チャイコフスキー国際コンクール

世界の三大音楽コンクールといえば以下のコンクールです。これらのコンクールから綺羅星の如く有名な演奏家たちが生まれてきました。

ショパン国際ピアノ・コンクール
チャイコフスキー国際コンクール
エリザベート王妃国際音楽コンクール

音楽コンクールは国際音楽コンクール世界連盟に加入しているコンクールだけでも100をはるかに超えています。

それらのコンクールと三大コンクールは何が違うのか、何故世界的な才能が三大コンクールに集まってくるのかなどを纏めてみました。

コンクールを受ける人たちをコンテスタントといいます。これからの説明でよく出てきますので覚えておいてください。

フレデリック・ショパン国際ピアノ・コンクール

フレデリック・ショパン国際ピアノ・コンクール
上記のタイトルが正式名称であり、通称ショパン・コンクールと呼ばれています。名前の通りピアニストのためのコンクールです。ポーランドの首都ワルシャワで行われます。

ショパン・コンクールの概要

第1次世界大戦後、天才ピアニストでもあり作曲家のショパンを生んだポーランドが、彼の名を冠したコンクールを開催することにしました。

1927年に第1回が開催され、以後5年置きに実施されるようになります。途中戦争により中断がありましたが、第4回が1949年に復活され、第5回の1955年からはまた5年ごとに開催されるようになりました。2015年に17回目が行われた老舗のコンクールです。

開催期間は毎回ショパンの命日10月17日の前後3週間、参加資格は16歳以上30歳以下、課題曲は全てショパンの曲と決められています。

ピアノの国際コンクールでは最高峰のグレードを誇っています。今まで名だたる優勝者を輩出してきました。

ショパン・コンクール審査方法

審査の過程は次の通りです。

ビデオ審査
必要書類と共ににDVD提出、約160人に絞り込む

予備予選
現地演奏(コンクール開催前)、約80人に絞り込む

※ここまでは4月までに行われる予備審査

これ以降が本当の意味でのショパン国際コンクールとなります。ここからは全て同コンクールの歴代優勝者、入賞者と、錚々たるピアニストや教育者、音楽学者など20数名が審査にあたります。

1次予選
約40人に絞り込む

  1. 次の予選に進ませたいかどうかを「YES」「NO」で判定する
  2. 100点満点で得点を付ける
  3. 「YES」の数が多い順に2次予選に進出できる
  4. 「YES」の票が同数になった時だけ得点の平均点で判定する

2次予選
約20人に絞り込む

3次予選
10人以下に絞り込む

※2次、3次予選共に課題曲が変わるだけで審査方法は1次予選と同じ

本選
曲目はピアノ協奏曲1番か2番、ここで最終順位が確定する

  1. 各審査員がコンテスタントに順位を付ける
  2. 1位の数を1番多く取った者順に順位を決める(第6位までが入賞者)
  3. 同順位の時は審査員で協議する(一定のレベルに達していない場合該当なしの順位もある)
  4. 本選の審査方法はその回の審査員の話し合いで10点満点の点数制にするなど様々

ショパン・コンクール賞金

第1位:30,000ユーロ(約390万円)
第2位:25,000ユーロ(約330万円)
第3位:20,000ユーロ(約260万円)
第4位:15,000ユーロ(約200万円)
第5位:10.000ユーロ(約130万円)
第6位: 7,000ユーロ(約90万円)
※各特別賞にも数千ユーロの賞金が与えられます
ピアノ界最高峰のコンクールですが、第1位でも4百万円ぐらいなんですね。
金額の問題ではなく、第1位という名誉の方が勝っているのだ!

ショパン・コンクール主要な歴代入賞者

開催回
順位
演奏者
第5回(1955)
第2位
ウラディーミル・アシュケナージ
第6回(1960)
第1位
マウリツィオ・ポリーニ
第7回(1965)
第1位
第4位
マルタ・アルゲリッチ
中村紘子
第8回(1970)
第2位
内田光子
第9回(1975)
第1位
クリスティアン・ツィメルマン
第10回(1980
第1位
ダン・タイソン
第11回(1985)
第1位
第4位
スタニフラス・ブーニン
小山実稚恵
第14回(2000)
第1位
ユンディ・リ

この歴代優勝者、入賞者のコンクール以降の活躍がどんなに凄いものかは歴史が証明しています。みんな今後のピアニスト界を支えていく存在となっています。

フレデリック・ショパン国際ピアノ・コンクールのまとめ

ショパンコンクール

歴代優勝者たちを見ても分かるように、真のピアニストを数々輩出しています。ピアニストとしての感性とテクニックの両方に裏付けられた才能を見つけ出すグレードの高いコンクールです。

原石を正確に発掘する能力に長けた、世界各国から集められた超一流審査員ばかり!だからこそ才能ある若きピアニスト達が世界一の称号を求めて集まってくるのです。

ピアノ界最高峰の音楽コンクールであり、今後も5年ごとにピアニストという音楽家のスタープレイヤーを生み出し続け、クラシック界を盛り上げてくれるでしょう。

チャイコフスキー国際コンクール

チャイコフスキー国際コンクール

通称チャイコフスキ・コンクールと略して呼ばれています。

ショパン国際ピアノ・コンクールは文字通りピアノに限定したコンクールでしたが、このチャイコフスキー国際コンクールはピアノ、ヴァイオリン、声楽、チェロの4部門に分かれた音楽コンクールです。

姉妹コンクールとして「若い音楽家のためのチャイコフスキー国際コンクール」(8歳以上17歳以下)というものもあります。

チャイコフスキー国際コンクールの概要

ソ連(現在はロシア)がチャイコフスキーの名に因んで1958年から開催を始めた4年に1度の国際コンクールです。最初はヴァイオリンとピアノだけでしたが、1962年からはチェロ、そして1966年からは声楽部門が加わりました。

ピアノとヴァイオリンは第1回から行われている事もあり、このコンクール内での権威の高さはずば抜けています。歴代の優勝者からもそのグレードの高さを窺い知ることができるでしょう。

毎回6月に行われているチャイコフスキー国際コンクール。参加資格は演奏部門が16歳以上30歳以下、声楽部門が19歳以上32歳以下となっています。

第14回からは会場もモスクワ(ピアノ部門とチェロ部門)とサンクトぺテルブルグ(ヴァイオリン部門と声楽部門)の2都市で開催され、審査方法も変化した模様です。

チャイコフスキー国際コンクール審査方法

基本的に政治的な意図など入り込めないように、審査員の協議をなくし、点数制度で順位が決まるようにしています。

一例としてヴァイオリン部門の審査方法を見てみます。

事前審査
必要書類とDVDによる審査で25名に絞り込む
(ピアノ部門は30名、チェロ部門は25名、声楽部門 男女とも各20名)

※2月までに行われる。因みに第15回コンクールは応募者が総勢600名を超えた

ショパン国際コンクール同様、これ以降が本審査と呼ばれ本当の意味でのコンクールとなります。ここからは世界的なバイオリニスト15名程度が審査にあたります。

第1ラウンド
12名に絞り込む

  1. 各審査員が次のラウンドに進出させたいコンテスタントを12名選出
  2. それとは別に25点満点での採点
  3. 同票となった場合得点が高いものが次ラウンドに進出
  4. 次の審査に影響を与えないように結果は審査員内を含め一切公開されない
  5. 審査結果は1時間後に発表

第2ラウンド
6名に絞り込む

※課題曲が変わるだけで、審査内容は第1ラウンドと同じ

ファイナル

  1. 各審査員はコンテスタントの順位付けをする(1位1点、2位2点・・・)
  2. 合計点の少ない順に入賞順位が決定
  3. 合計数が同じ場合第1、第2ラウンドの採点結果を総合して順位を決める
  4. 第1位は審査員の7割以上から1位の評価を受けることが必要
  5. 第1位を出すかどうかが問題になった場合審査員で協議
  6. 第1位から第6位までが入賞
  7. この結果も1時間で発表

以上、ヴァイオリン部門の審査方法でしたが、他部門もほぼ同じような審査方法で選考されると思います。

また、全部門(ヴァイオリン、ピアノ、チェロ、声楽)の第1位から選ばれるグランプリについては全審査員の協議で決定されます。該当なしの年もあります。

チャイコフスキー国際コンクール賞金

こちらのコンクールもショパン国際ピアノ・コンクールと同程度です。

グランプリ:100,000ドル(約1060万円)
第1位:30,000ドル(約320万円)
第2位:20,000ドル(約210万円)
第3位:10,000ドル(約100万円)
第4位: 5,000ドル(約50万円)
第5位: 3.000ドル(約30万円)
第6位: 2,000ドル(約20万円)
※特別賞にも数千ドルの賞金が与えられます。
グランプリはなかなか出ませんが、かなりの金額ですね。
三大コンクールでは賞金の多寡は関係ないのだ。第1位という名誉が将来の富をもたらすのだよ。

チャイコフスキー国際コンクール主要な歴代入賞者

ヴァイオリン部門

開催回
順位
演奏者
第2回(1962)
第3位
久保陽子
第3回(1966)
第1位
第2位
ヴィクトル・トレチャコフ
潮田益子
第4回(1970)
第1位
第2位
ギドン・クレーメル
藤川真弓
第7回(1982)
第1位
第2位
ヴィクトリア・ムローヴァ
加藤知子
第9回(1990)
第1位
諏訪内晶子
第12回(2002)
第1位
第2位
なし
川久保賜紀
第13回(2006)
第1位
神尾真由子

ピアノ部門

開催回
順位
演奏者
第1回(1958)
第1位
ヴァン・クライバーン
第2回(1962)
第1位
ウラディミール・アシュケナージ
第4回(1970)
第2位
オラシオ・グティエレス
第5回(1974)
第2位
第4位
チョン・ミュンフン
アンドラーシュ・シフ
第6回(1978)
第1位
ミハイル・プレトニョフ
第7回(1982)
第3位
小山実稚恵
第12回(2002)
第1位
上原彩子

チェロ部門

開催回
順位
演奏者
第3回(1966)
第3位
第6位
安田健一郎
ミッシャ・マイスキー
第4回(1970)
第3位
岩崎洸
第5回(1974)
第3位
菅野博文
第6回(1978)
第2位
藤原真理
第12回(2002)
第4位
石坂団十郎

声楽部門

開催回
順位
演奏者
第4回(1970)
第1位
エレーナ・オブラスツォア
第5回(1974)
第1位
第2位
なし
シルヴィア・シャシュ
第9回(1990)
第5位
第6位
水野貴子
小濱妙美
第10回(1994)
グランプリ
ヒブラ・ゲルズマーワ
第11回(1998)
第1位
佐藤美枝子

ここに挙げた音楽家たちはその後世界に羽ばたき、素晴らしい活躍をしています。

チャイコフスキー国際コンクールのまとめ

チャイコフスキー国際コンクール
このコンクールのグレードの高さは上記の入賞者達を見れば明らかなものです。コンテスタントのテクニックだけにとどまらない音楽的才能をしっかりと見出す審査員達の能力がその質を高める大きな要因となっています。

未来のスターを目指し集まってくる音楽家達にとっては是が非でも入賞を果たしたい最高峰の音楽コンクールです。各部門ありますが中でもヴァイオリンとピアノについては世界一の音楽コンクールといっても過言ではないでしょう。

エリザベート王妃国際音楽コンクール

エリザベート王妃国際音楽コンクール
通称エリザベート・コンクールと略して呼ばれています。

1951年ベルギーの元王妃エリザベートの名を冠して創設されました。前身はベルギーのバイオリニスト、イザイの名を冠したイザイ国際コンクールです。

色々と変遷はありましたが、現在ではヴァイオリン部門、チェロ部門、ピアノ部門、声楽部門の4部門が持ち回りで開催されるようになりました。

エリザベート王妃国際音楽コンクールの概要

ベルギーの首都ブリュッセルで毎年開催される国際音楽コンクールです。今年はヴァイオリン、来年はチェロ・・・というように4部門が4年に1度開催になるような形で開催されています。

この音楽コンクールも世界的な音楽化を多数輩出しており、今まで述べてきたふたつの音楽コンクールと同様に非常にグレードの高いコンクールです。

参加資格は18歳以上30歳未満、毎年風薫る5月に開催されています。ファイナルの審査方法が独特で音楽界では必ず話題になる音楽コンクールです。

エリザベート国際音楽コンクール審査方法

ヴァイオリン部門の審査方法を例にして書いてみます。

事前審査
必要書類とDVD審査で約80名に絞り込む

前述の音楽コンサートと同様にここからが本選となります。審査員も歴代入賞者や世界的な音楽家が集められます。15名程度になります。

1次審査
24名に絞り込む

2次審査
12名に絞り込む

ファイナル
6名に絞り込まれ全員が入賞

  1. 12名はエリザベート音楽大学のキャンパス内の施設に1週間隔離
  2. この間はオーケストラとのリハーサル以外は外部との接触が禁止
  3. 施設に着いた時にこのコンサートのために依嘱された新曲の楽譜が渡される
  4. この新曲の譜読みを行い、解釈し、1週間の間に自分の音楽にする
  5. もちろんその間にもオーケストラとの協奏曲の練習も行なう
  6. 電話とかPCの持込は禁止であるが、共演者との接触は可能

※1次、2次審査、ファイナルとも全て採点制であり、自分の弟子に対しては採点ができない。審査員間の協議は行わない。

これはヴァイオリンの選考方法を記述したものですが、他の部門も同じようなものです。

ファイナルの審査は数ある音楽コンサートの中でも独自のものであり、このコンクールの質の高さを維持するため最も重要なものとなっています。

初見能力と短時間での曲の仕上げ方の才能が分かりますし、協奏曲に対する理解度も把握できます。そのコンテスタントがどのレベルに達しているかが理解でき、将来性も見えてきます。

やらされるファイナリストには大変な作業ですが、将来の栄光を手に入れるのはこれだけの困難をクリアしないと手に入らないということです。

ファイナルの審査方法が独特ですね!
どのコンテストにもないやり方で本当の才能の見極めをするのだね。

エリザベート国際音楽コンクール賞金

第1位:25,000ユーロ(約330万円)
第2位:20,000ユーロ(約260万円)
第3位:17,000ユーロ(約220万円)
第4位:12,500ユーロ(約160万円)
第5位:10,000ユーロ(約130万円)
第6位: 8,000ユーロ(約100万円)
※2016年度の賞金
三大コンクールの賞金はどれも似たようなものです。
コンテスタントが欲しいのは賞金ではないのだよ。第1位という名誉が大事なんだ。

エリザベート王妃国際音楽コンクール主要な歴代入賞者

「イザイ・コンクール時代」

ヴァイオリン部門

開催年
順位
演奏者
1937年
第1位
第7位
ダヴィット・オイストラフ
ローラ・ボベスコ

ピアノ部門

開催年
順位
演奏者
1938年
第1位
第7位
エミール・ギレリス
アルトゥーロ・べネデッティ・ミケランジェリ

「エリザベート国際コンクールになってから」

ヴァイオリン部門

開催年
順位
演奏者
1951年
第1位
レオニード・コーガン
1959年
第3位
ジョゼフ・シルヴァースタイン
1963年
第6位
潮田益子
1967年
第3位
第6位
ギドン・クレーメル
ジャン=ジャック・カントロフ
1976年
第5位
石川静
1980年
第1位
第3位
堀米ゆず子
清水高師
1989年
第2位
諏訪内晶子
1993年
第1位
戸田弥生

ピアノ部門

開催年
順位
演奏者
1952年
第1位
第10位
レオン・フライシャー
フィリップ・アントルモン
1956年
第1位
第4位
第5位
アシュケナージ
セシル・ウーセ
レザール・ベルマン
1968年
第1位
第10位
エカテリーナ・ノヴィツカヤ
内田光子
1972年
第6位
第9位
神谷郁代
シプリアン・カツァリス
1975年
第3位
ユーリ・エゴロフ
1987年
第2位
第5位
若林顕
仲道郁代

チェロ部門

開催年
順位
演奏者
2017年
第2位
岡本侑也

ピアノ部門でアシュケナージが優勝した年は凄いメンバーによる激戦でした。ヴァイオリン部門からもクレーメルを輩出しています。

ただ最近の入賞者の活躍がやや停滞気味で、審査基準が甘くなったのではなどの批判があります。

エリザベート王妃国際音楽コンクールのまとめ

エリザベート王妃国際音楽コンクール

この音楽コンクールは特にファイナルの審査が独自でコンクールの中で異才を放っています。これも如何にコンテスタントの才能を見極めるかのひとつのやり方です。

コンクールのハイグレードを維持するための仕組みとも言い換えることができるでしょう。全て審査員の採点制であることもそのためです。これらの事が若き音楽家が数多く集まってくるこのコンテストの魅力ともなっています。

クラシック音楽三大コンクールを見てきて

三大コンクールはどれもが厳しい審査でした。ファイナリストに残るだけでも名誉なのですね。
グレードの高いコンクールほど優秀な人材が集まるから、三大コンクールは超難関なのだよ。

これらの音楽コンクールに共通しているのが審査員の質の高さです。コンテスタントの才能をきちんと見極め順位を付けるという仕事は、大変なものだと思います。

その重責をきちんと果たすには確固たる信念の持ち主であり自分にも厳しい人なのでしょう。だからこそ第一線で活躍できる音楽家なのだと思います。

世界に誇る三大音楽コンクールはこれらの厳しい審査員の元で成り立つものなのです。彼らの厳しい耳があるからこそ、そのグレードが高いのです。

今後もこの三大音楽コンクールには大勢の若者達が挑戦してくるでしょう。我々はそこから出てくる天才達を待っています。

関連記事