リストは「ピアノの魔術師」と呼ばれたほどピアノの名手でした。おそらく歴代の数多いピアニストたちの中で最もテクニックに優れ、表現力あるピアニストだったのではないかと思っています。
リストのピアノに刺激を与えたのはピアニストではなく、ヴァイオリニストであったパガニーニというのも面白い話です。「自分はピアノのパガニーニになる」と決意してピアノの練習に打ち込みました。
その最高のピアニストが作曲したピアノ曲から、聴いておかねばならない10作品を選んでみました。リスト入門者からクラシック音楽に詳しい方までこれだけはチェックしておきたいと思われる10作品です。
『パガニーニによる大練習曲』第3番「ラ・カンパネラ」
リストといえば真っ先に思い浮かぶのが「ラ・カンパネラ」という方が多いのではないでしょうか。この作品は曲自体の完成度が高く、メロディが素敵なので人気もあり、リストの代名詞にもなっています。
超絶技法を必要とし、ピアニスト泣かせでもある作品としても有名です。パガニーニが作ったヴァイオリン用の超絶技巧練習曲をリストがピアノ向けに編曲しました。
リストはパガニーニを大変尊敬し、「自分はピアノのパガニーニになる」事を決意して、ピアニストとして精進しました。その努力の結果がリストの作品に表れているのです。
『愛の夢』第3番
元々、歌曲として発表した作品をピアノ用に編曲し、3曲集めて『愛の夢』とタイトルを付けて発表したものです。その中でも、この第3番が最も有名で、人の心を揺さぶる作品となっています。
この作品は付き合っていた女性と別れた後に作曲されたもので、その人を思いながら作曲したのではないかと私は思っているのです。タイトルの『愛の夢』もとても意味深で、愛の夢から覚めてしまった自身を投影したものなのではないでしょうか。
この作品は、変にくどくならずに、さらっと流すように弾いて欲しいと思います。感傷に浸るのではなく、実際にこんな事もあんな事もあったなと回想するような感じが素敵だなと思うのです。
『超絶技巧練習曲第4番』「マゼッパ」
『超絶技巧練習曲』はピアノ練習用に作曲された12の曲で構成されています。12曲の調性が全て異なっており、その中でも第4曲目の「マゼッパ」が有名です。
リストはヴィクトル・ユーゴーの叙事詩「マゼッパ」を読み感動した事から、作品にその名を付けたいと思っていました。そのためのピアノ曲を書き、その後交響詩にしましたが気に入らず、またピアノ曲に戻して、この練習曲に辿り着きました。
タイトルが『超絶技巧練習曲』ですから、テクニックが必要な事は言うまでもありません。動画の辻井伸行の演奏は素晴らしいもので、安心して音楽に集中できます。
『超絶技巧練習曲第5番』「鬼火」
前の「マゼッパ」の次の曲です。重音、跳躍などを駆使した、超絶技巧満載の作品になっています。4分程度の作品ですが、聴いた後は満足しましたリスト様といった感じです。
こうした難曲をいとも容易くリストは弾いていたのだと思うと、リストというピアニストはどんなに凄かったのか少しでも分かるような気がします。
超絶技巧が凄いだけでなく、難曲ながら音楽的にも素晴らしいのですから、これには脱帽するしかありません。
メフィスト・ワルツ第1番
リストは「ファウスト」伝説に影響を受けて、4曲のメフィスト・ワルツを作曲しました。その中で最も人気のあるのがこの第1番です。「村の居酒屋での踊り」という副題を持っています。
この作品もリストのものらしく超絶技巧を必要とし、リストの難曲のひとつにも挙げられるほどです。ワルツと題していますが、実際にはそんな優雅なものではなく、もっと激しい音楽になっています。
動画は中村紘子41歳の頃の演奏です。彼女の全盛期ともいえる時期であり、この難曲を何気なく弾いています。素晴らしいです。
『3つの演奏会用練習曲』より「ため息」
『3つの演奏会用練習曲』の中で最も有名な作品です。練習曲と謳ってはいますが、単に機械的な作品ではなく、抒情的な雰囲気も持ち合わせた素敵な作品となっています。
勿論、演奏会でも取り上げられる機会も多く、リストの中での難易度もそう高くはありません。ただ、ピアノ初心者では演奏はできません。両手を交差させる事が多く、なかなか難しいのです。
聴いていると簡単そうに思えるものでも、かなり弾き込んだ人でないとリストは受け付けてくれません。
『巡礼の年』第1年より「泉のほとりで」
『巡礼の年』は第1年、第2年、第2年補完、第3年からなるピアノ独奏集です。第1年「スイス」はダグー夫人との恋の逃避行をした先、スイスで作曲されています。第1年の中でもこの曲は有名で、演奏会にも取り上げられる機会が多い曲です。
「泉のほとりで」のタイトルはドイツの詩人シラーの詩『追放者』から取られています。牧歌風の曲で、そのタイトルが示すように瑞々しさに溢れる、魅力的な作品です。
『巡礼の年』「第1年スイス」は全9曲からなる作品集で、「泉のほとりで」は第4曲目に当たります。駆け落ちした先で作られたとは思えないほど、しっかりした内容です。
『巡礼の年』第3年より「エステ荘の噴水」
『巡礼の年』第3年は7曲からなるピアノ曲集で、「エステ荘の噴水」はその第4曲目に当たります。リスト晩年の傑作で、演奏機会はかなり多くあります。
アルペジオで水の流れを巧みに描写し、きらびやかな曲調です。後の印象派のような感じがあります。が、これは逆の話で、リストのこの作品から印象派の作曲家が多大なる影響を受け、同じような曲を作ったのです。
誰が聴いても、後の印象派に繋がる作品だと分かる事でしょう。やはり、リストは時代の先端を歩いていた作曲家でした。
『コンソレーション第3番』
コンソレーションとは日本語で「慰め」と訳されています。6番まである中で3番が最も有名です。
超絶技巧を駆使した作品が目立つリストのピアノ曲ですが、この曲はリストにしては平易な曲で、全編落ち着いた愛に満ちた感じになっています。
テクニックを誇示する作品ではなく、リストの抒情性や愛の深みを聴かせる曲です。ピアニストの人間性が出てくる作品ですので、その意味でかえって難しいかもしれません。
『ハンガリー狂詩曲第2番』
『ハンガリー狂詩曲』は、ハンガリーの民族的なテーマに基づく19曲から成るピアノ曲集です。特に第2番が有名であり、演奏機会も多くなっています。
後にリストは19曲の中から6曲を取り出し、管弦楽版に編曲しています。ですから、『ハンガリー狂詩曲』はピアノ版とオーケストラ版の2つがあります。
どちらもそれぞれに味わいがあって甲乙つけがたいですが、その日の気分によってピアノ原曲が聴きたい日もあれば、オーケストラでの演奏を聴きたい日もあります。オーケストラ版も併せて載せておきます。
まとめ
リストのピアノ曲で聴いておきたい10曲を選んでみました。リストという作曲家を理解する上でまずはここからという10曲です。
リストは「ピアノの魔術師」といわれたほど、ピアノ曲に情熱をかけた作曲家です。今回はピアノ協奏曲は挙げませんでしたが、これらも聴いてほしい作品となっています。
リストの超絶技巧に圧倒されるのもひとつの聴き方ですが、その背景にある作曲した事情なども調べながら聴いていくと、また違った面も見えてくると思います。