカBIG5の1つです。BIG5の内、4オーケストラがランクインしています。アメリカのメジャー・オーケストラが世界的に多忙な事が良く分かります。ボストン交響楽団も自前の音楽祭を開催しており、それでアメリカNO.1となったのでしょう。

第2位 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

所在地:ドイツ、ベルリン
創立:1882年
音楽監督:キリル・ペトレンコ

やっと、ドイツのオーケストラがランキングに顔を出しました。年間公演数180回以上。ベルリンのみならず、ドイツ国内はもちろんの事、海外公演も多く、そして音楽祭ではオペラも演奏してしまう、本当に忙しいオーケストラです。

第1位 北西ドイツ・フィルハーモニー管弦楽団

所在地:ドイツ、ヘルフォルト
創立:1950年
音楽監督:ユージン・ツィガーン、2021年からジョナサン・ヘイワード

ランキング第1位はこのオーケストラでした。予想した方はいたでしょうか。一昨年も第1位だったようです。このオーケストラがべルリン・フィル越えとは驚きです。独自の公演だけでなく、貸出単価の安さを売りにした仕事もかなりこなしているためなのでしょう。

ランキングを振り返って

第1位 北西ドイツ・フィルハーモニー管弦楽団
第2位 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
第3位 ボストン交響楽団
第4位 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
第5位 シカゴ交響楽団
第6位 ニューヨーク・フィルハーモニック
第6位 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
第8位 サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団
第8位 ウィーン交響楽団
第10位 フィルハーモニア管弦楽団
第10位 フィラデルフィア管弦楽団

ランキングを見てみると、ドイツ:2、アメリカ:4、オーストリア:2、イギリス:2、イタリア:1いう結果になっています。ベルリン・フィル、ウィーン・フィル+アメリカのオーケストラ+残りはドイツのオーケストラと予想していましたが、全くはずれでした。

過去のランキングを見てみると、第1位の北西ドイツ・フィルハーモニー管弦楽団は常連のようです。忙しい事は嬉しい事ですが、そのために練習時間が余り取れなかったり、オーケストラ楽員の回し方など、苦労している事も多いかと思われます。

第10位までにクリーヴランド管弦楽団やロンドン交響楽団、ロイヤルコンセルトヘボウ管弦楽団などの一流どころがランクインしていない事は、少々驚きでした。こうしたランキング統計記事を見ないと分からない事も多いのですね。

まとめ

「世界一の公演数を誇るオーケストラ」を見てきました。ベルリン・フィルやウィーン・フィルより忙しいオーケストラが在った事(北西ドイツ・フィルハーモニー管弦楽団)に、驚きましたし、アメリカBIG5の内のクリーヴランド管弦楽団が無い事も驚きでした。

このランキングは公演回数が対象です。ランクインしたオーケストラはこれ以外に録音活動もしていますから、如何に忙しいかが想像できます。音楽家は趣味も音楽と言える人ではないとオーケストラでの仕事は出来ないのでしょう。忙しい事と、質を維持する事の両立は大変だと思います。

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