「ウィーン国立音楽大学」は名門の音楽大学です。大変な歴史があり、その昔シューベルトなどの大作曲家や現代では指揮者カラヤンなどを輩出した世界でも有数の音楽大学です。
英語で表すと「University of Music and Performing Arts Vienna」といい正確に訳せば「ウィーン音楽舞台芸術大学」ですが、一般的に「ウィーン国立音楽大学」と呼ばれています。
歴史と伝統のある世界有数の音楽大学である「ウィーン国立音楽大学」が、どう発展して有名な音楽大学になったのか、そしてこの音楽大学のレベルの高さはなぜなのかなどを纏めてみました。
ウィーン国立音楽大学の紹介
「ウィーン国立音楽大学」の成り立ちや現在までの発展の歴史をみていきたいと思います。この音楽大学はウィーンに相応しい伝統を持ち、素晴らしい教育の元、大勢の才能溢れる人材を世に送り出して来ました。
ウィーン国立音楽大学の概略
ウィーン国立音楽大学は、音楽の都オーストリア、ウィーン市に本部を置く音楽大学です。1817年に開設され、現在では音楽と舞台芸術のための総合芸術大学となっています。
(注)Wikipediaや他の記事での開設年が違っていますが、ウィーン国立音楽大学のホームページには1817年と書かれているので、この記事もそれを基にします。
学科の多さが特徴となっており、学生は自分の学びたい学問をより専門的に学べるわけです。
「専攻科」には作曲・音楽理論(メディア音楽、電子音楽、クラシック)、指揮(合唱、オーケストラ、コラボレーティブ・ピアノ)、サウンド・エンジニアリング、器楽(鍵盤楽器、弦楽器、管楽器、打楽器)、舞台音楽監督などがあります。
「選択講座」は、呼吸法、声楽、音楽教育、コンピューター音楽、電子メディア、古楽器、ポピュラー音楽(器楽含む)など充実した内容です。
ウィーン国立音楽大学の変遷
永い歴史の中で、ウィーン楽友協会音楽院、ウィーン音楽院、ウィーン音楽アカデミー、ウィーン国立音楽大学と学校名が改称されてきました。
1817年、パリ音楽院をモデルにして音楽院設立。映画『アマデウス』で有名になったサリエリらが最初の教師。
1848年から1851年、革命による混乱のため大学は閉鎖。
1854年、学生数は190人。
1890年代、学生数は1000人規模へ拡大。
1901年、大学国有化。
1928年、舞台芸術学科設立。
1941年から1945年、ナチスの管制下におかれる。
1945年、ナチスから解放後、新たな音楽大学として再出発。
1965年、映像学科を再編成。
1970年から1998年、音楽のみならず舞台芸術分野でも学科を充実。
1998年から現在、音楽舞台芸術を総合的に研究する音楽大学へ発展。
指揮科は世界の最高峰
指揮科は世界最高峰といわれ、ワルター、カラヤン、アバド、アーノンクール、メータほか、多数の世界的指揮者を輩出しています。過去の多くの巨匠たちや現在でも著名オーケストラの重要ポストに就いている指揮者など凄いとしか形容できません。
その指揮科の附属機関として、ウィーン・プロアルテ管弦楽団があり、当音楽大学出身の精鋭が団員として指揮者の卵達をサポートしています。指揮科の学生のための専用オーケストラががあるのも驚きです。普通、音大は学生オーケストラを使うものです。
研究機関の充実
民族音楽、音楽社会学、音楽療法、演技、テレビ映像など24の研究機関で115の研究分野があります。これだけ多くの研究機関を持った音楽大学も珍しいと思います。より深く研究したい方はそちらに進めるような指導もしています。
一音楽大学ではなく大規模な研究施設に音楽学校が併設されているようにも思えます。これだけ多くの研究機関をもっている理由は、この音楽大学が目指す、最も権威ある大学になるというポリシーに沿っているものと思われます。
ウィーン国立音楽大学のポリシー
(1)芸術家、教育者及び科学者のための優秀な教育機関。
(2)音楽、演劇、映画の舞台芸術における世界最大かつ最も権威のある大学。
(3)伝統を重んじ、革新をより発展させる大学。
ウィーン国立音楽大学の基本情報
このセクションではウィーン国立音楽大学の学生数や学費等の入学のための基本情報を述べていきたいと思います。この音楽大学も入学するのが大変難しいです。
学生数
約3,000人。他の音楽大学より学科が多岐に分かれているために音大としてはマンモス校にあたります。因みにジュリアード音楽院は約800人。他に短期留学生が6,000人ほどいます(夏期講習3週間コースなど)。
年度
2学期制。学士:4年、ディプロマ:5年(鍵盤楽器以外は6年)、修士:2年。ディプロマの扱いが他の音大と違っています。よりよい演奏者を生み出す為にそうしていると思われます。
学生/教師割合
4.7人/1人。この数値は非常に優秀な音楽大学であることを示しています。教師と学生の1対1のレッスンに多くの時間が割かれている証です。因みに東京藝術大学は12人/1人です。
学費
オーストリア・EU諸国の学生:363.36ユーロ(48,000円)/学期、第3国者の学生:762.72ユーロ(約94,000円)/学期。その他、コースによっては学期毎に別料金が発生する場合もあります。
最近の第3国からの留学生はアジア人が多く、しかも富裕層が多い国から来るため(日本、韓国、中国など)に学費が違うのだそうです。なんか納得いきませんが、日本の音大に比べたらまだまだ低価格なので許しましょう。
寮費
37,000ユーロ(約4,560,000円)/年、これは留学生用のための施設のようです。しかし120室しかないので、ほとんどの人は民間アパートを利用。参考までにウィーンの場合平均的な学生用のアパートは400〜600ユーロ。
入学試験
専攻実技、楽典(ドイツ語)、聴音(ドイツ語)、ZD合格証明書(ドイツ語基礎統一試験合格証明書)の提出。ドイツ語の点数が悪いといくら音楽の才能が有っても不合格に成ります。
入試難易度
最も難しい(最高ランク)
入学倍率
未発表
キャンパス
オーストリアの首都ウィーンの中心地域にキャンパスがあります。近隣にはウィーン国立歌劇場やウィーン・コンツェルト・ハウスがあり、まさに文化の中心地に建つ音楽大学です。
ウィーン国立音楽大学の教師たち
器楽の教師陣は多くがウィーン国立管弦楽団(ウィーン・フィル)を定年退団された方やまだ現役の方が多く在籍しています。元々、この音楽大学からウィーン国立歌劇場管弦楽団に多くの人材を送り出しているのです。
団員の教師が弟子に教え、その弟子がウィーン国立歌劇場管弦楽団に入団し、またその人間がこの音大で弟子を取り、という具合にウィーンの音を代々伝えていきます。このことが昔からウィーン国立歌劇場管弦楽団の音色が変わらない要因のひとつです。
ピアノ、オルガンなど器楽は世界的な奏者を教師に迎えています。特に音楽大学のように1対1で実技を教わるところは、教師の実力がないと学生の才能を摘んでしまうことになるので、そのレベルを高く維持できるための努力がうかがわれます。
代表的な教師たち
《過去》
アントニオ・サリエリ(作曲家)
ヨハネス・ブラームス(作曲家)
アントン・ブルックナー(作曲家)
リヒャルト・ワーグナー(作曲家)
ヨーゼフ・クリップス(指揮者)
オトマール・スウィトナー(指揮者)
ハンス・スワロフスキー(指揮者)
ヴァーツラフ・ノイマン(指揮者)
ヴィルヘルム・バックハウス(ピアノ)
パウル・ヒンデミット(作曲家)
ブルーノ・ワルター(指揮者)・・・etc.
《現役》
フィリップ・アントルモン(ピアノ)
ライナー・キュッヒル(ヴァイオリン)
エリザベート・クロプフィッチ(ヴァイオリン)
エドワルド・ツィーンコフスキー(ヴァイオリン)
アレキサンダー・レースラー(ピアノ)
マルギット・クラウスホーファー(声楽)
マーク・ストリンガー(指揮)
ロラント・ケラー(ピアノ)・・・etc.
過去の教師陣が凄い人物ばかりです。やはりこの音楽大学の歴史の重みを感じます。また、この音楽大学の看板学科が指揮科であるので、指揮者については豪華絢爛な人々ばかりです。
ウィーン国立音楽大学の出身者たち
過去200年以上の全ての有名な人物だけを集めてもあっという間に100人を超えてしまうでしょう。ですから、今回はほんの一握りだけを紹介するに留めておきます。
作曲家
フーゴー・ヴォルフ
アルノルト・シェーンベルク
フランツ・シューベルト
リヒャルト・シュトラウス
アントン・ブルックナー
ジャン・シベリウス
グスタフ・マーラー
フランツ・リスト
指揮者
ブルーノ・ワルター
ハンス・クナッパーツブッシュ
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー
ジョージ・セル
ヘルベルト・フォン・カラヤン
オトマール・スウィトナー
ジュゼッペ・シノーポリ
ヴォルフガング・サヴァリッシュ
ニコラウス・アーノンクール
クラウディオ・アバド
ズービン・メータ
ピアニスト
イグナツィ・ヤン・パデレフスキ
リリー・クラウス
フィリップ・アントルモン
内田光子
フリードリヒ・グルダ
アルフレート・ブレンデル
ヴァイオリニスト
フリッツ・クライスラー
ヴィリー・ボスコフスキー
ユーディ・メニューイン
ヨーゼフ・ヨアヒム
まだまだ挙げればきりがありませんので、ここまでにしておきますが、この長い歴史の中で錚々たるビッグネームがたくさんいます。全く凄い音楽大学です。
ウィーン国立音楽大学の今後
ウィーン国立音楽大学は今後も世界の音楽大学として輝き続けるでしょう。それは、教師たちがウィーン国立歌劇場管弦楽団(ウィーン・フィル)から絶えず送り込まれるからです。
あくまでも音楽学部の器楽に限った事ですが、ウィーン国立歌劇場のサポートがあってウィーンの音楽はかくあるべしという事を叩き込まれます。ウィーンの伝統が引き継がれていく以上、今後もオーケストラに入る楽器奏者の将来は明るいでしょう。
看板の指揮科については錚々たる教師陣が今後も面々と続く歴史を引き継いでくれるはずです。今まで同様に、将来、世界の一流オーケストラの役職を担う指揮者がまた育っていくものと思います。
その他の器楽奏者たちも優秀な教師に支えられ、高度なレベルの音楽家に育つ事でしょう。別の研究をしている方々も(例えば音楽心理学など)、研究機関が充実しており修士・博士課程と自分の研究分野についての知識レベルを十分に伸ばしていけます。
ウィーン国立音楽大学の音楽以外の分野
ウィーン国立音楽大学は、その他の分野(演劇、映像)でもカリキュラムがしっかりしていて、研究機関も充実していますから、さまざまな分野の卒業生達が自分の経験を如何なく発揮して、それぞれの道で花を咲かせる事でしょう。
音楽大学ですからあくまでも音楽教育が中心ですが、演劇、映像の分野でも、今後は音楽分野のように優秀な仕事を成す人々がこの大学から生み出されて来るはずです。我々が知らないだけで成功者も既にいるのかもしれません。
世界音楽大学第1位獲得
2019年のQS「世界音楽大学ランキング」でついに第1位を獲得しました。ウィーン国立音楽大学が世界的に如何に評価されているかの指針のひとつに挙げられます。第1位はあの天下のジュリアード音楽院と分け合った形です。
このランキングは権威のあるもので、そこでの第1位認定ですから、大変な名誉です。このウィーン国立音楽大学の素晴らしさを世界に広める良い材料になりました。このことによってまた来年度もより才能のある学生が集まってくることでしょう。
まとめ
大学の規模といい、3,000人という学生数といい最大規模の音楽大学です。これに短期留学者・聴講生などを合わせたら1万人を超える学生数になります。それだけでも全く凄い事です。
教師対学生の比率が全体で1:4.7ですから、音楽だけに限ればもっと比率は高いものであると想像出来ます。器楽は基本マンツーマンの教え方です。いかにレベルの高い教師数を維持しているのかが想像出来ます。
歴史と伝統のあるウィーン国立音楽大学。ウィーンにはウィーン独自の音色、リズムがありますから、その伝統の音楽を伝え続けていって欲しいと願っています。そして、よりハイレベルのプロを輩出してくれる事を望みます。