ショパンの難解な音楽とは

ショパンは生涯のほとんどをピアノ独奏曲の作曲にあて、ピアノの世界観を塗り替えた作曲家として有名です。「ピアノの詩人」とも呼ばれ、大変人気の高い作曲家でもあります。ショパンを弾きたくてピアノを習い始めた方も多い事でしょう。

しかし、基本的に簡単な楽曲は少なく、苦労している学習者が多いのではないでしょうか。中級者、上級者でないと弾きこなすのはなかなか難しいと思います。

ショパンの中で難易度の高い楽曲を紹介したいと思います。難易度を見極めるのはとても難しいですので、今回は『全音ピアノピース』の中で難易度F(上級上)、難易度E(上級)を集めました。楽譜出版社の客観的見かたを信用しての事です。

難易度F(上級上)の楽曲

『全音ピアノピース』の中で最も上位に位置される楽曲です。5曲挙げられています。どの楽曲も有名な名作となっています。

別れの曲

正式には『12の練習曲作品10』第3番です。ショパンの中でも知名度の高い楽曲。タイトルは同名映画によります。この呼び名は日本だけでしか通じません。

ショパンの練習曲(エチュード)は難しいものが多くあります。この楽曲は遅いカンタービレの練習曲で、難易度が高いものです。美しい旋律を最大限に引き出す表現力を要し、また複雑で高度な技術を要します。どちらもピアニストにとって生半可なレベルでは弾きこなせない難曲です。

『12の練習曲作品10』はリストに献呈されました。ピアノの名手リストでも初見では弾けなかったと言われています。それほどショパンの練習曲は難しいものばかりです。

黒鍵のエチュード

この楽曲も『別れの曲』と同じ『12の練習曲作品10』の中の第5番です。右手による主旋律のほぼ全てが黒鍵によって演奏されることからこの名前で呼ばれています。ショパンが付けた名前ではありません。

黒鍵の指使いを練習するために作られたと思いますが、ショパン自身この楽曲の出来が良くなかったと言っています。この楽曲も知名度の高いものです。

革命のエチュード

『革命のエチュード』も『12の練習曲作品10』の中の第12番です。ショパンがパリへ向かう途中、革命が失敗し、ワルシャワが陥落した悲報を聞いて作曲されたと言われています。ショパンの怒りと絶望が伝わってくるような内容です。左手の高速な動きと右手のオクターブの練習曲。

短いながらも構成美に優れた名曲です。この楽曲の知名度も高いものとなっています。『革命』というタイトルはリストが名付けました。

木枯らしのエチュード

『木枯らしのエチュード』は『12の練習曲作品25』の中の第11番です。ピアニストにとって欠かせない能力である、持久力、器用さ、テクニックのための練習曲として作られました。頻繁に顔を出す右手の下降音階が特徴的です。

右手の細かく動く分散和音はまるで枯葉が舞い上がる様子を表現しているようです。超絶技巧が必要で余程の腕がないと聴くに堪えない演奏となってしまいます。難しいです。

エオリアン・ハープ

『エオリアン・ハープ』は『12の練習曲作品25』の中の第1番です。流れるような美しいアルペジオ(分散和音)が特徴の楽曲。「まるでエオリアン・ハープを聴いているようだ」とシューマンが言った事からこの名で呼ばれています。

エオリアン・ハープとは、弦楽器の一種で、自然に吹く風により音を鳴らす楽器です。ギリシャ神話の風神アイオロスに由来します。実際どんな音色なのか聴いてみたいものです。

難易度Fまとめ

全曲とも『12の練習曲作品10』『12の練習曲作品25』のものです。この二つの練習曲集はショパンの中では難易度が高いものの塊です。流石に練習曲だけあります。表現力、テクニックを鍛え上げ、その頂点を極めようとするピアニストのための作品です。

練習曲と言っても、今では立派にリサイタルのプログラムを飾るものです。鑑賞用としても楽しめる音楽となっています。ショパンの才能がギュッと纏められた練習曲なのです。プロのピアニストは避けては通れない作品となっています。

難易度E(上級)

ここから紹介するのは8曲あります。難易度E(上級)レベルの楽曲です。難易度Fからは少し易しくなります。どれだけ違うかは微妙ですが。

軍隊ポロネーズ

ポロネーズとはショパンの祖国ポーランドの貴族の間に伝わる民族舞曲の事を言います。ショパンにしては非常に単調で、起伏に乏しい構成の楽曲です。知名度は高いものがあります。

左手に9度に広がる和音を16分音符で連打しなければならない部分や10度の分散和音もあり、手の小さい人にとっては難しいでしょう。両手のユニゾンで16分音符の3連符を弾くなど技巧的に難しい楽曲です。

雨だれの前奏曲

『24の前奏曲』の第15番の楽曲です。美しく悲しい調べで、不安さえ覚えます。崩れそうなショパンの心が表現されているようです。好きな人が買い物に出かけている間に豪雨になり、それを心配するショパン。そして雨も納まり彼女が帰ってきた時の喜びが溢れます。

フラットが5つ付いている変ニ長調という調のために上級者向けになっているのでしょう。中級者レベルでもなかなか出てこない調性ですから。『雨だれ』というタイトルを付けたのは、雨に打たれたジョルジュ・サンドでした。

幻想即興曲

ピアノを習い始めた人たちが憧れる楽曲の第1位です。即興曲ですからアドリブと思われるでしょうが、クラシックの場合、あたかも即興のように作られた音楽を指しますので誤解なきように。

印象的な冒頭です。流れるように一気に曲は進み、美しい静かなメロディに変わります。そしてまた疾走するかのような音楽に変わるドラマティックさ。この楽曲の魅力です。生前のショパンはこの楽曲を納得していなかったようです。この楽曲は彼の死後に出版されました。

夜想曲第1番(Op.9‐1)

ノクターンの方が一般的でしょうか。抒情的な旋律と装飾音が特徴で、ピアノの特性を最大限に引き出す様式です。この楽曲は音楽的に大変難しいノクターンです。ショパンの甘く切ない感情を引き出せないピアニストの演奏は睡眠薬の代わりになってしまいます。

プレリュード(Op.28‐23)

『24の前奏曲』の第23番目の楽曲で、1分に満たない短い楽曲です。ですが、テクニックを必要とする難しい楽曲となっています。テクニックに相当の余裕がないと この曲を音楽的に聴かせることは難しいでしょう。

ワルツ第14番(遺作)

1830年に作曲され、遺作として1868年に出版された楽曲です。全体的に可愛らしい、明るく華やかな楽曲となっています。簡単そうに見えますが、テクニック的に難しく、跳ね回る感じや息の長いフレーズ感はショパンの作品に相応しいものとなっています。

アンコールピースとしてよく使われている楽曲です。

夜想曲第2番(Op.9‐2)

ショパンのノクターンとしては最も知られた名曲です。ショパン作品の中でも人気のあるものとなっています。左手の伴奏で1拍目と2拍目の跳躍が大きい事と、和声が複雑な所に難しさがあります。しかし、難易度Eの中では比較的容易な楽曲ではないかとも思います。

夜想曲第19番(Op.72‐1)

ショパン17歳の頃の作品です。深い孤独と哀愁に満ちたメロディは心に迫ってきます。青年ショパンはこの時代から物憂げな性格だったのが良く分かる楽曲です。前途溢れる青年が書くようなものではありません。ショパンの悲しみが音楽に転写されたされたような作品です。

難易度Eまとめ

ショパンの作品の中で有名なものが多くを占めました。『幻想即興曲』や『夜想曲』などはショパンらしさが散りばめられていてピアノを習っている方なら、弾いてみたいと思うに違いないでしょう。

しかし、難易度が一段下がったからといって、難しさはそう変わりません。テクニックが要求される楽曲ばかりです。小品ばかりでしたが、中々手強い内容となっています。

まとめ

ショパンの難易度が高いピアノ曲を12曲挙げてみました。『全音ピアノピース』の難易度E、Fの作品です。意外と簡単そうに見えるものでも、難易度の高さは別物なのですね。プロが何なく弾いている姿のバックには、努力という積み重ねの結果が身を結んでいるのです。

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