一流指揮者の条件

指揮者と名乗る職業の人たちは世界中に数えきれないほど存在しています。その中で一流といわれる指揮者とそうでない指揮者は何が違うのでしょうか。今回はその違いを考えてみましょう。一流指揮者とはそんなところにまでこだわりを持っているのかと驚かされます。

我々聴衆は、一流指揮者の演奏を聴き、満足して帰って来るだけですが、その満足をさせる技を彼らは持っています。これは教えられたからといって、誰にでも真似のできる事ではなく、その指揮者のセンスの違いで決まる事です。一流たる指揮者は本能的にその技を身に付けています。

一流指揮者の予定表は一年を通して埋まっています。一度振ったオーケストラからその後も何度もオファーが舞い込むからです。大抵の人は3年先ぐらい先まで予定がびっしりです。この人気も彼らのセンスがもたらしているのです。一流指揮者の圧倒的なセンスを見ていきます。

1.オーケストラとの関係性を上手く保つセンス

一流指揮者の条件
自身が音楽監督を務めるオーケストラの場合でも客演する場合でも一流指揮者のスタンスは変わりません。一流指揮者はどうしたら上手くオーケストラとのコミュニケーションが取れ、関係性を良く出来るかの術を知り尽くしています。

練習や本番を上手くこなしていくには言葉使いが重要な事です。音楽的な質問にも即答できるように勉強も確りと怠りません。音楽的には自分が最も高い位置である事を自然に知らしめているのです。コミュニケーションを取りつつも優位性をアピールするセンスを持っているのです。

一流指揮者と普通の指揮者の違う所は、言葉を使わず指揮棒でオーケストラを従わせられるかどうかです。どんな音楽をやりたいのか指揮棒で表現できなければ意味がないのです。それが出来る指揮者はオーケストラからも自然と好意を持たれ、関係性も良いものとなります。

2.天候までも味方にするセンス

一流指揮者
演奏会当日の天候は前もって分かりません。快晴の時もあれば、雨の時もあります。そこで、一流の指揮者は雨の日には練習の時よりも微妙にテンポを落としたり、逆に快晴の日にはテンポを速めにしたりと音楽の雰囲気を変えて演奏をしているのです。

その日のイメージを音楽に上手く反映させています。その指揮者の持つセンスとしか言いようがありません。古典派の音楽なのか、ロマン派の音楽かによっても違ってきます。音楽の雰囲気を変えるのは主に古典派が多いようです。

こんな事は音楽大学では教えてくれません。数多くのオーケストラを指揮してきて、オーケストラとの関係性を良い方向に保っていると、オーケストラ古参の団員からのアドバイスが受けられるようになり、自然と身に付いて行くものです。一流だからこそ自分のものにしてしまうのです。

3.客層まで考え抜くセンス

一流指揮者の条件
天候と同じで、その日の客層が年配の方が多い場合、テンポをゆっくり目にします。これも古典派の音楽の場合が多いのですが、一流と言われる指揮者は自在にテンポを変え、音楽の雰囲気を変えるのです。そこまで出来てこそ、一流の指揮者といえます。

事前に分かる物ではありませんので、その指揮者の持つセンスとしか言いようがありません。生まれつき備わっている才能なのです。オーケストラは本物だと思った指揮者にはとことん付いて行きます。練習の時とは違った振り方でも、オーケストラはきちんと指揮に対応するのです。

こう言った事も、長年付き合っているオーケストラの楽員が教えてくれるものです。信頼がある事によって様々なアドバイスがなされ、それを上手く自分のものにするセンスは一流と二流を分ける要素となります。教わっても十分に生かせるかどうか、そこに違いが生まれるのです。

4.ホール特性を感じ取るセンス

一流指揮者
指揮者にとって初めてのホールで演奏する場合、ホールの響きを瞬時に見極める能力も必要です。残響がドライなのか、豊かなのか、また、オーケストラの音色が変化するのかどうか、指揮台の上で判断できる指揮者は優れています。自分で客席に降りて音を確かめる指揮者もいます。

弦楽器の響きがオーケストラの土台となりますので、ホールの特性を把握する能力は必須条件です。それを確実に読み取って、オーケストラの音量を調整するわけです。楽譜上の表記がP(ピアノ)であっても、ドライなホールではmP(メゾ・ピアノ)で演奏させたりするのです。

一流指揮者とそうでない指揮者とでは圧倒的に演奏に違いが現れます。金管楽器だけを鳴らすようにするとか弦楽器のビブラートをより多く掛けさせるとか、そのホールに合った対処の仕方は正解がありません。的確にどうすればよい響きを創れるのかを見抜く力は指揮者のセンスなのです。

5.誰にでも平等に振舞うセンス

一流指揮者の条件
一流指揮者は裏方の人とのコミュニケーションの取り方も上手い人が多いです。出番の時間を知らせてくれたり、演奏後にタオルを渡してくれたりと、様々な面で世話になりますから、裏方さんは大事にしておかないといけないと分かっているのです。嫌われるとあからさまに意地悪されます。

オーケストラと同じように仕事の関係者に対しては分け隔てなく等しくコミュニケーションを取っているのが一流指揮者です。言い換えれば、自分が仕事がし易いように完全なるお膳立てをする能力が高いといえます。誰に対しても同等の関係を保っていられるのが一流のセンスの証です。

6.気配りの出来るセンス

一流指揮者
裏方を取り仕切っている親方がどのホールにもいます。その親方には「みんなで一杯やってください」と言ってチップを渡します。これもケチって人数分渡さないと痛いしっぺ返しを食らいますので大切な事です。日本にはない習慣なのですが、古いホールほどしきたりにうるさいそうです。

チップを貰った裏方さんが一人ずつお礼に来ます。それで親方が全員に配っている事も分かります。しっかりと管理されたホールである事がそれで確認できます。裏方さんへの心遣いも、コンサートを成功させる要因の一つになります。

7.本番後のフォローも完璧なセンス

一流指揮者の条件
本番の演奏会を終えた指揮者は疲れ切っていますが、オーケストラに対して最大限の賛辞を示します。ステージ上でコンサートマスターとの握手は勿論、各セクションのトップとのと握手、ソロを上手く演奏した奏者を立たせて、敬意を払っている姿を皆さんも目撃している筈です。

我々客には見えませんが、ステージからオーケストラが引き上げてくる時に、ステージ奥で楽員たちに握手したり、労いの言葉を掛けています。気配りが上手なのも一流の証なのです。決して大げさではなく、さりげなくそういう事が出来る指揮者はオーケストラから好意を持たれるのです。

8.終演後の対応のセンス

一流指揮者の条件
終演後の楽屋には、ファンがサインを貰いに来たり、記者がインタビューをしにやってきます。数人へのファンサービスはしますが、ほどほどの所で裏方さんが「マエストロは疲れています。ハイここまで」と止めてくれます。これも、裏方さんとのコミュニケーションのなせる技です。

裏方さんとのコミュニケーションが上手く出来ていないと、次にそのオーケストラに呼ばれた時に、何もしてくれなくなります。指揮者は汗をかいた服をすぐにでも着替えたいと思っています。自分の体調管理も大事なので、切り上げ方も確り考えているのです。

9.服装にも拘るセンス

一流指揮者
一流指揮者たるものは服装にも気を遣っています。ソワレだったら燕尾服、マチネだったらグレーのスーツ、あるいは黒い上着に縞のズボンなどが一般的です。カラヤンの晩年や小澤征爾は首や腰の持病があったため、タートルネックにジャケットを着ていましたが、例外です。

指揮者は見た目も重要ですから、いつでもパリッとしたカッコイイ姿で登場してきます。必ず数着を持ち歩いていて、クリーニングしたてのしわ一つないものを用意しています。指揮者御用達の服屋があって、少しでも型崩れすると、旅先でもすぐに送って貰います。

10.靴にも拘るセンス

一流指揮者
燕尾服にはエナメルの靴と決まっていますが、靴にも指揮者御用達の靴屋があって、最初に採寸したら、ずっとその靴屋にお世話になります。これも世界のどこにいても電話一つで送って貰うのだそうです。背の低い人は数センチ高めに作って貰う人もいます。

とにかく指揮者はどこでも人に見られる商売ですので、背を高く見せるのも自分のステータスを高める事として実践している指揮者が結構います。服装にも、靴にも、拘りが強いのです。音楽には直接関係のないところにも気を配っているのが一流指揮者たる所以でもあります。

まとめ

一流指揮者の圧倒的センスを見てきました。人から教わって出来る事もありますが、ほとんどが自身のセンスによるものです。一流になれる人は勿論努力も惜しみませんが、生まれつきのセンスが違っているのです。プラス音楽的才能があって一流指揮者が出来上がります。

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