モーツァルトの青年期

モーツァルトの生涯の中で特に晩年は傑作が多く作曲されています。晩年と言ってもモーツァルトは35歳で亡くなったのですから、普通に考えれば働き盛りです。とても晩年と言うには早すぎます。

1785年(29歳)から亡くなる1791年を振り返ると、『フィガロの結婚』『ドン・ジョバンニ』『コジ・ファン・トゥッテ』『魔笛』、『ピアノ協奏曲第20番』から『第27番』、『クラリネット5重奏曲』、『レクイエム』など傑作が目白押しです。

その中から今回は『ピアノ協奏曲』に光を当てて、名曲揃いの後期ピアノ協奏曲について考察していきます。モーツァルト自身ピアノ協奏曲を得意としていましたが、中でもこれらの楽曲は特に名曲の宝庫となっています。

モーツァルトのピアノ協奏曲の中でも『第20番』以降は傑作が並んでいます。
後期ピアノ協奏曲は人気があるね。なぜかというと名曲揃いだからなんだ。

モーツァルト『ピアノ協奏曲』について

モーツァルトは生涯27曲に及ぶピアノ協奏曲を作曲しました。今回はその中で『第20番』以降の楽曲について見ていこうと思っていますが、それ以前の楽曲にも少し言及しておきましょう。

本格的にピアノ協奏曲を作曲し始めたのがウィーンに出てきてからの1782年からです。『第11番』から公開演奏会のために量産してきたと思われます。その演奏会で稼げる事と、自身が演奏して名声を挙げる事が目的でした。名声が挙がると楽譜出版にも繋がってきます。

しかし、完成度を考えると後期ピアノ協奏曲には敵いません。『第20番』から先の楽曲は彼の音楽の素晴らしさがたくさん詰まっていて、人を感動させる音楽となっているのです。

作品ごとの人気の差はありますが傑作と呼ぶ事に相応しい作品である事は多くの方が納得されると思います。モーツァルトの純粋さがピアノ協奏曲の場合に良く反映されていて、彼自身が得意とする分野だった事が分かります。

ピアノ協奏曲第20番


(グルダ、アバド/VPO)

『第20番』解説

後期ピアノ協奏曲の中で最も有名な楽曲です。映画『アマデウス』でも取り上げられましたから、ご存じの方も多くいると思います。初めてモーツァルトがピアノ協奏曲で短調を使った楽曲でもあります。

不安を感じさせるような序奏がこれから起きる何かを予言しているが如く開始されます。決して楽しい楽曲ではありません。モーツァルトらしからぬ厳しい第1楽章になっています。

第2楽章は『アマデウス』のエンドロールにも使われていました。穏やかな調子で始まりますが、どこか悲しみが感じられます。賑わいのあった後の一抹の寂しさのような音楽が続くかと思うと、ちょっとした嵐が吹き荒れ、また穏やかな表情に戻ります。

第3楽章は激しさに包まれた音楽です。第1楽章と同じようにどこか不安さを感じさせる音楽ですが、モーツァルトの強い意志が伝わってきます。厳しさと激しさ、モーツァルトの心の中の叫びでしょうか。

『第20番』名盤案内

ピアノ:フリードリヒ・グルダ
クラウディオ・アバド 指揮ウィーン・フィル
録音:1974年
ドイツ・グラモフォン

名盤はいくつもありますが、やはり名盤の中でも第1位はグルダの録音だと思います。ここには最良のモーツァルトが詰め込まれていて、手放しで感動する演奏です。アバドとウィーン・フィルの演奏も素晴らしい!天才と天才が組めばこうなるといった永遠の名盤です。

映画『アマデウス』でこの第2楽章が使われました。美しい調べです。
あの映画で一般の方たちの認知度も高くなったね。エンドロールにはピッタリの楽曲だった。

ピアノ協奏曲第21番


(グルダ、アバド/VPO)

『第21番』解説

1967年公開のスウェーデン映画『みじかくも美しく燃え』の中で、この楽曲の第2楽章が使われました。この楽曲のイメージや人気はこの映画によって作られたといっても過言ではないでしょう。

映画の主人公の名を取り、この楽曲のCDに「Elvira Madigan」(エルヴィラ・マディガン)と表記される事もあります。

『ピアノ協奏曲第20番』のすぐ後に作曲されました。こちらは『第20番』とは違って、明るいモーツァルトが表現されています。ウィーンで一人立ちしてすぐの頃であり、演奏会収入で意外と稼げるぞと思っている事のモーツァルトですから、幸せな楽曲になっているのでしょう。

『第21番』名盤案内

ピアノ:フリードリヒ・グルダ
クラウディオ・アバド指揮ウィーン・フィル
録音:1974年
ドイツ・グラモフォン

この楽曲も名盤が多くて迷います。ピリス、ペライア、ブレンデルも捨てがたいですが、ここもグルダの演奏が最も良いと思います。『第20番』とセットになっている事もセールスポイントですね。本当にこの時期のグルダのモーツァルトは素晴らしい!

ピアノ協奏曲第22番


(内田光子、テイト/イギリス室内管)

『第22番』解説

モーツァルトのピアノ協奏曲全曲中最も長い演奏時間の楽曲です。次の『第23番』と対を成す協奏曲となっています。この関係は『第20番』と『第21番』の関係に似ています。恐らく『第22番』と『第23番』は同じ演奏会で披露されたのではないでしょか。

規模も大きく、堂々たる交響的構築をもち、後期の成熟した音楽を聴かせてくれます。この楽曲からクラリネットが使われるようになりました。

第3楽章の生き生きとした感じは聴く人の耳に快く入ってきます。映画『アマデウス』にも使用されました。聴きどころは多くありますが、他の後期ピアノ協奏曲と比較するとこの楽曲の人気は一段低くなっています。

『第22番』名盤案内

ピアノ:ダニエル・バレンボイム
ダニエル・バレンボイム指揮イギリス室内管弦楽団
録音:1971年
EMI

有名曲の間で目立たない『第22番』が名作であることを実感させてくれる演奏です。ベルリン・フィルとの録音もありますが、感動はイギリス室内管弦楽団との方が高いものがあります。

ピアノ協奏曲第23番


(バレンボイム、イギリス室内管)

『第23番』解説

これこそ傑作と呼ぶに相応しい作品です。モーツァルトの作品の中でもレベルの高い1曲です。特に第2楽章の美しくも寂しげな絶品のアダージョには涙しますし、第3楽章の音符が楽しく飛び跳ねているような快活さには脱帽しなければなりませんね。

モーツァルトの天才性を証明するような素晴らしい作品です。ですから『第23番』は後期ピアノ協奏曲の中でも特に人気の高い作品で、録音の数も多数あります。

余談ですが、この楽曲の第2楽章に歌詞を付けて、薬師丸ひろ子が『花のささやき』という曲を歌っています。ヘビーな薬師丸ひろ子ファンでないと知らない事ですね。

『第23番』名盤案内

ピアノ:ダニエル・バレンボイム
ダニエル・バレンボイム指揮イギリス室内管弦楽団
録音:1967年
EMI

名盤は数多くあります。ポリーニ、内田光子など魅力的な録音もありますが、古い録音のバレンボイム盤を選びました。『第23番』の数ある演奏の中でも最右翼に位置付けられる録音です。

後期ピアノ協奏曲の中でも1、2を争う傑作です!
『第23番』はモーツァルトの全体の楽曲の中でも名曲中の名曲だ。

ピアノ協奏曲第24番


(内田光子、テイト/イギリス室内管)

『第24番』解説

『第24番』は『第20番』と同じく短調で書かれています。ピアノ協奏曲全27曲の中で短調なのはこの2曲だけです。誰もがイメージしているモーツァルト像とは異なる楽曲となっています。第1楽章は緊張感あふれる音楽になっていて、人を寄せ付けないような感じがあります。

第2楽章は一転して安堵感溢れる優しい楽曲となっています。第1楽章とは全く対照的な音楽。美しさに魅了されます。そして終楽章は変奏曲。第1楽章の緊張感が再び訪れます。不気味な感じがする暗さの中で繰り広げられるピアノとオーケストラの掛け合い。

もはや、聴衆を喜ばせる音楽ではありえません。モーツァルト自身の解決できない不安さが表現されているように思えます。問題は何も解決せずに急に楽曲は終了します。

『第24番』名盤案内

ピアノ:内田光子
ジェフリー・テイト指揮イギリス室内管弦楽団
録音:1988年
フィリップス

ハスキルやバレンボイムも名盤を出していますが、ここでは内田光子を挙げます。内田光子のピアノはとても明確で『第24番』の暗さを表現している理想的な演奏かと思います。この名曲を更に引き立ててくれる演奏です。

ピアノ協奏曲第25番


(内田光子、テイト/イギリス室内管)

『第25番』解説

『第25番』は『第20番』から一連して作曲されてきたピアノ協奏曲の締めの作品です。次の『第26番』まで少し間が空きます。華麗で雄大な楽曲のようですが、後期ピアノ協奏曲の中では最も地味な作品で、あまり演奏会でも取り上げられません。

『第24番』までにあまりにも聴衆の嗜好を考えずに作曲してきたモーツァルトにウィーンの人々は落胆し、離れて行ってしまいました。それを打開すべくこの作品を発表したのでしょうが、何とも中途半端な曲となってしまっています。

楽曲としての体裁は整っていますが、ウィーンの聴衆たちは振り向いてはくれませんでした。この点ではモーツァルトのあてが外れたわけです。

『第25番』名盤案内

ピアノ:内田光子
ジェフリー・テイト指揮イギリス室内管弦楽団
録音:1988年
フィリップス

シンフォニックなオーケストラ伴奏にのって内田光子が繰り広げる繊細でのびやかな演奏が輝く録音です。彼女はこの楽曲が持っているオペラのようで、またシンフォニック的なところを上手く表現しています。

ピアノ協奏曲第26番「戴冠式」


(ペライア、イギリス室内管)

『第26番』解説

『第25番』から1年以上の間が開いたのはウィーンでの予約演奏会が行えなかったからです。この頃のモーツァルトはウィーンでは落ち目の作曲家で予約演奏会の通知をしてもほとんど客が集まらない状況でした。

その状況を打開すべくこの作品が作曲されましたが、演奏する機会がなかなか訪れません。初演は旅先のドレスデン。「戴冠式」という愛称の由来は、レオポルト二世の戴冠式の祝賀宴で演奏された事のよるものです。

自筆譜のピアノ・パートは不完全であり、特に第2楽章の左手は何も書かれていません。自分が演奏する事を前提としていたためです。そんな事もあり現代のモーツァルト弾きには嫌われている楽曲です。「不完全」ながらもモーツァルトの魅力が詰まっています。

『第26番』名盤案内

ピアノ:マレイ・ペライア
マレイ・ペライア指揮イギリス室内管弦楽団
録音:1983年
SONY

イギリス室内管弦楽団はモーツァルトの名盤を多く録音していますが、これはペライアとの一枚。とても美しいモーツァルトになっています。特に緩徐楽章である第2楽章は見事です。

ピアノ協奏曲第27番


(カサドシュ、セル/クリーヴランド管)

『第27番』解説

前作『第26番』から3年経ってからの作曲した作品です。この後11ヶ月にはもう帰らない人になってしまいます。『第23番』が傑作中の傑作と書きましたが、この楽曲はそれを上回るような絶品です。もはやモーツァルトは聴衆など意識せずに自分の書きたいものを詰め込みました。

我々はモーツァルト最後のピアノ協奏曲と分かっているからそう感じるのかもしれませんが、自分の死期を悟ったような、それまでのピアノ協奏曲とは全く違った平穏な作品になっています。やはりモーツァルトは神に遣わされた音楽家だったとしか思えません。

『第27番』名盤案内

ピアノ:ロベール・カサドシュ
ジョージ・セル指揮クリーブランド管弦楽団
録音:1962年
SONY

カサドシュのピアノが光る録音です。ピアノの音ひとつひとつが粒だっていて、この名曲を上品に演奏しています。セルのサポートもとても良くて、ピアノ、オーケストラ共に感動をもたらせてくれます。

この作品も傑作中の傑作です!
後期ピアノ協奏曲の中では『第23番』と『第27番』が特に優れている作品だな。

まとめ

モーツァルトの後期ピアノ協奏曲はあらゆる意味で素晴らしい作品ばかりです。ピアノが上手かったモーツァルトが得意としていた分野でした。後期ピアノ協奏曲は僅か6年間の間に作曲されたものです。35歳で亡くなったモーツァルトからすれば貴重な6年間でした。

ウィーンの聴衆が離れたモーツァルトは、最後に聴衆を意識しない自分独自の音楽に辿り着きます。その頃のモーツァルトはほとんど神の領域に足を踏み込んでいました。もう1度ピアノ協奏曲を聴き直してその足跡を辿るのも良い事かと思います。

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