クラシック音楽の作品には曲名が素敵なものが多くあります。ロマンティックなものから、劇的なものまで様々ありますが、作品のイメージを表すものとして重要な情報です。
曲名を見ただけで、ぜひ聴いてみたいと思う作品は、交響曲を始め、協奏曲、ピアノ曲、歌曲など多くのジャンルに渡って存在しています。
数ある作品の中で、特に秀逸で、ぜひ聴いてみたいと食指が動くような曲名のクラシック音楽をランキングしてみました。
ランキングの指針
- 楽曲を聴いてみたいと思う曲名である
- 楽曲のイメージが伝わってくる曲名である
第10位:音楽の冗談
モーツァルトらしい悪戯満載の作品です。『音楽の冗談』とモーツァルト自身が名付けた作品ですから、どんな冗談が聴ける事かとても興味が湧いてきます。
このランキングの最初にぴったりの曲名ではないでしょうか。モーツァルトが下手な音楽家の演奏会の様子を作曲したものです。ですから、時々変な響きや奇妙な転調などが笑わせてくれます。
K.522ですから、晩年に近い時期の作品です。いつまでもこんな茶目っ気のある作品を作曲していたのですね。モーツァルトらしい悪戯で作ったものですが、駄作になっていないのが素晴らしい。
第9位:メサイア
ヘンデル作曲のオラトリオです。オラトリオとは簡単に言えばローマ・カトリック教会の宗教曲の事をいいます。まさに直球の命名であって、誰もがその内容を想像する事ができる曲名です。
『メサイア』は「メシア(救世主)」の英語読みで、文字通りメシアことキリストの事を称えた音楽になっています。ただ『メサイア』で用いられているテキストは旧約聖書の預言書によるものが多いのが特徴です。
救世主のそのものを曲名にしているのですから、内容は壮大なものになっているのは勿論で、特に『ハレルヤ』は有名です。テレビ番組やCMでも使われているので、「ハレルヤコーラス」だけは誰もがご存じでしょう。
第8位:幻想交響曲
ベルリオーズが作曲した交響曲です。交響曲に「幻想」などという標題を付けるのですから、どんなものなのか気になります。ファンタジックな音楽とはどのようなものなのでしょう。という事で第8位です。
夢見るような音楽かと思いきや薬のために「幻想」を見る男の物語です。その内容もファンタジックではなく、振られた女性を殺した挙句、断頭台で首をはねられる音楽となっています。
首が転がるところまで表現され、そのあと物の怪たちが集まってくる様なども出てくるのです。とんだ「幻想」を見たものだと思います。
第7位:浄められた夜
シェーンベルクの弦楽6重奏曲の傑作です。「浄夜(じょうや)」とも約す事があります。極めて綺麗な音楽であろうと想像がつきます。「浄める」という言葉は精神的な浄化を意味しますから、重い内容の作品である事が明白です。
どのような状況を作曲したのか、非常に興味深いですので、第7位としました。今まで登場した作品とは全く異質な音楽であると分かります。
月夜に男女が織りなす心の模様を描いています。「浄められた夜」と名付けた理由も解説を読むとなるほどねと納得できます。興味がある方は調べてみる事をお勧めします。そして全曲を聴かれるとより感動するでしょう。
第6位:展覧会の絵
元々はムソルグスキーのピアノ曲だったものをラヴェルが編曲してメジャーになりました。音楽の世界に絵画を持ち込んだ曲名が絶妙です。どんな絵画を描写しているのか気になる曲名です。
『展覧会の絵』という響きも素敵ですし、曲名から何を作曲したのか容易に想像できます。平凡なようで、意外と思いつかない曲名かと思い、この順位です。
ムソルグスキーは彼の友人の画家の遺作展を見に行き、わずか3週間ほどで完成させました。余程、創作意欲を駆り立てられたのでしょう。今ではどの絵画を見てどの曲を作曲したのかが大方分かっています。
第5位:死と乙女
元々はシューベルトが作曲した歌曲です。詩はマティアス・クラウディウスの作。病の床に伏す乙女と、死神の対話を題材にしています。『弦楽四重奏曲第14番』の第2楽章で同じ旋律が使われているために、こちらも『死と乙女』という曲名で呼ばれるようになりました。
一般的に『死と乙女』と言えば原曲の歌曲よりも弦楽四重奏曲版を指します。「死と乙女」という曲名は一種衝撃的な響きがあります。「死」と「乙女」は通常遠い存在のものですが、それが合体しているのですから違和感を通り越して、衝撃を感じるのです。
決して幸福的な音楽でない事が最初から伝わって来ます。しかし、どんな音楽なのか聴いてみたいと思わせる曲名です。まさに絶妙な曲名となっています。
第4位:華麗なる大円舞曲
ショパンの『ワルツ第1番』に付けられた曲名です。英訳すると“Grande valse brillante”。「華麗なる大円舞曲」とは名訳かなと思います。単にワルツとして出版するのではなく、あえて副題を付けるところが、当時のウィンナ・ワルツとは違うものだという意思表示です。
ショパンはウィーンで流行っていたJ・シュトラウスのようなワルツを嫌っていたと言います。だからこそ敢えて踊れないワルツを作曲したわけです。ショパン自身の自信の表れでもあったのでしょう。
『華麗なる大円舞曲』とは仰々しい曲名ですが、そこまで言う以上凄いワルツのように思えます。この聴いてみたいと思わせるところが難しいわけですが、この曲名はこの心理を上手くついているのです。
第3位:マドンナの宝石
ヴォルフ=フェラーリのオペラの曲名です。聖母像についている宝石を巡る悲劇の物語ですが、今ではオペラ自体は忘れ去られ、間奏曲第1番のみが残りました。間奏曲だけというのはちょっと反則かもしれませんが、曲名に惹かれて第3位です。
「マドンナの宝石」は原題の直訳ですが、「マドンナ」という言葉と「宝石」がマッチして興味が湧く言葉になっています。ここでいう「マドンナ」とは聖母の事ですが、それは内容を知ってから分かる事です。
「マドンナ」という響きは、漱石なども使っており、日本人には独特の感じをもたらす言葉のような気がします。『マドンナの宝石』はとても魅力的な曲名です。
第2位:美しき水車小屋の娘
シューベルトの歌曲集の曲名です。内容は水車小屋で働き始めた若者が、水車小屋の親方の娘に心を惹かれるが、結局は失恋し自殺してしまうという悲しい内容になっています。いかにもシューベルトが好みそうな詩ですね。
原詩はヴィルヘルム・ミュラーですが、曲名はシューベルトが名付けたもの。私は歌曲自体はほとんど聴きませんが、この曲名は魅力的です。似たようなものに「眠れる森の美女」がありますが、「美しき水車小屋の娘」の方に惹かれるのはなぜでしょうか。
どこかにはかなさを感じてしまうのは、シューベルトの作品だと知っているからかもしれません。「美しき水車小屋の娘」の方に惹かれるのは、「水車小屋」に動きを感じる事と「美しき娘」に現実感があるためだと思います。
第1位:亜麻色の髪の乙女
ドビュッシーの『前奏曲集第1巻』の第8曲目のピアノ曲です。やはり第1位はこの曲名しかありません。心惹かれる曲名であり、特に「亜麻色」という言葉には魔法のような響きがあります。
彼の『前奏曲集』(第1巻、第2巻がある)には魅力的な曲名の作品が多くあり、印象派作曲家の特徴を良く表しています。それは『前奏曲集』だけに言えるだけでなく、全作品に共通して言えるものです。
この曲名が映えるのはドビュッシーの作品だからとも言えるでしょう。印象派にしか出せない表現を使って見事に描き出しています。この気持ちの良い雰囲気を味わえるのは彼の力があってのものです。
まとめ
「曲名が素敵なクラシック音楽」をランキングにしてみました。素敵かどうかは人によって違うとは思いますが、曲名がある事により、聴いてみたいと食指が動くのは誰にでもある事ではないでしょうか。
作曲家が曲名を付ける時にはそれなりの思い入れがあると思います。曲名と曲想がピッタリとマッチすると、作品の完成度が高くなり、名曲となる場合が多いものです。
『音楽の冗談』だけは異質の作品ですが、それ以外は名曲として今後も残っていく作品です。曲名のついている作品は数多くあります。面白そうなものを次々と聴いていくのも楽しいものかもしれません。