フリッツ・クライスラー

クラシック音楽界って昔は著作権の侵害が当たり前のように横行していた事をご存じですか?数百年の歴史を持つクラシック音楽ですから、昔は現代のように作曲家の権利は守られておらず、当然のように盗作、丸パクリが起こっていました。

1900年代に活躍した世界的なバイオリニストであり、著名な作曲家としても知られるクライスラーもまた様々な疑いをかけられてしまいます。一時期クラシック界を揺るがす、大スキャンダルに発展するような事件が起こっていたのです。

歴史的バイオリニスト・作曲家であったクライスラーにかけられた盗作疑惑?やクラシック音楽界の歴史と著作権について紹介していこうと思います。

有名作曲家のスキャンダルって興味あるー!

フリッツ・クライスラーという天才

フリッツ・クライスラー
クラシック愛好家なら誰もが知るバイオリニストであり作曲家でもある「フリッツ・クライスラー」。音楽の都として知られるウィーンで生まれた彼は、始めバイオリン奏者としてその名を轟かせました。しかし才能に満ち溢れた希代の天才音楽家にある疑惑が浮上するのです…。

クライスラーという作曲家

クライスラーは過去の無名な楽曲にも焦点をあてる非常に勉強熱心な音楽家だったんですよ。

クライスラーは超一流のバイオリニストであると同時に才能溢れる作曲家でもあったのです。才能だけではなく、クライスラーは音楽にたいして非常に研究熱心な一面を持っておりました。全く有名じゃない古い楽譜に注目したり、それを世に知らしめるような活動をしていました。

過去の作品から多くの事を学び取ろうとするクライスラーはその作品たちからインスパイアされる事も多く、自分で編曲を行う事も多かったそうです。そして時には完全オリジナルの作品を生み出すなど、本当に音楽を愛した才能豊かな音楽家だったのです。

クライスラーが演奏した謎の楽曲が事件となる

一流の音楽家が事件を起こすなんて信じられないよ。なにがあったの?

そんなクライスラーの演奏する楽曲に疑問を抱き始める者たちが現れるようになるのです。クライスラーはしばしばコンサートで過去の無名作曲家の楽曲を演奏していました。しかしこれこそが事件の発端だったのです!
記者たちはこの楽曲に疑念を抱き、クライスラーを追求しました。

クラシック界を震撼させるような大スキャンダルを期待した記者たちの思惑は思いもよらない形で決着を迎える事になります。実は疑念を持たれた楽曲はクライスラー自身の作曲である事を本人が白状したのです!

自身の作曲であると白状したクライスラー

他人の作品だと公表していた楽曲は実はクライスラー本人が作曲したものだったのです。

オリジナルの作品が存在し、自分はそれを編曲したにすぎないと公表していたクライスラーでしたが、記者による追求があり、数年越しで真実を白状する事になったのです。「オリジナルの編曲であれば、そのオリジナルはどこですか?」という記者の質問にとうとうクライスラーも隠し通す事は不可能と判断したのでしょう。

では一体クライスラーはなぜ盗作でも著作権侵害でもないのに、このような偽りの楽曲を世に出し、あわやクラシック界に残る大事件になりかける隠ぺい工作をしてしまったのでしょうか。

気遣いが仇となったクライスラーの楽曲

バイオリンと楽譜

記者たちはきっと盗作や著作権侵害などを疑っていたのでしょう。日本音楽界の大スキャンダルとなった「佐村河内事件」のようなゴーストライターの存在を期待したのかもしれません。しかし結果はクライスラー自身が作曲したものを自作として発表しなかったという奇天烈なオチだったのです。

なぜクライスラーはそのような突飛な事をしてしまったのでしょう?今では世界的にも認められる素晴らしい楽曲だったにも関わらずそれを他人の功績としたのには偉大なバイオリニストであったクライスラーの「想い」が込められていたのです。

偏見を持たずに楽曲に注目してほしかった

バイオリニスト、つまり演奏家が作った曲に偏見を持つ人が多くいると感じていたクライスラーはあえて自身の名前を伏せ、楽曲の良し悪しだけに注目・評価してほしいと願ったのです。それが結果的に世間に様々な疑念を抱かせるとは考えてもいなかったようです。

事実、彼が演奏した自身作曲の偽りの楽曲は批評家に大絶賛をされるも、彼自身の演奏技術はクソだと評価される事もあったそうです。名を伏せていなければ楽曲にも悪評がついていた可能性も十分にあったと予想できるだけにクライスラーの判断は間違っていなかったのかもしれません。

自分以外のバイオリニストへの配慮

当時、既に世界的なバイオリニストとして名を馳せていたクライスラーはもう一つ懸念を抱いてました。それは同じ時代に活躍するバイオリニストたちが、クライスラーという偉大な名前に遠慮してしまい、その名を冠する楽曲を弾いてくれないのではないのかと考えたのです。

名前を公表していたらというifは最早誰にもわからない事ですが、たしかに同じ分野の偉大な先輩の作品を演奏するなんて、私も恐れ多くてできないなと思います。クラシック界の歴史の残る大きな事件とはなりましたが、結果的に見るとクライスラーの配慮があったからこそ、彼の作品たちは今でも広く愛されているのかもしれません。

クライスラーさんって本当に素晴らしい音楽家だったんだね!
そうなんです。スキャンダルとしてクラシック界を騒がせましたが、彼なりの配慮があったのです。

クラシック音楽と著作権

楽譜
クラシックの歴史をご覧いただくとわかるように、クラシック音楽が確立されたのは17世紀頃でした。そして著作権の概念のようなものが生まれたのもまたこれぐらいの時代であったと言われています。

著作権って難しくてよくわからないや。
数百年も前に作者の権利を守るために生まれたのが著作権法なんですよ。

王様が著作物を保護した時代

最初の著作権法は1545年に制定されていますが、1710年にイギリスで制定された「アン法」こそが現代の著作権法のベースとなっています。無秩序に本が複写され出版されている事を問題視した国王が出版物の権利を守るために行動を起こしたと言われています。

それまでは著作権の概念など存在しておらず、いわゆる口コミで情報を共有していた時代でした。

クラシック音楽に著作権が生まれたのは18世紀頃

クラシック音楽の歴史の中で著作権の概念が生まれたのは18世紀頃の話でした。それまでは大衆の娯楽だったこと、そして口コミで人気だ伝播していく構図もあったために非常に寛容な考え方を持たれていました。

大作曲家として知られるモーツァルトでさえ現代だったら大問題となるような著作権侵害を行っていました。冒頭でも述べたように他者の作品をパクるという行為が当たり前の時代だったのです。出版物だけでなく、音楽にも権利が生まれたのは数百年前。

しかし「死後70年で保護期間が切れる」という現代の著作権法と照らし合わせると、クラシック界の偉人の作品は全て著作権フリーとなっていると考えるとなんだか不思議な気持ちになります。

まとめ

世界で最も演奏される作曲家ベートーヴェンをはじめ、超絶技巧の演奏家リスト、ピアノの詩人と呼ばれるショパンなど、歴史に名を残す偉大な音楽家はほとんどが作曲家であり演奏家でした。クライスラーもまたそんな偉大な音楽家と等しい才能を持った人物だったのでしょう。

彼が起こしてしまった「自作隠し」という事件はクラシック界に残るものとなってしまいましたが、内容をしっかり知るとクライスラーという人物がいかに偉大な音楽家だったのかがわかる気がします。

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