指揮をするカラヤン

カラヤン没後30年以上経つ現在でもカラヤン人気は健在です。この人ほど録音に拘った指揮者も他に類を見ないでしょう。そのために商業主義などと非難され、音楽とは関係のないところで中傷されてきた人物です。

しかし、そんな外野の噂話などどこ吹く風と、あくまで自身の信条を貫いた指揮者でした。帝王という冠を戴き、世界を席巻したのですから、ここは素直にその実力を認めるしかありません。

生涯約1100曲もの夥しい数の作品を録音し、約900ものアルバムを世に残した偉大なる指揮者カラヤン。しかも、そのほとんどが高い水準を誇っているのですから、素晴らしいです。カラヤンの数ある録音の中で、私の愛聴盤からこれはと思う録音を紹介します。

1,100曲以上も録音しているなんて信じられない数字ですね!
総曲目数540曲。再録音、序曲なども含めると1,189曲も録音しているのだよ。カラヤンは記憶にも記録にも残るスーパースターだったわけだ!

ベートーヴェン交響曲全集

1975-77年録音

映像を除くと、カラヤン/ベルリン・フィルは60年代、70年代、80年代と3回全集の録音を行っています。その中で最も優秀なものはこの70年代の全集です。カラヤン/ベルリン・フィルの黄金期の名盤と言えます。

カラヤンが、重要なレパートリーで、理想とする演奏を刻印し得た名盤です。全盛期のカラヤン/ベルリン・フィルの姿がこの録音に集約されています。完成度の高さが見事です!

60年代の全集が好きだという方も多くいますが、70年代の全集は次元がもう一歩進んだ印象があります。カラヤンという色眼鏡を外して、一度真摯にこのCDを聴かれる事をおすすめしたいです。

ブラームス『交響曲第1番』

1988年、サントリーホールでのライブ録音

ここでのカラヤンはとてもハイテンションで、ベルリン・フィルもとても熱演しています。自分もこの日客席にいたのだという気持ちが余計にそうさせるのかもしれませんが、この時の演奏は迫力がありました。

カラヤンはブラームスを得意としていました。ブラームス全集はベルリン・フィルと3回録音しています。それらもレベルの高いカラヤンらしい演奏ですが、ここで取り上げた録音はライヴという事もあり、より極上の感動をもたらしてくれます。

黄金期を思わせるようなベルリン・フィルとの演奏は、形容する事が出来ない位に超越したブラームスでした。CDで聴いてもそれが分かるはずです。おすすめのブラ1!。

カラヤンが得意だったブラームスの特上の演奏です。
ライヴならではの感動が伝わってくる1枚。まさかこの録音が世に出てくるとは思わなかったよ。

チャイコフスキー『交響曲第6番』「悲愴」

1984年録音

この演奏はウィーン・フィルによるもので、カラヤンの最後の「悲愴」録音です。「悲愴」もカラヤンが得意としていたものでした。この作品の録音は10種類(映像も含む)もあります。如何にカラヤンが得意としていた作品かが窺える数字です。

1971年盤も素晴らしい出来なのですが、ウィーン・フィルと残した最後の「悲愴」は、次元を超越してはるかに高いレベルに到達した感じがします。カラヤンの理想としていた演奏が出来たのではないでしょうか。

ダイナミックレンジの広さや消え入るようなピアニッシモの緊張感などカラヤンらしいです。圧倒的名演かと思いますのでおすすめします。

マーラー『交響曲第9番』

1982年録音、ライヴ

カラヤンはマーラーについては取り掛かりが遅かったため、交響曲は『第4番』『第5番』『第6番』『第9番』の4曲の録音しか残していません。晩年、もっと早くレパートリーに入れておくべきだったと話していたと言われています。

『第9番』の録音は2種類あり、1979年のセッションとこのライヴ盤です。1979年盤はバーンスタインに対抗した力の入り過ぎたマーラーでしたが、こちらのライヴ盤は実に美しいマーラーが詰まっています。

鳴らすべき時はオケを鳴らし、静かな時は緊張感を保って演奏するいつものカラヤンですが、純粋な美しい響きに陶酔感を覚えます。ここにもカラヤンの究極の音楽がありました。見事なマーラー、おすすめです。

リヒャルト・シュトラウス『アルプス交響曲』

1980年録音

リヒャルト・シュトラウスはカラヤンの得意とする作曲家で、特にこの作品に関しては彼自身が好きだったのだと思います。コンサートで良く演奏されました。

R・シュトラウスの中でも難易度が高く、演奏するオーケストラも大変なのですが、そこはベルリン・フィル、そんな事は感じさせません。

この作品の隅から隅まで知り尽くしているカラヤンがようやく録音したのは1980年でした。カラヤンとベルリン・フィルが織りなす一大スペクタクルを堪能したい方におすすめします。

ワーグナー『管弦楽集第1集』

1974年録音

「タンホイザー」序曲、ヴェーヌスベルクの音楽
「ローエングリン」第1幕への前奏曲
「トリスタンとイゾルデ」第1幕への前奏曲、愛の死

どの曲も美しいサウンドで繰り広げられるワーグナー。カラヤン/ベルリン・フィルの演奏の素晴らしさを味わえます。うねる弦楽器、パワフルな金管楽器どれをとっても素晴らしい演奏です。

こういった小品もきっちりと細部まで手を抜かないのがカラヤン。楽劇の本編の演奏を聴いたような気にさせてくれます。美しいワーグナーの序曲、前奏曲を楽しみたい方におすすめです。

バルトーク『管弦楽のための協奏曲』

1974年録音

タイトル通りベルリン・フィルの名人芸が楽しめる録音です。カラヤンが大層満足したと言われる録音。各パートがしっかりと聴こえ、彫の深い音楽が鳴り響きます。

各パートが勝手に名人芸を披露しているわけではなく、カラヤンの意思が乗り移っているかのようなはっきりとしたコントロールが効いていて、実に小気味よい感動をもたらしてくれます。

ローター・コッホ(オーボエ)、ジェームズ・ゴールウェイ(フルート)、カール・ライスター(クラリネット)、ゲルト・ザイフェルト(ホルン)、コンラディン・グロート(トランペット)などが在籍していた黄金期の録音。

流石はカラヤン/ベルリン・フィルと形容するしかない音楽となっています。「オケコン」はかくあるべしという内容でおすすめです。

『オペラ間奏曲集』

1967年録音

大曲も素晴らしいもので溢れていますが、こういった小品においてもカラヤンの美学が詰まっています。カラヤンの演奏を人工美というアンチ派が多くいますが、この演奏を聴いて本当にそう思われるのでしょうか?

この甘美な調べはカラヤンにしか出せないものです。選曲もいいし、何といっても弦の響きが極上のシルクのよう。名手の手にかかるとこんなにも最上の音楽になるという見本のようです。

オペラを熟知していたカラヤンだからこその名盤です。オペラを苦手とする人にもこの録音は気に入ってもらえるでしょう。有名曲も多いので初心者でも安心。BGMとして聴き始めても思わず夢中になってしまうこの録音はおすすめです。

カラヤンは間奏曲や序曲などの小品集も実に丁寧に録音していました。
カラヤンの美学をつぎ込んだ録音だね。だからこそこういった名盤が出来上がったのだ。

メンデルスゾーン&ブルッフ『ヴァイオリン協奏曲』

1980年録音

ヴァイオリンは当時17歳のムターです。メンデルスゾーンも新鮮さがあって良い演奏ですが、ブルッフの出来は超が付くほどの名演。この録音でのムターのヴァイオリンはとても17歳の少女とは思えないほどです。

ムターはすでに大物の片りんを醸し出していますし、そこにカラヤンがぴったりと寄り添って伴奏しています。ムターも自分の音楽をしていますが、カラヤンはカラヤンで己の音楽は決して妥協していません。

こんな事が出来るのはカラヤンならでは。ソリストには自由に演奏させ、オーケストラも自在に付けていく、これをサラッとやってのけるのがカラヤンなのです。この名人芸を聴きたい人におすすめです。

ドヴォルザーク『交響曲第9番』「新世界より」

1985年録音

晩年のカラヤンはベルリン・フィルとの亀裂が生じたためウィーン・フィルと録音を行うようになりました。ベルリン・フィルとではこうは演奏できなかったであろうと思われるところがあり、これが逆にカラヤンの良さを引き出した面は否定できないでしょう。

この「新世界より」も正しくウィーン・フィルだから成し得た録音です。ウィーン・フィルの持っている美的センスが上手く生かされて名演になりました。

カラヤンの目指したグローバルな演奏がウィーン・フィルという伝統的な響きを残しているオーケストラを使った事で面白い化学反応を示した好例です。

ブルックナー『交響曲第7番』

1989年録音

カラヤン生涯最後の録音です。カラヤンの白鳥の歌がベルリン・フィルではなく、ウィーン・フィルだったという点は非常に残念ですが、この録音は非常に美しい演奏になっています。

ブルックナー『第7番』の数ある録音の中でも1,2を争う録音です。ベルリン・フィルと決別したカラヤンのウィーン・フィルとの仕事はどれもが魂のこもった演奏という気がしますが、中でもこの演奏は凄い!

大げさな部分もなく極めて冷静な目でカラヤンは見ています。全てがカラヤンの思い通りに築き上げた音楽。ある境地に立ったものしか表現できないものになっています。ウィーン・フィルも大熱演。カラヤンの神髄を味わいたい人におすすめです。

カラヤン最後の録音はウィーン・フィルとのブルックナー「第7番」でした。
この録音はベルリン・フィルの終身音楽監督を辞任した直後になるわけで、カラヤンの胸にも期するものがあったと思う。
最後にDVDの名演奏を紹介しておきます。
映像でもカラヤンの指揮姿が見られるのだからファンには堪らないものだな。

ベートーヴェン『交響曲第3番』

1982年録音

1982年のベルリン・フィル100周年記念演奏会の録画です。この日は曲目変更があり、ベートーヴェンの『英雄』がメインになりました。CD、DVDを含めてここでの『英雄』演奏はカラヤン/ベルリン・フィルの中でも特別なものになっています。

やはりこの両者の組み合わせの演奏はとてもハイレベルです。ライヴならではのホールの残響も感動的ですし、渾身の演奏で会場の聴衆たちが引き込まれていく事もよくわかります。YouTubeにもアップされていますので1度は見るべき動画です。

まとめ

まだまだ紹介したい録音は沢山あります。ベートーヴェン、ブラームス、モーツァルト、チャイコフスキー、ドヴォルザークと何でも自分のレパートリーにしてしまう人でした。

バロックから現代音楽まで、そして管弦楽からオペラ、宗教音楽まで、こんなに守備範囲が広い指揮者を私は知りません。しかも、何をやらせても、いわゆるカスが無いのですから驚きものです。

音楽は好き嫌いがあります。アンチ派がいるのも当然です。ただ、残念なのはカラヤン肯定派が格下に見られる風潮がある事。カラヤンを否定することが通のように思われている実態がおかしいと思います。

カラヤンが踏み絵のような使われ方をされているのはまるで意味のない事です。フルトヴェングラーだけが指揮者ではありません。カラヤンにはカラヤンの魅力があるのです。

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