世界各国には多くの歌劇場が存在しています。Wikipediaによると、その数、220との事ですが、実際はもう少し多いと思われます。現在では、東京は世界の主要クラシック市場になりましたが、オペラに関してはまだ後進国です。日本に歌劇場はたったの1つしか存在しません。

ヨーロッパ及びアメリカなどには、地方都市でも必ず歌劇場があります。クラシック音楽の総合芸術はオペラだという認識が大変強く、オペラが日常生活に溶け込んでいるのです。お金が無くても、立見席の安い席で満足そうに楽しんでいます。早く日本でもそうなって欲しいものです。

今回は私が考える歌劇場のランキングを作成してみようと思います。歌劇場の建物の評価ではなく、あくまでもそこで演じられているオペラの質に拘ってランキングを作成します。ランキングに入れたいと思う歌劇場は数多く、今回のランキングはTOP15とさせていただきます。

ランキング評価基準

  1. 良い音楽監督がいる事
  2. 座付きのオーケストラ、合唱団が高いレベルの水準である事
  3. 座付きの歌手、及びゲストの歌手の質が高い事
  4. 才能ある演出家がいる事
  5. シーズンの公演数が安定している事
  6. 公演のレベルが高い事
  7. 演目によってレベルが変わらない事

第15位 ライプツィヒ歌劇場

ライプツィヒ歌劇場

所在地:ドイツ、ライプツィヒ
創立年:1693年
音楽監督:ウルフ・シルマー

伝統と歴史があるドイツでも屈指の歌劇場です。上演される出し物は、華美ではないものの、洗練されています。斬新さ、過激さを強調することもありません。専属のオーケストラは持たず、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団が演奏を受け持ちます。

この歌劇場はワーグナーとR・シュトラウスに特に定評があります。ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団という最強のオーケストラを使っている事も大きな武器です。しかし、他の歌劇場と比べると、演目によっての出来栄えの差が出ている点がマイナスですので、この順位にしました。

第14位 ベルリン国立歌劇場

ベルリン国立歌劇場

所在地:ドイツ、ベルリン
創立年:1742年
音楽監督:ダニエル・バレンボイム

リンデン通りに位置しているので、リンデン・オーパーとも呼ばれます。歴代音楽総監督にはあの帝王カラヤンなど錚々たる顔ぶれが並んでおり、この歌劇場の質が高さが窺えます。現在は人気の指揮者バレンボイムがその任に当たっており、ここのオーケストラはとてもハイレベルです。

ドイツ統一前にも、この歌劇場のオーケストラは良く来日していました。N響の名誉指揮者でもあったスウィトナーの指揮で何回か聴きに行きました。人気歌手も多く出演し、質が良く、人気の高い歌劇場ですが、バレンボイムのプログラムの組み方などが気になるので、この順位としました。

第13位 チューリッヒ歌劇場

チューリッヒ歌劇場

所在地:スイス、チューリッヒ
創立年:1834年
音楽監督:ファビオ・ルイジ

スイス屈指の世界的歌劇場です。座席数が1,189席と狭い歌劇場ですが、その分どの席でも歌手たちを間近に見る事ができるのが利点とも言えます。この歌劇場は年間約40演目をこなしますが、演目毎のレベルに差がない事がここの売りです。

わずか1,100余りの座席しか持たない歌劇場としては、指揮者、歌手ともなかなかの陣容を備えています。チケット収入が限られている中で、良く頑張っている歌劇場です。あまり上演されない演目を取り上げる意欲も素晴らしいものですが、公演数の少なさでこの順位です。

第12位 ベルリン・コーミッシェ・オーパー

ベルリン・コーミッシェ・オーパー

所在地:ドイツ、ベルリン
創立年:1947年
音楽監督:カール・セントクレア

ベルリン・コーミッシェ・オーパーでの上演は外国作品やモーツァルト等のイタリア語作品でもドイツ語訳で行われている事が最大の特徴です。劇場専属の歌手が出演する、より庶民的なオペラハウスとなっています。スーパースターの出演が限定されているため、この順位としました。

コーミッシェ・オーパーは「演出家の劇場」と表現される事があります。初代の演出家フェルゼンシュタインが「演劇」としての側面に力を注いだため、現在でもその流れが残っています。歴史が浅い歌劇場にも拘らず、レベルの高い演目が多く、世界的に一目置かれている歌劇場です。

第11位 ハンブルク国立歌劇場

ハンブルク国立歌劇場

所在地:ドイツ、ハンブルク
創立年:1678年
音楽監督:ケント・ナガノ

ドイツ最古の歌劇場です。1992年から始まった、ドイツのオペラ専門雑誌『OPERNWELT』が選ぶ、年間最優秀オペラ座にも2回選ばれています。演目全てに高いレベルを保ち、ドイツ屈指の歌劇場として、その歴史に恥じない歌劇場です。

ドイツでも一流歌劇場の部類に入りますが、近年の赤字化は深刻で、今後の運営が心配なためTOP10入りとはしませんでした。稼働率の悪さ(有料入場者数)が影響していると言われています。歴史ある歌劇場なので、古い体質がなかなか変えられないのかもしれません。

第10位 フランクフルト歌劇場

フランクフルト歌劇場

所在地:ドイツ、フランクフルト
創立年:1880年
音楽監督:セバスティアン・ヴァイグレ

ドイツのオペラ専門雑誌『OPERNWELT』が選ぶ、年間最優秀オペラ座にも5回選ばれている、名門の歌劇場です。この歌劇場の素晴らしさは、何といっても座付きのオーケストラが「オーケストラオブザイヤー」賞を受賞している優秀なオーケストラという事です。

決して豪華な舞台を狙ったり、スター歌手による歌唱が広げられたりするわけではありませんが、斬新な舞台と優れた企画で、観客を開きさせない工夫をしている歌劇場です。予算的な事もあると思いますが、スター不在という点で、この順位です。

第9位 シュトゥットガルト国立歌劇場

シュトゥットガルト国立歌劇場

所在地:ドイツ、シュトゥットガルト
創立年:1912年
音楽監督:ローター・ツアコロセック

ドイツのオペラ専門雑誌『OPERNWELT』が選ぶ、年間最優秀オペラ座にドイツ最多の7回選ばれています。ワーグナーやR・シュトラウスなど代表的なドイツオペラからイタリアオペラ、ロシアオペラ、東欧のオペラなど幅広いレパートリーを持っています。

オーケストラは弦・管楽器ともに質の高いオーケストラであり、そのテクニック、また全体のまとまりの良さには驚くべきものがあります。弦の音が分厚くて、いかにもドイツのオーケストラという感じです。第9位の理由はこれから出てくる歌劇場がもっと凄いためです。

第8位 ドレスデン国立歌劇場(ゼンパー・オーパー)

ドレスデン国立歌劇場

所在地:ドイツ、ドレスデン
創立年:1841年
音楽監督:クリスティアン・ティーレマン

東ドイツ時代はドレスデン国立歌劇場と呼ばれていましたが、現在の正式名称はザクセン州立歌劇場です。しかし、未だに旧名で呼ばれる事の方が多い歌劇場です。ゼンパー・オーパーと呼ばれる事もありますが、理由は建築家ゼンパーからとられた愛称です。

ドイツでも1、2位を争う歌劇場です。オーケストラのレベルが物凄く高く、歌手たちのレベルも同様。しかし、旧東独という事もあってか、保守的な演目が多いため、この順意にしました。この批判は同歌劇場も気にかけており、改革を進めるとの事ですので、今後に期待したいです。

第7位 英国ロイヤル・オペラ(コヴェントガーデン王立歌劇場)

英国ロイヤル・オペラ

所在地:イギリス、ロンドン
創立年:1732年
音楽監督:アントニオ・パッパーノ

ロイヤルの名前の通り、王室が運営する歌劇場であり、イギリスで最高峰の歌劇場です。立地場所からコヴェントガーデン王立歌劇場とも呼ばれています。装置、キャスト、演奏水準は英国第一の歌劇場に相応しいレベルを維持しています。

オペラとバレエの公演数は年間約320回、入場者数は70万人以上。ロイヤル・オペラはとても人気が高く、96%という入場率を誇っています。世界中からオペラを見に観客が集って来るのです。ここから1位までは差を付けるのが難しいです。第7位は、音楽監督の知名度の低さからです。

第6位 マリインスキー歌劇場

マリインスキー歌劇場

所在地:ロシア、サンクトペテルブルク
創立年:1860年
音楽監督:ヴァレリー・ゲルギエフ

1988年からヴァレリー・ゲルギエフが芸術監督になってからのレベルアップは信じられない程です。世界の超一流歌劇場の仲間入りをしました。バレエに興味がある方にとっては、憧れの劇場であるぐらい、バレエ団も優秀です。

昔から、マリインスキー劇場と言えばバレエの本場といった所がありましたが、ゲルギエフに変わってからはオペラのレベルも変わりました。現在、最も勢いのある歌劇場という事で第6位としました。ゲルギエフがこれから何をやってくれるかも含め、楽しみな歌劇場です。

第5位 ミラノ・スカラ座

ミラノ・スカラ座

所在地:イタリア、ミラノ
創立年:1778年
音楽監督:リッカルド・シャイー

イタリアで最高峰の伝統ある歌劇場です。天井桟敷には口うるさく熱狂的なオペラファンが詰め掛け、出来の良くない歌手たちに容赦ないヤジを飛ばします。歴代音楽監督にはビッグネームが並んでおり、超一流歌劇場である事が良く分かります。

指揮者や歌手、座付きのオーケストラ、合唱団、どれをとっても世界一流。その集合体がオペラを上演するのですから、レベルが高いのは当たり前です。第5位にした理由は、音楽監督がムーティからシャイーに交代して、少し質が変化したと感じているからです。

第4位 バイエルン国立歌劇場

バイエルン国立歌劇場

所在地:ドイツ、ミュンヘン
創立年:1818年
音楽監督:キリル・ペトレンコ、2021年からウラディーミル・ユロフスキ

現在のドイツで最高峰の歌劇場です。歴代の音楽監督にはビッグネームが並び、そのレベルは伝統と共に守られてきました。世界一流の歌手、指揮者が連日のように公演を行っています。座付きオーケストラのバイエルン国立歌劇場管弦楽団もとても優秀です。

2101席あるこの歌劇場は、歌劇場の中でも大きい部類に入ります。しかし、音響的には悪くなく、質の高いオペラをどの席でも良い音で聴く事が出来ます。第4位としたのは、世界三大歌劇場をより上位に見た結果です。やはり、上位3歌劇場は知名度的にも少々上と判断しました。

第3位 パリ・オペラ座

パリ・オペラ座

所在地:フランス、パリ
創立年:1875年
音楽監督:ステファヌ・リスネル(総支配人)

フランスを代表する伝統ある歌劇場で、世界三大歌劇場の一つです。オペラの公演にも定評がありますが、バレエ公演も非常にレベルが高く有名です。ガルニエ宮と呼ばれる旧館と1990年に新築されたオペラ・バスティーユの2館があります。

座付きオーケストラ、合唱団、バレエ団は全て現代の最高レベルであり、世界遺産ものです。ここで歌う歌手たちもスーパースターばかり。ミシュランに例えれば、芸術レベルが三ツ星レベル!三大歌劇場の中で、予算規模が一番低いのでこの順位としました。

第2位 メトロポリタン歌劇場

メトロポリタン歌劇場

所在地:アメリカ、ニューヨーク
創立年:1883年
音楽監督:ヤニック・ネゼ=セガン

アメリカ最高の歌劇場で、世界三大歌劇場の一つです。MET(メト)と略して呼ばれる事もあります。ジェームズ・レヴァインが現在のMETのレベルを維持・発展させました。劇場の収容人数は約3,800席と歌劇場では最大級です。

オーケストラ、合唱団はレベルが高く、指揮者や歌手たちはスーパースターが揃い、質の高さは世界レベル。世界の歌劇場の中で最も運営予算が多く、充実したオペラを連日開催しています。第2位とした理由は、第1位のレパートリーの多さには一歩及ばないと判断したためです。

第1位 ウィーン国立歌劇場

ウィーン国立歌劇場

所在地:オーストラリア、ウィーン
創立年:1869年
音楽監督:フィリップ・ジョルダン

現在、世界最高峰の歌劇場です。世界の歌手、指揮者たちの憧れの歌劇場であり、また座付きのオーケストラ、ウィーン国立歌劇場管弦楽団も世界一を争うオーケストラです。世界一の音楽祭であるザルツブルグ音楽祭のホスト歌劇場としても有名です。

世界で最大のレパートリーを誇る歌劇場として知られ、1シーズンに60以上の異なるオペラやバレエの作品から300回以上の公演が行われています。オペラ・ファンならずともクラシック・ファンならば、一度は公演を鑑賞してみたい歌劇場です。

ランキングを終えて

歌劇場ランキングTOP15

第1位:ウィーン国立歌劇場
第2位:メトロポリタン歌劇場
第3位:パリ・オペラ座
第4位:バイエルン国立歌劇場
第5位:ミラノ・スカラ座
第6位:マリインスキー歌劇場
第7位:英国ロイヤル・オペラ
第8位:ドレスデン国立歌劇場
第9位:シュトゥットガルト国立歌劇場
第10位:フランクフルト歌劇場
第11位:ハンブルク国立歌劇場
第12位:ベルリン・コーミッシェ・オーパー
第13位:チューリッヒ歌劇場
第14位:ベルリン国立歌劇場
第15位:ライプツィヒ歌劇場

ここで挙げなかった歌劇場にも素晴らしい歌劇場が多く存在しています。ボリショイ劇場、ベルリン・ドイツ・オペラ、バーデン国立歌劇場、リヨン歌劇場、プラハ国立歌劇場、ハンガリー国立歌劇場、スウェーデン王立歌劇場等々、紹介したい歌劇場が世界には沢山あります。

それらの中から選んだ15選です。多くの方は納得してくれるのではないかと自負しています。半分がドイツの歌劇場です。流石はドイツ。国民の間にオペラが必須となっているのです。世界三大歌劇場も現在の地位に胡坐をかいていては追い越される可能性も秘めています。

歌劇場のマメ知識・その1

世界各地に歌劇場が存在していますが、世界でオペラが一番盛んな国は、ドイツです。オペラ発祥の地、イタリアと思っている人も多くいると思いますが、実はドイツなんですね。ウィーン国立歌劇場やザルツブルク音楽祭が開催されるオーストリアでもありませんでした。

世界のオペラ公演を網羅するサイト「operabase」の統計によると、2015~16シーズンのオペラ公演数が最も多い国はドイツでした。合計で6795回。ドイツの歌劇場は30以上ありますので、当然ですね。因みに第2位はアメリカで1657回もあります。アメリカが2位とはこれも驚きです。

人口あたりのオペラ上演回数ということになると、音楽の都ウィーンを擁するオーストリアが一番多くなるそうです。ドイツを中心にしたヨーロッパ、アメリカ、ロシア、北欧がオペラ好きの多い地域です。日本の新国立劇場もいつかはその仲間入り出来ればいいですね。

歌劇場のマメ知識・その2

ほとんどの歌劇場はオーケストラだけではなく、バレエ団、合唱団を専属として持っています。ここに挙げた、どの歌劇場もバレエのレベルが高く、合唱団も上手な所ばかりです。歌劇場を運営する以上、オーケストラ、バレエ団、合唱団を専属とするのが当たり前なのです。

日本のように新国立劇場を作ったのは良いけれど、専属のオーケストラ、バレエ団、合唱団を作らないのは、仏像を作って魂を入れずのような感覚です。全て揃って、初めて歌劇場として認められるのです。ソフト面を充実させなければ意味がありません。

歌劇場のマメ知識・その3

素晴らしい歌劇場は建物もとても立派です。例えば、団体旅行でウィーンに旅行に行ったら、必ずと言っていいほどウィーン国立歌劇場はそのルートに組み込まれています。オーストラリアのシドニー歌劇場も外観が凄く近未来的ですし、拘っています。

パリ・オペラ座やミラノ・スカラ座なども素敵です。伝統のある歌劇場も美しいところが多くあります。戦争で壊された歌劇場も、丁寧に復元された事例も数多いです。歌劇を見るだけでなく、わが町の誇りとして、大事にしている事が伝わって来ます。

まとめ

世界の歌劇場を色々調べましたが、オペラが盛んな国では、地方の小都市でも歌劇場を持っている事に驚きました。音楽の本場ではオペラが愛されている事が分かります。例えば、ドイツでは国(州)からの補助金額がかなり投入されています。日常に必要なものという認識があるのです。

人間が生きていくうえで、総合芸術であるオペラが必要であるという考えが浸透しているのです。オペラが上流階級のものだけではないと思っている人たちに支えられて、各地の歌劇場が運営されています。音楽文化が面々と伝えられてきた証拠です。

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