楽器による性格の違いはあるのか、誰しも気になる事かと思います。オーケストラの場合、弦楽器と管楽器に大きく分けられますが、弦には弦の、管には管の性格の違いを肌で感じている人もいるのではないでしょうか。
元々好きで始めた人と学校などでオーケストラなり吹奏楽団に入部してから楽器を決められた人がいますが、前者は別として後者は自分でその楽器を決めたわけではないので、性格とは関係ないのではと思う人もいる事でしょう。
他者によって決められた楽器の奏者でも、弾きこなしていく内に次第にその楽器の特徴的な性格に近寄ってきます。長く同じ楽器に触れていると後天的にその楽器にマッチした性格が形成されてくるそうです。それがどういったことなのかを見ていきます。
『オーケストラ楽器別人間学』
新潮社から出ている『オーケストラ楽器別人間学』は面白く読める本です。著者はNHK交響楽団、オーボエ奏者の茂木大輔氏。楽器別に奏者の人間形成論、つまりはいかなる楽器がいかなる性格をつくるのかを考察しています。
これを活用させて貰わない手はありません。彼の言葉をヒントにそれぞれの奏者についての性格を見ていく事とします。オーケストラで活躍している現役奏者ですから、その言葉にはより信憑性があるわけです。性格は楽器によって作られていくのです。
特定の楽器演奏によって性格への影響は次の3点によるものだそうです。
2.演奏上の特質にともなう肉体的感覚が性格におよぼす影響(簡単に言うと弾き方、吹き方が楽器によって違う事)
3.合奏における機能、役割があたえる性格への影響(その楽器に課せられる役割分担)
弦楽器
ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスの4種類です。管楽器パートと最も違うところは集団で演奏する事になります。こんなところに性格の違いが見えてきそうです。
ヴァイオリン
「陰影に富んだユニバーサルな人」
特別な特徴を持つわけではなく、一般的な常識人といえます。「華麗・明快・繊細」といった高音楽器ならではの特性と、別に「細い、ヒステリック」という一面もあり、二面性が同時に矛盾無く存在しています。これによって陰影のある深みにみちた人間像が形成されていきます。
ヴィオラ
「しぶく、しぶとく、「待ち」に強い」
しぶく、深みのある、暖かい音色は、奏者に包容力、余裕、寛容といった人間的に愛すべき性格をもたらしてくれます。細かいことにこだわらない風通しのよい性格であり、解放感、楽観性を持ち、やや大ざっぱで、競争心などの少ない、温暖な性格が作られていきます。
チェロ
「包容力とバランス感覚にすぐれた、ゆらぎのない人間性」
きわめて個性的で、自立した、ゆらぎのない人間性が形成されます。チェロ奏者は正々堂々と、表裏の無い誠実な性格へと向かいます。これを見ると弦楽器の中でチェロだけが一番光り輝く性格になっていくようですね。
コントラバス
「泰然自若、唯我独尊」
深い、暗い音色は、コントラバス奏者を内省的で陰影の深い人物として作り上げていきます。そして年齢不詳の、奇妙な落ち着きと、物静かな印象を与えます。そういわれると、オチャラケなコントラバス奏者を見た事がありません。
木管楽器
フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットの4種の楽器です。弦楽器奏者とは明らかに違う雰囲気が漂います。
フルート
「冷たさも軽みもそなえた貴族的エリート」
フルート奏者の性格は、人あたりがよく、やや優柔不断だろうと思われます。奏者は上達の過程においてプライドを傷つけられる事なく成長するため、冷静で客観性をともなった、学者肌の性格にフルート奏者を変えていきます。
オーボエ
「ストレスに苦しみ、くよくよと細かい?」
オーボエの音色はきわめて情熱的であり、たいへん鮮やかな印象を与える事から、奏者は感情過多で、個性的な性格になっていきます。また、2枚のリードを使うために調整が難しく、神経質な人間となっていきます。躁鬱的な気分のムラまでももたらすそうです。
クラリネット
「複雑さをひめた万能選手」
ソロ、伴奏、内声とほぼ全ての役割をこなせる万能選手であり、またそれを期待されている楽器であり、これは強い好奇心と臨機応変の能力を与えてくれます。しかし、人間関係は円滑に進行していながらも、友情が育ちにくいタイプでもあるそうです。
ファゴット
「愛すべき正義派」
木管の中でも最も柔らかい音色が出せる楽器なので、奏者の性格に大きな幅をもたせ、多様な側面をもった厚みのある人間像が作られます。また、どことなく抜けたところのある、ユーモラスな、愛すべき人物であり、忍耐力があり、苦労にたいして強靭な性格に変化していきます。
金管楽器
ホルン、トランペット、トロンボーン、チューバの4種類となります。金管楽器の音色は他の楽器とは全く違いますから、面白い結果が出てくると思います。
ホルン
「忍耐強い寡黙の人」
細く張りのある高音は強い意志力を、鳴りわたる中音は人間的な幅の広さを、グロテスクな低音は若干のサディスト的傾向をもたらします。寡黙な、言葉をよく吟味してからでなくては発言しない姿勢や対人関係においてはつねに控えめであり、地味な、しかし考え深い印象をあたえます。
トランペット
「単純明快、やる気満々のエース」
奏者はおしなべて真の意味で勇敢であり、猪突猛進タイプ。非常に性格のはっきりした、明るい人物が多く、苦悩や逡巡などとは無縁という性格です。自尊心の強い人が多く見られます。トランペットは金管楽器の王様ですからね。
トロンボーン
「あけっぴろげな酒豪、いつも上機嫌」
楽器の響きが落ちついた貫禄のある人物像をもたらします。また、人あたりの良い好人物を作りだし、つねに上機嫌、開放的であり、ストレスとは無縁の、幸福な状態です。基準、けじめなどがやや甘い人物をつくりだす一方、自主的な自己管理能力を高めてゆけます。
チューバ
「底辺を支える内向派」
きわめて力強い音色は、奏者に強い確信と、求心的な傾向をもたらします。チューバ奏者の多くは男性ですが、柔らかな響きはロマンティックな一面を隠している面も。落ち着いた感じの方が多いのも特徴です。
打楽器(ティンパニ)
「いたずら好きでクールな点的思考者」
きわめて瞬発力に富み、一点への集中性について他に類をみない強さを発揮する一方、その思考形態はつねに点的です。万全の準備と細心の注意力、高度な集中力が要求され、プレッシャーにも強くなります。情緒的にも安定した人物を作りだします。
いたずら好きとありますが、ティンパニ奏者以外の、例えばトライアングルやシンバル奏者たちの事を指していると思われます。
まとめ
楽器を長年続けて行くと性格が形作られていくという発想自体が驚きました。そんな事は考えもしませんでしたが、オーケストラの各パートごとに見てみると確かに当たっているかなと思われる事もあります。オーケストラの中で生きてきた人はこんな事まで分析していたのですね。