これまで、カラヤンの魅力を書いてきた人々は世界中で何万人といる事でしょう。実際はもっと多いかもしれません。しかし、彼が亡くなって30年以上過ぎるのに、まだまだ彼の音楽や人間性について書く人が後を絶ちません。
それだけ、カラヤンが偉大だった証拠です。金字塔を打ち建てた人物でしたので、現在でも尚、話題に上ります。カラヤンのカリスマ性は今でも消えずに残っているのです。
今回は少し違った面から、カラヤンの魅力を見てみましょう。短いものですが、カラヤンのリハーサル風景と小澤征爾との対談の動画を通して、彼の魅力に迫ってみたいと思います。
カラヤンのリハーサル
この動画には、ウィーン交響楽団とのリハーサルが写されています。まだ、ベルリン・フィルの常任指揮者になる前の映像です。指揮者のリハーサル風景を見る事は良い勉強になります。その指揮者が何を求めているのか、この個所では何が重要なのかを教えてくれます。
動画の中のカラヤン
カラヤンはまるでアマチュアのオーケストラに練習を付けるように、何がいけないのか、ここでは何を必要としているのか、音楽的に重要なのは何かをひとつひとつ丁寧に教えています。
もう何十年と演奏してきた自分の父親のようなオーケストラの楽員に対して、ここではこれが重要、フルートの音を聴いてとまるでパート練習のようです。カラヤンの頭の中にはシューマンの交響曲第4番はこれしかない位のイメージが出来上がっているのです。
それを素人に話すようにこんこんと説明します。みんな音楽家ですから、納得させないといけません。音楽的理由付けが必要なのです。的確に必要性を伝える事も才能のひとつです。カラヤンにはそれが備わっていた事が良く分かります。これも、カラヤンの魅力です。
ウィーン交響楽団との関係
カラヤンは1948年から1960年まで音楽監督を務めました。実際には1946年から関係を築き、かなりのコンサートをしています。フルトヴェングラーとウィーン・フィルが演奏する時にはわざと同じ楽曲をコンサートで取り上げるなどフルトヴェングラーを意識していました。
動画にはありませんが、カラヤンはウィーン交響楽団にパート練習をさせた事もあったそうです。契約条件にパート練習の件も入っていたようでした。当然、オーケストラは嫌がりましたが、同オーケストラのレベルアップにかなり貢献したのは間違いありません。
ベルリン・フィルについて
カラヤンが常任指揮者の頃のベルリン・フィルでのリハーサルでもこんな感じでした。以前、カラヤンとベルリン・フィルのモーツァルトの後期交響曲のレコードの付録として、リハーサル風景を録音したものがありました。
その中でも、カラヤンは絶えず指示を言葉にしていました。気に入らないところはちょっと嫌味を言ったりしてもいますが、常にベストを求めた人物だったのです。的確な指示を明白に示す事が出来た人でした。これもカラヤンの魅力の一つですね
流石にベルリン・フィルではパート練習はありませんでしたが、カラヤンの目指した音楽がサイモン・ラトルが音楽監督だった時期でも生きていた事が分かります。サイモン・ラトルが言っているようにカラヤンの流儀がまだまだ残っていて、後任はやりにくかった事でしょう。
カラヤンと小澤征爾の対話
1981年に行われた2人の対話です。内容を聴いているとどうもパリでの映像のようですね。小澤がパリ・オペラ座で『トゥーランドット』を振る直前に撮った映像と思われます。話の断片からその事が分かります。
どんな事情で撮られたものかは不明ですが、小澤はカラヤンと話をするといつも熱心に指揮のやり方を聞きだしています。いつまでもカラヤンは小澤にとっての「先生」だったのです。
「指揮者はオーケストラの邪魔はするな」「オーケストラが動き出したらオーケストラに任せろ」「指揮者はオーケストラ全員が皆の音を聴きあうように指示するだけ」「指揮者は自分の考えを示すだけ。後は各人それぞれに仕事を任せて、指揮者はそれを見守るだけ」。
カラヤンの指摘は指揮者の理想でしょう。自分でも難しい事と言っています。でも、彼には出来ていた!この事が今でもカラヤンが愛され続ける理由なのです。カラヤンの魅力とも言い換えられます。
オペラについての上演の仕方も教えていますね。「初めからパリ・オペラ座のようなメジャーな場所でやらないで、他の所で1度経験してから指揮すればよい」「交響曲は40分か1時間だが、オペラは3時間もかかる」、だから「オペラを指揮するなら仕事の量を減らしてその分を勉強にあてろ」
カラヤンの素晴らしさは、小澤が何を聴いても即答してくれるところです。考えるしぐさなど全く見せずに直ぐに話し始めます。指揮だけでなく頭脳も明晰だったのです。
彼の頭の中には既に完成されているものがあって、必要に応じてそこから情報を引き出してきているだけなのでしょう。だから、全ての事において余裕があり、何でも答えられます。カラヤンの魅力はこんなところにもあります。
改めてカラヤンの魅力とは
フィルハーモニア管弦楽団を経てベルリン・フィルの終身常任指揮者になったカラヤンですが、カラヤンにとっては勉強に明け暮れる毎日だったでしょう。小澤征爾との対談で、あんなに余裕が出来るまでにはかなりの年月を費やしたはずです。
カラヤンは周囲に全くそんな事を感じさせませんでした。周囲はなるべくしてなった人物と見ていたに違いありません。どこかのテレビ番組ではありませんが、「私、失敗しないので」を貫いてきた人です。本当に魅力あふれる指揮者像を見せてくれた人物でした。
ベルリン・フィルの100周年記念の時やカラヤンが亡くなった後に、カラヤンの動画がどっと出ました。ほとんどが演奏の動画でしたが、中には今回のようなドキュメンタリータッチのものもわずかですがありました。ほとんどが英訳しか載っていなくで残念でしたが・・・。
カラヤンとベルリン・フィルを始めて東京で聴いた時に思った感想は、レコード以上に凄い響きを聴かせてくれるなという事でした。当時の私は録音だからこんな響きや音色を出せるのだというアンチ・カラヤン派でしたから。実演を聴いて脳天に雷が落ちたような衝撃を覚えました。
カラヤンほど美しい音楽を聴かせてくれる指揮者は滅多に現れません。私は彼の演奏をライヴで3度も聴く事が出来て幸せ者です。カリスマ性と本物の風格を備えた指揮者として、今後もカラヤンは輝き続けるでしょう。カラヤンの魅力は永遠なのです。
まとめ
本当は、カラヤン・ファンからすれば動画の内容なんて二の次で、彼のだみ声を聴いていれば満足なのです。彼の肉声を聞くのもそうそうありませんからね。ましてやリハーサル風景などは超お宝です!
そのカラヤンが発する言葉がまた核心をついていて感動します。背はそう高くなく、割と華奢な身体なのにそう感じさせないところもカラヤンの放つオーラのせいでしょう。カラヤンという偉大な指揮者に巡り合えて良かったです。