英国のクラシック音楽サイト『Bachtrack』は、2019年のクラシック音楽の公演数を基にした各種統計結果を発表しました。『Bachtrack』が毎年恒例で今の時期にランキング形式で発表しているものです。その内容が、とても興味深いものでしたので紹介します。
公演数が基本ですので、まさにどれだけ忙しかったかを計るには最適のデータでしょう。世界で最高に忙しかった指揮者は・・・それは、記事を読んで頂く事にして、確かにそうだろうと思う人から、そんなに指揮しているのと驚く人まで、面白いメンバーがランキングされました。
それでは、どんな結果になったのかを見ていきましょう。幸いにもこれを読んで下さっている読者の皆さんも、「今一番の売れっ子指揮者は誰なのか」、自分で一度予想してみて下さい。そうすれば、より面白く読み進める事が出来ると思います。
『Bachtrack』統計について
統計は世界各国全ての国でのものではありません。勿論、実際にそんな事は出来るはずがありません。『Bachtrack』はクラシック音楽が盛んに行われている十数ヶ国の公演数を集計してランキングを作成していると考えられます。ただし、情報分析が載っているのは10ヶ国だけです。
スウェーデン、アメリカ、イギリス、スペイン、オランダ、フランス、ドイツ、スイス、オーストリア、日本の以上10ヶ国です。イタリアやロシアなどが情報分析から抜けているのは腑に落ちませんが、統計自体には入っていると思われます。そうしないと統計の信頼性が揺らいでしまいます。
第10位 セミヨン・ビシュコフ
生年月日:1952年11月30日
出身国:ソ連
サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団首席客演指揮者、パリ管弦楽団の音楽監督、ケルン放送交響楽団の首席指揮者、ドレスデン国立歌劇場の首席指揮者を経て、2018年にチェコ・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者・音楽監督に就任。
ミラノ・スカラ座、パリ・オペラ座、ウィーン国立歌劇場など世界の主要歌劇場に登場し、また、ウィーン・フィル、ベルリン・フィル、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、ミュンヘン・フィルなどの著名オーケストラとの協演多数。来日回数も多くあります。
第8位 ダニエル・ハーディング
生年月日:1975年8月31日
出身国:イギリス
1994年、サイモン・ラトルのアシスタントとして指揮者のキャリアをスタートさせ、その後、ベルリン・フィル、ウィーン・フィルなどの著名なオーケストラとの協演を重ねています。2016年から2019年まで、パリ管弦楽団音楽監督。2018年からスウェーデン放送交響楽団首席指揮者。
2010年から2016年まで、新日本フィルハーモニー交響楽団のミュージック・パートナーでしたから、ご存じの方も多い事でしょう。2002年には、音楽活動での功績が高く評価され、フランス政府より「シュバリエ芸術文化勲章」が授与されました。
第8位 ヘルベルト・ブロムシュテット
生年月日:1927年7月11日
出身国:スウェーデン
1954年、ストックホルム・フィルを指揮してデビューしてから、ドレスデン国立歌劇場、サンフランシスコ交響楽団、北ドイツ放送交響楽団、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の音楽監督を歴任。ウィーン・フィルなど著名なオーケストラとの協演も多数あります。
日本ではNHK交響楽団を度々指揮し、好評を得てきました。現在は、N響桂冠名誉指揮者。特にベートーヴェンやブルックナーなどのドイツ物の演奏録音は、高い評価を得てきました。こんなに高齢の方がランキング入りとは、頭が下がります。
第6位 ヤニック・ネゼ=セガン
生年月日:1975年3月6日
出身国:カナダ
ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団音楽監督、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団首席客演指揮者を務めてきましたが、2012年秋、フィラデルフィア管弦楽団の第8代音楽監督に就任。また、2017年からメトロポリタン歌劇場の首席指揮者も兼任と次世代を担う指揮者の1人です。
ヤニックは、最高の手腕をふるうリーダーであり、同世代の中でもっとも刺激的な才能としての評価を確立しています。フィラデルフィア管弦楽団との関係も良く、アメリカ5大オーケストラを見事に掌中に入れ、聴衆や評論家からの評判も高いものを得ています。
第6位 フランソワ=クザヴィエ・ロト
生年月日:1971年11月6日
出身国:フランス
2000年、ドナテッラ・フリック国際指揮者コンクールで優勝。2003年に「レ・シエクル」を結成してその指揮者を務める。2011年から2016年までバーデン=バーデン・フライブルクSWR交響楽団の首席指揮者。2015年からケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団の音楽監督。
ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団、レ・シエクル、フライブルクSWR交響楽団を活動の軸にして、各国のオーケストラを指揮続ける一方、パリ音楽院教授として教育にも熱心な多忙な指揮者です。指揮者は50歳からと言われますが、まさに彼にはぴったりの言葉です。
第5位 ヤープ・ヴァン・ズヴェーデン
生年月日:1960年12月12日
出身国:オランダ
1979年から1995年まで、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団のコンサートマスターを務め、その後、指揮者に転向。私は全く注目していなかった指揮者なので、このランキングに名前が載って驚きました。それも第5位ですから今後は注視していきたいと思います。
2018年にニューヨーク・フィルハーモニックの音楽監督に就任。それでは、忙しいのも当然です。バーンスタイン、メータ、マゼールが率いてきたニューヨーク・フィルハーモニックを盛り上げる事が出来るかどうか、この指揮者からも目が離せません。
第4位 ヤクブ・フルシャ
生年月日:1981年7月23日
出身国:チェコ
2011年、『グラモフォン』誌で、「大指揮者になりそうな10人の若手指揮者」のうちの1人に選ばれるほどの実力者。現在、バンベルク交響楽団首席指揮者、フィルハーモニア管弦楽団首席客演指揮者、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団首席客演指揮者を務めています。
世界各地の著名オーケストラとの協演は数多くあります。2010年から2017年、楽団の強い要望によって、東京都交響楽団首席客演指揮者となりましたので、日本でもその名は良く知られていると思います。次代の指揮者として有望株の1人です。
第3位 パーヴォ・ヤルヴィ
生年月日:1962年12月30日
出身国:エストニア
ベルリン・フィル始め、多くの著名オーケストラを指揮。現在、付いているポストだけでもNHK交響楽団首席指揮者、ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団芸術監督、チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団首席指揮者及び音楽監督と3つのオーケストラを兼任しています。
NHK交響楽団の首席指揮者は4シーズン目となり、彼のファンが着実に着いてきました。日本とドイツとスイスの監督を務め、その間に音楽祭などのも参加し、各国の主要オーケストラに客演しているのですから、休みなんてあるのでしょうかと心配になるほど多忙な指揮者です。
第2位 ワレリー・ゲルギエフ
生年月日:1953年5月2日
出身国:ロシア
1988年、35歳でキーロフ劇場芸術監督現(マリインスキー劇場)。多くの新人歌手を発掘することにも成功し、マリインスキー劇場を世界的な地位へと引き上げました。1996年には総裁に就任し、劇場の総責任者としての重責を担っています。
各国の著名オーケストラに客演並びに録音多数。一躍、世界の檜舞台に躍り出た指揮者です。私はゲルギレフが第1位だと思っていましたが、間違いましたね。マリインスキー劇場を軸にして、毎日、世界各国を飛び回っている多忙な指揮者です。
第1位 アンドリス・ネルソンス
生年月日:1978年11月18日
出身国:ラトビア
2003年から2007年の間、ラトビア国立歌劇場首席指揮者。2006年から2009年、北西ドイツ・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者。2008年から2015年、バーミンガム市交響楽団音楽監督を歴任。現在は、2014年よりボストン交響楽団の音楽監督。2017年からライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団楽長を兼任。2つのビッグオーケストラを率いているのですから、多忙な筈です。
2020年のウィーンフィル・ニューイヤーコンサートは彼の指揮でした。テレビでご覧になった方も多い事でしょう。そのぐらい、今の彼はクラシック界の中心で活躍しているという事です。41歳でニューイヤーコンサート登場ですからヨーロッパ音楽界の期待の大きさが分かります。
ランキングを振り返って
第2位 ワレリー・ゲルギエフ
第3位 パーヴォ・ヤルヴィ
第4位 ヤクブ・フルシャ
第5位 ヤープ・ヴァン・ズヴェーデン
第6位 フランソワ=クザヴィエ・ロト
第6位 ヤニック・ネゼ=セガン
第8位 ヘルベルト・ブロムシュテット
第8位 ダニエル・ハーディング
第10位 セミヨン・ビシュコフ
時の人、アンドリス・ネルソンスがランキング第1位でした。2020年のウィーン・フィルのニューイヤーコンサートにも登場し、ウィーン・フィルにも一目置かれている存在として世界に発信されました。今後の彼のコンサートや録音は世間から注目されるでしょう。
どの指揮者も現役バリバリで世界の主要なオーケストラや歌劇場のポストに就いています。第1位のアンドリス・ネルソンスはまだ41歳、第4位のヤクブ・フルシャは39歳と指揮者の世界も世代交代の嵐の中のようです。その中で、ヘルベルト・ブロムシュテットは何と93歳!凄いです。
まとめ
「世界で最高に忙しい指揮者ランキング」を見てきました。第1位はアンドリス・ネルソンスとは驚きました。皆さんの予想は当たりましたか?ランキングに登場した指揮者の多くが次の時代を担う世代という点も、納得のランキングでした。今後のクラシック界も安泰という事ですね。