ピアノ

冒頭部分は大変有名なメロディでCMにもよく使われていますから、聴いた事のある方は数多い事でしょう。ピアノ協奏曲の中では断トツの人気を誇り、「傑作の森」時代を代表する作品となっています。「皇帝」というタイトルの通り、とても威厳があり、傑作です。

名曲である「皇帝」のような協奏曲はぜひライヴで聴いて頂きたいものです。荘厳な感じが会場中に満たされて、音楽ってなんて素敵なんだと改めて感じさせてくれます。ベートーヴェンが生んだ大傑作であり、一度聴いたら忘れられない印象深いメロディを持つ協奏曲です。

全てのピアノ協奏曲の中で頂点を極めたと思われるベートヴェン『ピアノ協奏曲第5番「皇帝」』について、作曲に至る動機や、作曲の過程、そして楽章毎の特徴などを紹介して行きます。「皇帝」を好きになって頂ければ幸いです。

「皇帝」というタイトル自体ががカッコイイですね。
「皇帝」というタイトル通り、気品と荘厳さがある楽曲なのだ。

「皇帝」の名称の由来

「皇帝」というタイトルは、ベートーヴェン自身により付けられたものではありません。由来については諸説ありますが、これだという確かな記録は残されていないのです。しかし、有力な説もあり、その説を載せている書籍もあります。

最初に信じられていた説は、当時ウイーンを占領していたフランス軍の兵士が、ベートーヴェン『ピアノ協奏曲第5番』の演奏を聴いて「皇帝だ!皇帝万歳!」と叫んだことから付いたという説でしたが、これは後の人の作り話と判明しました。

一番有力と言われているのが、楽譜出版の際に出版社がキャッチコピーとして名付けたという説です。楽譜を売るためにはタイトルがあった方が断然有利に働きます。しかも「皇帝」というビッグネームにはみんな興味を引かれる筈ですから。

ピアノ協奏曲第5番「皇帝」作曲の経緯

ここからは「皇帝」作曲となるきっかけや、どのような状況の元で作曲されたのかを見ていきます。

作曲のきっかけ

ベートーヴェンは1808年12月に演奏会を開きました。『運命』『田園』などの初演が行われたのですが、その中で、『ピアノ協奏曲第4番』『合唱幻想曲』などはベートーヴェン自身のピアノ演奏で披露されたのです。

この演奏会を開催した事が、次作のピアノ協奏曲作曲のきっかけになったという説が有力とされています。ピアノを弾いている最中に様々なアイデアが浮かんだのでしょう。

戦乱の中での作曲

ナポレオン率いるフランス軍に占領される前後に作曲が始まりました。フランス軍とオーストリア軍の戦闘による大砲の音が、耳の病気に悩むべートーヴェンを悩ませ、そのため、彼は弟カールの家の地下室で過ごす日が多かったようです。そんな中でも作曲だけは続けていました。

戦乱の中で『ピアノ協奏曲第5番「皇帝」』が生み出されたのです。街中で見るフランス兵に対して、ベートーヴェンは非常な憤りを持っていたといいます。特殊な環境の中という事もあり、ベートーヴェン自身も異様な高揚感を持って作曲にあたったのでした。

1809年の4月頃までにスケッチを完了させ、同年の夏頃までに総譜スケッチを書き上げます。ウィーンはすっかり戦争で荒廃してしまい、戦乱の最中の悲惨な生活の中でこの楽曲は作曲され、1809年中に完成をみました。

戦争のさなかに作曲されたのですね。
戦乱の中でも作曲を続けていたんだ。よほどの使命感があったのだろう。

ピアノ協奏曲第5番「皇帝」の解説

「皇帝」の呼び名通り、威厳、品格、貫禄も兼ね備えた堂々たる協奏曲です。ベートーヴェン最後のピアノ協奏曲に相応しい名曲となっています。まさに名曲中の名曲であり、ベートーヴェンの楽曲の中でも相当レベルの高い、完成度の高い楽曲です。

壮大さに圧倒

聴く者を圧倒させる実に壮大な協奏曲です。交響曲を聴いているようでもあります。よくぞ「皇帝」と名付けてくれましたと思うような荘厳さもあり、見事な音楽です。ベートーヴェンの傑作の1つとなる、彼の天才ぶりが発揮された楽曲となっています。

ピアノソロ部分も凄い音楽ですが、それを受けるオーケストラ部分も素晴らしい音楽を奏でます。壮大で重厚、鉄板の名曲です。ピアノ、管弦楽共に文句なく、贅の限りを尽くして作られた宮廷料理のようでもあります。まさしく「皇帝」の雰囲気です。

美しく優雅な部分も

壮大さだけではなく、優雅な部分もあります。第2楽章などは特に印象的です。変奏曲になっていて、落ち着いた大人の雰囲気漂う、穏やかな音楽が奏でられます。ベートーヴェン以外に書けない音楽です。第1楽章の壮大なイメージを上手く受ける音楽となっています。

カデンツァまでも作曲

協奏曲といえば途中にピアノソロのためのカデンツァが入るのが普通ですが、その部分もベートーヴェン自身が作曲しました。この事も革新的な事なのです。

ソリストが誰のカデンツァを使うか悩む必要がありません。楽譜には彼の作曲したカデンツァを使うようにとの指示が書き込んであります。

第1楽章

オーケストラが「ジャーン」とフォルテで入るや否やソロピアノのカデンツァが奏でられます。普通協奏曲は第1楽章の終盤にカデンツァが入るのですが、この楽曲はいきなりカデンツァで始まるのです。当時聴いた人はさぞや驚いたことでしょう。

その後は風格のある第1主題と、初め短調で奏でられる第2主題とがエネルギッシュに発展して行きます。第1主題と第2主題が限りなく高いレベルで織り成している音楽です。神が下りてきてベートーヴェンの手助けをしたような感じがします。

最後は第1主題をもとにした、長くダイナミックなコーダで締めくくられます。ここまで手に汗を握って聴いていた聴衆は思わず感嘆の吐息が漏れるでしょう。まるで、交響曲の第1楽章を聴いたような思いに駆られます。本当に、よくぞ「皇帝」の名を冠したと思わせざるをえません。

第2楽章

第2楽章は自由な変奏曲です。ヴァイオリンによって優しく美しい主題が奏され、ピアノがそれをピアニッシモで受けます。その後は弦楽器のピチカートに乗ってピアノが主題の変奏をしていき、それを木管が引き継ぎます。そしてピアノは静かに演奏し続けるのです。

楽章の最後では第3楽章の主題を予告し、そのまま第3楽章へとなだれ込みます。因みに、この部分では2人のホルンが延々と同じ音を吹き続けているのです。目立ちはしませんが、まさに縁の下の力持ちといった感じであり、名曲にはこうしたちょっとした事が数多く存在します。

第3楽章

第2楽章の最後に予告されていた主題が、ピアノによって力強く演奏されます。すぐにオーケストラに引き継がれ、とてもエネルギッシュです。活発なリズムの第1主題が繰り返され、とても楽しく愉快に進んでいきます。名曲に相応しいです。

楽曲の最後では、ティンパニの伴奏に乗ってピアノが徐々に静まっていきます。するとまた息を吹き返したようにピアノが見せ場を作り、華々しく楽曲が締めくくられるのです。この演出も考え抜かれたもので、ベートーヴェンという偉大な作曲家にしか創作出来ないものでしょう。

何度聴いても素晴らしい名曲です。感動します。
まさに神がかった作品になっているね。この当時のベートーヴェンの作品はどれもが傑作なんだ。

「皇帝」初演とその後

ベートーヴェンのピアノ協奏曲の『第4番』までの初演は全て彼がピアノを弾いていましたが、耳の疾病が進んでいて流石に「皇帝」の演奏は出来ませんでした。そのため非公式での初演はベートーヴェンの弟子の1人でパトロンでもあったルドルフ大公が努めたのです。

本当の意味での初演は1812年2月12日にウィーンのケルントナートーア劇場に於いて、弟子のカール・チェルニーの独奏により行われました。初演は不評に終わり、その影響からかベートーヴェンの存命中に2度と演奏される事はなかったのです。

また、新たにピアノ協奏曲を自身の存命中に作曲する事もありませんでした。後年、フランツ・リストが好んで演奏したところから、『ピアノ協奏曲第5番「皇帝」』は名曲の1つに数えられるに至りました。こんな名曲でも、一時期忘れられた事が有ったのです。

まとめ

「皇帝」はどこから見ても名曲中の名曲です。こんなに見事な協奏曲は滅多にありません。ベートーヴェンの才能を賞賛するしかないですね。ピアノ協奏曲としてこの楽曲を超えるものは2度と出てこないでしょう。彼の生前に不評だった事は、時代の先を行き過ぎていたからです。

CDで聴くのも素晴らしいことですが、こんな名曲だからこそ、ぜひライヴで聴いてみましょう。「皇帝」の壮大さが身体で感じられます。ピアノとオーケストラの響きの凄さを体験してほしいです。「皇帝」ならば、並みのピアニストでも感動すること間違いありません。

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