
ウィーン・フィルのニューイヤーコンサートは毎年の元日に全世界で楽しまれているコンサートです。ウィーンで正午に始まるため、日本では丁度ゴールデンタイムに見られるのも魅力の一つとなっています。TVとラジオを通じて世界90カ国以上に放送され、5億人が視聴します。
今年の指揮者はこんな趣向を披露したなどと毎年話題は尽きないコンサートです。私が一番印象的だったのは1987年のカラヤンのスピーチでした。最後に「peace、peace、peace」と3度繰り返した帝王の姿は今でも忘れられません。
さて、では毎年の指揮者はどうやって選ばれているのでしょうか。翌年の指揮者は誰だれだという情報はすぐに流れますが、誰が、いつ、どこで決めているかについては分かっていない人の方が多いと思います。
ニューイヤーコンサートの歴史
最初のニューイヤーコンサートは実はニューイヤーではなくジルベスターコンサートでした。1939年12月31日が第1回だったのです。ナチス政権により当時のオーストリアはドイツに併合され暗い時代を迎えていました。
国民の反ナチスに対するガス抜きとして、ヨハン・シュトラウスの演奏会が開かれたのが始まりでした。1941年の第2回からは正式に1月1日に開催されます。当時は「ヨハン・シュトラウス・コンサート」または「フィルハーモニー・アカデミー」と呼ばれていました。
ニューイヤーコンサートの呼称が使われたのは、1946年1月1日のコンサートからでした。指揮者は最初はクレメンス・クライスが行っていました。彼の急逝を受け、以降コンサートマスターのウィリー・ボスコフスキーが弾き振りを25年も続けました。
ボスコフスキー引退後はロリン・マゼールが指揮を7回務めましたが、その間にオーケストラ側で話し合い、毎年指揮者を交代制にするとの結論を得て、現在のような形になったのです。その最初に選ばれた名誉ある指揮者が帝王カラヤンでした。
指揮者の決定方法
ニューイヤーコンサートの指揮者は交代制と決まりましたが、ではどうやって次の年の指揮者を選ぶのでしょうか。ウィーン・フィルはとても民主的なオーケストラですから何を決めるにも楽団員の投票です。
ニューイヤーコンサートの指揮者も例外なく楽団員の投票で決定されます。いつの時期にその決定をする総会を開くのか、また誰に何票入ったかなどの詳細は決して外には漏れません。だから誰も分からないところで決定されています。それが名門ウィーンフィルの掟だからです。
そして、投票により選ばれた指揮者は「正式には1月2日に発表」されます。でも、実際は1月1日の時点でウィーン・フィルから情報が流されて、テレビを通して、来年の指揮者は誰だれと発表されています。
現実問題、人気指揮者に来年のニューイヤーコンサートの指揮をお願いするにはスケジュール的に無理ですから、数年前からオファーを出し、OKが貰えた指揮者を確保しておくものと想像されます。その際には絶対に情報を漏らさないように契約書なども取り交わすのでしょう。
コンサートマスターのボスコフスキーの引退後にマゼールが7年間も指揮を務めたのも、実はカラヤンのスケジュール待ちとだったという点も否定できないと思います。自分たちが最初に選ぶ指揮者はカラヤン以外は考えられなかったのでしょう。
ニューイヤーコンサートの面白い慣習
ニューイヤーコンサートの伝統として、面白い慣習があります。第2次大戦後始まったものですが、今でも続いています。
アンコールは3曲
慣習のひとつ目がアンコールの2曲目と3曲目は毎回決まっている事です。アンコール1曲目はその年の指揮者が決めますが、その後の『美しく青きドナウ』と『ラデツキー行進曲』の演奏は恒例となっています。
指揮者のスピーチ
『美しく青きドナウ』のフレーズが流れると必ず聴衆の拍手が起き、一時演奏が中断されます。そこで、指揮者は聴衆に向かって短いスピーチをします。毎年、どんなスピーチをするかも楽しみのひとつです。スピーチの後に新たに『美しく青きドナウ』の演奏が行われます。
音楽に合わせての手拍子
最後の曲の『ラデツキー行進曲』は曲の途中で聴衆の手拍子が入ります。何処から入れるかは聴衆はもう既に知っていますが、指揮者はおもむろに客席側を向いて、手拍子のキューを出します。この応酬を楽しみに毎年聴きに来る聴衆も多い事でしょう。
ニューイヤーコンサートは1回だけではない
正確にいうとニューイヤーコンサートは1回だけですが、同じ曲目で12月30日と12月31日にもコンサートが開かれているのです。12月30日は公開ゲネプロとしてのマチネ、12月31日はジルベスターコンサートとしてソワレ、そして1月1日のニューイヤーコンサートと3回演奏されています。
興味深いのは全て録音、録画されていて、1月1日の本番の日に、もしも放送事故があったときに代わりにその映像に即座に切り替えられるようになっています。ですから、指揮者もオーケストラも全ての演奏会で同じ服装で演奏しているそうです。
まとめ
ウィーン・フィルのニューイヤーコンサートの指揮者選びや歴史について見てきました。結局は楽団員の投票で決めている事以外は謎のままです。次の年以降の指揮者が誰かを予想するのも楽しみのひとつでもありますから、謎のままでおいておくのが一番妥当なのかと思います。